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げーむおーばー

作者: FUJIHIROSHI

 残りの食料はあと四個、なんとかなりそうだ……。


 俺の名は砂永友広すながともひろ三十……幾つだったか忘れたが世間でいうひきこもりのニートってやつだ。




 事が起きたのは昨日の晩、いつも決まって夜九時に晩飯が部屋の前まで運ばれてくる。


 だが昨日は時間を過ぎてもいっこうに晩飯が運ばれてこなかった……。


 いらだった俺は壁を蹴り、物を投げつけたが静まり返り、物音ひとつない。


 おそるおそる部屋から出て、十数年ぶりに台所に向かった。


 久しぶりの台所には玉ねぎやニンジン、ジャガイモが散乱し違和感を感じた。


 水場の近くにさしかかったところでそれを見た。


 ババアの足だ……とうとう倒れやがった……。


 残りの食料はあと四個のカップラーメン。俺は倒れているババアを横目に、その一つにお湯をそそぎ、自分の部屋に戻った。


 二体のラスボス、ジグニーとスグナを倒さねばならない!




 あくる日、結局徹夜をして、ようやくラスボスを倒した。


 長かったがゲームのエンディングはとても良かった。


 見終わると直ぐにネットで検索した【簡単な自殺の手順】を参考に準備を進めた。


 あのゲームのエンディングを見ずに俺は死ねなかった。


 だから思い残すことはもう何もない、どのみちババアがいなけりゃ飯の支度もできないし生きていく事が不可能。


 俺にとってこの先生きていく方が地獄、死ぬなんて怖くなかった。


 首吊りか……こうして俺は人生のエンディングを迎えることにした。




 く……苦しい……俺は意識が遠のいて瞼がゆっくり閉じていくのがわかった……。


 その時突然何かに引き付けられ、ものすごい速さでどこかに吸い込まれていく……まぶしい。


 そこは映画で観たような宇宙空間で足元に広がる星々のような光がまるでお花畑のようだ。


 しばらくすると今までの感覚がなくなり、大きな、星の川のような手前でピタリと俺の体は止まった。


 これが世にいう三途の川か……俺は死んだんだよな?




 すると川の向こうから何かが近づいてくる! 誰だ……宇宙人⁉︎


 ほんとに映画で観たことのあるような二匹の宇宙人が俺の前に現れた……どう見ても宇宙人、だよな?


 宇宙人A「ようこそ」


 宇宙人B「君の肉体はつい先ほど滅びた。いまそこにいるのは君の魂だけ、肉体は存在していない」


 宇宙人A「私たちは管理者で、君たちの星の死を管理している」


 くそっ死後の世界まであるのか。


 宇宙人A「これから君には選択をしていただく」


 宇宙人B「よーく聞くがいい。この星の川を渡った先には扉が三つある」


 宇宙人A「左の扉は新しく生まれ変わる輪廻の扉、真ん中の扉は過去に戻りもう一度同じ親から生まれることができるやり直しの扉」


 宇宙人B「右の扉は、ただただ何も感じず宇宙のチリとなる空虚な扉……無だ」


 そんなの答えは出てる。右の扉だ!


 あんな世界に戻って何になる。生まれ変わるなんて冗談じゃない!




 宇宙人B「……そうあわてるな。君はこの川を渡る間に君にまつわる【想い】を知ることになる」


 宇宙人A「本来、他人の心の声など聞こえないし相手が何を考えてるかなんてわからないが、これから君は、その他の人の声を聴き、その映像を見て川を渡ることになるのだ」


 は? そんなの必要ない! 糞人生を繰り返してたまるか!


 宇宙人B「ははっ。繰り返すかは自分次第なんだがね……ま、それでは扉の近くで待っている。よーく考えるのだな」


 俺は星の川にゆっくりとふみだした……。




 ——おぎゃあおぎゃあ。


 赤ん坊の姿がはっきりと見える。俺か!


 目の前にそのころの両親がいた……まるでその場にいるかのように流れる映像が見える。走馬灯ってやつか?


「ねぇあなた。私考えたんだけど……この子の名前、友広ってどうかな? 友達がいーっぱいできるように」


多恵子たえこが考えたならそれで良いよ。良い名前だと思うよ」


【友広君、生まれてきてくれてありがとう! 私はどんなことがあっても君を守り立派に成長させるからね】


 ふん、友達なんて一人もいなかったよ、皮肉な名前つけやがって!




「ママー今日ね、おゆうぎかいで木の役に選ばれたんだーどうせなら鬼をたいじする主役がよかったなー」


「えー良いじゃない。友広はみんなより大きいから木の役も立派な役だよー。友広は優しいから鬼さんを退治しちゃかわいそうだよ」


【どんな役でもいい、その木のように大きく成長して欲しい】


 ふん、お前のおかげで不細工に生まれてきたから役なんてもらえる訳がねーんだよ。




「友広ごめんね。パパはお仕事で遠くに行っちゃったからしばらく会えないの……大丈夫?」


「……ちょっとだけ寂しいけどママがいるからだいじょうぶ」


【嘘ついっちゃってごめんね。友広は本当に優しい子。寂しい思いをさせないようにママがんばるからね】


 借金を残して出ていかれて、お仕事だって? 笑わせんな。




「友広、明日お誕生日だね。何かおいしい物でもお外に食べに行こうか?」


「うーん。ママのシチューがいいなーママのシチュー大好きなんだー」


「シチュー? シチューでいいの? わかった。じゃ明日はママが愛情いっぱいのシチューを作るね。ケーキだけ買いに行こうね」


【うちがそんなに裕福じゃないとわかって子供ながらに気をつかってるんだね……もっとがんばらなきゃ】


 ……そんなんじゃねえよ。




「先生! 友広は、いじめなんてぜったいにしません! 友広は本当に優しい子なんです!」


「お母さん、顔を叩かれた、たかし君が友広君にやられたって言ってまして……」


「友広は認めたんですか?」


「うつむいて、だまったままです。でもクラスのみんなが見てたらしいので」




「たかし君のお母さん、本当に申し訳ありません。なんて謝ってよいか…」


「お引き取りください。片親だと子供のしつけもろくにできないんですね!」


【クラスのみんなが見ていたと言われてしかたなく謝ったけどママは友広はそんなことしない子だって信じてる!】


 そうだよ。こいつが俺のせいにしたんだ。こいつにいじめられてたやつらが、俺が叩くのを見たと嘘を言って。友達だと思ってたのに……ババアは俺を責めなかったな。






「母さん、体調悪いから今日も学校休むよ」


【先生から連絡あってみんなから仲間外れにされてるの知ってるよ。こんな時どうしていいかわからないけど、友広がんばれ! 負けるな!】


 ……。




「わーうるせー学校なんて行きたくねーんだよー」


【ごめん! 友広ごめんなさい。もっともっと愛情を注いであげれば良かったのに、ごめんなさい】


「健司君、友広学校で何かした?」


「ちょっとわからないです」


「優貴君、友広に会いに来てくれないかな?」


「塾があるのですいません」


 ババア……いろんな奴に声をかけて……こんなことしてたのか。




「砂永さんあんた働きすぎだよ。顔色わるいよ。病院に行ったほうがいいんじゃない?」


「大丈夫よ、佐藤さん。ちょっと寝不足なだけだから、ありがとね」


【休んでなんていられない。友広が立ち直るまで、がんばらないとね。でも、たしかに、私になにかあったら友広はどうなるだろう?】


 顔色が悪かった? 気づくはずもないよな。母さんの顔を、まともに見なくなってたから……。




【友広心配いらないよ】


【友広お腹すかせてないかな?】


【友広きっと大丈夫】




 ガシャーン


【友広……声がでない……苦しい……動けない】



【友広、友広ごめん。あなたのこと幸せにできなくて……】


 これは、二日前か?


 ジャガイモ、ニンジン、玉ねぎ?


 シチューを作ろうとしてたのか?


 二日前って……そうだ、俺の誕生日だった。


 そういえば、これまでもシチューが出てくる日があったけど、もしかして……。


 川に足を踏み入れる前の勢いはなく、俺は重い足を引きずるようにして……何度も過去を、後ろを振り返りながら川を渡り切った。



 宇宙人A「さあ選択の時だ」


 宇宙人B「君が開く門の前に立つのだ」


 宇宙人A、B「!」


 宇宙人B「本当に、それでいいのだな」


 あぁ。


 宇宙人B「やり直しの扉で間違いないな!」


 宇宙人A「……そこの試練は人間界でいう地獄のような試練だぞ! 今ならまだ選びなおしてもいいぞ。選びなおしたらどうだ?」 


 必要ない。やり直しの扉だ。


【母さん……ごめん。母さんの想いをまったくわかっていなかった。次こそは母さんを必ず守ってみせる!  また母さんの子供に生まれたい!】


俺は迷うことなく扉を開き進んだ。



 宇宙人B「行ったな」


 宇宙人A「……あぁ行った」


 宇宙人B「よしゃー! 二万八千ギール! 賭けは俺の勝ちだぜ」


 宇宙人A「くっっそー、お前の勝ちかよー。まさかあのクソガキがやり直しの扉に行くとはな……」


 宇宙人B「ははっ! まだこないだの分ももらってないから五万六千ギールなー」


 宇宙人A「はあー、そうだった。あいつの……あんな子供想いの母親が輪廻の扉に行ったもんな。あれは読めなかった……しかし、あいつがやり直しとは……」


 宇宙人B「ほんと、お前は読みがあまいんだよー。あの母親も、川を渡る時にガキの想いを知ったとたん『もうあんな人生まっぴらです』ってさっさと輪廻に行ったからな。めっちゃ笑えた!」


 宇宙人A「人間とはそういうもんか」


 宇宙人B「すぐに裏切る。血が繋がっていたってな。そういうもんだぜ! これで、母親が輪廻に行っちまってるから、同じ母親から生まれることができなくなったあいつは、未来永劫さまよい続けるのさ。壮絶な地獄をな」


 宇宙人A「あー、そのこと説明してなかったな。ま、いいか。次は負けねーからなー絶対勝つ! よし今度はあそこの家族をめちゃくちゃにしてやろう」


 宇宙人B「お前も悪いやつだねー。賭けのためにあいつらの人生壊すんだからさー」


 宇宙人A「しかたないだろ。あいつらは我々が作り出した暇つぶしのおもちゃなんだから」


 宇宙人B「まあそれもそうだなー。次も負けないぜー」




【母さん待っててね。必ず試練を耐えてみせるから】



 おしまい

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