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ロング・デイ(2)





「タマ、タマ、タマ、タマ、タマ!」


 女性が言うにしては下品すぎるような事をカナコは全く気にせずに叫んでいた。それは彼女の信者に因るものだった。


 火力は全てを解決する。


 彼女はニジョウジョウの武器庫――自身の渾名でもある――に向かい、自分の装備を身に着けた。ありったけの手榴弾をぶら下げ、右手には機関銃、左手にはロケットランチャーを構える。機関銃のマガジンも持てるだけ持つ。武器庫を管理している〈ザ・ラウンドテーブル〉の隊員もいつもの事だからまるで気にしてはいない。だが気にしたのはむしろカナコの方だった。


「ほら、何を突っ立ってんの! あんたらも戦いな! 武器を持て!」


 かと言って、彼女が進んで部隊指揮をする訳でもない。そういうのはあまり得意ではなかった。彼女は自身が存分自由に暴れれば、他の隊員は勝手に付いてくると思っていた。巧みな戦術とかいうものはカナコには無い。


 しかしこの状況ではそれではいけなかったのだ。今回はカナコ、ひいては〈ザ・ラウンドテーブル〉が初めて経験する防勢戦闘だった。力押しでなんとかなる訳ではなかった。しかしだからと言って今更自分のやり方を曲げられはしない。


「オラオラ、行くぞッ!」


 そういった、向こう見ずとも言える〈ジ・アーセナル〉の姿勢を頼もしく思う隊員は少なくない。そして彼女は幸運でもあった。そんな無謀な戦い方をしても、どれだけ危険な作戦に投入されても、必ず生き残ってきた。彼女を「勝利の女神」と褒め称える者すらいる。それはそのスタイルだけではなく、美貌にも因った。高嶺の花とは分かっていても、赤茶の巻き毛に彩られた、少しベイビィ・フェイスな顔立ち――その苛烈な性格との差もまた魅力になる――と身長はそこまで高くないけれども出る所は出ていて、足も長い女の肢体に魅惑されている者も沢山いる。彼女は男性隊員のみならず女性隊員にも人気が高い。


 敵は北から来ていた。


「カナコさん!」


 そんな彼女が率いる(と言って良いのだろうか?)一団に合流する者が現れた。〈ザ・マジシャン〉コウタ、そして〈ザ・サン〉ヒナタである。


「あんたら、こんな時でも仲良いねぇ!」


 カナコは昂揚した気持ちのままかれらに叫んだ。コウタは右手に小太刀、そしてヒナタはアサルトライフルを装備している。


「へへっ」


 コウタははにかみながら鼻を拭った。


「笑ってんじゃないわよ! 今の状況、分かってんの!?」

「カナコさん、そんな荒ぶることはないわ」


 何とも奇妙な空気が広がる。コウタはカナコとは別の感じで楽天的だった。そんな顔をしている。それは若さ故だとカナコは分かっていたし、そして窘める気もない。一方カナコが楽天的だったのはただの大馬鹿女だからだった(と、自分でも自覚している)。そのバランスを取るのが、今の所ヒナタなのかもしれなかった。


「はぁ。あなた達はいつでも明るくて良いわね」

「それだけが取り柄なんで」


 そんな話をしている場合ではないのだが、そんな話をしてしまう。ヒナタもふたりほど楽天的ではないが、悲観もしていないようだ。戦いは運命だと分かっている。それが個性豊かで百戦錬磨の〈ラウンドテーブル・コマンダーズ〉達だった。


「とにかく橋を守らなければいけないわ」


 ニジョウジョウは四方を堀で固められており、そう簡単に侵入を許せるものではない。本来はその四方にも橋が掛けられていたのだが、〈ザ・ラウンドテーブル〉が接収後大幅に改装され、堀も深く広くされ、防壁も高くなり、橋は南北のみに掛かるだけだった。つまり攻められる事を想定していなかった訳ではないのだが、しかしそれはかれらにとってはどこか非現実的なものでもあったのである。


「爆破すりゃいいんじゃないの?」

「その選択は捨てるべきじゃないけど――まだよ。今じゃない」

「そうか。そうだね」


 先程から響いている爆発音は侵入を許すものではなく、隊員達が防壁の上に昇り、そこから必死に防戦している音だった。今の所まだ防御は上手く行っている。だが。


「とにかく橋を死守よ。カナコ達はそっちに向かって。私は壁の上に行く」

「ふーん。私をアブナイ所に向かわせる訳ね。姉さんは流石だよね」

「軽口言ってるんじゃないの。それにそっちの方があなた向きでしょう」

「へへっ、良くお分かりで」


 カナコは悪戯気に舌をぺろりと出した。


「コウタをサポートに回します。とにかくあなた達でそこを守って!」

「了解!」

「了解だっす!」


 カナコとコウタが組む事はあまりないが、この状況なら最善なのかもしれない。何故なら。


「少年、私の足を引っ張るなよ!」

「そっちこそ。ていうかぼくを少年って呼ばないで」


 カナコは22歳、浩太は17歳である。組織では若手に当たるが、それだけの力があるのだった。


 二人は駆け、北門へと到着した。〈ザ・ラウンドテーブル〉の隊員はよく応戦していたが、少しずつ押されかけている。敵――〈アポカリプス・ナウ〉はかなりの数を用意していた。そしてその全員がデモンであった。


「げっ、こいつら全員銃持ってやがる!」


 一体どうやって、これ程の人員と武装を情報部の捜査網をかわして集めたのだろうか。しかしそんな疑問を持っている場合ではない。これは現実だ。それに対処しなければならない。情報部への不満はその後にぶつければいい。


「何としてもここで食い止める!」


 お気楽なカナコも、この時は顔を引き締めている。状況は不利を通り越して悲惨だった。すでに幾つもの隊員の死骸が転がっている。それだけかれらも懸命に対抗していたのだが、ここでカナコは人間とデモンの差を痛感する。こちらは簡単に死ぬが、向こうは簡単には死なない。そして敵を討ち取る為の(アンチ)デモン弾には限りがある。


 彼女の微かにある冷静な部分は、ここで勝利を得るのは難しいと囁いている。だが本能の方が闘争を求めていた。シロウには逐一否定するが、実際には自分が戦闘狂ではないかと疑ってはいる。だが無闇に戦いたいのではない。守りたいから戦うのだ。


「〈ジ・アーセナル〉! ぼくが奴等の足を止める!」

「任せた!」


 コウタは前に出て、両手をばっと前に出した。すると敵の足場がぐらりとゆれ、動きが止められる。足を取られるというよりは、上から無理矢理頭を押し付けられているような感じだった。


 これが彼の能力である。重力操作。そんな恐るべき能力を秘めている通り、コウタは人間ではなかった――人間の母とデモンの父を持つ、いわゆるハーフ・デモンとなる。愛し合った夫婦ではなく、コウタは強姦によって産まれた子だ。のち、父は〈ザ・ラウンドテーブル〉に殺され、母と彼自身は保護された。母はその個人的な恨みからそのまま隊員に志願したが、若くして病に伏し、亡くなった。その遺志を継ぐべくコウタも続く。デモンの血を半分持つ彼を組織に組み入れるのは、士気の影響を考えて反対意見も多かったのだが、結局は現実主義の方が勝った。つまり彼の能力は希少であり、有用であると見なされた。最終的に裁可したのは〈ザ・ゲームマスター〉リュウイチだった。


 しかしその能力も無限大ではない、大量に湧く〈アポカリプス・ナウ〉の部隊を全員足止め出来る訳ではなかった。だがそれでも良かった。隙を作ればそれで良かった。


 カナコはそう思っていた――この、火力の化身が。


「そらぁッ!」


 カナコは迷いなくロケットランチャーをぶっ放し、敵の前衛を破壊する。それだけでは飽き足らずすぐに次弾を装填し、また発射。そのまま前に進んでいく。


 彼女の登場によって一気に防衛部隊の士気が上がった。〈ジ・アーセナル〉を先頭にして、火力によって。


「撃て撃て撃て撃て撃てェッ! 私に続けェッ!」

「総員、〈ジ・アーセナル〉を援護しろ!」


 地上部隊だけではなく、防壁の上に配置された隊員も激しく射撃する。黒い霧がもうもうと吹き上がる。それだけ攻撃は有効打を与えている。


 北門の攻防は少しずつ押し返している。


 だがそれが戦場の全てではなかった。そして〈ザ・ラウンドテーブル〉は万全の戦力を擁していた訳ではなかったのである。

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