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〈フォー・ライダース〉 ~黙示録の四騎士~(1)





「しかしキョウトと言ってもじつに広いぞ。どこから探ればいいのやら。俺には皆目見当もつかん」


 キョウトの街を人は「古都」と呼ぶ。平安の都と呼ぶ者もあったが、それがどこから来る呼び名なのかは誰も知らない。しかし何か人類開闢以来から既に存在していたような空気を纏っているのは事実だし、この混沌の世界に於いて比較的平和な街であるのも間違いはない。それは〈ザ・ラウンドテーブル〉の根拠地だからでもあるのだが……


「キョウジ君はキョウトに来たのは初めて?」

「ああ。そういえばそうだな」


 ウメダのように忌避して遠ざけていた訳ではない。ただここまでなんとなく縁が無かったというだけだ。交通の要所でもあるこの街に縁が無かったのも妙な話ではあるが


「そういうカレンは訪れた事はあるのか?」

「ええ、何度かね。一時期は拠点にしていた事もあるわ」


 この地域では、人間が住みやすい、命を守るのは適した街であるのは間違い無いだろう。だがそれは一方でデモンが排斥されている街だとも言える。なにも犯罪的行為(しかし、法の失われたこの世界で「罪を犯す」とはどういう意味になるのだろう?)をするのはデモンに限らず、人間も劣らずあくどいが、デモンが忌避されるのはその犯罪性ではなく、制裁が難しいところなのである。だからこそ、「法と秩序の復興」を目指す〈ザ・ラウンドテーブル〉は正義と共に実行力を蓄えようとしているのである。


「じゃあ、〈アポカリプス・ナウ〉ってのは何なんだろうな」

「知らないわよ、そんなの。よくある野盗団のひとつなんじゃないの?」

「まあ、そうだろうが」


 これまで散々見て来た通り、デモンの野盗団は何故か自分のチーム名に大仰な名前を付けたがる。ハッタリと言えばそれまでなのだが、名前にはそれなりに力がある。それが自分が付けた名前にせよ、他人が勝手に付けた渾名にせよ。キョウジは自分が「キョウジ・ザ・シルバー」と名付けられた災厄と恩恵を決して忘れてはいない。使い勝手の良い名前であるのは間違い無い。やや安直であると思わないでもないが。


 アポカリプス、という語についてキョウジは無知ではなかった。「黙示録(アポカリプス)」。キリスト教の唱えた人類の破滅とその後に訪れる最終的救済を唱えたその物語。いや、敬虔な信者にとってはそれは物語ではなくいずれ預言された事実なのだろうが、それは知ったことではない。そして今の世界は滅びが達成された後であり、救済はまだ行われていない。


「物騒というよりかは、どこか滑稽ではあるな」


 あるいは救済を求める切なる願いであるのだろうか。それは訊いてみないと分からないが、訊くつもりも無い。


 だがミユの為には接触しなければいけない。


「なんだか雲をつかむような話ね」

「そんなに急がなくていいよ。ノンビリでいいんだ」


 ミユはなお焦ってはいないようだった。なんだか奇妙なほどの自然体である。今にでも知りたいとも、出来れば知りたくないとも、そういった今までの態度とは明らかに違う。まあ元々普段はノンビリした子ではあるのだが。


「でも知りたいって言ったのはお前だぞ」


 キョウジは呆れて言った。ミユは澄ました顔をしていた。どことなく大人びた雰囲気を醸し出している。


「焦っても良い事はない、って兄ちゃんはいつも言ってるじゃない。そういう意味」

「ミユ、お前もずるくなったなぁ」

「えへへ」


 別に褒めている訳でもないのだが、少女ははにかむように笑う。どこにも邪気が感じられない笑みに、キョウジはむしろ「これだから女」は思ってしまうのである。女はなんら邪気を持つことも無く、平然とあくどい事をやってのける。いや、それは偏見かもしれないが、彼にとっては(そして大概の男にとっては)女とは愛さずにはいられない悪魔と言える。ミユのそれは、悪魔的と表現するにはややかわいらしいものではあったけれども。


 彼らが川を沿って着いた先は、キョウトの南端、ヨドという居住区である。それはかつて訪れたニガワの街によく似ていた建造物と、かつて競技場だったと思しき草原が広がっている。大きさはほぼ同じだった。ただ、違うのはその歪んだ楕円形状のサーキットの真ん中に、大きな泉が存在した事である。


「佳仁さんたちなら、何か知ってるのかもしれないね」

「ここも『競馬場』だったのかな」


 しかしどれだけ想像を膨らませた所で、そこはすでに人間の避難地であり、住処であり、かつて何を意味した場所なのかは住民には興味のないところであり、その競技場は今は農地として利用されている。かつてサラブレッド(という生物が存在したらしい)が走った場所は、いまは養鶏場になっている。それを咎める意味はどこにも存在しない、そこから供給される鶏肉と卵は自分達の滋養になっているからかもしれないから。


 その、ヨドは極めて平和な街だった。肩透かしを食らうほどである。こんな所で情報を集められるのだろうか、極めて疑わしい。実際、あまり実入りのいい話は手に入れられなかった。ただ、その中でひとつ手掛かりになりそうな情報を聞いた。


「なんか、この辺りで若いもんを集めている奴等がいたね。今はもう撤収したみたいだけど」


 この世界では極めて珍しい、老齢の女性だった。優しい瞳が印象的な人だ。人見知りのミユもその老婆には警戒していなかった。


「それがあんた達の探してる奴等とは限らないけどね。でもこのヨドだけじゃなくて色々な所で勧誘しているみたい」

「人を集めてなにをしようって言うんだ?」

「『力を与えよう』とか、そういう話をしていたような」


 情報として大したものであるかどうか、それは分からない。だがキサラギ探偵の言っていた「勢力を伸ばそうとしている」という話に合致するのも確かである。だがそこまでだ。まあ地道に話を集めていくしかあるまい。


「そういう事をしているのならば、向こうから接触してくる可能性もあるな」

「でも気になるわね……野盗団が街に来て勧誘するなんて」

「それは今から探ればいい」


 とりあえず、キョウトの中心部に向かうまで、キョウジ達はここで宿を取る事にした。



         ◇



 そのヨドの住人の大半が住む建造物、今ではだれも知らないが「ビッグスワン」と呼ばれた屋根の上に2人の男女が立っていた。男女、というにはややアンバランスだったかもしれない。ひとりは男というよりは少年のような風貌をしていた。そしてもうひとりの女は170センチほどの高身長をしていて、長い黒髪をなびかせ、これまた漆黒のコートを着て、その下はチューブトップの黒いシャツと黒の革パンツを穿き、どこまでも黒ずくめである。


「『彼女』に会わなくていいのかい? 〈ペイル・ライダー〉」


〈ペイル・ライダー〉と呼ばれたその女は全てを見下すように、傲然と眼下の光景を眺めている。その傍らには長い日本刀を仕舞った鞘が構えられている。


「そのタイミングは私が決める事。貴方が口出しする事ではないわ、メフィストフェレス」

「いいね、そのぞくぞくする冷たい声。惚れてしまいそうだ」

「貴方はマゾヒストなの?」

「まさか」


 少年らしき存在――メフィストフェレスは〈ペイル・ライダー〉の声にも負けないほどの冷やかさを持った微笑で返した。


「ならば黙っていなさい、〈ホワイト・ライダー〉」

「素晴らしいね。じつに素晴らしい。貴女こそ永遠の鬼神に相応しい存在だ。ミヤ」


 並の男ならすぐにたじろぎ、屈服してしまうほどの冷酷な美貌。その顔をさらに冷たく歪め、愚弄する様な目をされてもメフィストフェレスは一向に気にしなかった、むしろ愉しんですらいた。


「だが仕事の前に確認しておかねばならない事でもある。『彼女』は標的にしても良い存在なのか? そしてあの〈シルバー〉も」

「かれらは――そうね、今の所敵ではない。利用出来るかもしれない。だから今は泳がせておくわ」

「その判断が命取りにならなければいいけどね」


 メフィストフェレスと彼女。全く仲が良いとも思えない空気を醸し出していたが、敵対している訳でもない。相性が悪い訳でもない。だがメフィストフェレスは自分以外の誰をも嘲笑するような顔を見せて、彼女は自分以外の誰をも憎悪するような顔を見せている。


「〈ザ・ラウンドテーブル〉に対する牽制と挑発が仕事よ。かれらは――いた方が邪魔になる。作戦はかれらが去ってからにするわ」


 その言葉は程無くして現実のものとなる。


 キョウジ達がヨドを去ったあと、そこは火の海と化し、いずれ灰燼に帰した。


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