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第5話 因縁の対決

 清三郎は久し振り、と言っても一カ月半であったが町風呂屋の前に立っていた。とても懐かしい趣である。暖簾を潜ると店主が奥から頭を下げた。


 清三郎もいつもどおり頭を下げて二階に上がった。

「お、せい様、来られましたね。ささ、どうぞ中央の駒場へ。へへ、今日はあっしが一番でしてね」


と常連組の町人が清三郎を誘った。すでに将棋道場の常連からは清三郎の名を「せい様」と略して呼ばれるまで親密な仲になっていた。


 清三郎にとっては久し振りの将棋道場だったので、ついつい「みなさんお元気で何よりです! これからもよろしくお願いしますね!」と元気一杯の笑顔で答えた。


 すると常連の一人が「おりょ。正様、最近元気がなかったように思っておりましたが今日は絶好調ですな! いや、これはあっしらも張り合いが増しますぜ! なあみんな!」


「おお!」「そのとおり!」「やっぱり清様はこうでないといけませんぜ!」などとあちこちで声が上がった。


 清三郎は変わりない将棋道場の雰囲気に和んだが、反面、三月がこの一カ月余り、いかに心痛を抱えていたかをあらためて痛感した。


「では、負けやしませんよ」と清三郎が威勢よく駒を並べた。その姿を傍目で見た周囲の者が「いやあ、やはり清様、今日は全くの別人。あ、あれですな。おなごでしょ。うん。間違いない。おなごでございましょう」と小指を立てた。


「さあどうでしょうねえ。拙者の家族によれば、清三郎は女心を全く分かってないと叱られる始末ですからね。いや……、まてよ……。ある意味、おなごで合っているのかな。


ま、まあその辺はご想像におまかせします。それよりさあ、先手はそちらですぞ。ささ、始めて下され」  

 清三郎は久し振りの将棋が楽しみで仕方ない。


 そして清三郎の後ろで控えていた三月と五月は清三郎が「ある意味おなごで合っている」と言った言葉を乙女組と久しぶりに会ったことで絶好調なのだと受け取った。


 あまりの嬉しさに二人で抱き合った。三月が五月の耳元で「清三郎様は久し振りに乙女組に会えてとても絶好調と言われましたよ」と囁くと五月も「いつ求婚されても準備万端」と返した。


「あれれ、清様……。気持ちが絶好調だと駒の動きも絶好調ですなあ……。もうまけちまったぜ」

「へへへ、じゃあ次はあっしの番っと」


 どうやら今日の将棋道場はいつも以上に賑やかだ。それを感じた三月は清三郎が当初の予定よりも早く戻ってくれたことに本当に感謝した。


 外で蹄の音がした。辰之進がやって来たらしい。町風呂屋の主人が出迎えると一緒に二階に上がる。

「皆様、明石様ご到着にございます」


 風呂屋の主人がうやうやしく告げる。皆一様に頭を下げる。ただし今日の清三郎だけは違った。


 清三郎は、「これは明石殿! お待ち申しておりました! 明石殿との勝負を楽しみにしておりました!」とついつい久気(ひさしげ)に大声をあげてしまった。


 これに辰之進が訝かしむ。

「清三郎殿、そこまで喜んでくれるのは嬉しゅうござるが、昨日勝負したばかりでござろう。おかしなことを申される」


「ああ、今日こそは本当の実力を見せつけようと気力体力共に充実してございます。心されよ!」

「ふふふ。最近は五分五分でしたからな。ん? いや今日の清三郎殿はまっこと別人のようじゃ……。これはあなどれませんな」


「明石殿、さあ座ってくだされ。楽しみですなあ」

「きょ、今日の清三郎殿は気味が悪いですな」


 辰之進が駒を並べながら上目で清三郎を見る。清三郎は「まあまあ、そう申されずに」とにこにこしながら駒を並べている。


「さあ、明石殿からどうぞ!」

「お、良いのですか。最近は先手を取って負けたことがないですからな。笑顔が渋くならねばよいですがね……っと」


 そう言いながら駒を動かしていく。清三郎は辰之進と一局始めて直ぐに実感した。やはり常連組より辰之進は強かった。強い相手とやる将棋はとても面白い。


 面白さが先行してしまい、辰之進が直ぐに顔を渋くした。清三郎は三月の敵を討ってやらねばと思っていたので一局目に辰之進をがっくりさせようと決めていた。


 ただし、そう決めていたものの、ある程度は手心をと考えていたのだが、楽しさが先行し、あっという間に辰之進を撃破してしまった。


「う……このようにあっさりと。今日の清三郎殿は恐ろしく強い……」

「いやあ。気力体力が充実しておると駒が勝手に動きますなあ」清三郎が満面の笑顔で答えた。


 辰之進は清三郎の笑顔に増々渋い表情だ。

「もう一局!」辰之進が当たり前のように言う。


「喜んで!」清三郎もこれに応える。

 ここにきて良い顔をしない者がいくつか出た。常連組の面々である。


 久方ぶりに充実した清三郎と将棋を思い切り指せると息まいていたのだが、辰之進が来てかっさらってしまったのだ。皆面白くない。


 だが、辰之進が将棋道場に通いだし、常連組といくら親しくなったとはいえ堂々と文句を言える者はさすがにいなかった。


 清三郎は五分五分であった最近の勝負からいきなり連勝というのもまずいと思い、六勝ち四負けの配分で指していった。


 辰之進は一生懸命扇子で仰ぐ。昨日まで五分五分で実力が拮抗したと思っていた。しかし今日の対局は勝つ時もあるのだが、同じ勝ちでも軍配が上がるまでにかかる時間がこれまでの数倍を要したのだ。


 そろそろ三月の敵を討ったと納得した清三郎は、手心をかなり加えだした。次第に辰之進の表情が崩れていき、興奮した表情を見せるようなった。すると口も軽くなった。


「清三郎殿、そろそろまた吉原に一緒に行きませんか。花魁桜太夫、あれは清三郎殿に気がありますな。なんせ拙者が翌朝の支払いの折、いつも通りの代金で済んだのですからな。


大判を数枚請求されたら桶伏せ(窓をあけた大きな桶を客の上から伏せて閉じこめ、道端でさらし者にする吉原独特の私刑。


食事は与えられたが便所にも行けず、家族や友人が金を払いに来るまで出してもらえなかった)でしたからな。


花魁が座敷に入ってただとは……。これには拙者も驚きました。いや、桜太夫は清三郎殿に気がありますな。どうです。こちらは何時でも良いですぞ。今夜でも……」


 後ろの二人が殺気立つ。しかし清三郎はそれどころではなかった。三月のためにも一刻も早く誘拐事件を解決させたかった。


「明石殿。大変嬉しいお誘いですが、覚えておられませんか。桜太夫が拙者に頭を下げて頼まれた事を。


桜太夫が傍付きの禿二人を助けてくれと哀願された姿を。拙者、禿二人を助け出すまでは吉原の赤大門は潜れませぬ。それは明石殿も同じでは」


 その言葉で後ろの殺気が消えたと思うと三月と五月が清三郎に抱き着いて来た。清三郎がぐらぐらするので辰之進が驚いた。


「清三郎殿! いかがなされた!」

「あ、いえ。今日は調子に乗り過ぎて、ちと体の血が下がり申したようです……」苦しい言い訳だ。


 辰之進は禿二人を助けて欲しいと哀願した桜太夫を思い出す。

「確かに。あの禿を助けないと吉原には行けませんな。今度こそ桶伏せが待っておりますぞ」


「それで誘拐事件の話ですが、その後、似たような捜索願の届けはありましたか」

「届の数は少ないですが、連続しておりますな。しかしあれから既に一カ月以上経っておりますが禿はもはやどこぞに売られておるのではありますまいか」


「ということは明石殿、二度と吉原の赤大門を潜れぬということですぞ」

 辰之進は清三郎の言葉に目を開いた。


「そ、それは困る! お、おちよが待って……。あ、いや、こちらの話。ん? お、お、お主ら、何を笑って見ておるか!」


 常連らは辰之進の話に笑いを堪えることが出来なかった。辰之進は顔を真っ赤にして叱咤した。すると常連らは笑いを堪えて駒箱に視線を戻す。それでも皆の肩が揺れていた。


清三郎が辰之進に真剣な眼差しを向けた。

「明石殿、この辺で誘拐事件に本腰を入れたいと考えております。明石殿が吉原に再び登郭されるためにも」


 辰之進は興奮冷めやらずも頷いた。

「それで質問なのですが、江戸湾に湊という施設がございますか」


「湊ですか。もちろん全国と取引しておる湊が北と南にありますぞ。北の浅草湊と南の品川湊、この二つが主要の湊です。それが誘拐と関係が?」


「いえ。まだまだそこまでは。なるほど。北の浅草湊と南の品川湊ですか。ふむふむ。それで、それぞれの湊の管理はどのようになされておるのでしょう」


「北の浅草湊は北町奉行所の管轄下に置かれております。南の品川湊は南町奉行所の管轄ですな」

「全国と取引していると言われましたが、具体的にはどのような品が出たり入ったりするのでしょうか」


「大きく分ければ、特に年貢米の納入ですな。全国から相当な年貢米が入っております。江戸は米の大消費地でありますからな。


後は生活物資の納入と出荷や、各地の特産品が運び込まれますし江戸の特産品も出荷されますね。納入した品々は運河や河川を利用して江戸市場に運ばれ取引されるのです」


「北と南でそれぞれの奉行所が管轄と申されましたが、奉行所が直接納入と出荷を管理されているのですか」


「まさか。管轄地ではありますがさすがにそこまでは奉行所も面倒見切れません。それぞれの湊には幕府や各藩、領主が設置した蔵屋敷があり、そこに年貢米や物資が集められ保管、管理されるのです。


さらに蔵屋敷から物資を仕入れる問屋が設置され、問屋はさらに小売業者に物資を供給するといった具合ですね。


ああ、それと蔵屋敷の管理は各藩や領主から蔵役人が責任者として派遣され、名代や蔵元といった役職が蔵役人を補佐する役目を担っておるのです」


「ほお。各藩や領主の蔵屋敷があると。ということはそれぞれの湊は相当な広さがありそうです」

「それはもう相当な広さですな。そこまで気になされるなら、一度見物されるがよろしかろう。


そうそう蔵屋敷の目玉は何と言っても年貢米を金貨や銀貨などに換金できることです。米にも品質等級が設けられ、もっぱら入札方式で売買されておるようです。


落札した商人は代金と引き換えに米切手なる証を受け取るわけです。あ、拙者もそれほど商いには詳しくない故、この程度が精一杯でござる……ははは」


「明石殿。もう少しだけ。江戸湾の沖に外国船が停泊し、出荷される品を国外へ運び出すということはありますか」


 辰之進の顔色が一瞬変わった。しかし直ぐに笑顔に戻り、

「日本が取引している外国は公には現在オランダのみ。場所は長崎出島に限られております。外国船が江戸湾になどと……。そのような突拍子もないことをよくもまあ思いつかれる。ははは」


「そうですか。いや、明石殿。とても参考になりました。拙者、早速浅草湊を見学してみます。楽しみですなあ。全国各藩や領主の蔵屋敷……年貢米の換金……この目で確かめたいことばかり」


 清三郎が立ち上がった。

「え、今から見学に? これはまた急な話ですな。では将棋はここまでですか。もう少し楽しみたかったのですが。いやいや。


清三郎殿が見学に行かれるのなら、お供と行きたいところですが、将棋が出来ないのなら溜まった公務があります故、申し訳ござらん」


「それは相当溜まっておられるでしょう。はははは。そのお心遣いで充分でございます。江戸湾の湊の話、とても勉強になり申した。ありがとうございました」


 二人は話しながら階段を降りると、暖簾を潜り表通りに出た。すると辰之進が周囲を見渡し、直ぐに清三郎に耳打ちしてきた。


「清三郎殿。先の外国船の件。上では町人らの耳がありましたので話せませんでしたが、稀にそのような事はあるようです。


決して公にはされませんが。深夜にひっそりと。奉行所の噂話と思うてくだされ」そう囁くと辰之進は馬に跨った。


「では清三郎殿、明日昼過ぎに再戦と参りましょう!」

 辰之進があぶみを蹴った。たちまち馬が駆け出し蹄の音が遠くなる。颯爽としたその姿は南町奉行所筆頭与力そのものであった。


「しかし人とは不思議な生き者ですなあ。先ほどまで将棋に夢中であった明石殿がいざ馬に跨られるとまるで別人。本当に不思議なものだ」


 清三郎が歩きながらぽつりと話した。後ろで聞いていた三月と五月は「それは清三郎様も一緒です。明石殿とは比較にならぬ程に」と同じことを思った。


 

 浅草湊へ歩く清三郎に遠くから声を掛ける者があった。清三郎が振り向くと、辰之進と入れ違いで一人の同心が走ってくる。


 奥平彦兵衛であった。

 三月と五月は顔を見合わせた。出雲姫の予知が見事に当たったのだ。二人はにやりとした。


「お待ちくだされ橘殿!」

「おお。これは奥平殿ではありませんか。お久し振りでございます。昨年末以来でございますね。今日はいかがなされました」


 清三郎は奥平に話しかけながら油断なくその実力を確かめる。昨年末に奉行所修練場で見た奥平とは見間違えるほど上達している。走ってきた割に息も乱れていない。


「じ、実はお奉行から橘殿の補佐をせよとの命を受けまして」

 奥平は歩く清三郎に追従しながら説明した。


「お奉行様から? これは解せません。どうしてお奉行が奥平殿に私の補佐などと。仮にもし拙者が奥平殿と仕事をしたとしても私が補佐方。何の役にもたちませんが……」


「橘殿、謙遜はおやめ下さい。実は拙者も驚いておりました。八岐やまたの……あ、いえ」

「ん?」


「お奉行から命を受けまして奉行所からこちらに向かっておりますと、服部の隠密が接触して参りました。橘殿の補佐をせよと命じられた大元は半蔵様であると。


そして橘殿に『出島から例の者が大型船で出港した』と伝えるようにとの伝言を承ったと。橘殿、お分かりになられますか」


 清三郎の顔が険しくなった。

「そうですか。出島から例の者が大型船で……。はい。よく分かります。服部様が直々に奥平殿に指示を……。ならばこれよりは共に行動いたしましょう。拙者も心強い」


 横を歩く奥平の表情が明るくなった。

 清三郎は腕組みし歩きながら思考した。出島の闇魔導士大神官が大型船で出港した。この時合いで出港したとなると向かった先はおそらく江戸湾沖。


 もしそれが事実となれば清三郎の推理どおり少女の誘拐事件にオランダ闇組織が絡んでいたことになる。そして半蔵が清三郎の補佐役に奥平を差し向けた。


 三月の話を思い出す。三月はその心痛から思い切って古着屋に誘拐事件を相談していた。直ぐに対応出来なかった半蔵の償いか。


 それとも闇魔導士大神官が動いたからか。いずれにしても奥平はこれから清三郎と行動を共にするのだ。全てを説明しておく必要がある。


「奥平殿、今、拙者は少女誘拐事件を追っております。明石殿の話によれば、少女の誘拐などはめずらしいものではないとの事でしたが、実は吉原の花魁桜太夫の禿二人も攫われておるのです」


奥平は清三郎の話に驚いた。

「何と! 吉原の禿が二人ですと! ならば最近捜索願が出された者らも吉原に売られるとは限りませんね」


「さすが奥平殿。読みが鋭い。そうなのです。最近特に多かった少女の誘拐事件、その売り先は吉原ではない。では売り先は何処でしょう。


それは奥平殿が拙者に伝言してくれた内容が大きな鍵となりそうです。大型船で出港した例の者とは昨年暗躍したオランダの闇組織の大物です。もしこの大型船が夜の闇に紛れて江戸湾沖に停泊すれば……」


「おお! まさか江戸湾の湊に少女らが監禁されている可能性が……」

 清三郎は大声を上げた奥平の口を塞いだ。


「しっ。奥平殿、勘が良いのは褒めますが、声が大きすぎますぞ」清三郎が塞いだ手を離すと奥平は「こ、これは、つい取り乱してしまいました。以後気を付けます」と頭を下げた。


 清三郎は奥平の態度に違和感を抱いた。

 奥平は奉行所修練場での稽古では清三郎に対して冷たい当たりであったのだ。同心という公務の傍ら服部隠密という重要な仕事をこなしているのだ。


 気まぐれ稽古と思われても仕方ない清三郎に対して正当な態度だと思っていたが、今はどうだ。剣の実力を上げているにも関らず、その姿勢は謙虚。


 清三郎に頭まで下げた。清三郎には理解できない事だった。しかし奥平の中で何かが変わったのは確かなのだろう。見て取れる実力が証明していた。


 後ろの二人は奥平の変化に大満足だ。修練場の稽古では我が主に対する無礼が多々あった。その場で切り殺したい衝動を必死に堪えた。


 だが今の奥平は気持ち良いほど清三郎に従順だ。さらに二人は知っていた。奥平が変わったのは清三郎が奉行所修練場に残した偉大なる足跡によるものだと。


「いえ、こちらこそ急に口を押さえ付けて失礼いたしました」

「とんでもございません。重大な事を大声で話した拙者が悪いのです。この警戒心の薄れ。隠密失格でございます」


「拙者には分かります。過去に例がなかった命が服部様から下ったのです。それがなんと何処の馬の骨とも分からぬ輩の補佐をせよと。心が乱れて当然でありましょう。あまりお気になさらずに」


 清三郎の言葉に奥平は八岐大蛇の言葉を思い出した。「己の修練次第で清三郎の傍で仕えることになる。その時は清三郎の背中を見て全てを奪い取れ」


 奥平は清き心で清三郎を目の当たりにし、その為人(ひととなり)の素晴らしさを痛感した。その一挙手一投足を見逃してはならないと強く思った。そして八岐大蛇に心で礼をした。


 次に奥平が思ったことは清三郎が帯刀していないことだった。確か佐貫の合戦ではさすがに帯刀していた記憶があるが、それ以外清三郎が帯刀している姿を見たことがない。


 このような時代だ。滅多に刀を抜くことは無いが、それでも武士たるもの、帯刀することに意義がある。良家の御曹司ならばなおさらだ。奥平はその疑問を問うてみた。


「橘殿、貴殿は普段帯刀されませんが何か理由がおありですか」

 奥平の質問に清三郎が笑った。


「橘殿、拙者は真面目に聞いておるのですぞ……」

「それは失礼しました。奥平殿、拙者が江戸で何と呼ばれているかご存じでしょう。そのような者が帯刀などと……。刀という物騒な者は必要ありませぬ」


「しかし、もしも、もしも刀が必要になった時にはどう対処されまする」

「奥平殿、宝の持ち腐れという言葉をご存じですか。真にそれでございますよ。もしも必要になった時は……」


「必要になった時は!」

「気合……を入れてみますかね。はははは」


 清三郎の言葉に奥平は肩透かしを食らったような歯痒さが残った。しかし直ぐに気持ちを入れ替えた。

「橘殿、それでこれからどちらへ向かわれるのですか。私が案内いたしましょう」


「おお、それはありがたい。これから北の浅草湊でも見学しようかと思っていたところです」

 すると奥平が急に顔を近づけた。「浅草湊とは。早速下見ですね」と囁いた。


 清三郎は咳払いを一つすると軽く頷いた。

「浅草湊は北町奉行所の管轄ですが、拙者も熟知している場所でございます。気になることがあれば何でも質問してくだされ」


「ありがたいことです。しかしそろそろ日が暮れ始めましたね」

 清三郎が空を見ながら囁いた。すると


「橘殿、運河沿いに蔵屋敷が見えて参りましたぞ。江戸湾も目と鼻の先です」

と奥平が指さした。


「おお、これが蔵屋敷ですか。意外と所狭しに建てられているのですね。ははあ、これは意外でした」

 清三郎が走り出した。奥平も追従する。


「はあ……。なるほど。運河沿いに蔵屋敷が並んで建っているのですね。これなら船が相当役に立ちますね。商業の中心は船でしたか」


「そうですね。陸路よりは海路で商業が発展したようです。南の品川湊も江戸の商業を支える中心です。そういえば、上杉米沢藩の蔵屋敷も確かここ、浅草湊にあったはずです。さてどこだったかな」


「え、ここに米沢藩の蔵屋敷があるのですか」

「確かそうだったと思います」


「ほお。そうですか。浅草湊のどこかに米沢の蔵屋敷が……。しかしどの蔵屋敷も頑強な作りですね。厚い壁に門まで構えた蔵屋敷もありますぞ」


「年貢米を主として各藩の特産品を大量に保管しておく大倉庫ですからね。火事や盗みから防ぐため、どこの蔵屋敷も作りは頑強です」


「各藩の蔵屋敷が並んでいる割には町人が沢山おられますね。これは理由があるのですか」

「それはもちろん商業地の中心だからですよ。


蔵屋敷の管理自体は各藩から派遣された蔵役人らが行いますが、全て商売に直結するのですから町人が多くて当たり前です」


 清三郎が奥平に近づき、声を低くして尋ねた。

「例えばこの湊の何処かに少女五十人が監禁されているとします。


そして江戸湾沖には外国船が停泊していると想像してください。少女を小舟で外国船まで運ぶ必要がありますが、どれくらいの手間と時間がかかるでしょうか」


「そうですねえ。小舟に少女五人を乗せたとして小舟一隻なら十往復。小舟二隻なら五往復。小舟が一往復するのにちょうど一刻(約2時間)程度でしょうか。


私も実際に小舟に乗った事がありませんので確かなことは分かりませんが、概ねそのあたりかと……」

 奥平が一生懸命説明した割には清三郎の反応がない。見ると清三郎は目を瞑っていた。


「橘殿、橘殿」

 清三郎がはっと我に返った。


「橘殿、どうされました。拙者の話を聞いておられましたか」

 清三郎は咳払いを一つすると「もちろん聞いていましたよ。小舟一隻に少女が五人。沖の外国船まで往復およそ一刻ですね。


もちろん聞いておりました。小舟二隻ならば五往復ですか。ちと時間が掛かり過ぎますね。しかし五隻なら二刻(約4時間)ですか。ふむふむ。十人程度が乗れる中型船のようなものはありますか」


「もちろんあります。商業用として弁才船(べんざいせん)北前船(きたまえぶね)が多く利用されています。


もっぱら木材や米を運ぶ輸送船ですが、これらを使えば子供二十人は乗れるかも知れません。ただ漕ぎ手が増えますから沖の大型船まで子供を運ぶには実用的ではないでしょう。


あ、これはあくまで拙者の考えで、実際には良い方法があるのかもしれませんよ」

「ならば小舟に子供を十人乗せることは出来ますか」


「もちろん可能です。ただし漕ぎ手の労力を考えると小舟はそれこそ亀のような速度になるでしょうね。効率を考えれば概ね五人が良いところでしょう」


「なるほど。いや、奥平殿。素晴らしい見識です。とても参考になりました。奥平殿が傍にいてくれたおかげで湊というものがよく分かりました。本当に助かりました」


 清三郎に褒められて奥平も嬉しそうだ。

 二人は建ち並ぶ蔵屋敷の間を通っては清三郎が気になる物があればその都度奥平に質問した。


 奥平も服部の隠密だけあって商業面にも精通していた。

 かなり日差しが弱まってきた。気付くと人気のない通りを歩いていた。


 清三郎が「今日はそろそろ帰りましょうか」と奥平に話しかけた時、目の前に大男が立っていた。

 着物の上からでも筋骨隆々であることが分かる。


 着物はかなり古いが帯刀している獲物は優れ物と分かった。見たところ浪人のようだ。通りは狭く大男が邪魔で前へ進めない。


 奥平が「御免」と言って大男の横を素通りし、清三郎も後を追う。すると後ろから「待て」と図太い声がした。


 二人が振り向くと、その浪人は弱まった日差しに照らされて異様な気配を(さら)け出した。

 奥平が清三郎の前にでる。


 大男の浪人が左手を刀の柄に置いた。

「上杉家のただ飯喰らいとはお主のことか」


 図太い声が狭い通路に反響する。浪人は清三郎を知っているようだ。

「いかにも。その呼び名は拙者に間違いない。してお主は?」


「当時、十のわっぱであったのだ。(それがし)の事は覚えておらぬか。致し方なき事かのう」

「橘殿、知っておられる御仁ですか」


 その時、清三郎の脳裏に幼き頃の情景が思い出された。残暑厳しい陽ざしの中、大熊を退治した次は道場破りと息巻いた幼き清三郎に吹いた風を思い出したのだ。


 当時十の童であった清三郎の目の前には「小山道場」という標がどっしりと構えていた。

 そこへ堂々と勇み入ったのだ。


 道場に上がると直ぐに数人の弟子が追い払おうと寄ってきた。これに対して弟子らの間をすり抜けながら腰に差した小枝でそれぞれの小手を叩いて木剣を落とさせた。


 調子に乗った清三郎に対し、道場の上座から目録師範代を語る大男が現れ、清三郎の前に立ちはだかったのだ。


 走馬灯のように過去の記憶が清三郎によみがえる。本当に幼かった。

 尋ねる奥平を後ろに下げて清三郎は前に出た。


「ええ。拙者が十の時から知っている御仁です。今思い出しました」

 大男の浪人は、清三郎が十の時に道場破りを決行し、見事に倒した一刀流目録師範代、吉田祐善その人だった。


 奥平は「そうでしたか。ならば無用の心配でしたな」と答えたが、男が発する異様な雰囲気は只者ではないことを物語っていた。


「今思い出しただと。面白い事を言ってくれる。某、あれからお主の事を一刻たりとも忘れたことはないわ!」


 祐善が言い終えた瞬間、強烈な殺気が放たれた。正面に立つ清三郎の髪が殺気でなびく。

 直ぐに清三郎が叫んだ。


「手出しは無用!」

 清三郎が叫んだのは奥平にではない。後ろで控える三月と五月に対してだった。


「ほお。手強い同心を従えておるからか。強き言葉じゃのう。某が十のわっぱに敗れた時、小枝で撃ち抜かれた某の顎は罅が入り、しばらくは激痛が続いた。


今でも秋口になると痛みで顎が疼くわ。門弟らは名も分からぬお主を探し回ったが、当時は結局分からず仕舞いであった。


道場破りで某が負けたという噂も米沢には広まらなかった。しかしのう……十のわっぱに負けた某を陰で同門衆が笑うのじゃ。


これに耐えられるか。その内に噂が流れた。江戸家老に就任した橘清十郎が米沢を出立した日、見送る民衆の前を堂々と歩いた橘家の長男は実は女中の息子だったという噂がのう。


その噂のためだけに、わざわざ門弟の下っ端が江戸まで確認に行かされたのじゃ。米沢に帰った門弟は某を倒したわっぱは橘の長男、清三郎に間違いなかったと小山の主殿に報告した。


それからというもの稽古に打ち込めなくなった某はその内に免許剥奪。気付けば破門され放浪の身じゃ。ふふふ。しかしのう。


お主をいつか見つけ出し、この剣で殺すまでは死んでも死に切れぬと誓って武者修行に励んだのじゃ。そうれがどうじゃ。


意を決し江戸へ来てみると、江戸中がお主の噂で持ちきりであったわ。上杉家のただ飯喰らいとなあ。 実際に町風呂屋の将棋道場に通うお主をこの目で確認した。へらへらしおって気が抜けたわ!」


 清三郎は祐善の話が終わると、その場に胡坐(あぐら)を組んで座った。そして頭を下げた。それは祐善に対する清三郎渾身の敬意だった。そして語った。


「吉田祐善殿でございますな。拙者は橘清三郎と申します。挨拶が非常に遅れて申し訳ない。確かに拙者は十の時に道場破りを決行しました。


今考えれば幼き(わらべ)であった故の過ちと反省しております。しかし、今話された吉田殿のその後については拙者には全く関係のないことでございましょう。


十の童に負けたから稽古に打ち込めなくなったのは吉田殿の心の持ちようにあったと思います。確かに拙者は数え十九。立派な大人でございます。


しかし十の童にその後の人生の責任を押し付けて、大人になった拙者がその責任を背負うことは到底出来ません。


ただし、拙者が十で行った道場破りを謝れと申されるのであれば、潔くここで謝りましょう」

 清三郎には見えていた。祐善の霊力はとても大きかったが黒くよどんでいた。


 祐善の話は本当で、清三郎を恨み、恨みぬいて生きて来たに違いなかった。だからと言って清三郎にもこれ以上祐善に対して何も言えなかった。


 ――残るは剣で語るのみ

 清三郎の後ろで待機している奥平、三月、五月は固唾を呑んで見守っている。


 奥平は思った。清三郎が十の時に道場破りをしてこの男を倒したという。しかし今はどう見ても清三郎が劣勢だ。


 奥平の目には吉田祐善なる大男の力量は自分と同等かそれ以上と踏んだ。それなのにどうして煽るようなことを言うのかと。


 祐善が図太い声でゆっくりと語る。

「某、江戸に上京してお主の噂を聞き、お主の姿を見た途端、これまでの恨みが吹っ飛んだわ。このように腑抜けた男を殺しても何の価値もないとのう」


 祐善は頭を下げたままの清三郎を見据えながら右手で刀の柄を握った。ゆっくりと抜く。剣を抜く「すー」という音がかすかに聞こえる。


 そして両手で柄を握ると右上段に刀を構えた。弱まった日差しに照らされて刀が妖しく光っている。

 さらなる殺気が清三郎を襲う。


 清三郎は頭を下げたまま叫んだ。

「手出し無用!」


 この叫びは奥平に対するものだ。

 祐善がその姿勢のまま語る。


「しかし、今、気が変わった。後ろに控える同心は相当な手練れ。それを従えての『手出し無用』との言葉であろう。


どうせ某が刀を振り下ろせば後ろの同心が防いでくれる。助けてくれると思うておるのであろう。恥ずかしいと思わんのか……。


手出し無用とはよく言ったものよ……某、他人の力を得て物事を語る者が嫌いでのう。他力本願とはこの事よ」


 祐善の眼が頭を下げた清三郎の頭部を捉えた。

 清三郎は頭を下げたまま動かない。


「滅殺!」

 祐善が刀を振り下ろそうとした瞬間、それまで祐善が目にしていた情景ががらりと変化した。


 目の前には腰を低く身構えた清三郎が対峙していた。その腰には「鶴姫一文字」と「謙信景光」が輝きを放っている。


 清三郎の鶴姫一文字が一閃した。

 すると祐善の目にはこれまで見据えていた清三郎の頭が再び映っていた。


 が、視界がぐるりと空になった。頭を地面にぶつけた。周囲が回転している。回転が止まって目に映ったものに驚いた。


 刀を右上段に構え、首から血柱を吹き上げている者が立っている。「あれは某なのか……そうか。橘清三郎……恐るべし……」


 祐善は「はっ」と我に返った。生汗が全身を流れている。構えていた刀を下ろし、さっと左手で自分の頭を確認する。


 首を触るとぬめっている。直ぐに掌を見たが血ではない。生汗だった。どうやら首と体は繋がっている。清三郎を見る。胡坐を組んだまま祐善を見つめている。


 清三郎は霊力をあやつり、心で祐善と剣を交えたのだ。

 心技体、さらに霊力をも極めた者のみが成せる究極の技であった。


 祐善を見つめる清三郎の瞳は、剣を交え、祐善の生き様を思いやったものとなっていた。


 祐善はがっくりと片膝を落とし、体を右手の刀で支えていた。額から生汗が滝のように流れ落ちている。「ぷはあ」と大きく息を吐いた。


「い、今のは何だ……今のは……」

 祐善のその言葉で清三郎が立ち上がった。


 奥平は何が起こったのか全く理解できなかった。何がどうなって祐善が片膝を付いたのか。しかし清三郎が何か仕掛けなければこのような結果にならないことは明らかだ。


 もしそれが何らかの技ならば、恐ろしいとしか言いようがない。

 清三郎が十の時に道場破りを決行し、この大男を見事に倒したという話には驚いた。


 が、目の前で起こった対決にはそれ以上に驚いた。相手は刀を上段に構えていたが、清三郎は刀を抜くどころか帯刀していないのだ。


「技を盗もうにもこれでは何も盗めません八岐大蛇様」奥平は清三郎の背中をじっと見据えた。


 清三郎の立ち合いを見届けた三月と五月はその圧倒的な強さに感激し、全身の毛が逆立った。

 このような立ち合いを見たのは初めてだった。二人は抱き合って喜んだ。


 清三郎は片膝を付いた祐善に対し、

「吉田殿、吉田殿が小山道場を追い出され、これまで生きて来られた苦悩……。剣を交えて初めて分かり申した。


吉田殿の苦悩には、拙者、剣で応じるしか手立てがありません。拙者を殺したいと思われたら何時でも訪ねてきて下され。逃げも隠れも致しません。では、拙者はこれで。御免」


と告げるとその場を後にした。奥平も後に続いた。

 片膝を付いた祐善はしばらく動くことが出来なかった。


 祐善は清三郎との対決を振り返る。あのまま右上段から刀を振り下ろせば、いや、振り下ろすまでに自分の首が切られることを、清三郎と対峙しただけで悟らされたのだ。


 祐善自身が対決の結末を直感し、自らその結末を脳裏に描いたのだ。凄まじい恐怖だった。「某の苦悩には剣で応じるしか手立てがない……か。


あの若さで得たというのか……あのような技を……」祐善は清三郎の常軌を逸した強さに自身の惨敗を認めるしかなかった。そして何故か心が楽になった気がした。


 その様子を一羽の黒鳥が捉えていた。赤い目をした闇魔導士大神官の愛鳥である。



 清三郎が浅草湊を出た頃には付近は真っ暗になっていた。提灯も持っていない。

「奥平殿、明日は夜明け前に少女の監禁場所を探索するやも知れません。それでその折には奥平殿に連絡を入れたいのですが、ご自宅を教えてもらってよろしいでしょうか」


「もちろんです。みすぼらしい家ですが。しかし夜明け前に連絡とはどのような手段を使われるのです?」


 すると清三郎はにやりと笑い、「ヒュイ」と指笛を鳴らした。すると清三郎の後ろの闇から巨大な大鷲が両翼を広げて現れた。


 闇夜でもはっきりと分かった。これに奥平は腰を抜かして尻もちをついた。大鷲は清三郎の肩に足を乗せるとゆっくりと両翼を閉じた。


 清三郎が「拙者を心配して日暮れと共に迎えに来てくれたのですね出羽神。嬉しゅうございますぞ」と肩に乗った出羽神を撫でてやった。


 奥平は目を広げて「た、橘殿、そ、その大鷲はいったい……」

「この大鷲は出羽神という名で拙者の友でございます。翌朝の連絡はこの出羽神が行います故。さあご自宅に案内してくだされ。出羽神は空へ。奥平殿のご自宅をしっかり覚えるのですよ」


 出羽神は「クワー」と鳴くと空に舞い上がった。

 腰が抜けた奥平はさらに思う。「八岐大蛇様、このままでは橘殿から何も盗めませぬ。なにとぞご慈悲を」


 清三郎は奥平を意に介さず「明日が楽しみですなあ」と喋りながら歩いている。奥平が叫んだ。

「橘殿、拙者の自宅はそちらではありません。あちらです」と四つ角の一方を指さした。


「おお。そうでしたか。それは失礼」といいながら奥平を置いたまま歩き出した。

「奥平殿、いつまで座っておられる。夜が明けますよ」


 奥平は何とか立ち上がると、走って清三郎の後を追った。

「橘殿、このような暗闇でどうしてそのように早足であるけるのです。恐ろしくないのですか」


 清三郎は答えた。

「奥平殿、目に見える者だけが全てとは限りませんぞ。心の目で道を見るのです」


 奥平は清三郎の精神がおかしくなったのでないかと思った。まるで精神を病んだ者の物言いだったからだ。


 奥平は清三郎が早足でどんどん歩くので、うっすらと見える清三郎の背中を見ながら一生懸命付いていった。


 自宅へ曲がる辻が来る度に「清三郎殿、右ですぞ、とか左です」と後ろから声を掛けていた。

 奥平は思った。明日こそは、明日こそは清三郎から何かしら奪うのだと。

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