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Coda:荒廃した終末世界を銀狼と少女は駆け抜ける  作者: 塩屋去来
第2章:ザ・ラウンドテーブル
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ファイト・ファイアー・ウィズ・ファイアー(1)





 制圧は完了した。敵は皆殺しである。可哀想なことではあるが、一度(ひとたび)デモンと化してしまった者は二度と元には戻れない。ある意味で彼らはこの破壊と滅亡の世界における被害者でもある。よって彼らは慈悲を持って滅するべし――それが〈ザ・ラウンドテーブル〉の教義だった。


「見事な援護だった、〈ジ・アーセナル〉」

「いつも思うんだけど、そのコードネームって必要ある?」


 挟撃部隊を指揮した女性――〈ジ・アーセナル〉は肩を竦めた。防護服の上からでも分かる巨乳が揺れた。今更そんな事で心は乱されないシロウではあるが、男の本能として嬉しい事に間違いはない。


「じゃあ、普通に名前で呼ぼうか。カナコさん」

「『さん』はいらないってぇ」


 妙にくねくねるする彼女――カナコ(蓮見可南子(はすみかなこ))なのだった。


「あとは残党狩りね」

「そんなに数は残っていないだろうね――君が弾をふんだんに使ったから」


 シロウの声には少し窘める色があった。だがカナコは気にする風でもなく、珍しい赤髪の巻き毛を指でくるくると弄っている。これは彼女の癖だった。


「シロウまで、そこ責めるの? いいじゃんいいじゃん。タマは使ってナンボよ。ケチって死んだらただのアホじゃない」

「それは認めなくもないけど……」


 彼女は胸を張って、また巨乳が強調される。以前カナコは自分の大きな乳房を自分では気に入っていない、という話をしていたが、本当にそうなのだろうか。少なくともシロウには挑発的に見える。


 カナコは〈武器庫(アーセナル)〉の二つ名通り、銃火器のスペシャリストである。あらゆる火器に精通していて、射撃の腕も精確である。狙撃も行う事が出来る。その力の通り、今回はシロウの部隊を援護するために彼女はスナイパーライフルを装備していた。しかし貴重な弾丸をむやみやたらに使用する為、上層部からは度々怒られている。だが彼女は反省も改善もする素振りは全く無い。どこ吹く風である。シロウはそれに呆れつつも、その図太さは見習う所があるかもしれないと思っていた。


「ところでもう一人はどうしたの? あのトンガリ金髪が元々の指揮官だったんでしょ」

「彼は途中から外の敵を掃討して貰っている」

「……それでいいの?」

「どういう意味だい?」

「今回キョウジ・ザ・シルバーも参加してるんでしょ。あいつが時折暴走するのは知ってるところじゃない」

「まさか……彼だってそこまで向こう見ずじゃないだろ」


 だが、カナコに指摘されると妙に気になってきた。気になる所か心配にまでなってくる。


「……少し見て来るよ」


 シロウは大剣を抱えてそう言った。



        ◇



 殲滅主義者とは何か。


〈ザ・ラウンドテーブル〉は慈悲を持ってデモンを滅するべし、という教義を持っているが、基本的にはそこまで原理主義的ではない。人類に害する存在になっていない限りは手出しはしない。その筈である。


 だがその中に過激派も確実にいる。デモンの完全滅殺こそが世界の平和に繋がると本気で信じている者がいるのだ。そしてデイヴィスはその中の一人だった。


 キョウジは緊張していたがそこまで驚いていた訳では無い。確かに一時的に共闘はしたものの、〈ザ・ラウンドテーブル〉を完全な味方だとは思っていなかった。敵とも思っていなかったし、敵に回したくもなかったが。


「てめぇはここで死んでいくんだぜェ……」


 デイヴィスはそのまま一気に踏み込んできてポールアクスを横薙ぎにしてくる。かなりの速度だった。そしてその痩身からは想像できないほどの膂力。キョウジは紙一重のところで回避したが、この回避がいつまでも続く訳がない。


 この場の最適解は逃げることである。だがデイヴィスはその一撃でキョウジを拘束してしまった。目くらましのような手も無い。まずいのは、ここが彼らの陣中であることだった。もし仮に彼を倒したとして、その後はどうすればいいのか?


 だが今は先の事を考える余裕が無い。今ここの脅威を排除しなければならない。キョウジは短剣を抜いて応戦を開始する。


「そらァッ!」

「そう簡単にやられるかよッ!」


 連続戦闘の後だったので、〈加速時間〉を全力で使える状態ではなかった。だがどこかで発動しなければならない。どうにかして踏み込む隙を見つけないと。だがデイヴィスのポールアクスはリーチが長く、リーチの長さ故の間延びも存在せず、中々内側に入れて貰えない。


「はっはァッ! どうした? この程度か? キョウジ・ザ・シルバー!」


 キョウジはポールアクスの刃をナイフで弾く。だがじりじりと押し込まれていく。少し考える必要があった。もっとも考える時間も一瞬だったが。敵の利点を減退させる場所に移動する。キョウジが描いた戦術はそれだった。


 キョウジは間隙を突いて銃を抜き、発砲する。仕留めるつもりはない。そもそも急所を狙えるほどの余裕が無い。これはただの時間稼ぎである。防弾ジャケットを着ているデイヴィスには勿論ダメージはないが、衝撃は軽いが与えられる。


「こっちに来な! 俺の場所で仕留めてやる!」


 キョウジは手頃なビルの屋内に入っていった。このまま逃げてもよかったのかもしれないが、この時点ではおずおずと逃げ下がるのも癪になっていた。彼にもプライドがあったのである。何よりこのままなあなあで〈ザ・ラウンドテーブル〉を敵に回すのもあまり良くないことだ。


 つまりもう少し良い戦いの落とし所が必要になる。


「この野郎ッ!」


 デイヴィスが追って来る。屋内戦闘であればポールアクスは不利になる筈だった。その隙を見て踏み込む。ただそれだけを考える。先の事は考えるな――強敵を前にしてキョウジの集中力は研ぎ澄まされていく。それは生存のための欲求だったが、同時に心躍る戦いへの歓喜でもあった――ああ、俺も決して戦いは嫌いではないのだ。


 狭い屋内に入って、デイヴィスは斧を短く持った。乱暴に振り回すことはせず、しかし間合いはきっちりと取っている。キョウジは未だに相手の懐に飛び込む隙を見出せないでいた。〈加速時間〉を使えばほぼ間違い無く飛び込むことが出来るだろう。しかし、ほぼ、ということは100パーセントの確約はされていないという事である。それ故にキョウジは慎重にその機を探っていた。もししくじればやられるのはこちらだからだ。


「へっ、臆病者が! 大仰な二つ名程でもねぇな、ええ、シルバーさんよ!」

「それは誰かが勝手に言い出しただけのものだ」


 しかし決定的な一打を放てないのは向こうも同じだった。要するに鍔迫り合い(斧と短剣でこの表現もおかしいが)が続いたまま、膠着状態に陥っていたのである。


 もっと簡単に勝てるとは思っている――殺しを厭わなければ。だがこの状況で彼を殺害してしまうのはいかにもまずい。殺さずに制圧する手管が求められる。キョウジは人間に対する不殺を誓った訳では無いが、無為な殺人も御免なのだ。


 戦女神はどちらかが仕掛けるのを待っていた。そして先に動いたのはデイヴィスの方だった。焦れたのだろう。人間とは思えない程の速度で身体ごとキョウジにぶつかってくる。ぶちかましと言ってもいい。それは一瞬の隙だった。デイヴィスもキョウジの能力は知っている筈だった。だから虚を突く必要があったのだ。


 キョウジは吹き飛ばされ、背中から床に落ちる。


「はっはァ! もらったぜェ!」


 体勢不利。だが一方で追い込まれたことにより、生存本能と言うべきなのか、キョウジの感覚も鋭くなっている。上からポールアクスを振り下ろさんとするデイヴィスの動きが緩慢に見えていた――それは初めての体験、いや、少年の頃初めて目覚めた時以来の体験だった。


 自動的な能力発動。


 彼は素早く起き上がり、ノンビリと――彼にはそう見えていたのだ――落ちてくる斧を難なく躱す。そして逆襲の時。いよいよキョウジは敵の懐に入り込み、拳を腹にめり込ませる。


 だがそこまでだった。緊急発動だった〈加速時間〉はそこまで持続しなかった。それでもデイヴィスの能力が高くなければそこで仕留められたかもしれない。だがデイヴィスは決して小物ではなかった。


 そこで崩れ落ちればそこで決着を見ていただろう。だが彼は距離を取る為にわざと吹っ飛ばされた。ゼロ距離での戦闘では自分が不利だと分かっているのだ。そして感心することに得物は決して手放さない。


「ちッ……そう簡単にはいかねぇか」

「お互いにな」


 そして睨み合いが再開される。


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