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ミユの行方





 カレンは独りが不安になるタイプではない。仲間は多いに越した事はないが、単独でも行動できるし、今回の任務にも気後れすることは無かった。なによりあのミユちゃんが――彼女はすっかり少女の事が好きになっていたのだ――ピンチであるのなら何としてでも助け出さねばならない。


 一方で彼女は大胆になるべき時と慎重になるべき時を弁えて居る。今回は慎重になるべきだった。ミユだけではなく、他の多数も洗脳(だろう、多分)されているのだ。迂闊に近付ける状況ではない。敵、と断ずる訳では無いが、そうなる可能性は十分ある。そしてそうなれば、只の人間であるカレンには敵う筈が無い。


「参ったわね……もう少し糸口が見付けられればいいんだけど」


 ゾンビのように表情の無い顔で、ライブハウスからぞろぞろと出て来る群衆。目立って仕方無い筈なのだが、周りの人はそれにあまり興味も持っておらず、注視している事も無い。となると、これはここではいつもの光景なのだろうか?


 群衆は男が8割、女が2割である。ライブを聴いていた全員が操られている訳では無かった。100人程である。その中に混じっている子供は異様な筈なのだが、生気を失った彼らはそれを気にしてもいない。


 これだけの人間を操って、一体どうするつもりなのだろう。兵隊を集めているのか、或いは――こちらの方が可能性は高いが、奴隷を集めているのか。個人的に奴隷を沢山欲していはいないだろう。つまり奴隷だとすれば、それは売る為のものだろう。


「許せないわね」


 カレンはこの世の中の暴虐でも、特に奴隷化が嫌いだった。殺しよりも悪い。人の尊厳を踏みにじるその行為は非道そのものだった。特に女の奴隷は……


「でもあの女がボスなのかしら……」


 どうもそうではない様だ。きっと彼女はその能力を買われて利用されているに過ぎない。


 そんな事を考えながら、なるべく目立たない様に群衆を尾行していく。ミユはあの中に完全に混じってしまい、身体も小さいのでまるっきり見えなくなっている。見失わないようにしなければならない。だがあからさまに付いて行ったら妨害が発生するかもしれない。幸いなのは短機関銃を持っていても、ここではさほど目立たない事だった。そうやって付かず離れず追いながら、どこに向かっているのかを探っていた。


 だが問題がある。最大の問題である。


 追い掛けて行ったとして――その洗脳をどう解けばいい? 一番考えられるのはあの女を捕まえて解除させる。そこはキョウジに期待するしかない。今出来るのはミユを捕捉し続けることである。


 そうやって尾行していったら、いつの間にか人通りのない、暗い裏路地に入っていた。その中でゾンビのような者達がぞろぞろゆっくりと進んでいくのは、異様ではあるが、もしかしたらそれらしいと言えるのかもしれない。


 ここではっきりとした、自立した意志を保っているのはカレンだけだった。それが不気味ではあったが、ある意味では助かってもいる。戦闘にはならない事がだ。そしてそのまま大きなビルに入っていく。だがここで少しの異変、カレンにとっては有利になる異変が起こった。その群れの中で、ミユが一人だけ別の方向に歩き始めたのだ。他の全員が入っていったビルとは向かい側の建物にである。


 チャンスと言えばチャンスである。だがどうしてこうなっているのだろう? もし奴隷商売をやっているマフィア組織のようなものがあったとして、ミユを特別に扱う理由は何だ? その先には危険があるのは明らかだった。


「ミユちゃん!」


 一応声を掛けてみたが彼女は全く反応しない。無理矢理拘束するのも難しい。か弱い少女の様に見えて、ミユは強力なデモンである。もし暴れられたらカレンでは止める事は出来ないだろう。


 だから、危険だが――カレンはそれをひっそり追い掛け、潜入捜査をして機会を見付けようと考えたのである。



          ◇



「そんな歌も歌うんだな」

「メタルはボスの趣味よ。まあ嫌いじゃないけどね」


 そもそもどんな歌でも歌えるのなら好きになるのがみらんだった。そして感心したようなキョウジの顔を見て彼女は得意気になった。


「洗脳する気はないのか?」

「貴方には元々効かなそうですからね」

「いや、そうでもない。俺は聞き惚れた。ある意味これも歌の力だろう」


 彼は拘束を外してくれるなら拍手してやるんだがな、と言った。ライブハウスでは不愛想につまらなそうにしていたが、完全に音楽を理解しない無頼漢という訳ではなさそうだった。その事がみらんは嬉しかった。歌を褒められる以上の喜びはないからだ。


「もう一曲聴く?」

「さっきみたいに静かな歌の方がいいな」


 キョウジも乗り気である様だった。なんだか彼一人の為だけにライブを行っている感じがある。こんな事はボスにもしない。というよりタカヒロは自分の歌を、利用するものとしか考えていない。そこが彼を好きになれない一因だった。


 みらんはしっとりとしたジャズ・ナンバーを歌った。本当なら伴奏があった方がいいが、自分の声だけでもしっかりと聴けるものになっている筈だ。キョウジはぼうっとした顔をしている。聞き惚れているというのは本当の様である。洗脳音波は出していないが(自律的にコントロール出来るまでは長い時間の修行を必要とした)、確かにそういった能力が無くとも音楽は、歌は人の心を大きく揺さぶる力がある。彼女はそう信じていた。


「いいな。ますますきみがこんな所にいるのが勿体無く感じる」

「でも私も生きて行かなきゃいけないの」

「別にマフィアに雇われなくとも歌だけで金を稼げそうだがな」

「あら、それは褒めているの?」

「勿論だ」


 取り敢えず大人しくしているのは分かったので、それをタカヒロに伝えに行くべきだと思った――だが彼は向こうからやって来た。


「ボス、いらしたんですか」

「落ち着いてそうだったからな。安全が確認できれば、今度はキョウジ・ザ・シルバーには俺から話をする」

「俺をどうするつもりだ?」


 やや眉をひそめているが、キョウジの顔はまだ落ち着いたものである。しかし彼に何を求めるつもりなのだろう。部下にはならないだろう。簡単にコントロール出来るような男ではない。自分の手の内に置いておくには危険過ぎる。


「俺達は色んな商売をしているものでね」

「ふぅん。大方彼女に洗脳させてそいつらを奴隷として売り飛ばすとかだろう」

「そういう事もしているが、お前にも奴隷になって貰う」

「俺をか?」

「そう、じつに古典的な奴隷――剣奴だ」


 つまり剣闘士というものである。


「ウチはウメダ西に闘技場(コロッセオ)を運営している。毎日大盛況だよ。血に飢えている奴が多いんだろうな。自分では手を汚さずに血を見るのは中々の娯楽という訳だ」

「俺にそこで戦えって言うのか」

「色んなデモンを掻き集めて戦わせているんだがね。最近少し問題が発生しているんだよ。強過ぎる奴が現れて、そいつには誰も敵わない。そのせいで場が白けているんだ。ここいらでテコ入れが必要だ。〈シルバー〉の二つ名を持つ戦士、キョウジとそいつとのカードは大盛り上がり請け合いだ」


 キョウジは鼻で笑った。


「俺がそんなのに素直に従うとでも思っているのか?」

「勿論、そう言うと思っていたよ。だがこちらにはカードがある。お前を従わせるカードがな」


 キョウジはそれを聞いた事であからさまに怒りの表情を見せた――だが爆発しないように必死に歯を食いしばっている。どうやって従わせるのか、それが分かったのだろう。みらんも分かった。それ故に彼女はここから消え入りたくなるほどに恥じ入った。


 そして予想通り、彼の愛する少女ミユが連れられて来た。虚ろな目をしている――自分がそう操ったのだから当然だが。


「やっぱりそういう事か」キョウジは憎々し気に言った。「クソ野郎め」

「何とでも言うがいい。この世界は勝ったものが正義――どのような手段を使ってもな」


 みらんは、自分もキョウジに罵られている様な気がした。

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