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〈フォー・ライダース〉 ~黙示録の4騎士~(2)





 トシヤ(月野俊哉)は自分が道化である事を十分に認識していた。


「あんたにとっては気持ちいいものじゃないのかもしれないな」


 トシヤ自身も180センチの大柄な男だったが、それに話し掛けたのはそれを更に上回る巨漢であった。彼の名はリシャール(リシャール・ブラン)という。その名が示す通りヨーロッパを血のルーツに持つ男である――なのだろうが、この掻き混ぜられた世界(トシヤはこの表現を殊の外気に入っていた)では血筋など全く意味を持たない。彼が生まれを全然気にしていないと同時に、トシヤも自分の血筋などほとんど気にした事はない。


 両親は生まれて間もなく死んだ。母は産後すぐに罹った感染症によって。そして父は野盗に殺されて。それから後の少年時代はあまり思い出したくない記憶の部類である。ただひとつ言えるのは、彼が生き残れたのは、単に美男子だったからである。こんな世界ですら、()()()()()趣味を持つ者は絶えていない。


 盛者必衰の(ことわり)の如く、彼を「使って」いたデモン山賊団も滅ぼされた。当時勢力を伸ばしつつあった〈ザ・ラウンドテーブル〉によってである。トシヤはそのまま組織に入団し、そこで頭角を現して〈コマンダー〉にまで昇り詰めた。しかし別に出世欲があった訳でも、世に対する復讐心があった訳でもない。正義の心などは――それこそ、全く無い。


 彼は生まれてすぐに持ち得てしまった、虚無感とでも言うべきものを未だに払う事が出来ないでいる。だが、では何故今なお自裁もせず現世の生にしがみついているのだろうか。それは彼自身にも答えの出せない問題だった。


「私を気遣わなくともいい。特に気にしてもいない。任務はこなす」

「俺にとってはあまり気乗りしない仕事だがな」


 この筋骨隆々の男が〈アポカリプス・ナウ〉に参加しているのは、ただ暴れるのが目的ではなく、強敵と戦う事を欲しているからだ。〈黙示録の四騎士(フォー・ライダース)〉のひとり、〈クリムゾン・ライダー〉。正直な所、トシヤはこの大仰な二つ名とチーム名はあまりにも滑稽過ぎると考えていた。だが彼自身、〈ブラック・ライダー〉と呼ばれるのを拒否はしていない。


 それは過去との決別を意味するからだった。そう、〈ラウンドテーブル・コマンダーズ〉だった時代、その過去。


 それに、コケ脅しの名前などは〈ザ・ラウンドテーブル〉も使っている。その時彼が付けられていた渾名は――


 まあ、どうでもいい。


「きみは〈ラウンドテーブル・コマンダーズ〉とやり合いたいのだろう。ならば任務は粛々と遂行すべきだ。これは彼らを『釣る』ためにあるのだからな」


〈ブラック・ライダー〉は冷たい声で言った。驚くほどに感情を感じられない。感情というものをどこかに捨ててきたような。


「俺は強い者ならなんでもいいぞ。何ならあんたでもな」

「冗談に聴こえないから困る」

「冗談じゃないからな――だがまあ、今の所は組織を乱す事はしないぜ。仕事には忠実に行こうじゃないか」

「今の所は、か」


 組織は仲良し集団ではない。殊に〈フォー・ライダース〉がそうだ。組織の中でも最も強力な力を持った4名が選ばれた。彼らが名乗る、〈黙示録顕現(アポカリプス・ナウ)〉の象徴となるために。だがその思想に忠実な者が選ばれた訳では無かった。その点、組織は急造的であるのは否めない。だが首領はそれでもいいようである。目的の為なら手段は全て正当化される。首領はそういった考えの持ち主であり、トシヤはそれを否定しようとも非難しようとも思わない。この掻き混ぜられた世界ではそれが全てだ。〈秩序(ロウ)〉を再建しようとする〈ザ・ラウンドテーブル〉、その首魁、〈カーディナル〉が異常な思想の持ち主なのだ。だがそれを言うなら誰がこの世で正常な理性を保っているというのだ。


 すべてが狂ってしまった世界。


 そこでトシヤは自分が死なない理由を見出したような気がする。彼はこの価値無き世界を、殊の外愛しているのだ。それは少し新鮮な――そして奇妙な発見だった。


 彼らが標的としているのは「カツラ」と呼ばれる〈ザ・ラウンドテーブル〉の基地のひとつである。元々は軍の駐屯地であったらしい。しかしそこにあった兵器達はほぼ動かないでいる。〈ザ・ラウンドテーブル〉はいくつかの装輪装甲車を装備しているが、それくらいである。燃料の調達が難しい、兵器に合った弾薬を開発できない、操縦技術が失われている、そもそも彼らの目的は治安復興、維持であって戦争ではない(戦争の兵器は戦争の兵器を破壊するために作られた物である)、とまあ色々な理由がある。


 だがトシヤ達の任務はラウンドテーブルの拠点破壊と同時に、それら兵器の鹵獲も含んでいる。


〈ザ・ラウンドテーブル〉がウメダ制圧に乗り出しているので、本拠のキョウトは比較的手薄になっている。今回の作戦はそれに乗じたものだ。作戦は上手くいくだろう――トシヤの戦術眼はそう断言していた。だがその後はもちろん彼らとの全面対決になる。それからは? ――考えても仕方あるまい。我々は皆、全てを見通せる神ではないのだ。この神無き世では殊更にそうだ。


「さあ、始めよう。〈ブラック・ライダー〉、指揮官はあんただ。あんたの号令で部隊はいつでも動き出せる」

「そうだな」


 つらつらと頭の中で思惟を弄んでいても仕方あるまい。始めるべきだ。その後の事は――どうにでもなるだろうし、それ以上に()()()()()()


 彼は右の腰に差した剣、〈カリバーン〉と左の腰に差した〈ガラティーン〉を抜いて、号令――つまりは単騎突撃による攻撃開始を告げる。


「諸君、我に続け! 我ら虐げられしデモンの未来を切り拓くために!」


 彼は自分では全然信じていない言葉を叫び、敵の本拠に突入する。



         ◇



 ヨドとカツラの陥落が伝えられたのはそれから2日後のことだった。ウメダ制圧作戦の為にかなりの戦力を割き、さらには司令部機能をも移していたためそれだけ時間が掛かったのだ。だが〈カーディナル〉は陰鬱な表情を見せつつも冷静さを失っていなかった。リュウイチはそれを頼もしく見ると同時に、不気味だとも感じていた。


「まさか我々に対する直接攻撃があるとはな。政治的意図か。そうか。デモンの集団など略奪や凌辱ばかりを追い求めている奴等ばかりだと思っていたが、認識を改めねばならん。これは我々を明確に『敵』と認識した勢力の仕業だ」

「彼らは〈アポカリプス・ナウ〉と名乗っているようですが」

「笑えないな。この世界は黙示録を経験し、そして神による最終的救済は行われていない」


 あるいは、彼らは神の御使いと名乗っているのかもしれん――ロバートはすこし諧謔味にそう言い、口を歪めた。だがそれはあまり楽しげには見えなかった。〈ザ・シャドウ〉は表情筋が存在しないかのように顔を微動だにさせない。


「まあ、敵対行動をする組織が現れたのなら我々のやる事はひとつだ。〈ザ・ゲームマスター〉、組織を可及的速やかに再編せよ。そしてキョウトに戻り、反攻する」

「御意」


 我々は戦略的失敗を認めなければいけないだろう――リュウイチはそう思っていた。だが〈アポカリプス・ナウ〉とは何なのだろうか? これまでのデモン野盗団とは明らかに違った規模と意思をもった集団だ。情報部でも捉えていなかったその組織の最終的目的とは。何か嫌な予感がする。これは、これまでには無かった事だ。前代未聞とは言わないにせよ。


 こういった時、リュウイチは「彼」を失ってしまった事を悔やむ。助けられる方法はあったはずだ。だが組織をただ一人の救出に使う訳にはいかなかった。いかな熟練強靭な〈ラウンドテーブル・コマンダーズ〉であっても対デモンの戦いには危険が常に付き纏う。そこに人間の限界があるなれば。だが彼の死亡は直接確認されていない。今なお組織内では、彼の扱い「消息不明(MIA)」である。だから、リュウイチは心のどこかで、今なお〈ザ・ラウンドテーブル〉黎明期を支え続けた相棒――〈ザ・マシーン〉の生存を信じているんのである。

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