マッチアップ
第四十六話
ユキマル達が到着する少し前、ギルティア達は、各地の戦況の報告を受けていた。
「刺客として送った元冒険者5人ですが、2人はブライドに、1人はグリードに敗北しました。残りの2人ですが、まだ接敵できていないようです。」
「ご苦労。」
そう言って、報告係を下がらせるスヴァルク。
「想像通りの結果ですね。やはりゴールドランク程度では相手にならないといった感じでしょうか?」
「ええ、そうね....。」
ギルティアが答える。
「そろそろ私達の出番でしょうか?」
そう言ったのは話を聞いていたロスウィンである。
彼女、いや彼女達はずっと出撃命令を待っていた。
だから、今こそがその時であるとギルティアに暗に示しているのだ。
「わかったわ、ロスウィン、ダウト、それにスヴァルク。出撃しなさい....。」
「ギルティア様...!」
これに驚いたにはスヴァルクである。
ロスウィンとダウトが出撃するのは想定していたが、まさか自分も行くことになるとは思っていなかったのだ。
別に戦うのが怖いというわけではない、スヴァルクがこの場を離れてしまったら、ギルティアの護衛がいなくなってしまうのだ。
「大丈夫よ、スヴァルク。私が強いことはあなたも知っているでしょう?」
「も、もちろんそうですが....。」
「心配ならさっさと勝って戻ってきてちょうだい...。」
そう言われてスヴァルクはハッとする。
「御心のままに、大司教様...!」
こうして、『英傑団』の最高戦力である司教達が戦場に赴いたのである。
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時を同じくして『魔王狂信派』の待機組も動きを見せ始めた。
「3人はうまく揺動できているみたいだね。」
ソロウが言う。
これは彼が立てた作戦であり、それがうまく進んでいることに安堵したのである。
「ねーもうそろそろー行動をー始めてもいいんじゃないー?」
スロースが言う。
「そうだね。ギルティアがそろそろ司教達を現場に向かわせる頃合いだと思うから、僕たちも作戦通り、彼女の元へ向かおう。」
そう言ってラスとスロースの顔を順番に見るソロウ。
二人に異論がないことを確認して、駆け足で隠密行動を開始する。
ここからは、『英傑団』の信徒に見られることなく、敵の拠点である教会まで辿りつかなくてはならない。
そこで待ち受けるギルティアと戦うことが目的のため、なるべく消耗を抑えたいのだ。
「それじゃあ、行くよ。」
そうしてスニークミッションが始まったのである。
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時間は現在に戻り、ユキマル達と別れたルクスはギルティアの元へ向かうかと思われたが、そうはしなかった。
当てもなく、ただひたすらに国中を走りまわっている様子である。
どうやら、何かを探しているようだ。
この戦いを止めても意味はない。
それは根本的な解決にはならないんだ。
とルクスは考える。
今回の戦いを止めることに成功したとしても、いずれまた争いが勃発するだろう。
それを防ぐことまでが、真の解決なのだ。
そしてルクスはそれを目指している。
しかし、そのためには、必要なものがある。
だから国中を走って探し回っているわけで──。
「一体どこに....!」
混沌とした街中から探し物を見つけるべく、ルクスは走り続けるのだった。
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軽やかな足取りで裏路地を抜けたプライドは、求めていた人物と対面することとなる。
剣を片手に立っている司祭服の少年の名はダウト。
彼はプライドが求める強者であった。
「ケッケッケ、やっとお出ましかぁ司教さんよぉ。」
待ちに待ったメインディッシュを前にプライドの気分が高揚する。
「君に引導を渡しにきた。大司教様の名の下に罪の重さを知るがいい。」
そう言って剣を構えるダウト。
「おうおう、剣使いか。今日はよく会うねぇ。」
同じものばかりで飽きたと言わんばかりの態度で愚痴を言うプライド。
しかしそんなことも気にせず、ダウトは平然としている。
「どうしたよ、かかってこないのかぁ?」
プライドが煽る。
「安心しろ、君は間違いなく地獄へ送ってやる。」
「そりゃぁ楽しみだねぇ。」
むしろ願ったり叶ったりだといった感じで返答するプライド。
彼は満足のいく戦いができれば結果などどうでもいいのだ。
こうしてダウト対プライドの戦いが始まった。
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プライドの元にダウトが来たのだから、ラストの元にも司教の一人が来ていた。
その名はロスウィン。
ラストは多くの信者を連れていた。
しかしそれはロスウィンも同じだった。
彼女もまた多くの信徒を連れていたのである。
「あら、私の相手はあなたかしら?」
魅了した男を椅子にして、見下すようにロスウィンを見るラスト。
「あなた、信徒をなんだと思ってるんですか...!?」
その様子に怒ったのか、口調を強くしてロスウィンが言う。
「あら、あなたも似たような手口じゃなくて?」
「口を慎みなさい!私は信徒を導いているのです。貴方達のように悪の道へと引き摺り込んだりはしません。正しき道へと導いているのです。」
「へぇ。」
依然とした態度でラストが応える。
「さあ、おしゃべりはおしまいです。行きなさい、信徒達よ。」
そう言って、信徒達に指示を出すロスウィン。
命令内容は、ラストの首をとってくることだ。
そして、それに対応するかのようにラストも自身のシモベ共を出撃させる。
「「「うおおおおお!!!」」」
兵隊と兵隊同士がぶつかり合う。
その様はまるで戦争のようだ。
「ふふふふふ。」
ラストは笑う。
これは実質上の決戦なのだ。
ロスウィンとラストの両名の『固有スキル』は実に似通っており、それに気づいているラストはこの戦いがどれだけ大事なのか理解しているのだ。
この戦いの勝敗が、『魔王狂信派』と『英傑団』の戦い全体に大きな影響を及ぼす。
故にラストは笑う。
その緊張感と空気のヒリツキが彼女を高揚させるのだ。
そして、二人の戦いは苛烈さを増して行く。
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グリードの元にはスヴァルクが来た。
そうと決まっていたわけではないが、出遅れたためスヴァルクはグリードを相手することになったのである。
しかし、何ら問題はなかった。
誰が相手でも、勝ってすぐにギルティアの元に戻るのである。
それがスヴァルクの使命だからだ。
ジリジリと左目の傷が疼く。
この傷は戒めだ。
自分の罪の重さを忘れぬように。
「ねぇ、僕さ欲しいものがあるんだ。」
突然グリードが口を開く。
「.....なんだ?」
「えっと、なんだっけ。まあいいや、思い出してから言うよ。」
そう言うとグリードはバッと踏み込み、一気に距離を詰めてきた。
ッ....!?
一瞬動揺したスヴァルクだったが、グリードの蹴りを綺麗に受け流す。
そして体制を崩したグリードにすかさず重い一撃を入れる。
ドッと鈍い音がして、グリードが吹っ飛んでいく。
「っが...ゲホッゲホッ。」
みぞおちを殴られて咳き込むグリード。
スヴァルクとしては子供をいたぶるのは気が向かないが、相手が相手なのでそうも言ってられないのだ。
「はあ!」
スヴァルクの周りをオレンジ色のオーラが包む。
それは『闘気』と言われるものだった。
『闘気』とは魔力を体術特化に適正化したものである。
うまく使いこなせていると、それはオレンジ色のオーラとなって体から発せられるのだ。
「いいなぁ、それ、僕も欲しいなぁ。そうだ、僕それが欲しいんだ。」
思い出したかのようにグリードが言う。
言っている内容と時系列が全く合わない、暴論である。
しかし、そんなことはお構いなしにグリードが攻撃を再開する。
右、左、右、左と交互にパンチを繰り出すグリード。
しかし、それを見切っているのか、全て受け流すスヴァルク。
その証拠に、グリードの高威力の一撃はどこの建物にも穴を開けていなかった。
これはスヴァルクがグリードのパンチの威力を押し殺すように受け流しているからである。
そして、それは実力の差を示していた。
スヴァルクの強さはグリードを何倍も上回っていたのだ。
ドォオン!!
グリードの隙を見て、もう一撃入れるスヴァルク。
二発目のクリーンヒットが流石に応えたのか、グリードは地面に倒れたまま起き上がらない。
これが実力の差なのだ。
グリードではスヴァルクに勝つことはできなかったのだ。
すでに勝負は決した──と思われたが....。
「ねぇ、僕本当に欲しいものがなんだったのかわかったよ.....」
立ち去ろうとした矢先、後ろから声が聞こえて振り返るスヴァルク。
「命だよ。ねぇ、あなたの命 ち ょ う だ い 。」
顔は俯いていてよく見えないが、恐ろしさは十分なほど伝わった。
ボロボロの少年から発せられたとは思えないほど、その言葉には念がこもっていた。
純粋で何よりも恐ろしい、願望を超えた欲だ。
「いいよね....?」
グリードが続ける。
それに反応するように、『闘気』を纏うスヴァルク。
臨戦体制に入ったのだ。
「やはり一筋縄ではいかないか。」
なんて愚痴を吐くスヴァルクだった。
こうして本気の肉弾戦が始まったのである。
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ギルティアの元にユキマルの情報が届けられた。
それが何を意味するのか。
それはギルティアが決めることである。
「わかったわ。しかし、何ら問題はありません。戦う相手が一人増えただけのこと。」
作戦は何も変わらないとギルティアは言う。
たった一人の介入によってこれまでの計画を変更するわけにはいかないのだ。
「御心のままに、大司教様!」
そう言うと伝達係は下がった。
「ユキマルか...。あなたはどんな罪を抱えているのでしょう。」
空につぶやくギルティアであった。
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・・・・
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自分たちの存在が『英傑団』にばれた頃、ユキマル達はちょっとしたトラブルに遭っていた。
「あ」
「あ」
思わず両者ともにこぼしてしまった言葉である。
向かいにいるのは見覚えのある顔だ。
「確か....ラス、スロース、あと誰だあいつ。」
そう言ってたまたま鉢合わせた『魔王狂信派』のメンツの名前を思い出す。
「あの人には会ったことはないと思うわ。」
ソルナが言う。
まあ、会ったことはなくても状況から彼も『布教者』であることは理解した。
「アイツら....!」
ラスが構える。
「あれ...?ってかなんでアイツ生きてるんだ?」
とここでふと素朴な疑問が生まれた。
俺の記憶している限りではラスは『クサナギ』の爆発に巻き込まれて死亡したはず。
その後遺体は消えていたが、バニティーが回収したのかと思っていた。
「俺がそんな簡単に死ぬと思ってんか、あぁ?」
ラスが突っかかってくる。
「ラスー目的をー見失っちゃダメー。」
スロースがラスをなだめる。
「そうだよラス。今は彼らを相手している暇はないよ。」
とソロウも付け加える。
「黙れテメェら。それじゃぁ俺の怒りが収まらねぇんだよ!!!」
ラスが怒鳴るように言う。
それを聞き、頭を抱えるソロウ。
「わかったよ。じゃあ僕とスロースで先に行ってるから、後から追いついてよ。いいね?」
「ああ、もうなんでもいい!」
ソロウの意見をバサっと切り捨て、ユキマル達に突進するラス。
「あーもう戦うのかよ!!」
それにはユキマルもうんざりした気分である。
「ごめんソロウーやっぱりー私も残るー。」
そう言ったのはスロースである。
「はぁわかったよ。じゃあ、僕が先行ってるから二人とも遅れないでね。僕一人じゃギルティアの相手できないからね。」
そう念を押してソロウは去っていった。
ガアアアン!!!
これは俺の『シールド』がラスの鋭い爪を防いだ音である。
「テメェ、前回の恨み、ここで晴らしてやるよ。」
そう言ってユキマルと向かい合うラス。
前回の恨み、つまりマスコポル伯爵の館での戦いで、ユキマルに敗北したことである。
「いや、あれを恨みって言うなよ。」
ごもっともなユキマルのツッコミが入る。
しかし、それすら気にせずラスが怒鳴る。
「うるせぇ黙ってろ!!お前はここで殺す!!」
「へぇ、やってみろよ。」
睨み合う二人。
こうして『タリスマンズ』対ラス、スロースの戦いが勃発したのだった。
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