邂逅
第四十八話
各地で激しい戦闘が繰り広げられている中、ルクスは未だに探し物を見つけられずにいた。
世間から『刹那の勇者』、『神速の勇者』などと呼ばれている彼だが、その才能は何かを探す事には向かなかったようだ。
そして、その探し物とはなんなのか。
厳密には探し人なのだが、その人物とは、もともと『カヒューゼム教国』を支配していた宗教の司祭だ。
数週間前、ギルティア率いる『英傑団』が『カヒューゼム教国』に押し入った際、教会から逃げた者達の最高責任者だ。
では、なぜ彼を見つける必要があるのか。
それは、これからの戦いでギルティア、ひいては『英傑団』が壊滅した時、信仰を失った国民が混乱しないようにするためだ。
『カヒューゼム教国』のような都市国家は稀に主権が曖昧なことがある。
実際、今も、今までも国のことは宗教に決められていたことが多い。
そして、それを失うということは、すなわち国家の滅亡である。
それを防ぐために、こうしてルクスは走り回っているのだ。
認識阻害系の『魔法道具』でも持っているのかな。
もしそうだとしたら、探索系スキルを使っても解析に少し時間がかかるな。
そんなことを考えながら探し回っていた時だった。
ん?
あれは『英傑団』の拠点。
もうこんなところまで来ていたのか。
なんと、ギルティアがいる、教会に来てしまったのである。
まあ今は用がないから、まずは司祭さんを探そう。
そう思い直し、再び走り出すルクス。
しかし、すぐにまた足を止めることとなる。
「はああああ、なんでだよ。」
大きなため息でルクスと遭遇したのは『布教者』の一人、ソロウだった。
先にユキマル達とも遭遇しており、ラスとスロースを置いて、先にギルティアの元へ向かったわけだが、運悪く『勇者』と鉢合わせてしまったのだ。
「勘弁してよ。これならギルティアを相手した方が何倍もマシじゃないか。」
ソロウが言う。
そしてそれは、その通りだった。
ギルティアが弱いわけではない、ルクスが強すぎるのだ。
「君は確か、『魔王狂信派』の一人だね。悪いけど、ギルティアの元には行かせられないよ。」
ルクスが言う。
それは、今から君と戦う、という意味であった。
「はぁぁ、だよね。」
憂鬱そうにソロウがため息を吐く。
しかし、観念したのか、ソロウも臨戦態勢に入った。
こうして、『勇者』対『布教者』の戦いが勃発したのだった。
一方その頃。
ダウトに勝利したプライドは、作戦通り、ギルティアのいる教会へと向かっていた。
勝利をしたとはいえ、かなりの深手を負ってしまったのだが、戦闘狂の彼にとって、そんなもの屁でもないのである。
故に次なる強者を求めて、ギルティアの元へ向かっているのだ。
想定ではソロウがすでに戦闘を開始しているはずだ。
彼が倒してしまう前に駆けつけるべく、プライドは足を早めるのだった。
・・・・・・
・・・・
・・
ユキマル達『タリスマンズ』とラス、スロースの戦いは意外な乱入者達によって邪魔されることとなった。
『英傑団』の信徒達である。
流れはこうだ。
いざ面と向かって戦闘開始!となった時に、奴らはゾロゾロと集まってきた。
「見つけたぞ!『魔王教信派』だ!!」
『英傑団』の信徒の一人が叫ぶ。
「いや、俺らは違う──。」
「かかれ!あの二人は資料で見た『布教者』だ!!」
といった感じで、俺たちは敵ではないと説明する前に、攻撃されたのである。
「ったく、話を聞けよ!!」
俺は攻撃をいなしながら、なんとか説得を試みた。
しかし、返ってくる返事は、全く同じだった。
「黙れ!悪の言葉など聞き入れるか!」
この一点張りだ。
そもそも、コイツらの言う悪ではないという話をしているのだが、どうやら説得は無理そうだ。
「ユキマル君!なんだかこの人たちの様子がおかしいわ!」
しばらくの攻防ののち、敵の攻撃からスキルで身を守りながら、ソルナが言う。
そして、彼女の言う通り、『英傑団』の信徒達の様子にはなんだか違和感があった。
それも、マスコポル領で見た領民のような──。
そこで俺はハッと気づいた。
「この感じ、どっかで見覚えがあると思ったが、誰かに操られている時だ!」
と、気づいたことをみんなに伝えたいのだ。
違和感の正体は、全員の盲目的に従っている様子である。
これは以前、マスコポル領でも体験したことだ。
マスコポル領の領民はみな、盲目的にマスコポル伯爵を信じていた。
その正体はバニティーで、『神武』を使って領民を支配していたのだった。
そして、その時に、ソルナも支配を受けてしまっている。
無事、解除できたのだが、その経験からか、『英傑団』の信徒達が操られていることにいち早く気づいたのだ。
それと、バニティーといえば、もう一つ気になることがある。
「おい!ラスと言ったか?バニティーはどこにいる!」
俺は、『英傑団』の信徒の攻撃を避けつつ、同じく信徒を相手にしているラスに向かって叫んだ。
「あぁ?テメェらがぶっ殺したんじゃねぇのかよ...?!」
それに反応したラスが返事をする。
ん?
あいつらもバニティーの動向をつかめていないのか...?
この状況下で嘘をつくとは思えないし。
「いや、バニティーには逃げられたんだ、てっきり、『カヒューゼム教国』にいるものだと思っていた!」
とりあえずそう返しておいた。
反応を伺ってみたが、どうやらラスとスロースも嘘をついている感じではない。
「うおりゃぁ!!」
そんなことを考えていると、信徒が攻撃を再び仕掛けてきた。
しかし、そんなもの造作もなく、サッと交わしてトンっと気絶させる。
こいつら、操作されているなら、傷つけるわけにもいかないしなぁ...。
そう考え、少し手間がかかるが、無力化することに方針を変えたのである。
そんなこんなで、しばらくの戦闘ののち、『英傑団』の信徒は全員無力化され、残すはラスとスロースだけになった。
「ようやくテメェをぶっ殺せる...!」
拳を強く握り締め、ラスが言う。
獣人であるが故に、基本的な身体能力は一般的な人族のそれを遥かに上回る。
だからその筋肉は凄まじいものであった。
バッと踏み込み、ユキマルの方へと跳ぶ。
その踏み込みだけで、地面にヒビが入る。
ドッ!
ラスの拳がユキマルに当たる。
しかし、さすがというべきか、しっかりとガードをするユキマル。
それどころか、今の一撃で、ユキマルは1ミリも動いていない。
「クソがッ!!」
そう言うと、足が地面につく前に、体を捻ってそのまま蹴りを繰り出すラス。
しかし、それもまた完璧にガードされることとなった。
流石のラスも一旦攻撃を中断し、距離を取る。
しかし、攻めの姿勢は崩さない。
再び強く踏み込み、一瞬で距離を縮める。
放ったのは膝蹴りだ。
石でできた壁を余裕で紛失する威力を持つそれは、ユキマルの片手で止められることとなる。
「何度やっても同じだ。」
ユキマルが言う。
ラスの脳内には、マスコポル領での惨敗がよぎる。
あれは屈辱的なものだった。
剣ならバニティー、拳ならラスと『魔王狂信派』の中では共通認識だった。
それなのに、本職が魔剣士である一介の冒険者に負けたのだ。
それどころか、レベルの差まであった。
当時ユキマルが40くらいで、ラスが70越えだ。
30レベル以上の差があったら、赤子だってモンスターに勝てるだろう。
それだけ、レベルの差は大きな意味を持つのだ。
「ッチ!!」
無駄だとわかっていても、否定を止めることができない。
一撃も喰らわせられないことを承知で次から次へと攻撃を仕掛けるラス。
内から湧き上がってくるのは怒りだ。
自分の無力を嘆く怒り、自分よりも強いユキマルに対する怒り。
それらはラスの力の源のはずだが、それでもユキマルには届かなかった。
ドォッ!!
腹部に痛みが走る。
瞬間自分が殴られたのだと察するラス。
ユキマルからのカウンターだ。
吹っ飛んでいくラスを受け止めたのは、スロースの召喚したモンスターである『刃混獣』だった。
『刃混獣』とはスロースの『固有スキル』<<召喚獣合成>>で生み出した特殊なモンスターのことだ。
初手から『固有スキル』を使ってくるあたり、最初から本気でユキマル達を相手するつもりなのだろう。
それだけ前回の敗北が響いてるのだ。
そうして再び立て直し、戦いをしきり直そうとした時である。
「ユ、ユキマル君!!」
離れた位置で戦闘を見ていたルフテが何やら慌てた様子で駆け寄ってきたのだ。
そして、その内容も驚愕のものだった。
「すまないソルナ、ここはお前達に任せていいか?俺はルフテと少し用事ができた!」
「え、ええ。でも、一体どうしたの?」
「説明は後でする。今は時間がない!」
そう言って、ソルナ、フリエナ、コラゴンにその場を任し、俺とルフテは教会の方へと走りだした。
どうやら、久しぶりにルフテの『予言書』が反応したらしい。
その内容というのが、エイトワがこの国に来ているということだ。
そして、教会に向かえば彼に会えると。
考えるまでもなかった。
俺はルフテを連れて、教会に向かうことにした。
残したソルナたちだが、まあ大丈夫だろう。
ラスは元々弱体化していた上に、割とボコしたし、スロースには一度勝っている。
だから、心配はしていない。
今はそれよりもエイトワのことだ。
あいつには色々と聞かなきゃいけないことがある。
ちゃんとお前の口から聞かない限り....まだ俺たちの仲間なんだから。
・・・・・・
・・・・
・・
ラストとロスウィンの戦況は二度目の転換を迎えることとなった。
それは、それぞれ信者や信徒といった手駒が減ってきたからだ。
盤上を動かし、敵将を討ち取る戦いが、リーダー同士が殺り合う大将戦へと変わったのだ。
人を操作することに長けた『固有スキル』を持つ両者とはいえ、双方の勢力にて幹部的ポジションを担っているわけだから、素の力も強かった。
戦場は街のど真ん中。
互いの駒が入り乱れる中、二人の女性が顔を合わせる。
「ふふ、また会えて嬉しいわ。奥に引きこもって顔を見せないから、てっきり自分に自信がないのかと....。」
嫌味を込めて、ラストが言う。
しかし、それに冷静に対応するロスウィン。
「そういうあなたは、ご自身にたいそうな自信をお持ちで。」
そう言って、ラストの全身を見る。
人間は第一印象が大事だというが、ラストの場合それは最悪だろう。
全身に巻き付けた黒い包帯だけが唯一彼女が身につけているもので、もちろんそれは服とは言えない。
常識的な人が見たら、即通報ものだろう。
しかし、そんなラストを見てもロスウィンは動じなかった。
覚えたのは嫌悪、ただそれだけ。
「あら、女の嫉妬は見苦しいわねぇ〜。」
再びラストが煽るように言う。
それは無表情なロスウィンの腹のうちを探るためのセリフなのだが──。
「嫉妬ですか....。あなたのように悪の道を行く人に嫉妬するほど私の正義は落ちぶれていません。」
こちらも先ほど同様、綺麗に捌かれてしまった。
「そう、それじゃあ悪は悪らしくあなたを倒すわ!」
これ以上の会話は無駄だと判断したラストが攻撃を仕掛ける。
用いるのは、体に巻いている黒い包帯だ。
その包帯は燃えていた。
どうやら、彼女が燃やしたいと思った部分を燃やしているようである。
「炎の属性をお持ちなのですね。」
ラストの先手を素早くかわし、一旦距離を取るロスウィン。
彼女の戦闘スタイルは弓であった。
故に、相手と距離を取ることは大きな意味を持つのである。
一方、ラストは魔法を得意としているようだ。
実はラストには炎の属性適正があった。
故に、炎魔法を行使することができるのである。
彼女の場合、それを身につけている黒い包帯に纏って使っているようだ。
「ねえあなた、どんなやられ方がいい?」
燃える包帯を鞭のように扱いながら、ラストが言う。
「勘違いされているようですが、これから罰を受けるのはあなたです。」
三度目も冷静に返すロスウィン。
二度あることは三度あるとはよく言ったものだ。
かくして、ラスト対ロスウィンの戦いは佳境を迎えたのであった。
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