強くなる理由──新たな力への第一歩
朝日が差し込む部屋の中、俺は目を覚ました。いつもなら心地よい朝の空気を感じるはずなのに、今日の空気はどこか重く、肌にまとわりつくような感覚があった。
──いや、それは錯覚じゃない。
昨夜、俺とリュートは 神の使徒 と思われる存在と遭遇した。ほんの短い時間だったが、それだけで俺たちの力の及ばなさを思い知らされた。
「……くそっ」
ベッドから起き上がりながら、小さく舌打ちをする。あの時、俺の風の力はほとんど通じなかった。リュートの影の刃も、相手に触れることすらなかった。まるで、次元の違う存在と戦っていたような感覚。
俺は昨夜の記憶を反芻する。
神の使徒──影のない男。
ダリアスと別れた後、俺たちはそいつを追おうとした。だが、一瞬で視界から消え、気配すらも掴めなくなった。その時、俺たちは初めて理解した。「追う」という選択肢すらなかった のだと。
これが、神の使徒の力。
敵の強大さを目の当たりにして、俺たちは 「学園が襲撃されるかもしれない」 という可能性を考えざるを得なかった。
「……こんなことを考えてる暇はないな」
俺はベッドから飛び起き、部屋を出る。リュートも同じことを考えているはずだ。
──今すぐ、特訓を始める必要がある。
「……なんだ、お前も来たのか」
訓練場に向かう途中、俺は予想通りの人物と出会った。
「当然だ。お前も訓練場とか来るんだな」
リュートは壁にもたれながら、疲れたような表情をしていた。おそらく、俺と同じように 昨夜の出来事をずっと考えていた のだろう。
「リュート、お前は影の使い方に問題を感じたか?」
「……ああ。攻撃がまるで通らなかった。いや、通らないというより……届かない、って感じだったな」
届かない、か。俺も似たような感覚を覚えた。風の刃を飛ばしても、まるで相手の周囲に 「見えない壁」 があるかのように逸れていった。
「どうにかしないといけない」
「そのためにここに来たんだろ?」
俺たちは無言のまま、訓練場へと歩き始めた。
訓練場に到着すると、俺たち以外の誰もいなかった。まだ朝早いからか、それとも単に今日が休みだからか。どちらにせよ、今の俺たちにとっては好都合だった。
「……まずは基礎の確認だな」
俺は風を操り、軽く周囲に流してみる。問題なく動く。だが、昨夜の 「届かない感覚」 が脳裏に焼き付いて離れない。
「リュート、お前も試してくれないか」
「ああ」
リュートが影を操り、刃を形成する。黒い刃が宙に漂い、わずかに揺らいでいる。
「問題なさそうに見えるが……」
「いや、微妙に引っかかる感じがある」
俺たちはしばし黙り込んだ。やはり、昨夜の影響か?それとも、まだ 何か が学園内に潜んでいるのか?
その時──
「おーい!」
遠くから、聞き慣れた声が響いた。
「朝早くから熱心だね!今日は珍しい人もいるじゃん」
振り向くと、そこには レオン と オリビア の姿があった。
「お前らも特訓か?」
「当たり前でしょ。試験が終わっても訓練は続けないと!」
オリビアが笑いながら言う。その隣でレオンが腕を組み、いつもの自信満々な表情を浮かべていた。
「まぁな。そろそろ俺も本気を出すか……って思ってな」
「リュートには言ってなかったな、こいつら2人は色々あって神の使徒が学園にいることを知っているんだ」
俺はいい機会だと思いリュートに2人との関係、またサークルについてなどを話した。
リュートが少し呆れたようにため息をつく。
「そうか……それならこの二人はお前の本当の力と人工魔物との戦いの真実を知っているのか?」
リュートの問いに、俺は静かに頷いた。
「……まぁな。この際お前にも教えておく。前の決闘も俺が負けたものだしな。俺の力は“概念を変える”ものだ。風を操る能力に見せ掛けているだけだ。この力を使う時は代償が酷いからあまり使わないようにしている。まぁ神に存在が悟られないのも理由の一つだがな」
その言葉に、リュートの瞳が揺れた。普段は冷静な彼だが、今はほんのわずかに困惑を見せている。
「概念を……変える?」
彼はゆっくりと俺の言葉を噛み締めるように繰り返した。そして、しばらく考え込んだ後、ふっと息をつき、鋭い視線を向けてきた。
「それって……神の力に似たものだよな?」
予想していた質問だった。だが、やはりその言葉を聞くと、胸の奥がざわつく。
「お前は神なのか?」
真剣な目でそう問われ、俺は一瞬だけ言葉を詰まらせた。
「……違う」
そう答えるしかなかった。
俺は神じゃない。けれど、俺の力は普通の人間が持つものではない。
リュートはじっと俺を見つめていたが、やがてゆっくりと口を開いた。
「……なら、その力はどこから来た?」
「それは……俺にもわからない」
自分の力の正体。それは俺自身がまだ答えを見つけられていない問題だった。
リュートは腕を組み、しばらく沈黙した。そして、何かを決めたようにゆっくりと口を開く。
「……正直に話してくれたことは、ありがたい」
「リュート……?」
「俺は、お前の力に恐怖を感じるべきなのかもしれない。でも、それ以上に……その力がどういうものなのかを知りたい。お前がそれをどう使うのかも、な」
リュートの言葉に、俺は少し驚いた。
彼は、俺を拒絶しない。
「……お前、本当に変わったな」
そう言うと、リュートは小さく肩をすくめた。
「……昨日の戦いで、嫌というほど思い知らされたからな。俺の力じゃ、神の使徒には到底敵わない」
その言葉には悔しさが滲んでいた。リュートにとって、それは相当な屈辱だったのだろう。
「だからこそ、お前の力が必要だ。いや……お前だけじゃない。お前たちふたりもだ。俺たちは、一人じゃ勝てない。でも、四人なら──」
彼はそこまで言って、少し口ごもる。
「……まぁ、とにかく、お前の力は認める。でも、もしその力が“神の側”のものなら……」
リュートは鋭い目を向け、静かに続けた。
「その時は、俺が止める」
リュートらしい言葉だった。
俺はふっと笑い、力強く頷いた。
「そんな心配いらねえよ。俺は、俺の力を俺のために使う」
リュートは小さく鼻を鳴らし、「ならいい」と呟いた。
その瞬間、俺たちの間の何かが変わった気がした。
俺たちは、より強い信頼で結ばれたのかもしれない。
俺たちは互いに視線を交わし、そして頷いた。
「──なら、始めるか」
こうして、俺たち4人は 特訓を開始することになった 。 訓練場に立ち並ぶ俺たち四人は、しばし無言で互いの顔を見つめていた。
レオンは拳を鳴らしながら自信ありげに笑っている。オリビアは腕を組みつつ、こちらをじっと見つめている。リュートは相変わらず冷静な表情だが、内心は昨夜の戦いを振り返っているのだろう。
──俺たちはそれぞれ、昨夜の戦いで圧倒的な力の差を感じていた。
だからこそ、こうして集まったのも偶然とは思えない。
「さて、特訓って言っても、まず何からやる?」
レオンが軽く肩を回しながら言う。
「敵は神の使徒だ。普通の訓練じゃ意味がない」
俺がそう言うと、オリビアが頷いた。
「うん、私もそう思う。」
俺たちはそれぞれ、昨夜の戦いを振り返った。
──まず俺の問題点。
俺の風の力は相手に届かなかった。風の刃を放っても、まるで相手の周囲に 「見えない壁」 があるかのように逸れてしまった。速度を上げても結果は変わらず、まるで風が無力化されているようだった。
──リュートの問題点。
影の刃が相手に届かなかった。リュートの影は本来、物理法則を無視して相手を捉えることができるが、それすらも無効化されていた。影を絡めることすらできず、まるで相手が 実体のない存在 のように感じられた。
──レオンの問題点。
彼は昨夜の戦いには参加していないが、俺たちの話を聞いてすぐに理解した。
「つまり、普通の攻撃は通用しないってことか」
「そういうことだ」
──そして、オリビアの問題点。
オリビアは昨夜の戦いにいなかったが、多属性の魔法を扱える彼女なら、俺たちとは違った視点を持っているかもしれない。
「ねぇ、それってもしかして 『神の加護』 が関係してるんじゃない?」
「神の加護?」
「うん。神の使徒って基本的に 神の祝福を受けた存在 でしょ? だったら、普通の魔法や攻撃が効かないのも納得がいくよね?」
確かに、それはあり得る。
「でも、どうすれば突破できる?」
「そこが問題なんだよね……」
俺たちは思考を巡らせた。
──神の加護を打ち破る方法はあるのか?
「とりあえず、それぞれの力を 極限まで高める 必要があるな」
リュートが静かに言った。
「敵が強すぎるのなら、こっちがそれ以上に強くなるしかない」
「単純だけど、今はそれしかないよね」
オリビアも同意する。
「なら、試すか」
レオンが拳を握りしめ、俺たちはそれぞれの限界を超えるための訓練を開始した。
「じゃあ、始めるか」
レオンが拳を鳴らしながら言う。
「敵は神の加護を持っている以上、普通の攻撃が通じない可能性が高い。だったら、俺たちの力をもっと引き出すしかない」
「そうだな」
訓練場にはまだ朝日が差し込み、俺たちの影を長く引き伸ばしていた。
「じゃあ、始めるか」
レオンが拳を鳴らしながら言う。
「敵は神の加護を持っている以上、普通の攻撃が通じない可能性が高い。だったら、俺たちの力をもっと引き出すしかない」
「そうだな」
俺は頷きつつ、昨夜の戦いを思い出していた。
──俺の風は届かなかった。リュートの影も届かなかった。つまり、俺たちの力そのものが足りていない。
ならば、どうするべきか?
「まずは、それぞれの力を極限まで高めることを目標にしよう」
「だな。特にフィリアス、お前の風の力はもっと応用できるはずだ」
リュートが俺を見つめながら言う。
「例えば?」
「相手は神の使徒だ。概念を変える力は極力使いたくないよな?ならお前の主戦力は風は流れを操る力だ。単純な攻撃ではなく、相手の動きを封じる方法を考えてみろ」
「なるほど……」
俺は風を纏いながら、どうすれば効果的に使えるのかを考えた。
「じゃあ、まず俺から試してみる」
俺は深呼吸をして、風を練り上げる。
──今までは、風を「斬撃」として使っていた。でも、それだけじゃ不十分だった。
「風を圧縮する」
俺は手を前にかざし、空気を一点に収束させる。風の密度を高めれば、相手の防御をすり抜ける可能性がある。
次の瞬間、俺は圧縮した風を前方に放った。
ゴォッ!
しかし――
「……あれ?」
俺の風弾は標的の岩の手前で弾け、何のダメージも与えられなかった。
「……あー、ちょっと威力が足りないんじゃない?」
オリビアが申し訳なさそうに言う。
「くそっ……何がダメだったんだ?」
「多分、お前の圧縮が足りてない。風を詰め込むだけじゃなく、もっと一点に凝縮させないと」
リュートが冷静に分析する。
「なるほど……もう一度試す」
俺は再び風を圧縮し、慎重に密度を高めていく。しかし、今度は圧縮しすぎたのか、風が暴発し、俺の周囲に強烈な突風が巻き起こった。
「うわっ!?ちょっと!?」
「フィリアス、そっちに飛ばすな!」
オリビアの叫びとともに、彼女のスカートが危うくめくれそうになる。
「わ、悪い!」
「……まあ、ちょっとは成長してるみたいだな」
リュートがため息混じりに言う。
「……ちょっとどころじゃないよ!今のは危なかったんだから!」
オリビアが頬を膨らませる。
──結局、何度も失敗を繰り返しながら、俺は徐々に風の圧縮と射出のバランスを調整し、ようやく標的を粉砕できるようになった。
「よし、次は俺の番だな」
リュートは影を操り、実体化させる。
「昨日の戦いでは影が届かなかった。なら、もっと影そのものを強化するしかない」
リュートの影が渦を巻き、彼の腕に絡みつく。
「影の密度を上げることで、より実体に近づける……はずだ」
そう言いながら、リュートは影を剣のように形成し、振り下ろす。
ズバァッ!
……しかし、岩に触れる直前で影は霧散した。
「……ちっ」
リュートが舌打ちする。
「影に力を込めすぎて維持できなかったか……」
「バランスが大事なのね。影を濃くしすぎると、維持する魔力が足りなくなるみたい」
オリビアが分析する。
「言われなくてもわかってる」
リュートは何度も影を振るいながら、試行錯誤を繰り返す。しかし、最初はすぐに崩れ、次は硬すぎて動かしづらくなり……と、なかなか上手くいかない。
──そして数時間後、ようやく彼の影は鋼のような硬さと質量を持つようになっていた。
「これなら……昨日よりは戦えるかもしれない」
リュートが静かに呟く。
「次は私ね」
オリビアが一歩前に出る。
「私の魔法は多属性だけど、どれも中級までしか扱えない。でも、組み合わせれば上級魔法にも匹敵する威力を出せるはず」
オリビアは手をかざし、火と風の魔法を同時に発動させた。
「フレアストーム!」
……しかし、発動した魔法はただの火の玉だった。
「あ、あれ? 風が……」
オリビアは慌てて魔力を再調整しようとするが、うまく融合せず、火の玉がそのままポトリと地面に落ちた。
「……おい」
レオンが呆れた声を出す。
「ま、まだよ!もう一回!」
オリビアは何度も試行錯誤しながら、火と風のバランスを調整し、徐々に安定した魔法を使えるようになっていく。
「じゃあ、最後は俺の番だな」
レオンが拳を構える。
「雷を纏うだけじゃなく、もっと瞬発力を高めることを意識してみる」
バチバチッ!
レオンの拳に雷が走る。
「雷の力はスピードが命だ。だったら、一瞬の威力を最大まで高めれば……」
レオンは拳に全力の雷を纏わせ、岩を狙う。
「雷迅拳!」
ズドンッ!!
しかし、岩はひび割れるだけで砕けなかった。
「……なんでだ?」
「お前、雷の力を最大にするって言ってたけど、魔力を溜める時間が長すぎるんじゃね?」
「……なるほどな。なら、もっと瞬時に溜める方法を考えないと」
何度も試し、ようやく彼は一瞬で雷を纏う技術を身につけた。
「よし……これならいける!」
レオンが満足げに息をつく。
「これで、それぞれの力を今まで以上に引き出せるようになった」
「だけど、まだ足りない」
リュートが冷静に言う。
「次は実戦形式で試すぞ」
俺たちは互いに視線を交わし、さらなる特訓へと進むことを決意した。




