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Coda:荒廃した終末世界を銀狼と少女は駆け抜ける  作者: 塩屋去来
第2章:ザ・ラウンドテーブル
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不穏な誘い





 メリケンで貰った、〈バンガード〉のダイジを討伐した賞金はなかなか多額であった。食糧などの物資もまだまだ残っているし、ここセンリであくせく働くことは今の所無かった。


 金銭の管理はカレンに任せる事にした。自分がやるとどうしても大雑把になってしまうからである。一人で旅していた頃にはそれでもよかった(それで野垂れ死んでもただ流れ者が一匹いなくなるだけだ)。しかしミユを匿い、カレンまで同行するようになった今ではそんな事は言ってられない。だがその責任を背負う自信も無い。やはりそういったきめ細かい作業は女の方が適している。


 という事をカレンに言うと、


「そんなんじゃダメよ。もっとしっかりしなさい」


 と年下の癖にお姉さんぶるように言うのだが、すぐに「仕方ないなぁ」と言ってその仕事を引き受けたのである。何だか嬉しそうだったが、その理由は分からない。


 しばらくはこの街で留まることを考えていた。ナダの街での事からこっち、安らぐ暇が無かったからである。キョウジは身体は頑健だったが、精神的疲労は確かにあった。その疲労は旅では癒せない。それはキョウジだけでなく、ミユも同じだっただろう。幸い、ミユはこの街を(とりわけ「太陽神」を)気に入っている。もう少し滞在してもいいだろう。金が無くなればまた他の事を考えねばならないだろうが。


 水に対して困る事は無かった。この近辺には浄水場があって、それがまだ稼働しているのである。つまり今ではじつに珍しい事だが、水道が生きているのだった。水がある所に人が集まるのは必然である。なのでセンリの街はそれなりに規模の大きい場所だった。


「しかしラウンドテーブルの奴らが駐留して、住民は良いと思っているのかな」

「勿論、そうでしょう。安全が確保されるのは大事なことだわ」

「しかし少し息苦しい感じもするんだがな」


 自分がデモンであるバイアス、あるいは負い目があるのは確かである。しかし〈ザ・ラウンドテーブル〉の隊員は外部からの敵を倒すだけではなく、街中の風紀を取り締まってもいる。支配している、と言ってもいいだろう。街が焼き討ちされたり、例えばニガワの街の様に搾取されるよりはマシなのかもしれないが、何とも言えない。街のあちこちに小銃を構えて警邏する彼らは、何と言うか威圧的である。


 飯はまずくも旨くも無かった――ここでは新鮮な食材をふんだんに手に入れる事が出来ないからである。ただ、その中でも例外があった。そこかしこで営業している屋台の焼き鳥が中々の味だったのである。訊くと、この近辺では養鶏が行われているらしい。同じ理由で、卵料理も充実している。


「鳥さんは偉大だね」

「そうだな。貴重な命を頂く感謝を持たないといけない」

「うん」


 ミユは鶏皮串をはふはふしながら言った。これがお気に入りらしい。何にせよ、良質なタンパク質が摂れるのは良い事である。


 そんなミユだが、いつもは長い髪をストレートにしているが、今は三つ編みにしていた。していた、ではなくてされていたと言う方が正しい。これはカレンが編んだものだった。そのカレン自身は今日はポニーテールにしている。何か意味があるのだろうか、と問い掛けたら彼女はにべもなくこう言った。


「別に何も無いわよ。女は気分で髪を弄りたいものなの」

「ミユ、お前はこいつのおもちゃにされて何か文句は無いのか」

「あたし、嬉しいよ」


 やはり男1、女2というのは難しい所がある。まあそれで彼女達が上機嫌ならば何も言うまい。


 しかしやはりこの3人は目立ってしまう。もう少ししたら住民達も慣れるのか、あるいはこちらが居心地悪くなるのが先か、と言った所である。それに、何より〈ザ・ラウンドテーブル〉の面々が常にこちらを警戒している気配なのが気になる。あからさまに銃口を向ける事は流石にしないが、快く思われていないことは確かだ。


「有名税だね」

「ミユ、それ2回目だぞ」

「今回は間違ってないんじゃない?」


 それを除けば、センリの街は過ごしやすい所だった。丘の上にある街だからなのか、すこし寒いような気がするが、空気は澄んでいる。緑もそれなりに残っていて、風光明媚とまでは言わなくとも目には優しい。元は住宅街だったらしく、大きな建物はあまり見当たらあに。だからこそ余計に「太陽神」が目立ってしまうのだが。


〈ザ・ラウンドテーブル〉はここを警備するだけでなく、隊員も募っているようだった。そこかしこで勧誘のポスターが貼られていて、ビラ配りまでしている。深刻な人員不足という訳では無いようだから、それはさらに勢力を大きく伸ばす為の布石に違いあるまい。


 ふとキョウジは思う。彼らがこのまま順調に勢力を伸ばすとする。この地方一円を支配下に置くほどの組織になったとする。それが世界中に広まって――それは果たして喜ばしい事なのだろうか? 無法者が駆逐されるのは良い事だろう。しかし彼らがいつまでも善意の集団である保証はどこにもない。冷酷無比な支配組織として君臨するかもしれないのだ。特に流れ者のデモンなどは、真っ先に弾圧されるべき存在ではないのだろうか……


 自分は別にそれでもいい。迫害されても生きていく気概と覚悟はある。だがミユはどうなるのだろう。力はあっても、その力を扱いきれない弱い少女。ずっと守り切る事が出来るのだろうか。


「どしたの、兄ちゃん」

「いや、なんでもない」


 ミユはキョウジの庇護下にあって安心し切っている。でもそれでいいのだろうか? 自分は絶対の存在ではない。無敵の存在ではない。いつまでもこういった旅を続けられるのだろうか。いっそ記憶の事なんか忘れてしまい(ミユもそこまで拘っているわけではなかった)、どこか誰も居ない土地、あるいは離島なんかに住んで、外部との接触を持たない完全自足自給生活を営むべきではないのか――


 それが酷い現実逃避の考えだったことに気付き、キョウジは頭をストップさせた。今は今の事を考えなければならない。現実逃避であるが故に魅力的でもあったが……


 そんな感じで、特に目的もなく街を3人でぶらぶらしていた。こんな時間を持てるのも簡単な事ではない。とすればやはり〈ザ・ラウンドテーブル〉には感謝すべきなのかもしれない。癪ではあるが。


 などと思っていたのだが。


 太陽が西に傾こうとしている中で、そろそろ宿に戻ろうかと思っていたところ、キョウジ達は急にラウンドテーブルの隊員たちに取り囲まれた。5人ほどいる。ひとりは女性であった。そしてその女性が隊のリーダーだったらしい。


「キョウジ・ザ・シルバーだな」


 隊員たちは銃を持ちながら威嚇している。上半身にプロテクターを着けた重武装である。小銃のほかに拳銃も携帯している。対デモン弾を彼らは装備しているのだろうか。しているのだろう。


「なんだ? 確かに俺がキョウジだが……別に平和に過ごしているだけだぞ。なにもしていない」

「それは分かっている。こちらにも敵意は無い」


 それにしては剣呑だな――と思いつつ、キョウジは少しだけ警戒していた。カレンはぶすっとした顔をしていて、ミユはやはりキョウジの背中に隠れていた。


「だが少し付いて来て貰えないだろうか? 我々の〈コマンダー〉が貴方に興味をお持ちだ」

「それを断ったら?」

「こちらも強制はしない。任意でいい。それで貴方達の行動を制限する事も無い」


 とは言っているものの、威圧しているのは間違い無い。かれらから警察行動をしている自負が見て取れた。


「どうすんの?」

「少し考えてみる」


 面倒事になるのは間違いない――だが向こうがこちらに目を向けている事実を無視することは出来ない。制限する事は無い、と言いつつも実際に拒否したら居心地が悪くなるのは目に見えている。結局の所、選択肢は無いに等しい。


「いいだろう。案内してくれ」

「ご協力、感謝する」


 そうして、彼らは〈ザ・ラウンドテーブル〉のセンリ統括本部に向かう事になったのである。

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