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ロング・デイ(1)





 敵の侵入はまだ許していない筈だった。なのに彼等は何故ここにいるのだろう。一時の激情が冷めて――それを早く冷ますのは戦士にとっては必要な技術である――、まずそれを疑問に思った。鍵を握っているのは少年の方かもしれない。そういった特殊能力があるのか、空間転移のような、そんな能力が。


 シロウはトシヤの斬撃を無理矢理力で弾いた。大剣を片手に持ち替えて、そのまま正拳を放つ。速さはまだこちらの方が勝っていた。トシヤは逆らわずにそのまま距離を取った。


 1対1では互角――それがこれまでの二人だった。だが今はどうだろうか? 彼は明らかに筋力が上がっていた。そしてこれは演習ではなく、文字通りの命の取り合いである。まさか彼とそんな事になるとは思っていなかった。認め難い。だがそれが現実である。


「悪魔に魂を撃ったか、トシヤ!」


 そうやってシロウは悪罵したが、トシヤは至って冷静にそれを受け流す。表情は全く変わらない。〈ザ・マシーン〉の二つ名通り、それは全然変化はないようだった。任務を完璧に完徹する。〈ザ・ゲームマスター〉も絶大な信頼を寄せていた。個人としての戦闘能力はもとより、部隊指揮も優れたものを持っていた。〈ザ・ラウンドテーブル〉の主力が彼だと、誰もが認めていた。しかしそれを驕りもしなかった。


「哀しい事だが、全ては運命だ」

「運命でかつての大将を殺すのか?」

「私はデモンになった。ならばデモンとしての未来を作らねばならない」


 本気でそんな馬鹿げた話を信じているのか――シロウはそう言いたくなった。だがここでトシヤを説得するのは不可能だろう。心の芯が強い彼が、そう簡単に考えを翻すとは思えない。


 全く揺るがない瞳が以前は頼もしかったが、今は恐怖を覚える。


「ならばお前は敵だ! 敵なら撃滅する!」


 シロウはふたたび大剣を両手に握り、下段構えにした。〈ザ・マシーン〉――いや、〈ブラック・ライダー〉は斜め45度程に身体を傾け、その二刀流を隙無く構える。距離は少しある。だが二人が踏み込めばそれは殆ど意味が無い。懐かしささえ感じる間合い。だがその懐かしさが今は憎々しくも思える。


「行くぞ、シロウ」


 それはかなり珍しい切り出し方だった。これまでは、いつもシロウの側から仕掛けるのが普通だった。そして彼は難なくそれをいなす。トシヤは「受け」の天才だったとシロウは思っている。言い換えれば「柔」という事にもなるのだろうが、ともかくそれが彼のスタイルの筈だった。


 右手の剣がシロウの肩に襲い掛かる、ひゅっ、と不吉な風切り音が鳴って、シロウはそれを無理矢理身体を捻って回避する。だがその先にもう一本の剣が飛んでくる。邪道とも言えるような二刀流だが、トシヤはそのスタイルを難なく自分のものにしていた。


 だがそれに慣れているのもシロウである。攻め方はよく分かっている。何度も、何度も組手でやってきた間合いだ。癖も分かっている、だからそこから剣が飛んでくるのは織り込み済みだった。シロウは冷静に剣先を移動させて腹で受け止める。そして両手持ちと片手持ちのパワー差を生かしてそのまま押し込む。ぐらっと少しだけ体勢を崩した彼に、そのまま両手剣を大きく振りかぶり、落とす。大仰でありながら鈍重さは無く、とても素早い。


「相変わらず、やる。だがな」


 だが崩れかけながらも、トシヤは右手の〈カリバーン〉を振り抜き、シロウの脇腹を鋭く斬る。それだけでシロウの動きが止まる訳ではない――だが一瞬だけ怯む。トシヤはそれを見逃さず、前蹴りでシロウを転倒させ、そこに襲い掛かる。


「この程度でぼくを取れると思うなッ!」


 彼はあえて剣を手放した。そして護身用の拳銃を抜き、覆い被さる様にやってくるトシヤの脳天を狙った。それは見事に命中し、今度はトシヤの方が怯む番だった。その隙を見逃さず、シロウはばっと状態を起き上がらせ、滑るようにして一旦手放した大剣に向かい、それを拾って立ち上がり、構える。


 全くの互角。


 ヒュウ、と口笛を吹いたのは少年だった。彼はここに介入してこない。なにか楽し気に二人の戦いを観戦しているようだった。


「流石だね、〈ザ・ラウンドテーブル〉のエース二人と言われただけの事はある」

「黙っていろ、メフィストフェレス」


 憎らしいほど冷静な声だが、そこには少しだけ感情が乗っているようにも聴こえる。しかしメフィストフェレスは飄々とした顔を崩さない。


 少年(?)が介入してこないのはシロウにとっては幸いだった。その力量が計れていないからだ。それでなくとも、デモン相手の1対2は圧倒的に分が悪い。


 ここは退却すべきだ、と冷静な判断が頭によぎったのも確かである。だがシロウは敵に回ったトシヤを仕留めたい、という熱情を捨てきれなかった。彼が魔道に堕ちたとなれば、自分が引導を渡すべきだという使命感が頭から離れてくれない。


 しかし状況は彼の意思とは関係なしに動き出した。


「〈ザ・ソーズマン〉! 大丈夫ですか!」


 異変を察知した〈ザ・ラウンドテーブル〉の隊員達が入ってきたのである。人数は10名。全員がプロテクター、グレネードランチャー付きの小銃、手榴弾を装備した完全武装である。


 助かったのは間違い無い。だが心のどこかでつまらないな、と思ったのも確かだった。だが私情は挟んではならない。最善の策を取るのが使命である。ここで隊員達の助けを借りてトシヤとメフィストフェレスを討ち取れるならそれに越した事はない。コマンダーとしての判断を最優先させる。


「少し時間を掛けすぎたようだね」

「遺憾ではあるが」


 メフィストフェレスがいやらしい笑みを浮かべる。ただの少年が見せられるような邪悪な笑みではなく、また深い。デモンの歳が外見では判断出来ないのは周知の事である。それにしてもそれはなにか古き所からやって来たような深さがあった。底知れないその表情にシロウは戦慄した。


「だが為すべき事は達成した。ここは引くとしよう」

「簡単に逃がすと思っているのか!」


 シロウは右手を上げた、それを合図として隊員達が整然とした射撃を始める。しかしその前にメフィストフェレスがトシヤに寄り添い、手を握った。トシヤはすでに剣を鞘に収めている。


「ではごきげんよう、〈ザ・ラウンドテーブル〉の諸君」

「先程も言ったが、これはただの宣戦布告だ。今度会う時は血で血を洗う戦いとなろう」


 そういった捨て台詞を残して、彼等はまるで最初からいなかったかの様に消え去った。目標を失った銃弾は窓に当たり、硝子に穴を空けた。


「なんて事だ……」


 シロウは茫然としていた。残されたのは彼と隊員、そして骸と化した〈カーディナル〉と〈ザ・シャドウ〉の無残な姿だった。これ程の惨劇、そして屈辱は〈ザ・ラウンドテーブル〉結成以来初めてだった。


 しかも戦闘はまだ終わっていない。シロウは憤怒に頭に血が昇るのを必死に抑えながら、ほかの戦場の救援に向かう。

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