スヴァルク対グリード
第四十九話
スヴァルクは何かがおかしいことに気づいた。
先ほど完膚なきまでに打ちのめしたグリードだったが、再び立ち上がったのだ。
そしてその様子はなんだか異質であった。
グリードは初めて命を欲した。
いや、それは二度目であったかもしれない。
よく覚えていない、というのが正直なところであった。
というのも、それはまだグリードが生まれたばかりの頃のことだからである。
グリードは捨て子だった。
それも捨てられたのは生まれたその日のうちである。
なぜ、捨てられたのか、誰に捨てられたのか、それはわからない。
グリード自身もどうでも良かった。
そこには、生まれたばかりの赤ん坊が無作為に放置されたという事実があるだけなのだ。
普通ならば、そんな赤子は生き延びることはできないだろう。
しかし、グリードの場合は違かった。
彼は欲したのだ。
自分の生を、命を。
その強固な思いが実を結び、『固有スキル』<<欲望強化>> を手に入れたのだ。
それは、欲が深ければ深いほど、自身の身体能力を強化するという権能だった。
そして、生に対する異常な欲が、生まれてまもない幼きグリードを生かしたのだ。
これが、彼が初めて命を欲した瞬間である。
そして、現在、二度目の命を欲した。
スヴァルクという圧倒的強者を目の前にし、親に捨てられた時同様、生存本能が活性化したのだ。
しかし、今回欲したのは、相手の命だ。
グリードは今、どうしようもなくスヴァルクの命を奪いたくてしょうがないのだ。
「ねぇ、ちょうだい、ちょうだい、ちょうだい、ちょうだい、ちょうだい
、ちょうだい、ちょうだい、ちょうだい、ちょうだい........。」
ゆっくりと歩みながら、そう連呼するグリード。
スヴァルクは動揺しないが、異変には気付いている。
グリードの力が、先ほどと比べて、格段に増しているのだ。
元々、無視できないパワーを有していたが、技術でうまく捌けていた。
しかし、ここからは、触れるだけでもアウトっぽいのだ。
ドオオオオオオオオオ!!!!
これはグリードが地面をえぐった音である。
地面に腕を突っ込み、振り上げるように腕を振ったら、地面に敷き詰められていたタイルごと吹き飛んだのだ。
しかし、それらを冷静にかわし、一気に距離を縮めるスヴァルク。
そして、大きく隙を見せたグリードに再び一撃を入れる。
「.....なに!?」
しかし、その感触は以前と違った。
間違いなく脇腹にクリーンヒットしたはずの一撃は、グリードの強靭な肉体によって、威力をほとんど殺されてしまったのである。
<<欲望強化>>の能力によって、強化されたグリードの肉体は、すでに生半可な攻撃では傷つかない程になっていた。
俺は早くギルティア様の元に戻らなければならないのに。
こいつが相手では、間違いなく持久戦になるな。
つくづく運がない。
自分の置かれている状況を分析し、心の中で愚痴を吐くスヴァルク。
彼には目の前の戦いよりも大事なことがあった。
それはギルティアを守ることである。
もう、同じ轍は踏みたくないのだ。
10年ほど前にスヴァルクを襲った悲劇を。
スヴァルクが起こした悲劇を。
それは今もスヴァルクの中で蠢いている。
後悔と責任、それが彼の贖罪だ。
罪人であると自負している彼が、正義を唄う組織に所属しているのには訳があるのだ。
「は!!」
拳を貯めて、一気に突き出すスヴァルク。
それは、本気の一撃であり、身体を強化したグリードにすらダメージを与えるほどの威力を有していた。
「うぐぅ...!」
自身の防御力を過信していたのか、思いっきりくらうグリード。
しかし、すかさず反撃をする。
蹴りでスヴァルクの顔面を狙う。
残念ながら、その一撃は空を切ることとなったが、地面にあたりその場を粉々にしたのだった。
そして、その隙を見て、一旦距離を取るスヴァルク。
再び敵の懐に入りたいのは山々だが、相手にダメージを与えるには、一発一発が本気の一撃である必要があるのだ。
それには溜めが必要で、全ての攻撃が致命傷になりうるグリードの間合いに入るのはあまりにもリスクが高かった。
こうみると、圧倒的にグリードの方が有利かのように思われた。
しかし、実際はそうでもなかった。
なぜならば、グリードの『固有スキル』<<欲望強化>>は魔力の消費が早かったからだ。
じっとしていれば、長時間持つものの、戦闘中にこのスキルを運用すると、凄まじい速度で魔力が減っていくのだ。
しかも、フル出力ではなかったとはいえ、グリードは『魔王狂信派』と『英傑団』の戦いが始まってからずっと『固有スキル』を発動している。
すでに残された魔力は残り少ないのだ。
一方、スヴァルクの方はというと、まだまだ余力を残していた。
彼が身に纏っている『闘気』とは使用者によって大きく左右される代物であった。
その点スヴァルクは『闘気』をうまく扱っていた。
拳士や戦士などの近接戦がメインの職業ならば使えるようにならないといけない、基本中の基本の技だが、それを極めるとなると話は違うのだ。
『闘気』とは、魔力を体術特化に適正化したものである。
その変換プロセスは、意外に精密な作業であり、大概の人は、ここでおざなりになりやすいのだ。
しかし、スヴァルクは違った。
うまく変換した『闘気』は綺麗なオレンジ色のオーラとなって、全身に纏っていたのだ。
しかも、うまく変換している分、効率も良かった。
少ない魔力消費で、長い時間『闘気』を身に纏えていたのである。
これが、スヴァルクがグリードよりも有利な点の一つだ。
もう一つは『固有スキル』だ。
当然、スヴァルクほどの強者ともなれば、『固有スキル』を持っている。
しかし、それはずっと温存していたのだ。
まさかグリード相手にこれほど手こずるとは思っておらず、その後に控えるであろう『魔王狂信派』との連戦に備えて、残しておいたのだ。
しかし、状況は変わった。
一刻も早くギルティアと合流したいスヴァルクは、制限していた『固有スキル』をついに解放したのだ。
「はっ!!」
拳に力を溜め、今度は地面を殴るスヴァルク。
その突然の奇行に驚き注意深く観察するグリード。
しかし、その一点集中が仇となった。
なんと、グリードが立っていた場所から、衝撃波が飛んできたのである。
そう、これがスヴァルクの『固有スキル』<<衝撃伝播>>の能力だ。
自分が起こした衝撃を地面や壁を伝わせて、別の場所に放つことができるのである。
伝達可能距離に制限がない分、伝達距離が遠くなれば遠くなるほど威力が落ちるというデメリットもあるが、それは問題なかった。
なぜなら、スヴァルクは近接戦闘をメインとする拳士だからだ。
『固有スキル』を用いた近・中距離を自身の間合いとした戦い方が、スヴァルクの強さの秘訣であった。
「がっ....!」
再び、重い一撃を受けるグリード。
今回は、思いもよらぬ方向からの一撃というのがあり、思った以上にダメージを負ってしまったようだ。
しかし、そんなことを考えている暇はなかった。
吹っ飛んで着地した地面からもまた衝撃波が放たれたのである。
そして、今度は付近の建物の壁から。
その次は、三度地面から。
といった感じで、卓球のボールのように、あっちこっちに跳ね飛ばされたのだ。
そして、攻撃が止んだかと思えば、今度はスヴァルク自体が詰めてきた。
咄嗟のことにガードが間に合わず、またまたみぞおちに一撃を喰らうグリード。
その様子はあまりにも悲惨だった。
いい年の大人が、10歳ほどの少年をタコ殴りにしているのだ。
しかし、それはあくまでも側から見た様子であり、現実は凶悪な異端者とそれを討伐している正義の執行者なのである。
やられっぱなしのグリードだったが、敗北を受け入れたわけではなかった。
スヴァルクの攻撃で着々とダメージを入れられているとはいえ、耐えれてもいるのだ。
正直いつ意識を失うかわからない状態だが、グリードの欲はそんなもの吹っ飛ばしていた。
しかも、自分の一撃が已然として必殺の一撃であることには変わらない。
相手にうまく合わせて、カウンターを決めることさえできれば、こちらにも勝機はあるのだ。
だからグリードはその時を待った。
「ぐっ!!ぶへぇ!うぐ!」
スヴァルクの怒涛のラッシュを気合いで耐えるグリード。
スヴァルクとしては、なるべく早く終わらせたいところであったが、いかんせん相手が倒れない。
想像をはるかに超えるタフネスを発揮するグリードを前にし、若干の綻び生まれた。
それは焦りから来たものなのか、単純に疲労から来たものなのかはわからないが、グリードが反撃するには十分な隙であった。
スヴァルクの攻撃に合わせて、遂にグリードがカウンターを決める。
見事なクリーンヒットが入る。
それは必殺の一撃であり、今までノーダメージを貫いてきたスヴァルクの意識が飛びかけるほどのものであった。
しかし、それをスヴァルクが耐える。
タネもシカケもない。
気合いでだ。
そんなスヴァルクに追撃をかますグリード。
しかし、それをスヴァルクは避ける。
さらにカウンターとして拳を振るうが、それを読んでいたとばかりにグリードに避けられることとなる。
ここで決めるのだと言わんばかりに拳を振り上げるグリード。
攻撃を避けられて、体勢を崩しているスヴァルクにこの一撃は必ず入る!
かと思われた──。
ドオオオオオオオ!!
なんと、グリードの立っている場所から衝撃波が放たれたのだ。
「グハっ!」
ちょうど魔力が切れ、<<欲望強化>>が切れたグリードに、スヴァルクの本気の一撃が入る。
それはすでに大ダメージを負っているグリードにとって、必殺の一撃であった。
「はあはあ。」
流石に息が切れるスヴァルク。
まさか戦闘開始時にここまで手こずるとは思ってもいなかったが、結果、勝利を掴み取ることができたのはスヴァルクであった。
しかし、思いのほか深手を負ってしまった。
これも大きな誤算である。
最後の一撃だが、あれは空ぶった後に、そのまま地面を殴ったのだ。
そして、そのままグリードの足元まで衝撃を伝達し放出した。
それが、あの1秒にも満たない攻防で行われたことである。
まあ過程はどうであれ、スヴァルク対グリードの戦いは、スヴァルクの勝利で幕を閉じたのだった。
こうして『魔王狂信派』対『英傑団』の戦いで『英傑団』が初白星をあげたのである。
しかし、スヴァルクには休憩する暇などなかった。
いち早くギルティアの元へ参じるべく、走りだしたのだった。
・・・・・・
・・・・
・・
エイトワに会うために、教会へ向かったユキマルとルフテだったが、ついた時に目の前の光景に目を疑った。
そこにいたのは、すらっとしたモデル体型の美女とエイトワそれにギルティアだ。
いや、ここにギルティアがいることに対しては何の疑問も浮かばないのだが、問題はエイトワと一緒にいる女の方だ。
なぜだかわからないが、彼女が俺たちと無関係だとは思えないのだ。
これまでの旅の中でわずかに関わってきたような、知らず知らずのうちに介入されたような、そんな気がするのだ。
なんだ?
顔も名前も知らないはずなのに、どうして既視感があるんだ。
彼女とは初めて会ったような気がしない。
しかし、考えてもわからないので、俺はもっと気になることを聞いた。
「エイトワ!お前、どうしていなくなったんだよ。ここで何をしてる!」
「.....ユキマル」
少し目線を逸らして、エイトワが言う。
感情がいまいち読めない。
「エ、エイトワ君!私もずっとあなたに会いたかった!どうして、何も言わずにどこかへ行ってしまったのか、ず、ずっと聞きたかったんです!!」
ルフテが声を上げて言う。
しかし、沈黙するエイトワ。
「あらあら、私の可愛いエイトワちゃんのお友達かしら?でもごめんなさいね。今はお仕事中なの。おかえりいただけるかしら?」
女が言う。
「エイトワ、こいつは誰なんだ──」
「私はエイトワの姉よ。」
「エタニタ様...!」
俺はエイトワに聞いたつもりが、被せるように女が返事する。
今、エタニタって言ったか?
確か、バニティーが言っていた俺たちの情報を流した人物のことだよな。
ってことはコイツが『西方奴隷商』の幹部エタニタ・シグナトスか!!
待てよ...そうなると──
「エイトワ、お前、『西方奴隷商』側の人間だったのか...!?」
今の状況から類推して、エタニタと行動を共にしているエイトワは同じ組織に所属している可能性が高い。
仕事中という発言から考えても、それは明らかだ。
極め付けに、二人は姉弟だときた。
「エ、エイトワ君が私達と過ごした時間は全て嘘だったんですか...?短い時間でしたけど、わ、私は楽しかったです!!」
「そ、それは──」
「バカじゃないのかしら。貴方達は全員騙されたのよ。あなたユキマルと言ったわね。どうやら内通者をうまく利用して、『魔王軍』に勝利したようだけど、本当に利用されていたのは、貴方達の方なのよ?エイトワちゃんは私のお願いを見事に遂行して、『アクアンティス王国』、『魔王軍』そして貴方達を騙して一人勝ちをしたんだわ。一緒に過ごした時間が楽しかった...?本気でそう思ってるの?」
そういうと、エタニタは高笑いをした。
エイトワを信じ続けているルフテを馬鹿にするかのように。
「ねぇ、エイトワちゃん、あなたからも別れの挨拶をしてあげなさい。」
一通り笑ったあと、後ろにいるエイトワに別れの言葉を促す。
「ユキマル、ルフテ....。これが本当の俺だよ。」
少し俯いてエイトワが言う。
「エイトワ.....。」
俺はなんと返すべきか分からなかった。
これでは完全に敵同士だ。
正直、まだ心のどこかでは仲間だと思っていた。
そして、再開すれば分かり合えるとも。
『アクアンティス王国』での出来事はなんかの間違いで、全ての真相はエイトワに会えばわかると。
しかし、結果は決別だった。
そして、何より可哀想なのは、この結果にたどり着いてしまったルフテだ。
間違いなく俺よりもずっとずっと、エイトワのことを信じていただろうに。
「話は終わりましたか?」
そんな中、沈黙を破ったのはギルティアであった。
俺たちとの会話に混ざれず、ずっと蚊帳の外だった彼女は、ついに話を進めることに成功したのだ。
「それでは『西方奴隷商』の方々、例の商品は確かに受け取りました。支払いも済んだはずですので、少し、離れた場所にいていただけますか....?」
そう言ってエタニタとエイトワを掃うギルティア。
「お前は、ギルティアだな?」
「ええ、初めまして....。」
少し微笑んで少女は答える。
「あなたはユキマルさんで間違いないですか?」
「ああ」
「では....」
そういうと少女は手を前に突き出した。
なんだ?
魔法か?
それかなんかの合図...?
そんなことを考えていた次の瞬間。
体が中を舞った。
本当に浮いたのだ。
そして勢いよく教会の壁にぶつけられる。
「は...!?」
思わず情けない声を出してしまった。
これは、サイコキネシスか?
それとも身体操作系のスキル?
『ブルーボード』が出ないってことは、『固有スキル』で確定だな。
コピーができないということはそういうことだ。
「ユ、ユキマル君!!」
ルフテが叫ぶ。
「問題ない!」
それに対して、心配は必要ないとルフテに告げる。
しかし、問題はここからだった。
どうやらギルティアは厄介な能力を持っているようだ。
俺は臨戦体制に入り、次なる攻撃に備えた。
それを側から観戦するエタニタ、エイトワそれにルフテ。
こうして、ユキマル対ギルティアの決戦が始まったのだった。
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