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Coda:荒廃した終末世界を銀狼と少女は駆け抜ける  作者: 塩屋去来
第2章:ザ・ラウンドテーブル
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彼らとの遭遇





〈ザ・ラウンドテーブル〉。


 その始まりはおよそ30年前に遡る。


 それまで散発的だった人間のデモンに対する抵抗をひとつにまとめようとする動きはそれ以前から存在した。だが高度に組織化する事は出来なかった。一つにはそれだけの意志を持つ者は少なからずいたものの分断されていた事。そしてもう一つはもっと単純に、それだけの集団に与える武器を調達出来なかった事である。しかしながら、力で劣る人間達はいずれ団結することを覚え始める。


 最初は小さな動きだった。ここである男が登場する。ロバート・ファーバンティという名前の男。彼は各地を回り、同志を集め、やがてキョウトという街に集結させた。そして戦う力のある者も、無い者にも使命を与えた。キョウトの街の近郊には比較的大きな隕石が落下していて、それを使って武器を量産する事が出来たのである。志ある者がさらにその噂を聞き付けてやって来る。彼らは活動を開始した。〈ザ・ラウンドテーブル〉がそれまでの人間の組織的抵抗と違って画期的だったのは、ただデモンを討伐するだけではなく、広域に渡って治安維持を行う意志があったことである。自らを人類の守護者と任じ、人類は決してデモンに凌辱されるだけの弱き存在ではない事を啓蒙して回った。


 地道な活動だったと言えるかもしれない。だがそれは地に足の付いた活動だったと言い換える事も出来る。ロバート・ファーバンティは野心家ではあったが忍耐強い男でもあった。大きな事を成し遂げるのは何事も一朝一夕ではいかないのを理解していたのである。


 彼らの活動は少しずつ、だが着実に広がっていった。その使命に共鳴する者もまた増え始めて来る。人数が増えれば、さらに活動範囲も広がり、武器の生産量も増えてくる。彼らは工場を稼働させ、残された銃火器だけではなく新たに作る事さえした。同時に専門的な、対デモン戦闘の訓練も洗練されてくる。


 ロバート・ファーバンティはその血脈につながる記憶、かつての伝説、円卓の騎士に自分達をなぞらえた。神への信仰が薄れかかったこの時代でもなお、彼は敬虔な神の信徒足ろうとした。


 そして現在、彼らの行為、教義は着実に広がり、それに希望を見出す者も多く現れたのである。現在は1万人ほどの規模になり、版図をさらに広げようとしている。


 それでもまだ、彼らが望む平安には程遠い。



         ◇



 ニガワからタカラヅカに渡り、それから南下して改めてオオサカ方面に向かう。


「でもオオサカに行ったからってなにがあるって言うの?」

「別に確かな根拠がある訳じゃない」

「まったく大雑把ねえ。私の知ってるキョウジ君はそんなのじゃなかったわよ」

「時は人を変える。俺も長年旅をして色々と悟ったところがあるんだ」


 実際にはさして悟ったというほど偉そうでもないが。暢気になったというだけである。


「ねえ、ミユちゃん。こんな男と一緒に付いて行って本当にいいの?」


 旅の間、朝と昼と夜は飽きずに繰り返す。本当はもっと早くに目的地に着きたいところだったが、焦っても仕方無い。日が暮れて来たのを見計らって彼らはキャンプを始めた。薪起こしをしたのはミユである。少女は何故かこの作業が好きなのだ。


「だいじょぶだよ。あたしは兄ちゃんを信じてるもん」

「ああ、その穢れなき瞳……素敵だわ。キョウジ君には勿体無い位」

「お前だって俺を信頼して付いて来てくれてるんだろう」

「それはまあ、そうなんだけどね」


 カレンが加わった事によって随分騒がしくなったなとキョウジは思っていた。特段うるさい女という訳でもないのだが、やはり男に比べて女はお喋りである。まあ、それでミユも嬉しがっているようだから問題ではないが。とはいえキョウジの好みとしてはもっと静かな方がいい。自分の責任で連れているのだから我慢するしかないが。


 食べ物は十分にある。元々ふんだんに食糧生産をしていたニガワの民からたんまり貰ったのだ。こういう時にいつも言われるが、ニガワの村長はここで暮らさないかと提案された。勿論丁重にお断りした。これからは自分達で自分達のことを守るべきだ、そしてそれが出来ることを証明したじゃないかとキョウジは言ったのである。


 カレンと一緒になった事でいくつか良いこともあった。彼女はテントを所持していたのである。これで雨風もしのげるし。より暖かく過ごせることが出来る。薪や灯油などの燃料もまだまだ残っている。


 一番の問題はガソリンである。こればかりは自分達で備蓄する事が出来ないから定期的に人間の拠点に訪問して給油しなければならない。クルマとバイクという足が無くなってしまうと、ただでさえ厳しい旅がさらに険しいものになってしまう。クルマたちが無用の鉄屑になってしまう事だけは避けねばならない。


「それで、具体的に街を見つける算段はあるの?」

「俺だって全くの無計画という訳じゃない」


 もう少し南下すればセンリという街がある筈だ、と彼は言った。実際にはその情報はニガワで聞いたものである。それなりの規模を誇る街だということだ。


「そろそろオオサカに入るのね。で、それからどうするの?」

「やる事は大して変わらない。まあ、気ままな旅でいいじゃないか」

「それはそうだけど、稼ぎ口も探さないといけないわよ」

「賞金稼ぎだけが糊口をしのげるって訳でもないだろう」

「やぁーねぇー。私に身体を売れって言うの? まあいざとなればやるけどさ……」

「誰もそんな事は行ってないだろう。デモン退治の話が無ければ、日雇い労働でもなんでもやればいい。働き手はどこでも常に不足しているから、仕事に困る事は無い」

「労働を求めて旅するなんて、なんかしみったれてるわねぇ」


 なんともああ言えばこう言うという感じになってしまう。


「まあ、着いてしまえばなんとかなるだろう」

「楽観的ね。いや、能天気だわ」


 元々口数の少ないミユは焚火を囲んでキョウジの真向いに座り、黙って話を聞いているままだ。大人の話だと思っているのかもしれない。しかしその顔は何だか嬉しそうでもある。不機嫌なことは滅多にない少女だが、前よりも増して機嫌が良さそうだ。


「兄ちゃんたち、仲が良いね」

「そうかな」

「私は仲良いと思うわよー。なんて言うか、波長が合うのよね、昔から。性格は全然違うのに」

「まあそうかもしれないが……いや、ちょっと待て」

「なに? なんか文句でもあるの?」

「違う。向こうから足音が聴こえる。複数だ。こちらに近付いてきている」


 賊かしら? とカレンは訊ねた。キョウジは「分からん。だが警戒は怠るな」と言った。カレンは拳銃を一丁持っている。キョウジは短剣を片時も手放さない。ミユも険しい顔になって刀の鞘を抱き締める。


 やがてお互いが視認できる位置にまで近付く。相手は4人ほど、全員が男であり、小銃で武装している。雰囲気からすれば野盗ではないようだが、かといって敵ではないと確定した訳では無かった。


「兄ちゃん」

「お前たちはいつでも逃げられるようにしていろ」


 それからキョウジは立ち上がって、警戒は解かずに短剣を鞘から抜き、拳銃のホルスターも身に着けた。


「何者だ、貴様ら! こんなところでキャンプとは……」

「何者だ、とはこっちの台詞だな。そんな物騒なものを向けられるような悪い事はした覚えが無いんだが」


 男たちの集団はなにかひそひそと声を交わしながら、やがてランタンに火を点けた。


「男がひとり、女がひとり……女の子が、ひとり? どうやら野盗じゃなさそうだな」

「そちらも荒ぶった奴らじゃなさそうだ。話が出来そうなので助かる」

「お前たちはただの旅人か?」

「それ以外に見えるか?」


 キョウジは敵意が無い事を示す為に短剣を鞘に仕舞った。男達もそれに呼応して銃口を下げる。


「失礼した。先日この辺りの賊を掃討したんだが。残党がいないかを捜索していたんだ」

「あんたらは自警団かなんかか?」


 しかし武装は本格的だし、佇まいも構えもよく訓練されているように窺える。ということは、まさか、とキョウジは思った。


「その銀の目。そうか、あんたが噂のキョウジ・ザ・シルバーだな」

「名前が知られて何よりだ。で、あんたたちは〈ザ・ラウンドテーブル〉だな」

「よく分かったな」

「そこまで洗練した作戦行動が取れるのは、ただの自警団じゃ無理だ。それが出来るとすれば――まあ、当たりだな」


 緊張は解かれた。だがデモンであるキョウジ、そしてミユにとって〈ザ・ラウンドテーブル〉は完全な味方とは言い難い。だが取り敢えずここで戦闘という事は無さそうだ。


「我々は引き上げる。なんならセンリまで護衛してやろうか? まだまだ物騒な所だからな」

「いらん。俺達は俺達だけで身を守れる」

「そうか。しかし無理はするなよ」


 そう言って彼らは引き上げていった。


「……この辺りまでラウンドテーブルの勢力下に入ってるのね」

「いいことじゃないか。こっちを敵だと認識しない限り、ここらは安全だという事だ」

「そうかしら。彼らだって無敵という訳じゃないわ」


 などとキョウジとカレンが言い合っている後ろで、


「ああいう人たち、あんまり好きじゃないな……」


 ミユが小さく呟いているのだった。

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