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Coda:荒廃した終末世界を銀狼と少女は駆け抜ける  作者: 塩屋去来
第2章:ザ・ラウンドテーブル
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ファイト・ファイアー・ウィズ・ファイアー(2)





 強敵と相対すると高揚するのは何故なのだろうか。闘争心が燃え上がっているのだろうか。それとも生存本能がそうさせいるのだろうか。どちらにしても、キョウジは怯懦とは無縁の男だった。


「ひとつ訊きたい。これは俺を陥れた罠なのか? それともお前の独断か?」


 キョウジの質問をデイヴィスは一笑に付した。


「そんな事、てめぇに教える義理はねぇな」


 一連の攻防を過ぎ、お互いに慎重になっていた。迂闊に入り込めない相手であることをお互いがハッキリと認識したからだった。焦れる時間が続く。交戦開始からそんなに時間は経っていない筈だった。だがその中にどれだけの攻防があったのだろうか。長いような、短いような、そんな奇妙な感覚がする。


 キョウジがいまいち踏み込めないのは、積極的に狩ろうとしている相手では無かったからだ。心が防御に傾いていた。だがそんな事を言ってもいられない。なんとかしてこの状況を打開しない限り、自分に未来はない。


〈加速時間〉の許容範囲はまだ最大限ではない。そしてそれを使って確実に捉えられるかも分からない。


 だが――誰かが言っていた気がする。賭けを厭う奴に勝利の女神は微笑まないと。


 キョウジ自身は知らなかったが、彼が〈加速時間〉を使う時、その銀の瞳が煌めく。彼はその光を瞬かせた。一気に踏み込む。背を屈め、まさに狼のようにデイヴィスに襲い掛かった。しかしまだ全開ではない。一瞬の隙を突くだけで良かった。短剣は一度鞘に仕舞ってある。今相棒にしているのは、ただ速度。


 彼の狙いは、デイヴィスが作る独特の間合いを支えている、ポールアクスを手放させる事だった。キョウジはそれがただの得物ではない事を分かっていた。デイヴィスはその、斧を使う戦い方をしっかりと観察していた。だからこそ迂闊には仕掛けられなかったのだが、キョウジは焦れた時間が続く事を倦む男でもあった。


 キョウジが狙ったのはデイヴィスの腰、そこを突いて一気に押し倒す。レスリングでいう所のタックル。キョウジはなお、相手は殺さずに制圧する事を考えていた。よって頼りになるのは自分の体技だけである。


 そのタックルは見事に入った。なのだが。


「甘ェ……なァッ!」


 だがデイヴィスは想像以上の反応を見せる。あれだけ大事にしていた筈のポールアクスをあっさりと手放し、押し倒される間でも――キョウジは超スピードで動いていた筈なのだが――冷静に相手を見据え、その長い腕を伸ばし、右手の人差し指と中指を立たせ、キョウジの左目を抉ったのである。それは実際には一瞬の攻防だった。だが異様なほどに長く感じられる。


 デモンの肉体はデモン同士の肉体接触、もしくは隕石から採取された隕鉄でしかダメージを与えられない。それ以外の損傷はすぐに修復されてしまう。だからキョウジが目を突かれたと言っても、それはただ一瞬のことだけだった。だがその一瞬こそがデイヴィスの欲したものだった。


 そんな事は気にせず、ただそのまま押し倒して殴打すれば良かったのかもしれない。だが視界の一時的喪失は、キョウジに精神的な動揺を与えた。ここまでやるとは、と思っていた。そしてその衝撃は彼の〈加速時間〉を強制解除していたのである。


 デイヴィスのにやりとする笑みが見えた。それはデモンよりも悪魔的だった。


 視力の回復はまだ追い付いていない。デイヴィスはその時間を十二分に使えるほどの判断力を持っていた。キョウジが押し倒す力を失っている事を把握していて。逆に彼の喉元をつかみ、投げ飛ばす。キョウジの身体は大きく吹き飛び、ガタの来ていた木製の壁を破壊して再び屋外に強制的に出したのである。


 キョウジはなるべく素早く起き上がるように踏ん張った。ようやく目が治って来ると、心配していたようなデイヴィスの追撃は無かった。ポールアクスを放させていたのが助けになったのだ。結局の所、武器が無いとデモンであるキョウジは仕留められないのだ。


 やがて武器を回収した〈ザ・ヘリオン〉がゆらりと開いた穴から出て来る。一進一退の攻防――いや、こちらがやや不利を蒙っているか。キョウジは苦々しくもそれを認めた。〈ラウンドテーブル・コマンダーズ〉の実力は予想以上のものだった。全く隙を与えてくれない。もしかしたらあるのかもしれない。見落としているだけか。こちらに落ち度があるのではないか。所詮は人間だと侮っていたのではないか。


 考え方を変えなければならない――


「簡単にはやらせてくれそうにねぇな。シルバーさんよ」


 キョウジは答えなかった。再び集中を取り戻す必要がある。これまで以上の集中力が必要だった。そして彼はここに至り、自分に課していた枷を外すことになる。


 殺す。


 やらなければ、やられる。


 後の事など考えていられる余裕がなかった。彼を殺して、それからは、まあどうにかなるだろう。どうにかしなければならない。


 ただ、迂闊に飛び込める相手ではない事はハッキリと分かった。とすれば。


 キョウジは短剣を抜いた。一撃で仕留める。喉元か、心臓か、どちらかの必殺を狙う。そして相手が向かって来るのを待つ。ただ待つ。仕留めたがっているのは向こうも同じ筈だ。


 勝負は一瞬で決まる。決めなければならない。その覚悟でキョウジは迎撃態勢を構える。機会を見失ってはいけない。ちょっとでも能力を発動させるタイミングを誤れば、取られるのはこちらだ。その覚悟で、決める。


 確実に、見据える――


 デイヴィスが驚異的な速度で踏み込み、そのままポールアクスを振り上げ、下ろす。ここだ、とキョウジは悟った。早くても遅くてもいけない、唯一つの隙間。身体が戦闘に馴染んでくる。そして能力が発動する。斧の先が髪に触れるのが分かった。だが叩き潰されることはなかった。自分が加速し、世界が緩慢になっていく中で、キョウジは短剣を突き出し、鋭利にデイヴィスの喉元を捉える――筈だった。


 デイヴィスは身体を捻ってそれを回避する。こちらの動きが見えている筈は無い。とすれば、彼はそこまで読んで突撃してきたのだ。だがまだある。捉えられる隙はまだある。だが〈加速時間〉のリミットも近付いて来ている。ここをしくじればどうなるか? 〈加速時間〉の連続使用は反動を与えることをキョウジ自身も良く知っている。まさに紙一重の攻防なのだ。捉えられれば間違いなく殺せる。ミスは許されない。限界にまで研ぎ澄ませ――何よりも、自分が生き残る為に!


 紙一重の攻防は、一瞬の攻防でもあった。その瞬間に天国と地獄が決まってしまう。それはデイヴィスも分かっているのだろう。彼もまた限界にまで感覚を研ぎ澄ましている。空気にすら弾力を感じてしまう、そんな瞬間。一瞬。間隙。


 敢えてキョウジは隙を見せた。対応出来ない振りをした。デイヴィスがポールアクスを短く持ち、横薙ぎにする。だがキョウジのスピードがそれに勝った。相手の顔を見ている余裕は無い。ただ単純に、仕留める、殺す。それだけ――


 だがまさに勝負が着きかけた時、それに水を差すものが天から降ってきた。水を差す、と表現するにはかなり物騒なものだったかもしれない――それは一本の剣。逞しさすら感じさせる大剣だった。


 それは丁度キョウジとデイヴィスの間に刺さった。そして剣の持ち主が続いて降りてくる。彼――シロウはそのまま二人の間に割り込んだのである。


「ここまでだよ。お互い無益な戦いは止めるんだ」


 シロウは裁判所の判事のような態度で二人にそう言ったのだった。

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