異世界美少女エリス<カウント・マジックの魔法>
村田健太は、一日の終わりに小さな居酒屋でビールを飲みながら、人生について考えていた。彼の職場での立場は危うく、出世どころか解雇も時間の問題だった。私生活も荒んでおり、唯一の恋人には2年前に捨てられた。その恋人は、健太の友人だった男と結婚し、幸せそうに暮らしているという。
「俺の人生、何なんだよ…」
健太がビールを一気に飲み干したとき、不意に隣の席に一人の少女が座っていた。
「随分と暗い顔ね」
銀髪の少女は、どこか神秘的な雰囲気をまといながら微笑んだ。
「誰だ?」
「エリスよ。ちょっとした手助けをしてあげられるわ」
彼女は健太の前に、小さな懐中時計を差し出した。
「これは『カウント・マジック』。これを使うと、対象の人間の『残り運』を数えることができるの」
「残り運?」
「その人が持つ運気の総量よ。それがゼロになると、不運なことが次々と起こるの」
健太は半信半疑だったが、試してみたくなった。
翌日、健太は職場で早速使ってみた。懐中時計をこっそり取り出し、嫌味な上司の方向に向けると、文字盤に「10」という数字が浮かび上がった。
「ふん、あいつの運もあと10しかないのか…」
何となく面白くなり、別の同僚や取引先の人間にも試した。数字は人によってバラバラだったが、一つだけ確信が持てたことがある。数字が低い人ほど、近い未来に不運が訪れる可能性が高い。
数日後、その上司が突然左遷されるというニュースが飛び込んできた。
「本当に当たった…!」
健太の胸に奇妙な興奮が芽生えた。
それから健太は、カウント・マジックを日常に取り入れるようになった。数字の低い相手に注意し、距離を置くことで、無駄なトラブルを避けられるようになったのだ。また、取引先の運気が高い担当者を見つけて優先的に交渉することで、仕事の成果も上がった。
「これがあれば、どんな困難も回避できる…!」
だが、ふと彼の心に一つの考えが浮かんだ。
「これを使えば、俺を裏切ったあの二人に復讐できるんじゃないか?」
健太は早速、元恋人の美香とその夫である友人の隆司にカウント・マジックを試してみた。美香の運は「45」、隆司の運は「30」だった。
「十分低いな…でももっと下げられるかもしれない」
健太は二人の生活に介入するため、小さな妨害を始めた。例えば、隆司の仕事に関するデマを流し、美香には匿名で脅迫じみた手紙を送った。それらのストレスが蓄積するにつれ、二人の「運」の数字はどんどん下がっていった。
最終的に、隆司は仕事を失い、美香は精神的に疲弊して実家に戻った。
「ざまぁみろ…」
健太はほくそ笑んだ。
だが、その後奇妙なことが起こり始めた。健太がカウント・マジックを使うと、今度は自分自身の「運」の数字が急激に減少していることに気付いたのだ。
「どういうことだ? 俺は何もしていないのに…!」
次々と不運な出来事が降りかかった。契約が突然破談になり、友人たちからも距離を置かれ、最終的には会社を解雇されてしまった。
「エリス! これがどういうことなのか教えてくれ!」
絶望に打ちひしがれた健太の前に、エリスが再び現れた。
「運気というのは、他人のそれを削れば自分の分も減るのよ」
「そんな…」
「あなたは他人の運を無理やり削り取ることで、自分自身の運をも消耗していたの。人の運命に手を加えるということは、そういうことよ」
エリスは冷たい目で健太を見つめると、最後にこう告げた。
「もう二度と使わないことね。あなたには運の回復を祈るしか残されていないわ」
彼女はそれだけ言うと姿を消した。
健太はその後、失ったものを取り戻すため、地道な生活を送り始めた。他人を妬むことをやめ、カウント・マジックに頼らず、自分の力で再び信頼を築こうと決意した。
「運なんてものに頼るから、こんなことになったんだ」
彼は懐中時計を捨て、ゆっくりとした歩みで前を向くことにした。空を見上げると、青い空にエリスの微笑みが浮かんでいるような気がした。