表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
81/150

ウメダ制圧





 元より苦戦は想像していなかった。人口は多いし、デモンもいる。ある程度組織された集団もあったが、しょせんは専門的な戦闘訓練を受けた〈ザ・ラウンドテーブル〉の精鋭たちを退ける事は不可能である。だが少々の混乱も覚悟していた。


 しかし制圧作戦は予想以上に順調に進んでいた。自由よりは命を優先する者の方が多かったという訳だ。〈ザ・ゲームマスター〉は近郊に設置した司令部、その指揮所で次々とやってくる戦闘報告を捌いていた。


「ここまで一方的になるとはな。少し用心し過ぎたか?」


 これほどの大規模な作戦を展開する必要は無かったかもしれない――だが鎮圧の後の統治を考えれば人員はある程度揃っていた方が良いに違いない。


 しかしそうなると――こういった大きな街も含めて支配するとなると、これから〈ザ・ラウンドテーブル〉はただの戦闘集団という訳には行かなくなるのではないか、などとリュウイチの思考はすでに先に向かっていた。ただ戦闘部隊だけでなく、情報部はすでに存在するが、もっと本格的な警察機構を組織しなければならなくなるのではないか。


「一つの国を作るようなものだな、最早」


 この時代、「国」という概念は過去の遺物と化している。野盗、山賊、マフィアといったならずもの(〈ザ・ラウンドテーブル〉もそれらと明確に一線を引ける差はあるのだろうか? とリュウイチは訝しんだ)はいるが、高度な政治的機構を持って統治しているような組織は存在しない。世界を再建するためには、それも必要なのだろうか。


 自分には手の余る問題だ、と彼は首を振った。


「我らが国を建てるとなれば、リュウイチ殿は大将軍になれますな」

「私はそんなものを望んではいないのだが……」


 副官の言葉が軽い冗談だと分かっていても、いささか融通の利かない彼はそんな味気ない答えをしてしまった。自分にはユーモアが欠ける、とは思っているがいまいちそこが矯正出来ない。


「とにかく、不必要な殺害は不要だ。我々の目的はあくまでここに秩序を立てるところにあるのを忘れるな」


 それはいつまでも徹底させている。いささか粘着質過ぎる程であった。


 やがて戦闘報告自体が少なくなって来る。制圧は最終段階に近付いているようだった。向こうに見える街の騒音も収まってきている。こちらが火器で火を点けたのか、それとも妨害工作で放火したのか、ともかくいくつか燃え上っている建造物もあったが、すでにそれも鎮火活動に移行していた。


「そろそろ私たちも街に入りましょうか、猊下」

「ふむ。貴公がそう判断するのであれば、それは正しいのだろう」


 指揮所には〈カーディナル〉も同伴していた。当然傍には付き人である〈ザ・シャドウ〉もその氷の様な表情を崩さず待機している。何故本部に留まらず、彼がこの戦場にまで付いて来ているのか、それには明確な理由がある。戦闘は――あるいは戦争は――終わらせなければならない。よって完全に制圧したところを見計らって、我々の首魁が満天下に勝利宣言をしないといけなかったのである。ここにも〈ザ・ラウンドテーブル〉が政治的集団になりつつある兆しが見えていた。


 だが一つ気になる事もあった。無数の戦闘報告の中でも、デイヴィス隊からの連絡が途絶えているのだ。それ以外は所在をつかんでいるが、彼らだけが行方不明になっている。彼には最も危険だと目されていた組織、〈ブラッドスター〉の掃討を命令している。苦戦しているのか――考えたくもないが、潰滅させられたか。いずれにしてもその戦後処理も徹底的にしなければならないだろう。


「私は〈ザ・ヘリオン〉の安否を確認しに行きたいと思います。〈ザ・シャドウ〉、きみが猊下に付いていてくれ」


 レイコは無言で頷いた。本当に機械で出来ているんじゃないか――そう思わせるほどのぞっとする無機質な所作だった。


 ともあれ、彼らは戦闘の最終段階、勝利を確定するために動き出した。



        ◇



 タカヒロは今まで手塩にかけて育ててきた自分の王国が無様に崩壊していくのをただ唖然と見るよりほかなかった。


「くそっ、くそっ、何だって〈ザ・ラウンドテーブル〉の奴等が……」


 彼らはデモンの氾濫から人類を護る、という名目で戦ってきた組織なのではないか。それが色目を使ってウメダ制圧に乗り出したとなれば――


「結局、あいつらも同じ穴の狢ってワケだ。くそったれ!」


 彼は今、全てを投げ出して逃走していた。特に〈ザ・ラウンドテーブル〉の部隊からは必死に身を隠している。


 ここでの覇権を目指す道のりは途絶えたのかもしれない。欲望の街ウメダは奴等によって徹底的に作り変えられるのだろう。道半ばでの挫折――タカヒロはそれを苦々しく認めていた。だがそれで挫ける訳には行かない。ウメダは捨てても、どこかでのし上がる野心は捨てていない。そして自分にはその才覚があると信じて疑っていないのだ。


「だが今は命が最優先だ」


 ひとつ気になっている事があった。みらんはどこに行ったのだろう? 彼は仲間も部下も見捨てて独りで逃げ出していた。しかし彼女の力は惜しい。彼女はまだ利用出来る。自分の野望には欠けてはならないピースだと思っていた。それに肉の味も――しかしあいつはあの男、〈シルバー〉に気を遣っていたようでもあった。


 なるべく裏通りを歩く。ひっそりと、ひっそりと。こうしているとただのチンピラだった頃の自分を思い出して惨めな気持ちになる。彼は唾を吐いた。


 幸いな事に、〈ザ・ラウンドテーブル〉は殲滅戦を仕掛けているのではなく、たった独りになったタカヒロは眼中に入ってもいないようだった。少なくともこれまでは。奴等の部隊とは遭遇していない。もっと大通りで戦闘が行われている。このまま裏道を這って進んでいけば脱出できるかもしれない。しかし万一戦闘になったら?――自分の武装は拳銃が一丁だけである。もしそうなったら大人しく投降すべきか。


「ああ、ムカつく、ムカつくなあ!」


 地下街を進むべきかもしれない、と思ったが止めた。身を隠すにはむしろ雑踏の多い地上のほうが容易だった。迂闊には動かずに、夜を待つほうがいいのかもしれなかった。すでに夕暮れになっている。どこかに隠遁して、それから密かに――


 大まかな戦闘は終了しているようだった。騒ぎはいつの間にか静かになっている。


 かつて地上駅があった、今では街の中央広場になっている所が裏道から微かに見えた。そこでは〈ザ・ラウンドテーブル〉の隊員達が集まっている。すでに制圧した気になっているのだろう。実際、広場には奴等の旗、円卓に十字架を被せた意匠の戦旗(エンザイン)が翻っている。


 勿論そんな所に出ていく訳には行かない。タカヒロは引き返そうとした――だがそこを呼び止める声が響いた。


「〈ブラッドスター〉の首領、向島孝弘だな。貴公は私が直接手を下さねばならないと思っていた」


 隊員か、それとも〈コマンダー〉か。自分の天運が尽きたのかと吐き捨て、振り返るとそこには意外な人物がいた。車椅子の初老の男と、その車椅子を引いている冷たい顔の女。話には聞いた事がある。〈ザ・ラウンドテーブル〉のトップ、〈カーディナル〉がそのような男だと。しかし何故そんなお偉いさんがこんな所にいるのだろうか。


 だが戦闘員に見つかった訳では無いのが幸いだと思えた。


「だから何だ? 俺がタカヒロだからと言って、貴様になにかしたか?」

「貴公は自分の罪を理解していない様だ」


〈カーディナル〉も女も凍ったような顔をしている。だがそんな事はどうでもいい。取り敢えずこいつを殺せば、連中も混乱するだろう。その隙に乗じて逃げ切ることも出来るかもしれない。最初は不運だと思ったが、これはむしろチャンスなのではないか。


「俺の罪? 皆生きる為に必死で稼いでるんだ。法律も無いこんな世の中で、ハッ、罪なんて! 大体、お前達はデモンを狩るために結成されたんじゃないのか? こんな野心を見せて、そこにお前等と俺、どんな違いがあるって言うんだ?」

「デモンは主から見放された哀れな存在だ。よって憐憫と慈悲を以て祓わねばならん。だが」


 ここで〈カーディナル〉は懐から拳銃を抜いた。タカヒロも同じ様にして構えた。


「だが、そのデモンを利用して私利私欲を満たそうとする行為は決して許されざるべき、邪悪な行為だ。向島孝弘。この〈カーディナル〉の名に於いて、貴公を断罪する」

「しゃらくせえ!」


 彼は引き金(トリガー)に指を引っ掛け――


 だがそれは引かれなかった。彼よりも速く、〈カーディナル〉ではなく〈ザ・シャドウ〉が銃を抜き、タカヒロの眉間を射貫いていたのだった。


 ウメダの帝王を目指し、もう少しで手の届きそうな所にいた男の人生はそうして呆気なく終了した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ