表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
96/150

デクラレーション・オブ・ウォー





〈ザ・ラウンドテーブル〉は防御に対して無頓着ではなかったが、それでも敵から襲撃された経験はこれまで無く、それ故隊員達は動揺していた。まして本拠地への奇襲である。一体何が起こっているのか。シロウ達もまた少し動揺していて、しかし現状には対処しなければならない。


「敵は、その、〈アポカリプス・ナウ〉とかいう奴等なんでしょうか?」

「分からん。だがその可能性が一番高いだろう」


 リュウイチは言葉こそ冷静に聴こえるが、表情をみれば焦燥しているようだった。だがそれはきっとシロウも同じものの様だっただろう。カナコですら、すこし不安そうな顔をしている。


「ど、どーなってんっすか? ウチ等が攻められるなんて……」

「落ち着け、〈ジ・アーセナル〉。今は状況への対処が第一だ。相手の事はその後考えれば良い」


 その状況分析だが、敵は北部から襲って来たらしい。これがリュウイチにとっての戦略的誤算だった。ウメダ侵攻作戦から戦力をまだ完全に戻せないから、主に南部に部隊配置していたのである。最初に襲撃されたのがキョウト南部だったからだ。敵が襲い掛かってくるとなれば、そちらから来ると思い込んでしまっていたのである。


「んもう! 情報部は何やってんのよう!」


 そんな事を言いながらも、カナコの心は既に戦闘態勢に入っているようだった。しかし今の彼女は武装していない。


「取り敢えず君は武器を装備しろ。部隊の指揮は私が採る。〈ザ・ソーズマン〉、きみは……」

「ぼくは?」

「猊下の護衛を優先しろ。それ以外のことは考えるな」


 シロウは盲目的に指示に従うような男ではなかったが、この時は指示に従った。それが道理だと自分でも判断したからだった。


 しかし、状況はあまりよろしくない。〈ザ・ラウンドテーブル〉の本拠地、ニジョウジョウは要塞化はされているが、今は人員が枯渇している。ここを攻められる筈がないだろう、という甘い見立てがあったのは否定出来なかった。だがそれを悔やんでも仕方がない。シロウは大剣――〈デュランダル〉を構える。昔の聖剣から貰った銘であり、それは実際には虚仮脅しに過ぎないのだが、それでも何かしらの意味はある信じている。


「急げ!」


 一度行動に移れば迷いは無い。戦闘能力とか、武装とか、そういうものではなく、その〈ザ・ラウンドテーブル〉の意志力こそが重要なのであり、それ以外の事はどうでもよく、そして〈コマンダーズ〉の一員たる自分もそれを率先して示さないといけない。シロウはそう思っていた。


「で、私はどうすりゃいいっすか?」

「北部を支援しろ」

「そりゃいいんっすけど、南は大丈夫なんっすか?」


 2重の奇襲があるのかもしれない。言葉こそお気楽に響くが、カナコは真剣であった。


「それは有り得る。だが直近の危機に対処しなければどうしようもない」

「戦術的に後手踏んでるってことじゃないっすか」

「それを認めた上で対処しなければならないという事だ」


 カナコはすっかり落ち着いていて――だがその中にある熱は失わず――、リュウイチの言葉に肩を竦めた。〈ラウンドテーブル・コマンダーズ〉の中では2番目に若い彼女ではあるが、その胆力は随一である。


「了解! 敵は全部ぶっ殺します!」

「そんな物騒でなくてもいいのだが」


 ともあれ、かれらは動き出した。そうなれば誰にも負けない。滅ぼされない。人類の守護者としての自分達――その力と使命をシロウは疑っていなかった。


 その筈だったのだが。



        ◇



 騒音が外から響いている。騒音というよりば爆音と言うべきなのかもしれない。敵はただ数だけではなく、相当な銃火器で武装しているようである。それほどの戦力を秘匿していた事が信じられなく、情報部への文句も言いたくなるものだが、それもまた、〈ザ・ゲームマスター〉が言った通りに後から考えればいい話だった。


 シロウは自分がそんなに頭が良くないと知っている。だから戦術的な事は考えないで

良いと思っていた。自分がやれるだけの事やれば良いと思っていた。そう思っていた。


 そうすればきっと良い方向に人生は進む。自分だけではなく、仲間達も。〈コマンダーズ〉の面々だけではない。組織の隊員全て。全てが幸せになれば良い。


 ニジョウジョウはそんなに大きな城郭ではなく、軍略的というよりは政治的な意図で建てられたものである(らしい)。だからそこまで防御力がある訳ではない。しかしその古風な内郭は嫌いではなかった。その古臭さが組織の威厳を示していると思っていたのだ。だが今〈カーディナル〉を守る為に駆けていると、その古風な建物の作りがどうにも頼りなく思える。なんだか寒い気もする。それが悪い予感を抱かせてしまう。


 だが考えるな。走れ。


 シロウは本丸へと急ぐ。走り続ける。外では苛烈な戦闘が行われていた。〈ザ・ラウンドテーブル〉がこのような守勢に回ったのはこれが初めてである。しかしそれは常に懸念されていた事態ではあったのだ――ただの野盗ではなく、高度に組織化されたデモン集団が現れたら? それでもそれは防御(ディフェンス)を本気で考えていなかったのは認めざるを得ない。これが今の状態である。


 今はまだ城郭内に侵入された形跡はない。だがそれ故に急がねばならなかった。急の事だからシロウも防護服は着ていない。そんな事を気にしている場合ではないのを思い出し、汗ばむのも厭わず、〈カーディナル〉ロバートの部屋にへと向かっていた。


 だが、その場所に着いた時、彼は遅きに失していた。だがそれを誰も責められるものではない。


 そこで、彼はふたりの男――ひとりは黒ジャケットの偉丈夫、もうひとりは白い服を着た見た目は少年――が佇む姿、そしてその剣に心臓を貫かれた枢機卿ロバートと、その侍従だったレイコが斃れている姿を見た。


 それはまったく血の気の引く光景だった。しかしそれはただ殺戮の光景を見たからだけでは無かった。その惨劇を見せている男、それに見覚えがあるからだった。見覚えがあるという簡単な表現では収まらない。それはお互い鎬を削って己を高めあっていた――そのはずの男だった。


「トシヤ……? お前なのか?」


 それはカナコからの報告とも重なるものである。〈ラウンドテーブル・コマンダーズ〉最強と目された男。


〈ザ・マシーン〉。


 自分が見間違える筈がない。その力に敬意を表し、しかし負けてなるものかと追い掛け続けたその背中である。そしてその2本の剣。幾多の命を救ってきた――それはデモンを屠ってきたという事でもあるが――その剣は、今は不吉に血塗られている。


「シロウか。お前には会いたくなかったな」


 そのあまり感情を表に出さない声も変わらない。顔も冷徹である。それが〈ザ・マシーン〉と呼ばれた完璧主義を支えたものである。しかし。


「トシヤ、お前、自分が何をやっているのか分かっているのか……?」

「〈ブラック・ライダー〉、何か答えてやったらどうだい?」


 不気味な少年が言ったが、トシヤは何も言わずにそのまま向かってきた。その恐るべき二刀流を流し、今までよりも更に速くなった足によって。


 シロウは瞬時に判断し、防御を優先して大剣でそれを受け止める。しかしそれは恐るべき力だった。剣を弾かれる事は無かったものの、大きく後退させられた。昔の彼の力ではない。力で押すタイプだったシロウに対し、トシヤは技を重視するタイプだった。しかし。この変化。


 まさか、彼はデモン化したのか?――それは認め難い、しかし事実だった。


「何のつもりだ。お前が、そんな――いや、こんな所に飛び込んで生きて帰れると思っているのか?」

「これはまだ戦いの始まりに過ぎない。我々〈アポカリプス・ナウ〉の宣戦布告だ」


 それは、この破滅した後の世界、その先に現れる新たなる世界を示す宣言だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ