ギルティア
第五十一話
「ケッケッケ、お前達二人のうちどっちの方が強い?」
プライド、ギルティア、ユキマルのさんすくみの中、その沈黙を破ったのはプライドだった。
プライドの目的は終始一貫しており、それは強い奴と戦うことであった。
ゆえに、彼は真っ先にそう問うたのである。
「しらねぇよ!」
まずは部外者から退場願おうと、プライド目掛けて攻撃を仕掛けるユキマル。
バッと殴りかかるが、それを間一髪で避けるプライド。
「おいおい、まだ話してる最中だろうがよぉ。」
本来であれば、プライドがユキマルの攻撃を避けれることなどあり得ない。
なぜならば、両者の間には明確な実力差があるからだ。
しかし、状況が特殊だった。
現在ユキマルは、ギルティアによってとてつもない重力がかかっている状態であり、この状態ならプライドはギリギリで攻撃が避けれるのだ。
元々プライドはダウト戦から見ても分かる通り、回避に秀でていた。
それは彼の能力が、逃げるが勝ちを体現しているからだろう。
そして、今回もその作戦を実行しようとしていたのだ。
ちょうど密閉された空間である教会の中にいるので、そこを麻痺毒で満たしてやろうと考えたのだ。
「エイトワちゃん。」
プライドの作戦をすぐさま見抜き、エイトワに解毒剤を渡すエタニタ。
彼女は常にいろんなものを持ち歩いており、解毒剤もそのうちの一つだった。
「ケッケッケ、読めねぇ女だぜぇ。『西方奴隷商』はあくまでも中立ってことかよ。」
なぜかこの場にいるエタニタを見て、大体のことを察するプライド。
『西方奴隷商』は『魔王狂信派』とも、『英傑団』とも取引をしていたのだ。
二勢力間の争いで甘い蜜だけを吸おうって魂胆だろう。
しかし、そんなことはプライドにとってはどうでもいいので、特に気にしなかった。
それよりも彼が集中すべきは目の前の敵だ。
この男ユキマルはありえない重力をその身に受けた状態で、プライドと互角、いやそれ以上の強さを誇っているのだ。
「ケッケッケ、いいねいいねぇ!!俺様はお前みたいなやつを待っていたんだ!!」
ついに待ち望んだ強者に出会えて興奮するプライド。
しかし、そんな悠長に構えている暇もなかった。
ユキマルの猛攻を間一髪で捌き切っているが、それもいつまで保つかわからない。
お得意のナイフで反撃を狙うが、全く持って効いていない様子。
それどころが、傷一つつけられない。
「おいおい、とんだ化け物じゃねぇか!!」
十中八九こいつがユキマルで間違いねぇな。
こりゃバニティーが負けたのも頷けるなぁ。
ありえねぇだろ、普通よぉ。
あの女から弱体化喰らってんじゃねぇのかよ。
「ケッケッケ、楽し過ぎるぜぇ!!」
そう言ってナイフを投げるプライド。
しかし、それはユキマルによってあっさりとキャッチされてしまうのであった。
「どうした?その感じ。お前も『布教者』のうちの一人だな?それなら、バニティーの方が強かったぞ。」
「ケッケッケ、言ってくれるじゃねぇの。そこまで言うからには、テメェが負けた時どんな言い訳が出てくるか楽しみってもんだぜぇ。」
「よかったな、その楽しみとやらは来世まで残しておけるぞ。氷魔法『アイシクルランス』!!!」
ユキマルの周りに、複数の氷でできた槍が出現する。
ちなみにそれらには、『スキル』<<バイブレーション>>で高速振動を加えており、殺傷能力が高くしてある。
「これでも食らっとけ!!!」
生成した『アイシクルランス』をプライド目掛けて一斉に発射する。
ドッドッドッドッドッド
と次々に教会の壁や、座席に突き刺さる。
どれもこれもギリギリで避けてはいるが、何発か掠っているようだ。
そして、かすっただけでも、プライドにとっては致命的であった。
理由は二つあり、一つ目は、『アイシクルランス』には『バイブレーション』による高速振動が加わっており、かすっただけでも馬鹿にできないダメージがあるからである。
二つ目は、ダウト戦で負った致命傷だ。
むしろこちらの方が理由としては大きいだろう。
「ケッケッケ、たまんねぇぜぇ。これが、これが欲しかったんだよ!!」
しかし、自身の命が危ないのだと知っていても、プライドにはお構いなしだった。
何度も言うが、求めているのは、熱い戦い、ただそれだけなのである。
こうして、プライド対ユキマルの戦いは佳境に突入したのだった。
・・・・・・
・・・・
・・
ユキマルとプライドが接戦を繰り広げている中、ギルティアもただ見ているだけではなかった。
彼女の最大出力を持ってしても、ユキマルには届かなかったが、実はまだ秘策があったのである。
それは、エタニタが届けにきた例の商品のことだ。
見た目は小さな赤い小瓶。
中には液体が入っており、何も知らない人が見たら、ただの飲み薬にみえるだろう。
しかし、現実はもっと悲惨だった。
「ギルティア、それは....!」
思わず、素で会話してしまうスヴァルク。
「止めないで、スヴァルク。」
内容物に気づき、ギルティアを制止しようとするスヴァルクとそれを拒むギルティア。
「ギルティア、それでいいんだな?」
そう問うたスヴァルクの声には哀しみが混じっていた。
彼にはこれから起こりうる出来事の予想ができており、それと同時に、ギルティアの覚悟を悟ったのだ。
「ええ、正義の....ために。」
そう言うと、ギルティアは小瓶の中身を一気に飲み干した。
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・・・・
・・
ギルティアの生まれは、小さな村だった。
彼女の両親はいつも仕事で遅く、日中は一人になることが多かった。
そのため、両親の友人の息子である、スヴァルクという名のお兄さんがいつも世話をしてくれていたのだ。
年は10歳ほど離れており、血もつながっていなかったが、スヴァルクのことを本当の兄のように思っていた。
ある日、村に行商隊がやってきた。
行商隊とは、店舗を持たず、いろんな場所を渡り歩きながら、商人をやっている集団のことだ。
ギルティアの村に来たのは、最近巷で噂になっていた『ロストワゴン商会』だった。
彼らは見たことのないような品物を多数取り扱っており、それが人気を博していたのだ。
もちろん人々はその物珍しさに惹かれて、『ロストワゴン商会』は村中の話題を掻っ攫った。
それで済めば話は簡単だった。
アレはそう、行商隊が村を去る前日の夜だった。
村で火災が発生したのだ。
燃えたのは村長の家だ。
もちろん火事は大変なことだが、村の人たちが一丸となって鎮火すれば、大きな問題にはならないはずだった。
そして、鎮火した村長の家を調べているうちに、中から村長の遺体が出てきたのである。
不可解なのは、その遺体には複数の刺し傷があった点だ。
つまり、死因は焼死ではない可能性があるのだ。
実は、村長はあまり村の人たちからは好かれていなかった。
理由は金にがめつかったり、酒癖が悪かったりなどいろいろあるのだが、それゆえ彼の死は、恨みのある者の報復として処理されたのだった。
しかし、鎮火に協力したみんなが現場を離れようとしたときである。
なんと、今度は一斉に複数個所で火の手が上がったのだ。
「あれ、おれの家の近くじゃねぇか!!」
「私の家が!!!」
「おい、そういえば行商隊のやつらはどこ行ったんだ?消火に協力してもらえ!!」
などと全員がパニックになっていたときである。
「違う、『ロストワゴン商会』のやつらだ、火をつけたのは!!」
火の手が上がった方に住んでいた人たちが、こちらに避難してきて、そう言ったのである。
どうやら、あの行商隊の商人たちは、村の各地で家を燃やしているようだ。
それは複数人の目撃者たちによって、証明された。
「しかし、どうしていきなり...!」
村人の一人が疑問を口にする。
言われてみれば、今日の昼ぐらいまでは、普通の商人だった。
『ロストワゴン商会』の人たちは裏がるようには思えないほど気さくで、村の人たちとも仲良くやっていたはずだ。
なのに、いきなり攻撃的になったのだ。
「おい、あれって!!」
またもや村人の一人が火の手が上がっている方角を指す。
そこには20名あまりの人影があった。
『ロストワゴン商会』の商人たちだ。
全員手には武器を持っている。
何人かは、もう片方の手に松明を持っていた。
「う、嘘でしょ?どうしていきなり!!」
「い、いやまて。あの見た目。本当に人間か...?」
一人がそういうと、全員がはっとする。
あるものは額に目が、あるものは耳がとんがっていて、あるものはギザギザとした歯をしていた。
「まさかあいつら...魔族か?ずっと俺たちのことを騙していたのかよ!!」
ここにきてようやく状況がはっきりする。
『ロストワゴン商会』の正体は魔族で、『魔法道具』かなにかで見た目を偽り、人間の村に近づいて、虐殺をしていたのだ。
ギルティアの村が燃えていることからも、そうとしか考えられなかった。
そして、悲劇は起きた。
村の人たちは次々に魔族たちによって虐殺されていったのである。
「ギルティア....!!」
そう言って私をかばった母の声は今でも覚えている。
良く英雄の話を読み聞かせてくれた温かい声だ。
しかし、それももう失われた。
父もそうだ。
仕事が忙しくてあまり遊んでもらえなかったけど、それでも大好きな父親だった。
最期に私に襲い掛かった魔族と取っ組み合いをして、殺されるなどと、今朝の私は思いもしなかっただろう。
そうして二人に助けられた命だったが、それももう尽きようとしていた。
なぜなら、魔族の一人が、私に向かって剣を振り上げたからである。
この剣が振り下ろされたとき、私は死ぬんだ。
その時の私は何も感じなかった。
怒りも、失望も、絶望すらも。
ただ、ぼんやりとした意識が、すんなりと現実を受け入れていたのである。
「ギルティア!!」
魔族によって私が殺されそうになった刹那、そこに現れたのはスヴァルクだった。
彼は魔族に体当たりし、間一髪で私の命を救ったのだ。
しかし、その後は落ちていた武器を拾って応戦し、見事魔族を倒すも、片目に重傷を負ってしまうのであった。
「スヴァルク....!!」
その時初めて現実が重くのしかかってきた。
両親は私をかばって死に、スヴァルクは片目を失った。
生まれ育った村には火の手が回り、消火はもうは困難となった。
「逃げるぞ...!!」
スヴァルクは息を切らすつつも、私を抱えて、走った。
途中で『ロストワゴン商会』の馬車を盗み、それでさらに遠くへ逃げた。
こうして二人は生き延びたのである。
「大丈夫か...?」
しばらくして、安全が確保されたとき、スヴァルクはギルティアそう聞いた。
自分の方が重症であるはずなのに、いの一番にギルティアのことを心配したのだ。
しかし、当時のギルティアにはその優しさは伝わらなかった。
彼女の中には激しい怒りが渦巻いていたのである。
それから何年か二人は一緒に旅をした。
しかし、いくら時が経てど、ギルティアの心の底に住まう憎悪が消えることはなかった。
そんなある日、ふと一人の英雄の話を思い出した。
ギルティアの母がよく読み聞かせてくれていた物語だ。
「遠い昔、まだ人類が国という括りすら持っていなかった頃、一人の英雄が現れた。当時の人類は、長きにわたる魔族との戦いで、ただ一つ’’安寧’’を求めていたの。そんな中、その英雄ダルフは人々をまとめ上げ、先導した。しかも、英雄ダルフがすごかったのは、それだけじゃないの。彼の者の一番の功績はなんと言っても、『南の魔王』の討伐よ。実は人類と魔族の戦争は言い換えると、『魔王』と『勇者』の戦いなの。だから、英雄ダルフが『南の魔王』を打ち取り、『魔王』と『勇者』のバランスが崩れたことによって、現在まで続く、悠久の安寧が得られたらしいわ。私たちは彼に感謝しないとね。」
記憶の中の母の声で、その物語が思い出される。
あとから知ったことだが、『勇者』と『魔王』のこと、英雄ダルフのこと、それから『南の魔王』のことなどは、地域や人によって解釈が違うらしい。
ある人は、『南の魔王』はまだ生きていると言ったり、また、英雄ダルフの話はただの創作だという人もいる。
千年以上前の話なので、真実はもう誰にも分らないが、そんなことはどうでもよかった。
大事なのは、この物語が、当時のギルティアに生きる方針を示してくれたことだ。
そうだ、悪いのはいつだって魔族なんだ。
ならばこれ以上、私と同じ悲しみを味わう人が生まれないように──。
「スヴァルク、私は英雄になるわ。」
「ん?どうしたんだいきなり。」
突然のことにきょとんとするスヴァルク。
「彼の英雄は『魔王』を倒したことによって人類を救った。なら私も人々を先導して魔族をせん滅するわ。」
「.....ギルティア。君がそれでいいなら、俺は従うよ。」
「ありがとう、スヴァルク。」
少し疑念を抱きつつも、ギルティアに賛同するスヴァルク。
「それで、英雄の団体でも作るつもりなのか?」
「いえ、英雄とは何かを成した人たちのこと。でも私はまだ何も成し遂げていない。だから私が作る団体の名前は、『英傑団』。これから、英雄になる人たちの集まりよ。」
そう声高らかに宣言するギルティア。
その目には確かな覚悟があった。
こうして、『英傑団』は発足したのだった。
・・・・・・
・・・・
・・
小瓶の中身を飲んだギルティアは意識を失った。
それは、いわゆる代償というものだろう。
この小瓶には『西方奴隷商』にて最近開発された、自身を強化する液体が入っていた。
ただし、その効果は、市販のものとはけた違いだった。
それゆえ、服用者にかかる負担もとんでもなく大きいのだ。
この商品、名を『エリクサー』というのだが、実はまだ試験段階だった。
そこで、さらなる力を欲していたギルティアに話を持ち掛け、治験を兼ねて売りつけたのだ。
ゆえに、治験の結果を持ち帰るため、エタニタ達には、この戦いを見届ける必要があった。
「さあ、どうなるかしら。」
少し、ワクワクした表情を浮かべながら、ギルティアの様子を伺うエタニタ。
今だ気絶したまま反応はないが、少し時間がかかるものだと理解しているため、しばらく様子を伺うことにしたのである。
一方ユキマルの方は、戦況が好転していた。
ずっとかかっていた重力が、ギルティアが気絶したことによってなくなったのである。
「ッチ。」
それに気づき、舌打ちをするプライド。
先ほどまで重力がかかっていてのにも関わらず押し負けていたことから、ここから先はもう勝ち目がないだろうなと気づいたのだ。
それでも、それは彼が戦いを止める要因にはならなかった。
「ケッケッケ!上等だぜぇ!!!」
そう言って、正面から向かっていくプライド。
確かに正攻法で戦ったらもう勝ち目はないが、麻痺毒を教会中に満たせれば勝機はある。
いくらユキマルだろうと、麻痺してしまえば赤子同然だ。
それに、そろそろ、麻痺毒が教会中を満たしたころだろう。
「か、体が....!」
ギルティアを支えていたスヴァルクが、自身の体が動かなくなったことに気づく。
そして、それを見たプライドは勝利を確信した。
「死ねぇぇぇぇユキマルさんよぉ!!!」
振りかぶった短剣が、ユキマルののど元まで届く。
そして、それがユキマルの首を切り裂き、血があふれ出て──来ることはなった。
なんと、直前で腕をつかまれ、短剣を奪い取られてしまったのである。
そのうえ、脇腹に一発殴られるという反撃まで食らってしまった。
ドオオオオオオン!!!!
殴られた威力で、教会の壁まで吹っ飛ばされるプライド。
「ゲフッゲフッ!ちく....しょう....。」
そして、この言葉を最後に気絶したのだった。
勝利を確信し、ユキマルに近づきすぎたのが、仇になったのだった。
作戦はうまくいったのだが、どうやらユキマルには効かなかったようだ。
ただただ、相手が悪かったプライドなのである。
こうして、プライド対ユキマルの戦いも決着がついたのだった。
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