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駆け出し冒険者の俺は裏レベル100  作者: 可じゃん
第五章 正悪編
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怒りの一撃

第五十四話

 戦闘の最中、ラスは自身の直感を一切疑うことなく信じた。

その直感とは、一種の警戒アラートのようなものである。

何か、自身の手では負えない事態が発生すると、野生の勘が伝えたのだ。

だから、ラスは一旦停止した。


「いきなり止まったわ...」


フリエナが言う。

そしてそれにはコラゴンとソルナも困惑していた。


何か作戦でもあるの?

私たちの出方を伺っている?

まさか他にも仲間が来ていて、囲まれた?


などといろいろな可能性を考えるソルナだが、どれもイマイチピンとこない。


「どうしたのラス?」


しばらくの沈黙を破ったのはラストであった。

彼女もラスの行動が気になり、思い切って質問したのだ。


「何か、ヤベェのが来る。」


「?」


困惑するラスト。


「ユキマルってやつじゃねぇ、あいつと同等、もしくはそれ以上の何かがく──」


ドゴゴゴゴゴゴォォォォォ!!!!!


次の瞬間ラスの体躯は地面を抉りながら通りの端まで吹っ飛ばされた。


「え?」


真横にいたラストですら困惑した。

一瞬の出来事で理解が追いつかなかったのだ。

いや、理解以前に、何も見えなかった。

気づいたら、隣にいたはずのラスが向こうまで吹っ飛んでいたのだ。

そして、先ほどまでラスが立っていたはずの場所には別の人物が立っていた。

白金の鎧に身を包みし『刹那の勇者』、ルクスである。


「ルクス?!」


遅れて状況を把握したソルナが、思わず声を上げる。


「やあ、遅れてしまってごめん。」


「ふぅん、あなたがあの『刹那の勇者』と呼ばれている....」


ラストはできるだけ平静を取り繕っているが、冷や汗が頬を伝うのを感じる。

彼女は、目の前にいる人物と本能的に“格”の違いを感じたのだ。

それはラストだけではなかった。

その場にいた全員がそれぞれ圧倒的強者の参戦に一人は恐怖を、一人は警戒を、一人は安堵を、一人は希望を抱いていた。

そしてここにもとある感情が爆発した者が一人。

怒り(ラス)である。


「テメェ、よくもやってくれたなぁ....。身体中が痛くて痛くてたまらねぇんだよ。」


ヨロヨロと這い上がってくるラス。

誰の目から見ても立っているのが限界だということは明らかだった。


「それは彼女達にしたことの分だよ。」


そう言ってソルナたちを庇うルクス。


「しらねぇよ、んなこと。今はテメェをどうぶち殺すか考えてるから怯えて待っとけ。」


怒りでワナワナと震えがら言うラス。

普段は怒鳴り声をあげているが、やけに冷静に話しているあたりから、逆に彼がどれだけブチギレているかが想像できるだろう。


もう、温存とかしらねぇ、ユキマルから吸った魔力10割を全ブッパだ。

最強の一撃をお見舞いしてやるよぉ。


拳に魔力を集中させるラス。

この一撃は諸刃の剣だ。

確かにこの一撃は、これまでのラスの人生の中で一番の威力を誇る一撃になるだろう。

しかし、この一撃を受けた相手が倒れようが、倒れまいが、どのみちラス自身は魔力切れで戦闘不能になってしまう。

傷の量や、魔力切れの反動によって意識を保つことさえままならないだろう。

それでも、それらのデメリットを理解してなお、ラスの決心は堅かった。


「『怒りの一撃(レイジバーストォォォ)』!!!!」


ルクスまで距離を縮め、拳が相手に当たるのと同時に集約された魔力を一気に放出する。

その威力は付近の建物を巻き込み、衝撃によって崩壊させるほどの強さだった。

突風が巻き起こり、ソルナとフリエナは立っているのがやっとだ。

コラゴンに至っては飛ばされまいと必死にソルナの服にしがみついている。


ドオオオオオオオオオオ


凄まじい爆音と共にラスの力が抜ける。

これは魔力を使い果たした反動であり、最初から計算に入れていたものだ。

しかし、ここに大誤算が一つ。


「ク...ソが.....」


ドサっと地面に倒れるラス。

意識も完全に飛んでおり、これ以上の戦闘は不可能だ。

そして、対するルクスはだが──


「うそ......」


驚愕の表情を浮かべるラスト。

もはやここまでくると笑みすら漏れてしまいそうになる。


「無傷だなんて....」


ラストの言う通り、ルクスは全くもってダメージを受けていなかった。

片手を前に出し、ラスの拳を平然と受け止めていたのである。

圧倒的強者。

人は『勇者』という存在をそうとも表現する。

ラスとルクスには残念ながら埋まらない差があった。

そして今、それを嫌ってほど見せつけられたのだ。

これにより、スロースとラストは戦意を喪失した。


「戦いはこれぐらいにしてくれるかな?」


ルクスの問いに対し、渋々頷くしかない二人なのであった。


「ラスト、スロース。」


遅れてやってきたソロウが二人の元へ駆けつける。


「ラスはやっぱり喧嘩を売っちゃったか....。」


「あら、ソロウじゃない。どうしてあなたがここに?」


ギルティアの元へ向かったはずのソロウが何故か戻ってきて、疑問を浮かべるラスト。

しかし、ソロウにとってはそれどころではなかった。


「いや、後で全て話すから、今は撤退しよう。」


この発言には流石のラストも驚いたが、しばらくの沈黙ののち、頷いた。

なんとなくだが状況を理解したのだ。


「わかったわ。街の人の操作も全員解除すればいいのね?」


「頼むよ。」


そうして、ラストに操られていた人々は、普通の精神状態へと戻った。

大半は戦闘の影響で気を失っているが、時期に目を覚ますだろう。


「約束、守ってくれるかい?」


ルクスは『魔王狂信派』の去り際に問いかけた。

反応したのはソロウだ。


「もちろんわかってるよ。」


そう言い残し、『魔王狂信派』は『カヒューゼム教国』を後にしたのだった。


・・・・・・

・・・・

・・



ラスのことはソロウがおぶった。

しばらくは目を覚ましそうになかったので、そうすることでしか移動できなかったからだ。

肉体労働をあまり好まないソロウからすると、憂鬱以外他ならないが、仲間のためなので仕方なく受け持ったのだ。

そうして、しばらく撤退という名の帰路を歩いていると、ラストはずっと気になっていたことを聞いた。


「ねぇ、場当たり的にあなたの指示に従ったけど、結局撤退したのはなぜなの?」


「それは、ラストも薄々勘付いていると思うけど、『勇者』があの場にいたからだね。完全な誤算だよ。」


「やっぱりそうなのね。」


この回答はどうやら予想していたラスト。

しかし、それでも納得できない者がいた。

スロースである。


「でもー、私たちでー同時に相手すればー、逆に相手をー撤退させることができたんじゃないのー?」


曰く、いくら『勇者』といえど、『布教者(ミジョナリーズ)』4人を同時に相手するのは厳しいだろうとスロースは言ったのだ。


「まあ少し前の僕だったら、そう判断していたかもね。でもああも実力差を見せられては....」


ソロウは少し前に、ルクスと対峙して、能力を全て無力化されたことを話す。


今思えば、あれも僕の戦意を挫いて、撤退の判断を仰ぐ目的があったのかもなぁ。


なんて思考を巡らせる。

このように、実力差を簡潔に説明したわけだが、それでもスロースは食い下がらなかった。


「でもー、ラスはボロボロだったのにー、『勇者』の攻撃にー耐えたよー。万全なソロウとラストならーやっぱりいいところまでいけたんじゃないのー?」


「うーん、ラスには申し訳ないけど、おそらくは相当手加減されてたんだろうね。その証拠に、『勇者』は()()()()()()()()()()()。あの『神武』『クラウ・ソラス』をだ。」


「?!」


「噂には聞いていたけれども、やっぱりあの腰に携えていたものが本物の『クラウ・ソラス』なのね....。」


これには流石にスロースも沈黙した。

今まで見えていた微かな希望が、簡単に消え去ったのだ。

“初めから敵うはずもなかった”、というのが全員の現在の認識だ。


「それで、その『勇者』と交わした約束っていうのはなんなのかしら?」


ラストが最も気になっていた部分を聞く。


「それは2つあって、一つはこの件から手を引くこと。どうやら『勇者』的には『魔王狂信派』と『英傑団』で争って欲しくないらしくて、穏便にことを済ませるために、僕たちに撤退を約束させたんだ。」


「なるほど、まあ妥当ではあるわね。」


「そして二つ目というのが、あのドラゴンとエルフの少女から手を引くということ。まあ、元々バニティーが勝手に始めたことだし、勝手に辞めようが魔王様から罰を受けるなんてことはないと思うんだけど。」


「『魔王狂信派』を名乗っている身としてはやるせないけれども、それもまあ仕方ないわね。」


「うん、だから、今後はしばらく身を潜めることになると思う。グリードとプライドには申し訳ないけど、僕たちではどうしようもできないしね。」


こうして、『魔王狂信派』はしばらく表に出ることを控えることに決めたのだった。

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