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悲劇





「〈ザ・ラウンドテーブル〉だと……?」


 そう言えば前にセンリでウメダ侵攻がどうとか、という話を聞いた様な気がする。それを実行に移したわけだ。彼らは慈善団体なのではなく、政治団体なのだと示すのだろう。法と秩序による支配――それを遂行する。その為の象徴として、悪徳の都ウメダを浄化し、制圧し、支配する。


 キョウジは頭を掻いた。あまり頭の回転が良くなっていない様に思える。だが〈ブラッドスター〉の連中はそこまで混乱はしておらず、武装を始めて対抗しようとしている。しかし恐るべき練度で組織された戦闘集団である〈ザ・ラウンドテーブル〉に対してそれなりの規模とは言えただの無法者の寄り合いに過ぎない〈ブラッドスター〉が敵うとも思えない。


 この状況はキョウジにとってもあまりよろしくない。街全体で戦闘が起こっている。その騒音はどんどんひどくなっていって、ところどころでは爆発音すら聴こえる始末だ。


「戦争……なのかしら」


 みらんがぼそりと呟いた。戦争。確かにそうなのかもしれない。政治的意図を含んだ戦闘の連続をそう呼ぶのであれば。


 あまりに唐突だったので、キョウジは本来の目的を見失う所だった。だが完全に忘れはしなかった。


「そうだ。ミユだ。ミユとカレンに合流しないといけない」


 それは大丈夫だろう。だがその後は? 混沌の戦場と化したウメダをどうやって生き延びる? さっさと逃げ出すのが一番なのかもしれない。だがそれが難しいのなら、自分達も生き残る為の戦いをしなければならない。


「ミユは上にいる筈だ。付いて来い、みらん」


 そうして実際に合流したのだが、その広場にあったのは悲惨な光景だった。〈ブラッドスター〉の構成員がすべて殺戮されている。デモンと人間の別も無い。さほど血が流れていないのは、無駄な流血を避ける為に、徹底的に急所を狙い続けたからだろう。


 誰が?


「あ、あぁ……キョウジ君、やっと合流できたわね」


 そう言うカレンはすこし震えている様だった。彼女は拳銃を右手に持っていたが、実際には発砲しなかったのだろう。銃創のある死体が見当たらないからである。


 そして広場の中央に漆黒の鬼神が降臨していた。返り血を浴び、凄絶でありながら、どこか美しい――それはこの殺戮劇と、愛らしい少女のギャップ故だろう。


「ミユ。大丈夫か……?」


 キョウジは少女に対して少しばかりの畏怖を覚えていた。そしてそんな事を感じる自分を恥じた。彼女は自分が守る――そう思い続けているのにそれが達せず、そしてミユは自分で自分の身を守っている。


 少女が振り向いた。黒髪が揺れる。少し髪にも返り血を浴びているようだった。左手には刀を持っていて、それはすでに鞘に納められている。戦慄の乙女は少し青ざめた表情をしていたが、その瞳にはしっかりと力があった。


「兄ちゃん」


 こういう時、どういった言葉を掛ければいいのか、キョウジは判断に迷った。下手な事を言えば傷付けてしまうかもしれない。頑張ったな、というのも違うし、強いな、と言ってもミユは喜ばないだろう。


「お前は……護ったんだな」

「うん。心も落ち着いてるよ……」


 以前ほどの錯乱は見せない。彼女も戦闘に慣れてきた、自分を飼い慣らせるようになったのか。それは成長――いや、手放しで成長と褒め称えるべきなのだろうか? 考えようによっては、彼女が闇への道を一歩進んだのかもしれない、この光景を……


「怖くは無いのか?」

「ちょっとだけ……怖いよ」


 そう言ってミユはキョウジの腰に抱き着いた。


 顔面蒼白なのはカレンも一緒だった。そして何が起こったのかまるで分からないというようにみらんが茫然としている。


「こんな子を、私が洗脳していただなんて……」


 まあ、吃驚するだろうなとは思う。幸い、その言葉はミユの耳には入っていないようだった。


「さあ、次の事を考えよう。街では大規模戦闘が発生している。〈ザ・ラウンドテーブル〉の奴らが侵攻してきた」

「彼らは敵じゃないわ」

「だが味方でもない。俺達を守ってくれる訳では、全く無い」


 すこし恩を売った経緯もあるのだから、それくらいはして貰ってもいいのにな、とキョウジは皮肉気に呟いたが。あの組織はそういうものではない事も知っている。


「〈ザ・ラウンドテーブル〉の思惑はどうでもいい。俺達は生き残らなければならないんだ」

「それはいいんだけど……なんでその女が一緒にいるの? 敵でしょ、そいつも」


 カレンはみらんの方をあからさまな敵意の視線で見ている。みらんは気まずそうだった。


「みらんは利用されていただけだ。今の彼女に害は無い」

「だから助けようっての? あーあ、あのキョウジ君がそんな見境の無い()()()だとは思ってなかったわ」

「罪の無い女を殺す意味はどこにもないという事だ」

「私には……罪はあるわ」

「そういう意味じゃない。完全に無罪、無垢な者なんか、赤ん坊を除いてはこの世の中にはいない。だがきみは悪ではない筈だ」


 まあ、一度抱かせてもらった負い目があるのも事実だが――勿論それは言わない。


「彼女を仲間にする訳じゃない。彼女が本来あるべき居場所を見つけるだけだ」

「まあ、キョウジ君の判断は尊重するわ」


 それからカレンは続けた。


「で、どうするの? こんな大所帯になって脱出も手間よ」

「すぐにでもそうする……と言いたい所だがその前にやる事がある」

「なにがあるっていうの?」

「あの糞ったれのボスだ。奴をぶち殺さないと俺の気が済まない」

「いいように扱われたもんねえ。その気持ちは分かるわ。でも」


 カレンはテラスに出る扉を顎で示した。そして肩を竦め、残念でしたと言う風に諧謔味のある笑みを見せる。


「おあいにく様、奴はこの混乱のどさくさに紛れて逃げちゃったわ。まあああいう手合いは逃げ足だけは早いって相場が決まってるものね」

「部下を残してか。ますますムカつく奴だ」


 しかしいずれにせよ。大混乱に陥ったこの街で奴を見つけるのは難しいだろう。怒りは残ったままだが、それを制御できる程度の理性はキョウジも持っている。願望と優先順位は別々にして考えなければならない。


「脱出する前に武器を回収したい。みらん、場所は分かるか?」

「きっとアジトの倉庫部屋に置いているはずだわ」

「じゃあ、まずはそっちに向かおう」


 そうして一行はコロッセオから出て〈ブラッドスター〉のアジトに向かった。この辺りはまだ本格的な〈ザ・ラウンドテーブル〉の部隊は展開されていないのか、戦闘は小規模かつ散発的に行われていた。よくもまあ〈ザ・ラウンドテーブル〉に戦う気があるものだ、とキョウジは皮肉ではなく本気で感心していた。悪徳の都――だが言い換えればそれは自由の都という事である。それに愛着を持つ者、守りたい者が予想以上に多いのだった。〈ザ・ラウンドテーブル〉も鎮圧には手間取っているらしい。最終的には彼らが勝つだろうが。


 いずれにせよ、街のごろつき達も円卓の騎士達もその先頭に忙殺されていて、こちらの事など気にした様子もなく、あまり目立たずにアジトまで辿り着けた。そして愛用の短剣も、ついでに銃も回収出来た。武器に愛着は持っていないつもりだったのだが、鞘をベルトに差し込むとなんとなく安心する。手に馴染む、というやつだ。


「これで後は街を出るだけね。でもクルマは無事かしら」

「そうだな。しかし結局何しにここに来たんだか……」


 情報集めのつもりなのだったが、こんな無様な結果に終わるとは。


「あたしはべつにいいよ。気長にいこうよ」

「お前に慰められるとは、俺も焼きが回ったな」


 みらんはずっと陰鬱な顔をしている。責任を感じているのだろう。気にする必要は無いのに、と思うのだが慰める言葉もあまり思い付かない。それでもキョウジは言った。


「先の事を考えよう。この街を出ればきみは自由だ。自由に人生を選べるんだ」

「自由……自由って何かしら」

「自分の責任を自分で背負う事だ。それが普通なんだよ」

「私はずっと忌み嫌われてきたわ。そんな私が穏やかに暮らせる居場所なんかあるのかしら」

「世界は広い。きっとどこかにあるだろう」


 そこまで話して、ようやくみらんは弱々しいが魅力的な微笑を浮かべた。


「そうね。貴方がそう言うなら、信じる事にする」

「……本格的にたらしこんじゃってるのねぇ」

「無駄話はここまでにしよう。脱出するぞ」


 しかし。


 アジトの扉を開けると、〈ザ・ラウンドテーブル〉の分隊が整然と並んで銃を構えていた。そして指揮官もいた。いつか会った〈ラウンドテーブル・コマンダーズの〉一人――


「あの女が〈セイレーン〉だ。撃て!」


 彼――デイヴィスの命令に従って、みらんに発砲し、彼女の足、脇腹、そして胸に銃弾が撃ち込まれたのだった。

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