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エコーズ・オブ・バトル(2)





〈ザ・サン〉から〈オウガ〉の正体――レギオン・タイプ――を聞いた時、シロウはすぐさま戻って本格的な部隊を編成して掃討に当たるべきだと思った。だがすでにキョウジ達が向かっている事も聞いて、そうも言っていられなくなった。


「なんでよ? 〈シルバー〉なんか関係ないじゃん。私らは私らのやるべきことを考えようよ」

「そうも行かない。彼には恩義があるからね」


 カナコは呆れたように肩を竦め、「シロウはヘンに義理深いんだから」と言った。


「最優先任務は調査よ。それがはっきりした今、本部に報告するのがスジじゃない」

「だがぼくたちにはある程度自由裁量権がある」


 シロウはあくまでキョウジを助けるつもりだった。義理深いというよりは甘いのかもしれなかった。だが何と言われようと、一度見知った人を見捨てる事は――よっぽどの悪人ではない限りは――出来ない性質なのが彼なのである。そしてキョウジ・ザ・シルバーは助けるに値する男である。


「それにヒナタさんの任務の事もあるしね」

「どういうこと?」


 今度はシロウが肩を竦める番だった。


「ヒナタさんは彼が連れている少女――ミユちゃんて言ったっけ? それを監視するのが任務なんだろう? ならここで殺させる訳には行かない」

「まあ、そういう事になるわね」


 ヒナタはそう答えた。


 体勢不利と判断したのか、カナコは深くため息を吐いた。


「カナコは乗り気じゃないの? なんか意外だな」

「だーかーら、私は戦闘狂じゃないっての。生存確率の高い作戦の方が良いに決まってるじゃない。私は100歳まで生きるって決めてるんだから」

「だったら何で〈ザ・ラウンドテーブル〉に参加したんだい?」

「あうう、それは」


 あんまり深く考えない、能天気なのが彼女なのだった。それは決して悪い事ではない。いつでも明るくあるのは、生きる為には最も大事な能力の一つだからだ。シロウは彼女のそう言った所に敬意を抱いている。


「ぼく達は正義を行使する。それは常に変わらない。彼らを助けるのもその一つだ」

「出たよ、生真面目シロウちゃん。そこまで真剣に組織の建前を真に受けてんの、シロウ君くらいだよ?」

「建前だからこそ真剣に守らなくちゃいけないのさ」


 信念と言う程のものではない。単なる生きる指針だ。だがそれ故に、真摯に守らなければならないものであると思っていた。



         ◇



 と言ったやり取りがあって、シロウ達はキョウジ達の後を追う様にして、遅れた形で「学校」に着いていた。門が開いていたので、彼らはトラックでそのまま運動場に乗り込む。


「ここで子供たちが平和にお勉強していた時代もあったんだねぇ」

「それを取り戻すのがぼく達の使命だ」


 日は完全に傾いていて、空はオレンジと藍色のグラデーションを描いている。夜になるとまずい事になる。それまでに仕事を完遂しなければならない。つまり、素早くだ。


「確認しとくよ。最優先目標は敵の打倒? それとも救助後の退却?」

「撤退が基本線だ。だが状況には柔軟に対応しなきゃならない」


 今の所シロウ達に〈オウガ〉が襲って来る気配がない。


「ヒナタ姐さんの話によれば、あいつらは何体にも分かれて襲う事が出来るんでしょ? でもなんでやってこないの?」

「まだ気付いてないって事だろうね」


 つまり、それだけ〈オウガ〉がキョウジ達に集中しているという事だった。それは有難いが、同時に彼らが危機の内にある証明でもある。事態は一刻を争う。


「まずはキョウジ氏達がどこにいるか探さなきゃならない。この広い建物で探すのは難しい事だけど……」

「どうする、手分けして探す?」

「分かれるのはあまりいい手じゃないな。特にきみのスタイルだと屋内じゃあ不利だろう」

「貴方の大剣だってそうじゃない」


 だがくまなく探す必要は無かった。騒音が一つの建物――体育館から聴こえて来たのである。


「分かり易いな。あそこが戦場か」


 ある者には怯懦をもたらし、ある者には高揚をもたらすもの――戦場の反響音エコーズ・オブ・バトル


「ふぅん……」


 どうやらカナコは後者のようだった。舌なめずりして何かを企んでいる。シロウは、彼女が好戦的であることを逐一否定するのは、実はそういう自覚があるからではないかと思うのだった。


「よっしゃ。いっちょ派手にやったるか!」


 そう言って彼女が取り出したのは――大型の個人携帯用ロケットランチャーだった。それを体育館の壁に照準を合わせ――


「どっかーん!」


 それは見事に着弾し、外壁を破壊したのだった。



         ◇



 キョウジが茫然とその状況を見ていた時、外ではそういう事が起こっていたのである。


 キョウジは呆気に取られていたが、それは意志薄弱に見える〈オウガ〉の群れもだった。そこにいる誰もが全く訳の分からない状態に動きを止めていた。まずい事に、その情動の停止から復活したのは〈オウガ〉達の方が先だった。少し遅れてキョウジも動き出す。だが頭の中にあるクエスチョンマークは消えてくれない。


 その疑問はすぐに解消された。乱暴に開けられたその穴からあの〈ラウンドテーブル・コマンダーズ〉の二人、〈ザ・ソーズマン〉シロウと〈ジ・アーセナル〉カナコが乗り込んできたのである。爆発をもたらしたのはアーセナルの方だろう。


 彼らも乗り込んで来ていた事はキョウジにとっては意外だった――しかし彼らの存在意義を考えれば、このネヤガワの事件を察知して、対応に出動するのもおかしくはなかったのである。


 シロウはいつもの様に白光りのする両刃の大剣を装備していて、カナコは銃剣付きの突撃小銃(アサルトライフル)を構えていた。そのカナコがいきなり銃を乱射する。いや、乱射の様に見えてその射撃はとても精確であり、次々と〈オウガ〉達を仕留めていく。


「そらそらそらそらァッ! 救世主様のお通りだッ!」

「だから弾は浪費したら駄目だってあれほど」

「やらなきゃやられるのがこの世の掟! ならばタマの100発1000発10000発なんのその!」

「ヒナタさんにまた赤字だって怒られるよ」

「商売でやってる訳じゃないってーの!」


 やたらと喚く――と同時に銃弾をばら撒く――カナコの裏で、シロウも的確に、こちらは慎重に向かって来る〈オウガ〉を倒していった。


「やはりここにいたか、キョウジ君」


 何か言うべきだったかもしれない――だがキョウジはそれより戦闘を重視した。彼には軽く頷くだけで返し、自分も戦闘の渦に入っていく。


 この時点で〈オウガ〉の目論見は破綻していたのかもしれない。3人の手練れが集まればただ3馬力というだけでなく、それ以上の力を発揮する。個体では弱体化している〈オウガ〉達は次々と屠られていった。


 キョウジとシロウが背中を合わせる。


「またきみと共闘できるとはね! 結構嬉しいよ」

「俺はどうとも思わん。だが感謝はする」


 そうやって〈オウガ〉の群体は潰されていく――様に見えてそうではなかった。倒した先から新たなる個体が湧いて出て来るのだ。その様子を見ながら、シロウはキョウジにレギオン・タイプの説明をする。


「本体を叩けって言っても、どれが本体なんだ? どこにいる?」

「それが分かれば苦労はしない」


 ひとつ分かっている事がある。それはその本体がここにはいないという事だ。奴は別の所にいて、この不毛な戦いを高みの見物としゃれこんでいる。そう思った。


「じゃあどうする?」

「ぼく達はきみらを迎えに来たんだ。敵がそういう性質(せいしつ)ならこちらも数で対応すべきだ。だから一旦撤退すべきというのがこちらの提案だ」

「それが正論だな。だがそれは出来ない」


 キョウジは言った。


「ミユとはぐれてしまった。彼女を見捨てて逃げる訳にはいかない」

「そう言えばあのお嬢さんはいないね」

「最初から〈オウガ〉は俺とミユを分断するつもりだったらしい。全く不徳の致すところだ……」


 キョウジは苦虫を噛み潰すように続けた。シロウは剣を振り続けながらも冷静に返す。


「なるほど。じゃあまずはここを突破してそれから彼女を探そう」


 しかし口で言う程簡単な状況ではない事も確かだ。やられる危険性は格段に減ったが、ここに拘束され続けているのは変わらない。むしろ数は増え続けている。それに反比例して個々はさらに弱くなっているが、突破口を見つけるのがますます難しくなっている。


「ああもう! わらわらわらわらとッ! ゴキブリかお前らはッ!」


 カナコは弾倉(マガジン)を替えながら喚いてた。大破壊を生き延びて、今もなお?栄している、あるいは地上最強の生物かもしれない虫に喩えている。たしかにそうかもしれない。潰しても潰しても生まれてくる感じが……


「……敵はこちらを殺す意図はないのかもしれない」

「どういうことだい?」

「殺意を感じない。まるで俺達を拘束し続けるのが目的のように思える。そう、時間稼ぎのような――」


 そしてほぼ同時刻に、キョウジの推測が正しい事が、この「学校」の別の所で起こっていたのである。

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