表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Coda:荒廃した終末世界を銀狼と少女は駆け抜ける  作者: 塩屋去来
第2章:ザ・ラウンドテーブル
33/150

太陽神の街





 一夜明けて、道のりを再開する。当てのないのない旅と言えばない旅だが、道標もある。剥げたアスファルトの道路の跡や、かつて電車が走っていたであろう鉄の橋――線路である。とくに線路は道路以上に役に立つ。よりかつての文明人類を繋いでいた線だからだ。今分散して生き残っている人間達も、戦前からの街を利用している場合が多い。人間――この場合は生物と言った方が適当なのかもしれないが――が繁栄するに当たって、地理的条件というのは大事なものなのである。それは文明が崩壊した後でも変わらなかった。水を得られるか、肥沃な土があるかどうか、交通の便はどうか。そんな所である。


 そう考えれば、センリの街はやや不便な所にあるのかもしれない。海からはやや遠い所に位置している。水資源も簡単に手に入れられるとは言い難い。しかし緑は残っている場所でもある。


 何より住民たちが残ったのは、あるいは宗教的理由かもしれない。


「兄ちゃん、すごいね! あれ! あれ!」


 その異形の物体は街から遠い所からでも確認できた。過去の芸術家が創案し、設計し、設立したらしい。その物体が作られたきっかけである宗教的イベントについてはキョウジは知らなかったが、まあ、崇拝対象になる位には異形であり、畏敬的であると言えなくもない。


 しかし、それを崇拝する者がいるのは、その造形故なのか。それとも文明破壊という悲惨を蒙ってなお敢然と立ち続けるそ威容によるものためなのか。


 ともかく、猫背の様な塔に、万歳をするような手が伸び、お目出度いというか不気味というか、そんな顔が腹と頭にあしらわれた像を、センリの住民は「太陽神」として日々拝んでいる。


 ミユの興奮を否定する気はなかった。凄いと言えば凄い。だがそれを信仰対象とするまで行くには、どうなのかなと思った。むしろ敬して遠ざけるものではないのか。まあ、宗教的偶像というのはそういうものなのかもしれないが……


 いずれにせよ、ここの住民がこの「太陽神」を心の糧に生きていることは間違いない。そこは刺激しないようにしようとキョウジは考えていた。


 その異様な太陽神を崇めるようにして住む以外は、さして他の街と変わる所はなかった。だが比較的平和そうではある。


「ラウンドテーブルの奴らが駐留しているんだな」


 キョウジにとっては複雑な心境だった。〈ザ・ラウンドテーブル〉の支配下である事は、かなりの安全が確保されている証拠である。しかし彼らは同時にデモンの撲滅を掲げる組織でもある。キョウジの認識は、彼らは今の所敵ではないが、かといって味方でもないという微妙な所に位置していた。そして先日相対した者とのやりとりからすれば、自分は既に存在を認識されているらしい。


 つまり、この街では大人しくしていなければいけないということだ。


「兄ちゃん、緊張してる?」


 キョウジの様子には敏いミユがそう言った。


「あの塔が怖いの? へへ、兄ちゃんもそういう所、あるんだぁ」

「そういう訳じゃない」


「太陽神」はまるで太古の昔から存在しているかのように街を睥睨している。ミユはそれをすっかり気に入ってしまったようだ。とても嬉しそうである。


「あれに何か記憶に繋がるようなものがあるのか?」

「うーん……そう言われると、別になにも思い出さないんだけど」

「ミユちゃんの事はゆっくり考えて行けば良いって言ったのは、キョウジ君、あなたでしょ」


 それもそうだな、とキョウジは頷いた。ともかく。「太陽神」は即効のご利益を与えてくれる神様ではないらしい。信仰することはないな、と彼は思った。しかしミユは何故か手を合わせて拝んでいる。


 情報収拾は怠らない。「春日守」について、ちょっとでも知っている者がいないかと探したのだ。だが成果は無かった。元々が雲をつかむような話だった。それに、その情報がえられたとしても、それがすぐにミユの記憶に繋がる訳ではない。


〈ザ・ラウンドテーブル〉の面々はそこかしらにいた。彼らは制服を与えられている訳では無かったが、その右腕には真円に十字を貫いたシンボルを腕章にして身に纏っていた。分かり易いのは良い事である。だがあまり気に食わないな、とキョウジは思っていた。自分がデモンであることはさて置いても、街を守護するというよりは支配している様な感じがどうにも嫌だったのである。


 とはいえ安全が守られているならそれに越した事は無い。


 ここでもキョウジはいつもの視線に気付く。ただ街を歩いているだけでも彼は注目を集めてしまうのだ。それは旅人が珍しいという事もあるだろうが、もう一つ。


「みんなこっちのことを見てるわね。どうしてかしら。私達が旅人だから?」

「お前が美人だからじゃないのか?」

「褒めてもなんにも出ないわよ。……私がひとりだった頃はそんなに注目はされなかったけど」

「分かっているんだろう? 俺の『目』はそれだけで目立つ」


 彼は自らの銀の目を指して言った。これは生まれつきのものではない。あの日、デモン化したあの日、発現したものであった。ヒトならざる者であることを示す瞳だった。〈加速時間〉の先を見通す瞳でもある


「……ごめんなさい。そういう事を言いたかった訳じゃないのに」

「気にするな。いつもの事だ」


 それに注目を集めているのはそれだけが理由ではなかった。どこからやって来たのかも分からない男が女(美女)と少女(美少女)を連れて歩いていたらどうしても目立ってしまう。特に男達の目線がそうだった。それは羨望の目線ですらあった。その事を得意がらない気持ちは無いではない。キョウジもなんだかんだ言って男である。女を侍らせて歩く事に優越感は確かにあったのである。


 しかしそれで何度も〈ザ・ラウンドテーブル〉の衛兵達に誰何されるのが続いたら流石にうんざりしてくる。自分の名前がある程度通っていることにある程度助けられたが、それでも鬱陶しい事に変わりは無い。


「有名税ってやつだね」

「それはちょっと違うが……まあいいか」


 取り敢えず(ラウンドテーブルの連中を刺激しない限り)ここでは平穏に過ごす事が出来そうなので、しばらく安閑としようとキョウジは決めていた。シンカイチでカレンと再会してから。あまり休む暇が無かったからである。


「でも稼ぐことは考えなきゃ駄目よ。少なくともガソリン代には困らないようにしないと」

「そう焦る事も無いだろう。たまには羽を伸ばしても罰は当たらない」

「太陽神様が罰を与えるかも。もっと働きなさい! って」

「太陽神様はそんなのじゃないよ!」


 いつの間にかミユは「太陽神」の敬虔な信者になっていた。何が彼女の気に入らせたのだろうか。それなりに付き合ってきてはいたが、ミユの感性は少し分からない所がある。個性的というか、ハッキリ言ってしまえばヘンである。側溝にうろついている蜥蜴を愛らしく見つめる事もあれば、仔犬に怯える事もあった。美醜感覚がどこかずれているような感じがする。


「ラウンドテーブルの奴らは『太陽神様』をどう思っているんだろうな」

「さあね」

「拝んでるに決まってるよ! だってあんなに凄いんだもん」

「どうかな。彼らの信奉する神は別にいるんだろう」


 そういう事を前に訊いたような気がする。彼らの信仰の対象はすっかり廃れてしまった過去の宗教にあるとか。その腕章もそれを示すものだとか。まあ、あまり興味は無かったが。


「まあ、今の俺達に必要なのは信仰じゃなくて飯と寝床だ。それを探そう」

「それから稼ぎ口もね」

「お前は働き者だなあ。カレン」

「兄ちゃんもちょっとは見習ったほうがいいかもね」

「お前、ここでこいつの味方するか?」

「えへへ」


 ともあれ、そのようになった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ