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銀狼と餓狼(1)





 キョウジは驚愕し、ミユとカレンは茫然としている。そして銃撃を受けたみらんは銃創から黒い霧が漏れ出し、ぐったりと崩れ落ちていく。その身体をキョウジは受け止めた。みらんはすぐには絶命しない。だが回復を望めない、致命的な傷なのもはっきりしていた。その攻撃を行った〈ザ・ラウンドテーブル〉、とりわけ指揮官の〈ザ・ヘリオン〉は勝ち誇る訳でもなく、至って冷静な顔をしている。だがキョウジ達に対しては今の所攻撃を仕掛けては来ない。


「ん? キョウジ・ザ・シルバーか。なんで貴様がこんな所にいるんだ?」

「俺の勝手だろう」


 すぐに憤怒が湧き上がってくる訳では無かった。だがこうやって静かな所から湧き始める怒りの方が最終的には激しく、だが冷たくなる事をキョウジは知っていた。今もそうだった。その兆候がすでに心の奥に芽生えている。


「兄ちゃん、こいつ」


 ミユはもう少し素直な怒りを示していた。可愛い顔をとても険しくさせている。現実に付いて行っていないのはカレンだった。彼女は茫然としたままだ。みらんに何の感情も持っていないからでもあるだろうが……


「何故だ。何故彼女を殺す必要がある?」


 下卑た笑み位見せてくれればもっと遠慮無く怒りを込められたのだろうが、デイヴィスの顔は至って冷静、あるいは冷酷であり、これが当然の任務とばかりに悠然としていた。


「〈セイレーン〉の退治はこっちの優先任務だったんでな。お前がここにいる意味は分からんが、そんな事はどうでもいい」


 つまり、それだけ彼女は有名であり、〈ザ・ラウンドテーブル〉に目を付けられていたのだ。当然彼女の雇い主である〈ブラッドスター〉もマークされていたのだろう。そうでないとこうやって整然と部隊を用意している説明が付かない。


 キョウジの(かいな)の中で、みらんの身体が崩れていく。しかし彼女はつらそうでも悲しそうでもない。至って穏やかな顔をしている。どうしてだろうとキョウジは思った。こうやって泰然と死を受け入れるのはそうそう出来るものではない。


「みらん、諦めるな。まだ……」

「慰めはいらないわ、キョウジさん。これで良かったのよ……」


 彼女は微笑さえ浮かべた。


「私は数多くの罪を重ねてきた。だからこういった報いを受けるのは、正しい事なのよ」

「そんな事あるか。きみには生きる権利がある」


 みらんの身体が軽くなっていく。身体のほとんどが黒い霧に変わっていっていた。


「最後に……貴方に会えて、良かった……」


 そして霧は風になって流れ、彼女がいた証はどこにもなくなる。それがデモンの末路。それがデモンという存在の虚しさを物語るものだった。


「危険な能力を持ったデモンはこの世から排除されなきゃならん。お前がどうあの女とねんごろになってたかは知らんが……」

「黙れ」


 やはりそこにあるのは冷たい怒りだった。あって数日程度の女にここまで感情移入するのもおかしな事だろうか? だが感情は否定出来ない。彼女には幸せな人生を送る道があった。決して悪人では無かった。確かに罪は犯したかもしれない。だが〈ザ・ラウンドテーブル〉が――こいつが一方的に断罪できるものではない。彼はそう断じていた。


「貴様も本当ならやっちまいたい所だが、今日は任務が優先だ。邪魔しないのなら見逃してやる」

「よくもそんな事が言えるな」


 キョウジはゆらりと立ち上がった。異様なほどに心は冷たくなっていて、だが相手は決して許さないという憤怒がある。彼はそれを示すように短剣を抜く。そこでデイヴィスは初めてにやりと笑った。


「やる気か。へっ……それでいいんだ。本当はお前もやっちまいたいんだからなァ!」


 デイヴィスがポールアクスを持ち上げ、〈ザ・ラウンドテーブル〉の隊員の前に出て来る。ひょろりとしたシルエットがむしろ不気味さを増している。


「いいか、お前達は手を出すなよ。お前達が戦っても返り討ちにあう強敵だからな」


 ひとりでやる気らしい。そしてそれはキョウジも望む所だった。彼も一歩前に出る。一瞬だけ静けさが訪れ、それからまた遠くで爆発したような音が鳴った。


「兄ちゃん」

「お前達も大人しくしてろ。これは俺の戦いだ」


 これ以上の言葉は要らない。


 キョウジは一気に踏み込む。〈加速時間〉はまだ使っていない。だが相手の得物のリーチからすれば、出来るだけ接近した所で戦闘する方が有利である。これは前回の交戦から学んだ経験である。前と違うのは、こちらが相手の手の内を把握しているように、敵もこちらの手の内を把握しているだろうという事だ。


 故に慎重になる。デイヴィスは明確な攻撃は避けていて、迂闊にキョウジの「間合い」から離れようとしている。ここでもリーチの差による戦闘の非対称性が存在していた。お互いに決定機を探りながら、逆にその慎重さによって遠ざかっていく。焦れた間合いの取り合いが続いた。


「冷静じゃねえか……」


 デイヴィスが不敵に、だが油断は見せずに呟いた。だがキョウジは無視する。考えているのはどこで能力を使うか、だけである。切り札は1枚だけでいい。それをどこで切るかだ。だがそれは向こうも同じだろう。


 そんな、キョウジが懐に飛び込むとデイヴィスが飛び退くという一進一退の攻防が続いた。いや、これを攻防と表現していいものなのだろうか? お互い間合いを計っているだけで一度も斬撃を放っていない。だが緊張感は凄まじいものがあった。当人同士ですらそうだったのだから、この戦いを見守っているミユ達、そして〈ザ・ラウンドテーブル〉の隊員達もさぞかしぴりぴりした気持ちで見ていただろう。しかし分かっているのはかれらもまた、自分の男が勝つのを信じている事だった。


 焦れた方が負ける。


 それはお互いが分かっていただろう。だがどこかで仕掛けないといけないのも同じである。キョウジは元々積極的な性格ではない。それが枷になっているのかもしれない。


 その性格の差が出たのかもしれない。


「そらぁッ!」


 これまで間合いを取り続けていたデイヴィスが、今度は自分から踏み込んできたのである。斧を短く持って、横薙ぎにしながら突進してくる。かなり速い――これだけのスピードを隠し持っていたのはキョウジにとっても意外だった。だが対応出来ない程ではない。ここがチャンス、とキョウジは踏んだ。これを躱せば自分の間合いに絡み取り、闘犬のようにして食らい付き、離さない。


 キョウジは打撃を避け、そのまま踏み込む――だがデイヴィスの策は二枚腰だった。キョウジの癖を読み切っていたのであろう、そこに思い切り、キョウジの鳩尾に向かって膝蹴りを見舞ったのである。それはじつに鋭く、抉るようであった。


 体勢を崩したところにデイヴィスがキョウジの頭をつかみ、そのまま押し倒す。キョウジは天を仰いだ。強制的にそうさせられた。


 その時、彼はこれまでに無いほどの生命の危機を感じた。


 やられる!


「貰ったァ!」


 デイヴィスが決定機を悟り、一気にポールアクスを振り下ろす――


 だが、キョウジの手にはまだ短剣は握られている。戦うための、命を繋ぐための刃が。

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