三つ巴
第五十話
待て待て、そもそもこういう作戦じゃなかっただろ。
ギルティアの謎の攻撃に晒されながら、俺は思った。
俺がルクスに任されたのは、『魔王狂信派』の足止めだ。
当初の作戦では、戦いを静めることが目的だったはずだ。
しかし、俺は現在なぜか、『英傑団』の大将であるギルティアと戦っている。
いや、攻撃を仕掛けてきたのはあっちだ。
俺はぶっちゃけ何もしていない。
では、なぜ攻撃されたのか。
うーん。
考えるまでもないな....。
俺はチラッと右手に視線を向ける。
そこには『インベントリング』がギラッと輝いていた。
この『インベントリング』とはもともと『南の魔王』の所有物だった物だ。
ひょんなことで俺が身につけるハメになったのだが、それで敵認定とは、あまりにも酷くないか?
そもそも外したくても外れないのだ。
壊そうにも、この指輪は異常に頑丈で、生半可な力では傷一つつかなかった。
そんなことはさておき、俺たちの情報はどのみちバレていたのだろう。
ここに辿り着く途中に信徒達に見られたからな。
それとも──
「お前が俺たちのことを話したのか?エタニタ。マスコポル領の時と同じように。」
俺は、ギルティアの攻撃を片手間に、エタニタに少し探りをいれてみた。
「バニティーね口を割ったのは。彼は元気かしら?」
「....?お前達も、あいつの行方は知らないのか。」
嘘をついている様子はない。
それに隠す必要性も思いつかない。
おそらく、エタニタもバニティーのいどころがわかっていないのだろう。
こうなると、残る可能性は一人で失踪した、ぐらいだが...。
そんなことをするような奴には見えなかった。
まあ、バニティーの方は今はいいとして、問題はギルティアの方だった。
彼女の能力、おそらく『固有スキル』であろう物は、超能力や磁力のように俺のことをいろんな方向に飛ばすのだ。
押されるれるというよりは、引っ張られる感覚だ。
もうすでに何回も教会の壁にぶつけられているが、『潜在能力』の<<物理耐性(特)>>のおかげで、傷一つついていない。
しかし、いい加減鬱陶しくなってきたので、真剣に対策を考えることにした。
まずは、能力の正体についてだが、ある程度見当はついている。
おそらくは”重力“を操っているのだろう。
俺の周りの重力の向きを変えたり、重力を反転させたりして、超能力のように俺をあっちこっちに叩きつけているのだ。
「おい、ギルティア!一応聞いておくが、戦いを止めるつもりはないんだな?」
最後の確認として、ギルティアに問う。
すると、話をするためか、一度攻撃が止まった。
「なぜ、矛を収めなければならないのですか...?『魔王狂信派』は悪です。我々が正義のもと奴らを断罪しなければならないのです。」
「でもお前達が争うことで、ここの住民が危険に晒されるんだ。それは本意じゃないだろ?」
「本意ではない...?いいえ、これは信徒たちの民意です。彼らは自ら戦うことを選びました。」
「自らって、あれはどう見ても操作されていたぞ!あれを住民達の自己決定と言い張るつもりか?」
「ええ、私たちは操作などしていません、私たちは気づかせたのです。ここに住む住民達が、かつて英雄がそうしたように、人類のために何ができるのかを。」
何を言ってるんだこいつは。
俺にはさっぱりわからない。
気づかせたって、あれは明らかに、洗脳だ。
それを信徒達の意思だと言い張るなんて....。
「私たちがするべきことは、魔族の殲滅。この世に魔族が存在するから、悲しみがなくならないのです。長きにわたる歴史の中で、人類と魔族の争いは一向に収集の気配が見えなかった。しかし、『英雄』ダルフが『南の魔王』を討ち取ったことで、その戦いはようやく終わりを見せたのです。」
『英雄』ダルフ...?
ダルフってどこかで聞いたことがあるような....。
そういえば、この世界の通貨の単位って、この『英雄』と同じダルフだな。
もしかして、そこからきてるのか...?
だとしたら、かなり広く知られてる人物なんだな。
「今はまだ、膠着状態が続いていますが、我々が動くことによって、残った『魔王』を含む魔族を滅ぼすことができます。そして、手始めに、『魔王狂信派』を断罪するのです。いくら人類とはいえ、魔族の肩を持つ者共は許されません。正義のもとに罪の重さを思い知っていただきます。それは、あなたも例外ではありません。」
そこまで言われて、ようやく話が見えてきた。
要するに、この『英傑団』は昔に活躍した『英雄』ダルフを信仰しており、彼がそうしたように、正義の名のもとに魔族を滅ぼそうとしているのだ。
魔族を完全に悪として、その肩を持つ者も即敵認定、どうやらルクスに聞いていた通りのようだ。
「なかなか、極端な考え方じゃないか...?俺からして見れば、お前達がやっていることは魔族となんら変わりないぞ。」
「そのような言葉は聞き飽きました。悪はいつだってそうです、言葉巧みに正しい人を騙し、己の利益のためだけに人を不幸にする。だから、いなくなるべきなのです....。」
くそ、これじゃあ、らちがあかない。
話が通じないなんてレベルじゃないぞ。
魔族は悪、人類は正義。
この考え方が思考の根幹にこべりついているんだろうな。
「話合いは、厳しそうだな。」
「ええ、ですので。」
ドオオオオオオオオオ!!!
今度は地面に向かって、通常の何倍の重力を俺にかけてきた。
俺が立っている場所はもちろん、その周辺の床までヒビが入っている。
「ほう.....耐えますか....ならば。」
しかし、それに動じていない俺を見て、さらに出力を上げるギルティア。
ドオオオオオオオオオオオオオオオ!!!
メキメキと床から音がしたかと思いきや、今度は思いっきり割れて、陥没した。
「ユキマル君...!!」
離れた場所にいたルフテがその様子を見て、思わず声を上げる。
ユキマルの周辺は砂埃が舞っていて、状況がよくわからない。
「どうですか.....?それがあなたの罪の重さです。魔族、それも魔王の指輪を身につけている代償ですよ。」
「....っ!!」
シュっと矢を放つルフテ。
見ているだけじゃダメだと思い、慌てて放った矢なのだが、ギルティアの前ではそれは無意味という物だった。
放った矢が減速したかと思うと、今度は逆にルフテの方に戻ってきたのである。
「きゃあっ!」
間一髪で避けるルフテ。
相手は『固有スキル』で重力を操ることができるので、実質的に弓は無力なのだ。
「そ、そんな....。」
それに気づき、嘆くルフテ。
「クックック、感謝するぜ、ギルティア!」
そこに響く、ユキマルの声。
「何..?!」
砂埃が晴れると、そこには、両足を地面にめり込ませているユキマルの姿があった。
「これでもういろんな方向に飛ばされずにすむ。」
「な、なぜ、私の最大出力の重力をくらっても無事なの....?!」
無傷なユキマルの姿を見て、流石に動揺するギルティア。
普段は冷静沈着な彼女だが、自身の必殺技を破られては流石に驚きを隠せなかったのだ。
「悪いが、お前の攻撃が効くことはないよ。」
淡々と事実を告げるユキマル。
しかし、それには納得がいかないギルティア。
「ならば、もう一度味わうのです....!」
ドドドオオオオオオオオオオ!!!
再び、最大出力の圧力がかかる。
しかし、効かない。
「な....!」
それでも攻撃を続けるギルティア。
今度はさまざまな方向に重力を向けるが、地面に足を刺しているユキマルをその場から動かすことはできなかった。
それどころか、床を強く踏み込み、地面に足を突き刺すことを繰り返して、どんどん近づいてくるユキマル。
「へぇ、彼、なかなかやるわね。」
ギルティアとユキマルの戦いを見ていたエタニタが言う。
「..........」
これに沈黙で応えるエイトワ。
こんなもんじゃなかったはずだ。
俺は、ユキマル君がデイザスを倒した時、実際にその場にいたわけじゃないけど、戦った跡はみたんだ。
あれが、駆け出しの冒険者に出せる魔法なわけがない。
確かに、今ユキマル君があの重力をくらって無傷なのはすごいことだけど、俺にはまだ君が本気を出していないように見える。
君は一体何者なんだ....?
エタニタとは違い、ユキマルの実力を正確に見抜くエイトワ。
一度、彼の戦いを目の当たりにしたからこそ、ユキマルが全く本気でないことに気づいたのだろう。
そして、ギルティアの敗北が必至であることも。
しかし、ただただ傍観する二人。
どうやら『西方奴隷商』としては、他人の争いごとには極力手を出さない方針らしい。
「どうした?ギルティア。もう、拳が届く距離だぜ?」
「っ.....!」
いくら重力で押し放そうとしても、なんでもないかのように着々と近づくユキマル。
そして、とうとう、射程内に入り、ユキマルの一撃が炸裂しようとした時だった。
パリィィィン!!
窓が割れて、二人の人物が境界内に入ってきた。
「ケッケッケ、どうなってんだ?この状況!!」
「ギルティア様...!!」
一人はスヴァルクだった。
グリードとの戦闘を終え、全速力でここまで、やってきたのだ。
しかし、道中でもう一人の方のプライドと蜂わせてしまい、軽い戦闘をしながら、ここまでたどり着いたのだ。
教会内に入るなり、ギルティアのピンチを一瞬で悟り、庇いに行くスヴァルク。
ドオオッッ!!
鈍い音が響くが、それでもかろうじて意識を保つスヴァルク。
なんだこの一撃....!!!
強化されたあの少年と同等の威力を持っているではないか....?!
「スヴァルク....!」
あまりに強烈な一撃に、スヴァルクは思わず座り込む。
むしろ耐えただけで褒められるべきなのだが、今は状況が状況だった。
中央にはユキマル。
左奥にはプライド。
祭壇の前には一旦距離をとったギルティア。
三者対立状態にある。
こうして、『英傑団』、『魔王狂信派』、『タリスマンズ』の三つ巴の戦いが始まったのだった。
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