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Coda:荒廃した終末世界を銀狼と少女は駆け抜ける  作者: 塩屋去来
第2章:ザ・ラウンドテーブル
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スリーカード





 枯れ葉が足元を薙ぐ。


 キョウジ、シロウ、デイヴィスが並んで〈赤蜘蛛〉の敷いている前線を向こうに立っている。敵は射撃準備をしているが、まだ撃って来る気配はない。キョウジ達の後ろには〈ザ・ラウンドテーブル〉の隊員達が銃剣を付けた小銃を持ってこちらも構えている。静かではあるが、一触即発と言った感でもある。


 勿論、その火ぶたを切るのが自分達であることは間違いない。


「怖気づいて逃げんなよ?」


 それが初めてデイヴィスから掛けられた声だった。彼は長い手をだらんと伸ばしてポールアクスを持っている。右に彼、左にキョウジが固めて、中央にはシロウが立っていた。何だか場違いだな、という気持ちをキョウジはずっと持っていた。彼らとは連携をした事が勿論ない。


 キョウジは答えなかった。行動で示そうと思っていたからだ。


「では、行こう」


 その火ぶたを切ったのはシロウだった。彼は構えられた銃口にも怯まず、そのまま突撃する。それが切っ掛けとなって全てが始まった。


〈赤蜘蛛〉の前衛隊は短機関銃で武装してはいたが、その腕前は大したことはなかった。ただばらばらに撃つだけである。シロウはその弾幕の中に果敢に飛び込む。無謀とも思えた突撃だったが、銃弾は彼を捉える事は無かった。とはいえそんな幸運がずっと続く訳が無い。いつかは捉えられる。その前に敵の前線を潰さねばならない。キョウジは動き出した。〈ラウンドテーブル・コマンダーズ〉の援護をするというのも妙な感覚だったが、仕事なら仕方あるまい。自分はそれを納得してここにいる筈なのだ。


 踏み込む。


〈加速時間〉を発動させると、銃弾までもがゆっくり見える。自分はそれで躱せるが、彼らはどうなのだろうかと思った。その答えは明白である。シロウと、その後ろに付いて突撃するデイヴィスは見て躱すのではなく、射線を読んで回避していた。すべてを躱せた訳では無い――だが彼らが装備しているプロテクターに守られている。そのまま3人は3人それぞれの戦い方、やり口で〈赤蜘蛛〉の防衛線に取り付く。


「そらァッ!」


 シロウとデイヴィスが一緒になって、鉄条網を破壊した。


〈赤蜘蛛〉の奴らも大したものだった――狼狽することなく、それに応戦する。距離を詰められて意味を為さなくなった銃は捨てて、短剣で構える。敵は20人程。その内の一人はすでにシロウの斬撃――というよりは大剣の殴打――によって倒されていた。豪快ながら迅速でもある。なによりスマートである。どこにも隙は無い。


 キョウジを狙う男がいる。彼は鋭い目をしていて、剣で躊躇なく突撃してくる。だが〈加速時間〉の中にいるキョウジはそれを冷静に捉えている。彼は愛刀ではなく、銃でそれを迎撃した。次への反応を取っておきたかったのだ。キョウジの早撃ちは賊の頭を精確に、冷徹に、冷酷に撃ち抜いた。それから、次――


 だがキョウジに向かって来る敵はそんなに多くはなかった。相対しやすいと思ったのか、奴らはデイヴィスの方に取り付いている。だが、〈ザ・ヘリオン〉は怯まない。自慢のポールアクスをぶん回し、だがそれは素早く精確でもあって、次々と〈赤蜘蛛〉の賊どもを屠っていった。


「くそ! 怯むな、怯むなァッ!」


 賊たちは勇敢だった――野盗にしておくには勿体ないほどの。だが彼らはデモンであり、ここの他に行く所がなかったのだ。人間からデモンになった者は、強い力を得ながらも、同時に差別される運命にある。個々の戦闘力では人間を遥かに凌駕するが、ある意味で彼らは少数派でもある。そして彼らは決して望んでデモン化した訳では無い。野盗化するのには、その暴力性とは別にそんな理由もあるのだった。


 同情しなくはない。だからといって残虐な略奪を許しもしない。


 シロウとデイヴィスは慣れているようで、よく連携が取れている。敵の刺突を冷静に躱し続け、鈍器とさえ言えるような得物で敵を捉え続ける。重厚でありながら同時に俊敏でもあった。彼らは人間だが、デモンの運動能力にも負けていない。むしろ凌駕している。デモンが人外であるならば、彼らは超人だった。どれほどの鍛錬を積み重ねたら、この境地に至れるのだろうかとキョウジは感嘆していた。選ばれし者、という感じがある。偶然力を得た自分とは明らかに違う。


 彼は自分にも向かって来る敵を捌いていた。3対20という圧倒的数的不利でありながら、キョウジ、シロウ、デイヴィスは敵を圧倒していた。接近を許した時点で勝負は決まっていたのかもしれない。


「戦闘慣れしてるね!」

「そちらこそ!」


 そんな掛け合いをするまでの余裕があった。シロウもデイヴィスも人間としては規格外の戦闘能力を誇っている。賊たち触れることすら叶わず、次々と大剣と斧に屠られていった。勿論キョウジも負けてはいない。横から襲い掛かる小柄の男の刺突を自らの短剣でいなし、そのまま踏み込んで胸に刺す。


 デモンが消えゆく黒い霧がもうもうと漂っている。その中を掻き分け、一人ずつ確実に仕留めていく。能力は全力にしていない。これは前哨戦に過ぎない事を分かっているからだ。それにあの二人がいれば自分はそこまで頑張る必要も無い。キョウジは手抜きの仕方も心得ていた。


 戦闘が始まって10分ほど。3人の男達は完全に戦線を制圧していた。賊が5人ほどにまで減ると、彼らは算を乱して逃走した。マシンガンも捨てて行っている。


「へっ、大した事ねぇなぁ」

「油断してはいけないよ。ここからが本番だ」


 デイヴィスとシロウが言い合う。少し離れてキョウジはそれを見ていた。


「だが制圧は迅速に行う。総員突撃準備!」


 大男が、その巨躯にお似合いの大剣を片手で振って、待機している隊員に号令を掛けた。たちまち彼らは動き出した。よく訓練されているらしく、粗雑な声は上げずに粛々と進み始めた。そしてシロウ達と合流したところで、〈ザ・ラウンドテーブル〉は〈赤蜘蛛〉の本拠に突入を開始した。


 さて、ここで自分は何を為すべきなのか。


〈赤蜘蛛〉の本拠地は中々広い所だった。そんなに大きな建物はないが、先に高架橋が通っているものがあった。どうやら戦前は駅として機能していた建造物らしい。あそこが本部なのだろうか、とキョウジは見当を付けた。いずれにしても、ここもかつては栄えていた繁華街だったのだろう。だがそれは滅び、滅んで無人になった廃墟に山賊が住み着く。この世界はそんな光景ばかりだ。


 キョウジはシロウと並走していた。やがて向こうからも迎撃部隊が現れる。武装は前線警備隊とほとんど変わらない。


「おい、俺はどうすればいい!」


 にわかに騒がしくなってきたところでキョウジは叫んでシロウに訊いた。


「敵主力はぼくたちが引き受ける! 君は脇で撃ち漏らしを掃討してくれ!」

「了解!」


 前面に主力部隊がいた。〈ザ・ラウンドテーブル〉の主力もそれにぶつかり始める。だがやや一本調子であり、キョウジは敵が何か搦め手を用意しているのだと見当を付ける。


 そもそもキョウジは集団戦闘に慣れていないし、苦手でもある(それは先のタカラヅカでも痛感した事だ)。とすれば自分は一人遊撃兵として周りを片付けていく事に専念しようとする。


 彼の明敏な感覚が敵を捉えていた。横道から息を潜めて近付いてくる奴らがいる。正面で主力を拘束し、横から脇腹を突く算段なのだろう。伏撃(アンブッシュ)。それだけの戦術を採っているということは、奴らは前々からラウンドテーブルとの交戦を準備していた事になる。決して油断出来ない。


 だがここにキョウジがいることが奴らにとっても計算外のことだろう。



「俺はこっちだな」


 キョウジは主力から離れ、その伏撃部隊を潰しに掛かった。


 だが――彼は〈ザ・ヘリオン〉の憎悪に充ちた視線に気付いていない。

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