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幼馴染みパーティーイン





「昔の事、思い出してたんでしょ」


 あまりにもあからさまな図星を突かれてキョウジは焦った。焦ったが狼狽する程ではない。冷静に対処出来る自信はあるし、そうするべきでもあった。


「そうだ。悪いか? あの日の事は忘れたくても忘れられることが出来ない……」


 その、昔の記憶を運んできたカレンの事を憎むべきなのだろうか。勿論そんな筈は無い。それでも再会の歓びに、どこか苦い味が混じり込んでいたのは確かだった


「ビールもう一杯」


 もう少し酔った方がいいのではないかと思ったのだ。しかしそうするとカレンも「ビールもう一杯」とやった。酒がやって来た。二人ともぐいぐい飲むが、どちらもまるで酔っ払う気配はない。キョウジもカレンもアルコールには強かったのである。しかし少しだけ良い気分になっていたのも確かだ。決して望んではいなかった幼馴染みとの邂逅には丁度いいのかもしれない。


「キョウジくんも私も、こうやってお酒を飲むくらいの大人になっちゃったんだね」


 そう言うカレンはどこか嬉しそうだ。彼女はこちらほどには困惑していないようである。


「そうだな。あれから10何年……何年前だっけ」

「17年前よ。私、ずっと数えて来たもの」


 日にちを計る機械も無くなり、機会も失せたこの世界でそんな事を覚えているなんて恐るべき事だった。


「お前、俺の事をキマジメとか言ってたが、そっちのほうが律儀じゃないか」

「『俺』だって。それにそのぶっきらぼうな言葉遣い! ああ、私の知ってるカワイイキョウジくんはどこかに行っちゃったのね」


 くすくすと笑ってそんな事を言う彼女。キョウジは憮然とした顔を隠せなかった。


「でもカッコよくなったよ、キョウジくん」

「……その、お前だって……」


 綺麗になった、と言えば良かった筈だ。そうに決まっている。だがそんな事は言えなかった。プライドとか羞恥とか、あとは……なんだろう。色々なものが邪魔をして素直になれなかったのだ。


「大人になったんだな」

「大人になったのよ」


 3歳年下の筈なのに、カレンはあくまで妹の様な扱いは拒否していた。それもさくらんぼ孤児院の時から変わらない。あくまで対等な立場を求める。そういった態度を、少し生意気だなと思いつつも決して嫌いではなかったのである。今もそうだ。


「でも人って変わるものね。お花のお世話が大好きだったキョウジ少年がここまで偉そうな男になっているんだもの」

「俺は別に偉そうなんかじゃ……いや、変わったって言うならお前の方がおかしい。何でそんな重武装なんかしてるんだ。しかも賞金稼ぎとか」

「生きる為には仕方無かったのよ。何度言わせる気?」


 そう言われれば、踏み込む隙を無くしてしまう。そうやって彼女は生きてきた。そう納得するしかない。


「しかしあの時、他の仲間もいたんだろう。あいつらはどうした」

「途中で死んじゃった子もいるし、運良く居場所を見つけられた子もいるし、色々。でも私はタイセイ叔父さんから離れたくなかったの。私が一番年少だったからかな」


 あの人には無理をさせちゃったのかな、と少し憂い気な顔でカレンは呟いた。


「でも叔父さんを看取れたのは良かったんだと、今では思ってる」

「そこからお前の旅が始まったんだな」


 その後の苦労について深く訊くことはしなかった。さっき言われた言葉で十分想像できるし、それ以上は考えたくもない。分かっているのは、カレンは強い女だということだ。


 さらにビールを注ぐ。つまみも都度頼む。出て来るのは枝豆とかナッツだけだったが、今の世の中では贅沢は出来ない。ある所でチーズを貰ったこともあるが、それは奇跡的な幸運だったとさえ言える。しかしビールはふんだんにあるようである。


「お金大丈夫なの?」

「お前の方はどうなんだよ」

「あら、ここはキョウジ兄さんのオゴリじゃないの?」

「あのなぁ……こういう所だけ都合良く妹面するなよ」


 まあ奢る事に不満はない。助けた側、助けられた側の間柄からすれば逆であってもいいかもしれなかったが、相手は幼馴染みの女の子だ。もう「女の子」といえる歳ではなかったが。


「キョウジくんはデモンになっちゃったのね」

「そうでなきゃ、俺は死んでいた――そうしたほうが良かったのかもしれないが」

「そんな事ないよ。それで貴方も私も救われたんだから」

「でも俺が怪物である事に変わりはない」


 それをどう思うんだ――と訊ねると、彼女は微笑を浮かべ、目を細めながら首を横に振った。


「キョウジ・ザ・シルバー。その名前を聞いた時からずっと会いたかった。ずっと追いかけてたんだよ。ああ、きっとそれがキョウジくんなんだって信じてたから。貴方はきっと生き残ってるって信じてたから」

「狙い通りって訳か?」

「もう。そういう空気の読めなさは変わってないね。私がこれだけ湿っぽく言ってるんだから、ちょっとはもっと気の利いた言葉を返しなさいよ」

「湿っぽいか? そこまで」

「……もういいわ」


 半ば呆れたようにして、カレンは肩を竦めた。気分を害したようではなかった。むしろ楽しんでいる様でさえいた。


 さて。


 ここで偶然(ある程度はカレンが仕掛けた事なのかもしれないが)幼馴染みに出会った。ここでお別れ、とするべきなのだろうか。いささか悩ましい事である


「それで、カレンはこれからどうするんだ?」

「さあ、どうしようかしら」


 女ってのは小狡く出来ているものなんだな、とキョウジは妙に感心した。そういう女には何度も出会ってきて、まあ、色々とあった。そういう事だ。そして男という生き物はその女特有の小悪魔的な所に惹かれてしまうものなのである。


 仕方あるまい。


「カレン。これから俺達に付いて来るか?」

「良いの?」

「良いのも何も、それが最初からお前の狙いだったんだろう」


 放っておけるものか。


「そうだなー。キョウジくんがどうしてもって言うなら、付いていってもいいかなー」

「お前、そういう小生意気なところは全然変わってないな」

「ずっとそう思ってたんだ」

「そうだよ」


 その時だけは、昔に戻った気持ちでキョウジは答えた。



        ◇



 キョウジの意思は固まり、カレンもそのつもりだった。だが許可を得ないといけない対象がもう一人いる。


 黒ワンピースの黒髪の少女。しかも日本刀を抱えている子がいればどうしても目立ってしまうだろう。だからミユの足取りを辿るのにはそんなに苦労しなかった。彼女は港そばで未だに稼働している観覧車に乗っていたらしい。ここでは電源を確保する事も出来ているのだ。しかし一人で観覧車に乗るなんて、彼女は何を考えているのか。


「本当はキョウジくんと一緒に乗りたかったんでしょうね」

「そうかな」


 乗降口で待っていると、やがてミユが降りてきた。そんなに楽しそうな顔をしていない。キョウジの顔を見ると口を呆けたように開け、笑い出すかと思われたが、カレンの姿を見ると途端にその顔を引っ込め、おどおどした感じでキョウジの背中に隠れた。キョウジは彼女の頭を撫でてやった。カレンは苦笑していた。


「すっかり嫌われたかしら」

「嫌いじゃない、嫌いじゃないけど……」


 ミユは怯えたままで、しかしカレンはそんな少女をことのほか気に入っていたようだ。ミユ自身は気付いていないようだが、彼女は人を好きにさせる才能が備わっているのである。キョウジはそう思っていた。他ならぬ自分がそうなのだったから。


「ミユ。俺は今後彼女――カレンと一緒に行こうと思う。だがそれにはお前の許しがないといけない」


 ミユはぶっすりとしていたが、やがて言った。


「……兄ちゃんの決めた事に反対はしないよ。あたしだって、兄ちゃんがいないと生きていけないんだし」


 不承不承という気持ちを隠せてはいなかったが、ともかくミユはそんな態度だった。カレンは「これからよろしくね」と手を差し延べた。ミユは少し迷った様だったが、やがてその手を握った。


 まあなるようにしかならないだろう。キョウジは達観していた。出来れば二人には仲良くなって貰いたいが――それもまた、自分の責任なのだろうと彼は思った。

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