〈ザ・ラウンドテーブル〉始動
タカツキ支部での〈ザ・ラウンドテーブル〉の情報部はいつでもとても忙しい。オオサカ地方のデモン被害を把握するのに毎日毎夜稼働している。情報伝達速度も遅くなったこの時代、それはとても難しい仕事であった。被害が起こってから報告されるまで1ヶ月掛かるのもざらである。そういう訳でデモン被害を未然に防ぐ、あるいは最小限に抑えるのは難しい現状がある。そして被害は最近さらに増え続けている。
〈ザ・ソーズマン〉シロウと〈ジ・アーセナル〉カナコはセンリからタカツキに召喚された。〈カーディナル〉はキョウト本部に戻らず、まだそこに滞在している。ということは新しい指令が下るという事だった。
「ウメダ制圧が喫緊の課題だったのに、どうして戻されるのかな」
「そりゃあ、また別の所でデモンが暴れ出したんでしょ。それ以外の理由がある?」
カナコは異様に暢気だった。元々楽天家の彼女だが、今日はいつにも増して上機嫌である。その理由は分からない。
「手遅れになってなきゃいいけど」
「そのための私達でしょ。気合入れよう! 気合入れよう!」
そんな事を言いながらカナコはリズム体操のように腕を屈めて拳を握り、それを前後させる。上機嫌なだけでなく漲ってすらいる。彼女は〈ザ・ラウンドテーブル〉のムードメーカーで平隊員にも人気がある。それは生来の明るさもあるが、この任務に対しての積極性のおかげでもあった。
しかし、〈ラウンドテーブル・コマンダーズ〉が二人召喚されるのはあまり無い事である。難しい任務が待っているのは間違いない。シロウは気を引き締めていた。
すれ違う隊員たちに会釈しながら――その中には明らかにカナコに対して恋慕の目線を送っている者もいた――やがてロバートの執務室に到着する。シロウは〈カーディナル〉に謁見する時はいつでも緊張する。それは彼の戦士としての実績、そして今強力な組織をまとめ上げていることへの畏敬の念による。一方、カナコはいつでもお気楽である。今回彼女とペアなのは有難い事だとシロウは思っていた。
「ソーズマン、アーセナル、着任しました」
ロバートと会う時、最初に目に入るのは彼自身ではなく、従者のレイコである。ベリーショートと眼鏡の彼女は「機械」と評される程に冷たい印象を与える。だがロバートに対してはどこまでも忠実である。彼女には〈カーディナル〉に対して異性としての意識はあるんだろうか、なんて事を考えてしまう。だがもしそれが真実だったとしても、表に出て来ることは決してないだろうと、氷の女を見て思う。
「ご苦労様。早速だが本題に入ろう」
情報部がつかんだのは、ネヤガワの街における異変だった。そこで人が喰われる怪死事件が頻発しているという。敵は住民に〈オウガ〉と呼ばれているらしい。
「人を喰うデモン? 聞いたことないですね」
話によればその事件が起こり出したのは2ヶ月前かららしい。
「何で今までそんなたいへんな事がほっぽらかしだったんですか?」
訊いたのはカナコである。ロバートはやや不機嫌そうに髭を弄りながら答えた。
「我々の任務はどうしても賊の集団を制圧することが優先される。だが件の事案は1体によるものらしい。住民も怖れていて訊き出すのに苦労した。だが由々しき自体だ。これより脅威レベルを〈3〉に上げる」
「もっと高くてもいいんじゃないですか?」
「それはこれからの調査次第だ」
ウメダ制圧への本格的準備があるから、人数をそこまで割けないとロバートは言った。つまり今回は討伐ではなく調査――コマンダーのみでの潜入調査である。難しい事になったな、とシロウは思った。これまでにない事件である。カナコと二人だけで解決出来るものなのだろうか? いや、彼女の能力は信頼しているが……
「状況次第では隊員を派遣する。だが敵が1体なら集団戦闘よりも、選りすぐりの諸君らのみでやったほうが好都合だろう」
そういう事なのだった。
任務を拝領した後、準備を始める。カナコに支給されているミニトラックが支部の駐車場に停まっていた。シロウがやる事はほとんど無い。いっぽうカナコはいつでも十分に準備をする。トラックの荷台に様々な銃火器を乗せていく。ハンドガトリング砲やロケットランチャーまであった。正に彼女のトラックは〈武器庫〉だ。しかし〈ザ・ラウンドテーブル〉にしても弾薬、殊に対デモン弾は貴重である。それを所かまわずばらまくカナコに、シロウはしばしば閉口することもある。
「火力は全てを解決する!」
というのがカナコの信条だった。彼女がその浪費を大目に見られているのは――窘められる事も多々あるのだが――彼女がそれだけ結果を残している証明でもある。
シロウは自分のドラッグスターは置いて、彼女のトラックに乗せてもらうことにした。
「敵が1体なら楽勝ね。らくしょー」
「デモンは1体でも脅威だ。舐めてはいけないって散々教育されたろ?」
「それはそうだけど、今回はシロウ君もいるもんねー」
ちょっと不安になるほどの楽天振りだが、深刻になりすぎるよりはいいのかもしれない。シロウもそこまで深刻には考えていなかった。今回はあくまで調査、言い換えれば威力偵察のようなものだからだ。
話によればネヤガワはセッツの南東にある街らしい。これまでは賊が出没したとかいう報告は出ておらず、比較的平和な地域として〈ザ・ラウンドテーブル〉も認識していた。報告が遅れたのはそういった理由にもよる。
「もしかしたらあいつもそっちに行ってるかもね」
「あいつ?」
「あの、ほら。キョウジ・ザ・シルバー」
「ああ」
それはあり得る事である。彼らの旅の目的は結局訊く事はなかったが、各地を転々としてなんらかの情報を探っているのは間違い無い。
「だったらヒナタさんに会うかもしれないね」
〈ザ・サン〉がキョウジ一行の極秘調査を行っているのは〈ラウンドテーブル・コマンダーズ〉のみに知らされている事である。ヒナタもかなりの戦闘能力を持っているのは確かだが、彼女はこういった任務に就く事の方が多い。能力はさて置き、戦闘向きの性格どは思われていないからである。
「まあキョウジ氏が向こうにいる確証も無いからね。どうなるかは分からない」
「あいつが片付けてくれるんなら話は楽なんだけどなー」
「カナコは戦いたくないの?」
「別に私は戦闘狂じゃないんだから。デイヴィスと一緒にしないでくれる?」
彼女は笑いながらもご立腹だった。そういった表情はカナコ独特のものである。
「ところで道はこっちで合ってんの?」
「情報部の作成した地図に誤りがなければね」
当ての無い旅を続ける旅人(とはつまりキョウジ達のことだが)とは違い、彼らには組織のサポートがある。だからキョウジ達が1晩掛けてようやく見つけた橋も情報に入っていて、すぐに向かう事が出来る。
「それにしてもこの辺りは平穏だね」
「嵐の前の静けさって奴かしら」
暢気でお気楽な顔をしていたカナコも、調査地が近付くに連れて顔が引き締まって来る。ただの楽天家ではないのだ。彼女も間違いなく対デモン戦闘のプロである。
「――おっと」
行く手を阻む者がやって来た。カナコはクルマを停めて荷台に移動する。シロウは大剣を持って向かい始めた。
だが様子がおかしい。
「何だ?」
2メートルの手足が長い大男――それは情報通りである。だがそれは目の前に3体いたのだ。そしてその3体はすべて瓜二つだった。分身しているかのようである。そういう能力なのだろうか? だが何にせよ向こうからやって来るなら好都合ではある。ここでやっつければ仕事は終わり。任務が長く続くのはシロウの好みではなかったのである。
「油断しちゃダメよ」
「きみにそう言われたくはないな」
3体いるという事は迂闊には近付けない。〈ジ・アーセナル〉の援護が必要である。シロウはそれに期待してじりじりと近付いていく……




