表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
56/150

エコーズ・オブ・バトル(1)





 敵が複数となれば機関銃を借りて来たのは正解だった。さすがにこの量を短剣と拳銃では捌き切れない。とは言え弾数にも限りがある。〈ザ・ラウンドテーブル〉ほどの組織ならば幾らでも調達出来るのだろうが、生憎キョウジは個人である。よって銃撃は最低限にしなければならない。


 問題は倒しても倒してもわらわらと敵が湧いてくる事だった。ここまで来るとキョウジにも分かって来る。〈オウガ〉はただ複数体いるだけでは無い。


「こいつら、分裂するのか……?」


 そんなデモンなど聞いたことも無いが、現状を考えるとそう結論付けざるを得ない。


 どうすれば退治出来るのか……


 そんな事を考える暇も無く敵は次々と襲い掛かって来る。キョウジは未だ無傷だったが、相手の数も減らない。〈加速時間〉の使用はなるべく抑えている。弾もケチっている。ジリ貧であることは分かっているが、敵がどこまで増えるか分からない以上、全力を出せばすぐにガス欠になってしまう。


 一気に3体の〈オウガ〉が飛び掛かって来る。ケチってはいるが、出し惜しみし過ぎてもやられるのでここは能力を発動させる。


「この俺が簡単にやられると思うなッ!」


 左手に短機関銃、右手に短剣を構えて迎撃する。射撃は出鱈目だったが的が大きいので外す事は無い。その1体は霧散する。同時に真ん中の〈オウガ〉を蹴り倒し、しかし視線は右に行っていて、短剣でそいつに刺突する。そして最後に蹴り倒した奴の頭を踏み潰す。


 一旦敵はいなくなった。だがすぐに湧いて来る気配がある。その前に移動する必要があった。1ヶ所に留まっていると囲まれてしまう。複数の敵を相手にする時はなるべく有利な場所を手に入れる必要があった。


 だが問題はそうすることによって、ミユとの距離が離れて行ってしまっている事である。敵の正体が分からない以上、そして数で圧倒される以上、ここは一度撤退し、策を練って再突撃すべきだと思っている。だがミユを見捨てて逃げることなど出来る訳がない。彼女も簡単にはやられないだろうが、確実に生き残れるとも限らない。ミユの問題は戦闘能力よりもその精神面にある。彼女が本気を出せばキョウジを凌駕するほどの力を発揮するが、戦闘向きの性格からは程遠い。気弱で臆病なミユ――


「くそっ」


 本来ならば自分が守らなければならない。


 こうなるのなら、縛り付けてでも置いて来るべきだったとキョウジは悔恨していた。ミユは戦わせるべき少女ではないのだ。しかし判断を誤ったことをいつまでも引き摺っている訳にはいかない。どうにかして再合流する術を考えなければならない。


 だが〈オウガ〉はまた黒い霧ともに出現し、キョウジを追い込んでいく。自分の道を選べていない感じがあった。奴らはすぐに仕留める気が無いらしい。どこかに誘導されている気配がある。かと言って、無理に前面を突破しようとするのも無謀である。今度は4体。ここは無理に全部と戦おうとはせず、機関銃で威嚇し、後退して狭い通路に陣取る。そして1体ずつ仕留めていくのだった。


 不思議な事が一つあった。〈オウガ〉の1体1体は前に交戦した時の奴よりも大して強くなかったのである。前はとても素早く、止めを刺すにもかなりの攻撃を加えなければならなかったが、今回の奴らはあっさりと一撃で屠れる。動きも緩慢である。だからこそここまで戦い続けていられるという事でもある。


 大量に分裂している分、1体の力は弱まっているのかもしれない。キョウジはそう推測した。多分間違いないだろう。


「虱潰しに全部やれっていうのか?」


 どちらがきついのか、それは判断に迷う所である。自分を凌ぐかもしれない強力なデモンと戦うのと、今の様に雑魚ではあるが数の飽和攻撃を受けるのと。分かっているのはどちらも危険だという事だ。


 こんどは廊下の前後に2体ずつ現れる。最早見飽きた〈オウガ〉の顔。ミユは哀しそうな目をしていた、なんて事を言っていたが、キョウジには全くそう見えない。傲慢そうでもないが、どこか落ち着いている様にも見える。分かっているのは奴らが死を怖れていないことだった。それは群体だからだろうか? もしかしたら、別の方法で退治する事が出来るのかもしれない――だがその方法が分からない。


 なんにせよ、今はこの挟撃をしのぐ事である。状況はいかにもまずい。キョウジは倒す事よりも切り抜ける事に重点を置いて戦う。


 前面から飛び掛かって来る2体の〈オウガ〉。その間に身体をすり抜けさせ、一気に走って距離を取り、機関銃をぶっ放す。もう無駄撃ちを怖れている段階ではない。全力で撃ち続けた。襲い掛かる〈オウガ〉4体をそれで全て片付ける。だがそこで一つの懸念が現実になった。機関銃が弾切れを起こしたのである。


 キョウジは舌打ちし、その無用の長物となった銃を捨てる。この状況では戦闘の邪魔になるだけだ。それはカレンからの借り物だったがキョウジは躊躇が無かった。戦闘が終わればまた回収に来ればいい。それまでにやられてしまっては何にもならない。


 誘導されている感じはまだあった。しかし敵に明確な殺意が感じられないのも不思議に思えた。やろうと思えばやれた機会はあったはずだ。だが敵の攻撃は、なんというか、(ぬる)い。キョウジは何か別の思惑があるのではと思わずにはいられなかった。


 しかし今は駆けるしかない。可能性は低いかもしれないが、ミユと合流出来る望みをまだ失ってはいなかった。だが――とも思う。それが〈オウガ〉の狙いではないのか。自分と少女を出来るだけ引き離す……


「各個撃破のつもりか!」


 ミユの事を考えると力が出て来るような気がする。いや、気がするのではない。事実だ。彼女は特にやることも無くぶらぶらしていたキョウジに初めて生の意味、生の目的を与えてくれたのだ。彼女を残して死ぬ訳にはいかない。


「さあ、掛かってこい! 全部ぶっ潰してやる!」


 気合と根性だけで全てが解決すると思う程キョウジは子供ではない。だがそれを欠いては勝利は手に入れられないのも知っている。漲る心と身体。滾る魂。そして頭は冷やして。冷酷かつ情熱的に戦わねばならなかった。この様な強敵相手ではなおさらだ。


 キョウジは襲い掛かる〈オウガ〉の群れを短剣だけで捌いていた。彼自身は気付いていなかったが、その動きはどんどん洗練されていっていた。限界以上の力が出ていたのかもしれない。それでも〈オウガ〉の群体は尽きる事が無い。


「まさか無限って事は無いだろう。お前らもいずれ弾切れを起こすはずだ!」


 疲労はあまり感じていなかった。高揚がそれを後ろに追いやっていたのだった。どこまでも戦えるような気がした――だがそれは麻酔を受けているようなものである。キョウジはそれを分かっていた。結局の所、これはどちらかが根負けするまでも持久戦なのかもしれなかった。


 そして後退しているような、前進しているような、あるいはただ迷っているような運動戦を繰り広げている内にキョウジは一つの施設に導かれていた。あからさまな罠だと思った。だが後ろからも群れはやって来る。そこに飛び込むしかない。


 そこには「体育館」という表札がガラス張りの玄関の上に掲げられていた。


「校舎」の狭苦しい廊下から打って変わって、体育館はだだっ広いホールのようだった。さくらんぼ孤児院にも小さな運動室はあったが、それを2回りも3回りも規模を大きくしたようなものだ。床にはよく分からない白い線が書かれていて、両側の壁にはいろいろな運動器具と思しきものが並んでいる。そして正面には演説でもするようなおおきな壇が一段上がるようにある。それを囲むようにして、上部には鉄柵が並んで狭い開放通路になっているような所があった。


 そしてすぐに、キョウジは自分が完全な罠に掛かったことを思い知ることになる。


 体育館のあちこちから〈オウガ〉の影が生まれてくる。キョウジは最初何体でてくるか数えようとした――だが20体を越えたところでそれはもう諦めた。呆れるほど沢山で、表情に色は無く、まるで亡霊のようである。1体1体は意志薄弱のような感じがした。それだけ肉体的にも精神的にも脆弱になって――それでも数は力である。


「正に飽和攻撃だな」


 キョウジには滅多にないことだが、一瞬諦めが頭をよぎった。数で潰されればどうにもならない。だがやれるところまでやってみるしかない。もしかしたら向こうも限界近いところでの奇策かもしれないのだ。


「よぅし……俺の限界がどこにあるのか、試してやろうじゃないか」


 それは一種の開き直りだった。やけっぱちでないだけマシである。


「このキョウジ・ザ・シルバーの命、()れるものなら()ってみるがいい!」


 しかし、そうやってキョウジが見得を切ったその時なのだった。


 轟音と共に爆発が起こり、体育館の横壁に大きな穴が開いたのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ