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駆け出し冒険者の俺は裏レベル100  作者: 可じゃん
第五章 正悪編
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『勇者』ルクス対ソロウ

第五十二話

 プライドとの戦闘のさなか、ユキマルは自身の体が硬直したことに気づいた。

しかし、それがまだプライドの『固有スキル』<<麻痺毒生成>>によるものだとは気づかず、困惑していたのだ。


なんだこれ、体が全然動かないんだけど!

やばいって、相手がもう迫ってきてるし、今回こそ本当に死ぬ!!!


ユキマルは死を覚悟した。

戦闘中に止まることはそのまま死を意味するからである。

しかし、首元に、冷たい殺気を感じた瞬間、奇跡が起こった。

いや、必然だったのかもしれない。

なぜなら、あの聞き馴れた音が鳴ったからだ。


『ピロン』


潜在能力(パッシブ)No.35 <<麻痺無効>> を解放します。』


その瞬間、体が自由に動くようになった。

首筋に当たりかけていた短剣も素早く奪い取り、その時にできた隙を見逃さず、プライドの脇腹に一撃を入れてやったのだ。

ちなみに、その時に拳に『スキル』<<バイブレーション>>をまとっていたため、威力は相当なものなはずだ。

こうして、プライドを撃破したのだった。


「さて、ギルティアのあれ、どうなってるんだ?」


プライドが気絶したのを確認し、ギルティアの方を向くと、彼女もまた気絶していた。

ユキマルはてっきり次はギルティアと再戦することになるのかと思っていたが、そうではないらしい。

ならばと思い、エイトワたちの方を見ると、こちらも特に動きがないようだ。

ひたすら静観を貫いている。

そこで、はっと思い出したかのようにルフテの方へ向かう。

ユキマルの予想が正しければ、彼女も麻痺毒の影響を受けているはずだ。


「ルフテ!」


案の定、彼女も麻痺していた。

口も動かせず助けも呼べなかっただろうから、早めに気づけて良かったのだ。


「『スキル』<<共鳴(レゾナンス)>>!!」


以前、ソルナにしたように、<<共鳴(レゾナンス)>>で俺の『潜在能力(パッシブ)』<<麻痺無効>>をルフテと共有する。

そうして無事、ルフテの麻痺も解けたのだった。


「あ、ありがとうございます!!」


「ああ。」


彼女の身に異常がないことを確認すると、俺はエタニタ達の方へと向き直った。

お互いにこのままお別れとはいかないのである。


「おい、エタニタ!!もうコラゴンとフリエナを狙うのをやめろ!」


「コラゴン?フリエナ?...ああ。あのドラゴンとエルフの娘のことね。申し訳ないけど、そうはいかないわ。こっちも仕事なのよ。」


「そうか。なら、止めるしかないようだな、今ここで。」


「ふふふ。」


少し微笑むと、エタニタは武器を取り出した。

それは槍だった。


「なるほど、姉弟揃って槍使いなわけね。」


そう言って拳を構えるユキマル。

バニティー戦で剣を破壊されて以来、ずっと素手で戦っているのだ。


「本当は直接戦うつもりはなかったのだけど、少し、相手してあげる。」


西方奴隷商(スカーナル)』の方針としては、極力静観することだった。

しかしエタニタは、ギルティアが目覚めるまでの間、ユキマルの相手をしてやろうと考えたのだ。

理由はユキマルのプライドとの戦闘を見て、少し興味がわいたからだ。

過干渉とはわかっていても、やるのがエタニタという人物だ。

こうしてユキマル対エタニタの戦いが勃発したのであった。



・・・・・・

・・・・

・・



ユキマルたちが教会内で激戦を繰り広げる少し前まで時間はさかのぼる。

ソロウと対峙したルクスは、その行く手を阻むべく、戦闘を開始したのだった。

しかし、戦況は一見、ルクスが押されているかのように見えた。

なぜなら、ソロウの一方的な攻撃が続いていたからである。

しかし、それは何も知らない第三者が見たときの感想だ。

ルクスの正体が『勇者』であることを知っていたのならば、誰も彼の敗北を疑わないだろう。

それはルクス自身も、敵であるソロウすらもそうだった。

では、なぜルクスは一方的に攻撃を受けているのか。

同じく、気になっていたソロウが聞く。


「ねぇ、どうせ僕が殴っても蹴っても効かないんでしょ?だから攻撃を受けるふりをする茶番はもやめようよ。」


何度攻撃を繰り出しても、相手がダメージを負っていないことに気づき、ルクスを諭すソロウ。


「いや、俺は君が本気を出すのを待っているんだ。君の『固有スキル』にはちょっと興味があるからね。」


と、ここでルクスが反撃を避けている理由を明かす。


「僕の『固有スキル』?!なんでまた.....そんな特別なものでもないのに。」


しかし、頼まれた以上『固有スキル』を発動しないわけにもいかなかった。

それはソロウがお人よしだからではない、実力的に彼がルクスに逆らえないからだ。


「『固有スキル』<<減速>>!!」


ルクスのお望み通り『固有スキル』を発動するソロウ。

彼の『固有スキル』<<減速>>はその名の通り、相手の行動速度を低下させる能力だった。

言ってしまえばそれだけの能力だが、使いようによってはとてつもなく強いスキルなのである。

実際、ソロウには必殺技があった。

それを使えば『勇者』に勝てる.....などといった甘い考えは持っていないが、逃げる隙ぐらいは作れると想定しているぐらいには強い技なのだ。

しかし、まだ発動する時ではない。

まずは小手調べとして、順当にルクスの動く速度を減速したのだった。

しかし──。


「う~ん、やっぱ効かないか。」


意図もたやすく効果を無効化するルクス。

なにが起こったか具体的に説明すると、ソロウが発動した<<減速>>は、レベル差によりレジストされてしまったのだ。

そう、何度も言うが、この世界におけるレベルとは、非常に大きな意味を持つ。

レベルが離れていれば、そもそも攻撃が効かなかったり、レジストできたりする、またレベルによって覚えられるスキルや魔法も変わってくる。

それだけ、レベルという要素は大事なのだ。


「はあああ、やっぱりこうなるよなぁ。」


悲しいことに、この結果はソロウの想定内だった。

どうせ効かないだろうなとは思っていたものの、『勇者』に言われたから付き合っただけのことなのである。

もうどうすればいいんだよと半分泣きべそをかきながら、距離をとる。

すると、ここでルクスから驚きの提案がきた。


「次はレジストしないから、もう一回『固有スキル』を使ってくれない?」


「え?」


なんと、ここにきて初めての勝機が見えたのである。

確定で攻撃を通させてくれるのであれば、今こそが必殺技を使う時だ。

ソロウは意を決して、与えられたチャンスにすべてを賭ける。


「なら、遠慮なく!!『スロウ・ハート・ビート』!!!」


この技は、相手の心臓の動きだけを物理的に遅くするという凶悪なものだった。

一般的に成人した人間の脈拍は一分間に60~100回とされている。

しかし、この技を受けた者の一分間の脈拍は10分の1である6~10回まで減ってしまうのだ。

つまり即死である。

今までレベル70のソロウの技をレジストできる者はいなかった。

というかソロウ自身、格上と対峙してこなかった。

だからこの技は文字通り必殺だったのである。

しかし、その認識は今、この瞬間に破られることとなる。


「はあぁ~?レジストしないんじゃなかったの?」


スキルは間違いなく通った。

感触からしてレジストされていないことは明白なのである。

だから『勇者』といえど、胸を押さえて苦しむはずで──。

しかしそこには、悠然と立ち尽くすルクスの姿があった。


「良かった、俺の能力の方が上だったみたいだ。」


と一言だけ語るルクス。

しかしそれには納得がいかないソロウであった。

そもそも『スロウ・ハート・ビート』を使っても勝てないことはわかっていた。

それは、人類が『勇者』に勝つことができないという絶対的な『世界の理』があるからである。

だが、それを加味しても、足止め程度にはなると想定していた。

まさか、全く効かないとは考えてもいなかったのである。

だが実際に、効かなかった。

そしてそのからくりは、再びルクスの口から語られることとなる。


「ごめん、騙すような真似をして。俺の能力上、君の『固有スキル』には興味があったんだ。俺の能力は<<速度(ヴェロシティ)>>だ。速度を自由自在に操れる。だから君の能力が少し気になったんだ。君が俺の心臓の鼓動を遅くしたとき、俺は能力で、通常の速さに戻した、それだけさ。」


「はあぁ、なんだよそれ。趣味が悪いな!!」


なんとルクスが手加減していた理由は、ソロウの『固有スキル』を受けるためだったのだ。

そして、それを知ったソロウとしては面白くない話である。


「まあ、そう言わないで。協力してくれたお礼に、手荒な真似はしないからさ。」


「何が言いたいんだよ。」


「率直に言うね。『魔王狂信派(君たち)』には撤退してほしい。それを約束してくれるのであれば、俺も手を出さないと約束するよ。」


「.....はぁ。わかったよ。」


ソロウはしばらく考えたのちに、ルクスの提案を飲んだ。


「随分とあっさり条件を飲むんだね。」


意外とすんなりと交渉が成立したことに驚いて、ルクスが言う。


「いや、この場に『勇者』がいる時点で、僕たちの敗北は決まったようなものだし。それに僕は戦いは好きじゃないんだ。正直、魔王様だとか魔族の勝利だとかどうでもいいし。」


「ふーん。『魔王狂信派(そっち)』も一枚岩じゃないんだね。てっきり、魔王を盲目的に信仰している集団かと思っていたよ。」


「もちろんそういう信者がほとんどだよ。でも僕みたいに、ただ居心地がいいからいる人もいる。ほかの場所ではのけ者にされた奴とかね。信仰度でいえばバニティーが一番魔王様に心酔していたな。あとはラストぐらい?ほかの『布教者(ミジョナリーズ)』は、自分勝手な奴だったり、強さにしか興味のない奴だったり、怠け者だったり、いろいろだよ。プライドに限っては、本当に狂ってるからね。そういった意味では彼が一番’’信者’’をやっているな。」


など、『魔王狂信派』内部の話を語るソロウ。

彼が『魔王』に人類を支配させることなどの『魔王狂信派』が掲げている目的に興味がないことは事実だ。

そして、『魔王狂信派』がずっと居場所を見つけれずにいた彼が、やっと見つけた居場所であることもまた事実だ。

それを知って、少しソロウの見方が変わったルクスなのだった。


「.....そっか。」


こうして、ルクスとソロウの戦いは、話し合いによって幕を閉じたのだった。



・・・・・・

・・・・

・・



戦場は『カヒューゼム教国』の西側の区画に移る。

そこには、ラスとスロースを押し付けられ、苦戦を強いられている『タリスマンズ』の姿があった。

対戦カードは、『タリスマンズ』側からはソルナ、フリエナ、コラゴン、『魔王狂信派』側からはスロースだ。

ラスはというと、ユキマルとの戦いで負った傷と体力を回復するため、奥で待機している。

その間をスロースが埋めているといった感じだ。

ソルナたち三人に対しスロースは一人。

一見、ソルナたちの方が有利に見えた。

しかし、それでも実力は拮抗していた。

ソルナたちでは、スロースが召喚するモンスターを捌くのが精いっぱいだったのだ。

しかも、今回は初手から本気の『刃混獣(はこんじゅう)』を限度の4体作り出している。

その恐ろしさは、なんと言っても鋭い牙と爪にあった。

大型犬ほどの大きさの生き物が、石畳や建物の壁を容易に引き裂くのだ。

生身の人間が食らったらどうなるかは容易に想像できるだろう。


「な、何なのよあれ!!全然かわいくない!!」


刃混獣(はこんじゅう)』の攻撃を避けながら、フリエナが叫ぶ。

確かにその狂暴的な見た目をかわいいと形容するには少し無理があった。

しかし、それに意義を唱える者が一人。


「失礼ーなー。わたしのーかわいこちゃんたちにーあやまってー。」


スロースである。

親バカというべきか、自身が召喚したモンスターたちにはそれなりの愛着があるようだ。


「逃げてるだけじゃらちが明かないわ!フリエナ!コラゴン!一度立て直すわよ!!」


ソルナが『刃混獣(はこんじゅう)』たちに『スキル』<<魔力弾>> で牽制し、三人が集合する隙を作る。

すかさずフリエナが防御魔法の『マッドウォール』を張る。

そして、それを壁にして、移動しながらの作戦会議が始まった。


「クッソぉ、この鎖の封印さえなければ俺っちが全員倒せるんやけどな。」


コラゴンが自身の首に巻かれている鎖を恨めしそうに見ながら言う。

何とか引っ張ってみるものの、やはりその鎖は取れないようだ。


「ねえ、なにかあの『召喚獣』について気づいたことはある?」


ソルナが作戦の立案に何か使える情報はないかと、以前スロースと戦った経験があるフリエナとコラゴンに聞く。

それに答えたのはフリエナだった。


「そういえば、あの『召喚獣』たちは、あまり頭がよくなくて、簡単な命令しか聞けなかった気がする....。」


「ああ、それやそれ!前回戦った時も、フリエナの『マッドウォール』で簡単に分断できたんやった。」


思い出したかのようにコラゴンが付け加える。


「その情報は、攻略の糸口になりそうね。」


「でも、前回のことから、次は対策されるかも。」


同じ手口は二度も通用しないのではないかと、フリエナが指摘する。

しかし、そこは抜かりないソルナであった。


「ええ、任せて、ちゃんと考えてあるから。」


「さすがソルナやで!!」


「それで、具体的にはなにをするの?」


フリエナが聞く。


「それは──」


・・・

・・


ソルナたちが作戦をたたている一方、それを黙って見過ごすスロースではなかった。

フリエナの使う魔法『マッドウォール』は強度だけでなく、粘度も併せ持っていて非常に厄介だが、スロースにかかれば破るのも時間の問題だった。

そして、まさに今『マッドウォール』を破ったのである。

しかし、すでに作戦会議は終わっているのか、『タリスマンズ』たちに慌てている様子はなかった。

そこがスロースの唯一の懸念点だった。

それでも、前回の失敗から、『刃混獣(はこんじゅう)』たちには予め()()()()()を下していたので大丈夫だと考えた。

その命令とは、なにがあっても、指定した敵を狙い続けろというものだ。

つまり、魔法などによって分断されたとしても、指定された対象の方に向かって進めということだ。

これによりスロースと『刃混獣(はこんじゅう)』たちが分断されても、『刃混獣(はこんじゅう)』たちは迷うことなく『タリスマンズ』を攻撃するだろう。

だから何も心配していなかった。


「土魔法!『ロックリフ』!!」


フリエナが魔法を発動する。

すると、スロースの左右に石の壁が築かれた。

それは予想通り、スロースと『刃混獣(はこんじゅう)』たちを分断するためのものだった。

しかも、相手のミスなのかはわからないが、この壁はスロースを残して『タリスマンズ』もろとも分断してしまった。

スロースから見て右側に、フリエナと『刃混獣(はこんじゅう)』二体、スロースから見て左側にソルナと『刃混獣(はこんじゅう)』二体だ。

この状況は好都合だ。

後は『刃混獣(はこんじゅう)』たちが勝手に敵を始末してくれる。

スロースはそれを待つだけでいい──はずだった。

まさかソルナの作戦によって一気に盤面が覆されることになるなどと、この時のスロースは思いもしなかったのである。

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