小手調べ
第四十五話
『布教者』が各地で動き出した頃、『英傑団』もその対処に向かっていた。
偵察や専攻隊は信徒達に任せ、初めは戦況を見ていた司教達だったが、『布教者』が現れ始め、のんびりしている暇もなくなった。
現在、『英傑団』の戦力はおよそ126名である。
『カヒューゼム教国』という名の新天地にて、わずか数週間にして増やした信徒にしては破格の人数だが、足りないというのが正直なところであった。
しかし、これらとは別に4人の最高戦力が控えている。
大司教であるギルティアと三人の司教ロスウィン、スヴァルク、ダウトだ。
『英傑団』としては負けるつもりはないが、それは決して相手を舐めているわけではない。
相手を警戒しているからこそ、これだけの戦力をもってして待ち構えているのだ。
現に今回はギルティアも戦場に赴いている。
本来、大将が戦場に出るなどあってはならないことなのだが、それだけ『魔王狂信派』に対して戦力が足りていないと自覚しているのである。
そんな中、ギルティアと司教の中で一番の年長者であるスヴァルクは、これからの作戦を話し合っていた。
「それで、『布教者』への対応はいかがなさいますか?ギルティア様。」
「すでに腕に自信がある者達を送っています、まずは様子見といきましょう....。」
「かしこまりました。」
スヴァルクが頷く。
ギルティアが送った刺客達だが、それは『英傑団』に入った元冒険者だ。
現役だった頃の冒険者ランクはゴールドランクだった『英傑団』の信徒の中の精鋭だ。
だから、相手の強さを測るのにちょうどいいと思ったのだ。
まあ、彼らが勝つとはまったくもって思っていないわけだが──。
ギルティアは別に信徒を大切にしていないわけではない。
ただ、大いなる正義のためならば、犠牲は必要だと考えているのだ。
だから、今回のように信徒を捨て駒のように扱える。
それが正しいのか、間違っているのかはわからないが、少なくとも彼女は自身の行動を疑ってなどいない。
「彼らもまた、英雄に貢献できるのです....。」
「.....そうですね。」
空に向かって呟くギルティアを横目に、少し俯いたスヴァルクが応える。
はたして彼が何を思ったのか、それは誰にもわからない。
・・・・・・
・・・・
・・
ソロウの揺動作戦はうまくいったと言えるだろう。
現に、プライド、ラスト、グリードのもとに刺客が何名か送られてきた。
プライド、ラスト、グリードの役目は、司教達を相手することだが、それでも相手が下っ端を送ってきたことはいい兆候だと言えるだろう。
いずれ本人達も顔を見せるはずだ。
だからまずはコイツらの相手をしてやるのだ。
そしてそれを待っていました言わんばかりに、『布教者』は各々の本領を発揮する。
まず最初に接敵したのはプライドだ。
それは、集めた観客の最後の一人を痛めつけていた時である。
「そこまでだ。」
裏路地に声が響く。
「やっときたかよ、待ちくたびれたぜぇ。ケッケ。」
そこには、二名の元冒険者の姿があった。
言わずもがな、ギルティアが送った刺客だ。
「貴様の狂人じみたその行動!悪とみなし、大司教様の正義の元、裁きを執行する!」
「おうおう、言ってくれるねぇ。俺様のガラスのハートにヒビが入っちまったらどうしてくれんのよぉ。」
そう言って両手にナイフを構えるラス。
「ほざけ、魔族に与する狂人め!貴様に心などない!」
元冒険者の一人はそう叫ぶと、プライドに切り掛かった。
それに続くようにもう一人も、切り掛かる。
「ケッケッケ。」
それを笑いながらかわすプライド。
彼にとってはこの程度の相手、二人いようが三人いようが関係ないのである。
「なっ!」
いとも容易く自分達の太刀筋を見切られて困惑する、元冒険者達。
「おいおい、これじゃぁショーの前座にもならないぜぇ。」
敵に背を向けながら、飄々とした態度でプライドが言う。
それは彼らを敵とみなしていないという完全な煽りであった。
「貴様ぁ!人類社会の汚点がぁ!!」
プライドの態度に対し激昂した元冒険者は、そのまま剣を振りかぶって突進した。
「食らえぇ『スキル』<<スピンスラッシュ>>!!」
魔力を集中させた剣を勢いよく振り下ろす。
剣は間違いなく対象をとらえているが、プライドはその場を動こうとするそぶりを見せない。
そして、その一撃は油断していたプライドの脳天を思いっきりかち割る──ことはなく、プライドのナイフ一つによって簡単に受け止められてしまった。
「ケッケッケ。なぁ、本気で俺様に勝てると思ったかぁ?」
相手に顔を近づけプライドが言う。
「馬鹿め、私は囮だ!今だ!」
そう言うと、もう一人の元冒険者がプライドの背後に周り、思いっきり剣で切り掛かった。
「入った!」
『英傑団』の刺客達は確信する。
これで間違いなくプライドを倒したと──。
しかし、そんな浅はかな考えは耳鳴りがするほどの金属音でかき消されることとなる。
カキィィィィン!!
「なに....!?」
「だからよぉ、本気で俺様に勝つ気だったのかって聞いてんだよ。」
なんともう片方のナイフで、相手の剣を防いでしまったのである。
冷静に考えて、剣をナイフ一本、それも片手で受け止められている時点で力の差は明白なのだ。
だがそれに気づいた頃にはすでに遅かった。
パァン
またまた金属音が鳴り、自分たちの剣が弾き飛ばされたことを認識する。
さらに、その際自分たちの急所が的確に刺されたことは、見るまでもなかった。
じんわりと滲み出る液体と、体温の急な上昇からある程度察せたのである。
自分たちが死ぬのだと。
「バカ...な....。」
「ケッケッケ、よかったなぁお前らは二人で。一緒に死ねるから寂しくないだろぉ?」
そう言って二人の髪を持ち、顔と顔を向かい合わせにするプライド。
しかし、当の本人達は、すでにこの世を去っており、これはプライドの自己満足に終わるのだった。
「ケッケッケ、これでもっとマシな相手が来るだろぉ。」
そう言うとプライドは、さらなる対戦相手を求めて裏路地を進むのだった。
・・・・・・
・・・・
・・
街の広場は、ガランとしていた。
その理由はひとえに、グリードのせいである。
その場にいた人はこの齢10才の少年を避けて逃げてしまったのだ。
しかし、大きくえぐられた地面を見れば、誰もがそうしていたであろう。
それは生存本能が正常に働いている証拠だ。
のちに目撃者は語った。
一人の少年が己の欲望がままに暴れたのだと。
嘘みたいな話だが、他に地面にできたくぼみの説明がないのだから、これが事実なのだろう。
「ば、化け物め...!」
現場に到着した『英傑団』の刺客は、まず最初に現場の様子に驚いた。
今となっては誰もいない市場の中心にある広場に、一人の少年が立っていたのだ。
もちろんその正体が『布教者』のうちの一人であることは事前に知らされていたのだが、それでも信じられないというのが正直なところである。
「こんな、子供までも...!」
魔族に毒されてしまったのか、と悔やむ刺客だったが、そんな考えなど秒で吹き飛ばされることとなる。
「ねぇ、その槍、ちょうだい。」
グリードがのんきに刺客の武器である槍をくれと言ってきたのである。
「ふざけるな、いくら子供でも、お前達には容赦しないぞ!」
そう言って槍を構える。
「ふーん。」
グリードは指を咥えながら応える。
「はぁぁぁぁぁ!!」
そして、それをチャンスだと見た刺客が、仕掛けた。
無防備なグリードに向かって、一直線に向かっていったのだ。
もちろん彼も元冒険者である。
冒険者ランクもゴールドランクだった優秀な刺客だ。
しかし──
ドオオオォォォン!
すさまじい衝撃と共に、地面が割れる。
グリードが地面を殴ったのだ。
そして、突然の衝撃に対応できず、走っていた刺客は不覚にも転んでしまった。
「な...!地面が割れただと...?」
彼には目の前で起こったことが理解できなかった。
あんな小さな体のどこからこんな力が出てくるのだと不思議でたまらないのである。
「欲しいって言ったよね。」
跪いて考えていると、正面から声が聞こえた。
それはグリードの声だ。
顔を上げるとグリードは大きく拳を上げていて、しかも今回は至近距離だった。
完全に油断していたため、自身の体に直撃するのは必至。
それが意味するところは──
「ちょ、待っ──」
ボキッ
それが刺客の最期の言葉となった。
「それじゃあこれはもらうね!」
槍を拾い上げて、満足そうに笑うグリード。
その純粋な笑みには狂気が隠れていた。
「あれ?でも思ってた感じと違うな。うーん、やっぱいらない。」
そう言って槍を投げ捨てるグリード。
彼の興味は手に入れてしまったものにはないのである。
それが彼が満たされない理由だとも知らずに....。
・・・・・・
・・・・
・・
ユキマルたちが『カヒューゼム教国』についた頃には、すでに戦闘が始まっていた。
至る所で『魔王狂信派』の信者と『英傑団』の信徒同士が戦っていたのである。
「すごいな、本当に国全体を巻き込んだ戦いになってるじゃねーか。」
「そうだね、でもこれは始まりにすぎないよ。まだ、両勢力は主力を出していないからね。」
ルクスが言う。
つまり、今戦っているのはあくまで雑兵達であり、強者は機をうかがっている段階ってことか。
将棋で例えると、歩を前に進めてはいるが、王将や金、銀はまだ待機してる状態だ。
何が言いたいのかというと、これから戦いは激しさを増していくとうことだ。
「ここからは別行動にしよう、あとは任せたよユキマル。」
「あ、おい、ちょっと待て──」
俺が言い終える前にルクスは去ってしまった。
まあ、作戦は移動中に共有したわけだから問題はなのだが。
「まあ、いいか。俺たちは俺たちのできることをするぞ。」
少しルクスの実力は見てみたかったものの、本来の目的を思い出し思考を切り替えた。
俺たちは目的はバニティーだ。
次は絶対に逃がすわけにはいかない。
そう思いなおしたのである。
「そ、それにしても、どこに向かえばいいのでしょうか...?」
ルフテが聞く。
「ユキマルさっさと<<レーダー>>で探しちゃいなさいよ!」
ルフテの質問に対し、フリエナが言う。
「いや、さっきからやってるんだけど、見つかんないんだよ。人が多すぎるせいかわからないけど、バニティーらしき反応が見当たらない。」
「はぁ、ほんっと使えないわねぇ!」
フリエナがプンスカ起こりながら言う。
でも実際に見当たらないのだ。
まさか、バニティーだけいない?
それとも俺の<<レーダー>>をうまく誤魔化しているのか?
可能性はいくつか思いつくが、考えても仕方ないので、とりあえず行動に移ることにした。
「まあ、いい。バニティーのことはしらみつぶしに探すしかない。いくつか不自然に人がいないエリアがあるから、まずはそこに向かおう。」
俺は『スキル』<<レーダー>>でえた情報を元に、これから取るべき行動を共有した。
「まずは広場に──」
そう言おうとした時、二人の白装束の男が俺たちの前で止まった。
ん、なんだ?
「貴様!何者だ!!」
白装束の男の一人がユキマルに向かって叫ぶ。
「俺たちは、ただの冒険者だ。そちらの戦いとは関係ないから、巻き込まないでいただけると嬉しい。」
状況から察して、二人が『魔王狂信派』の信者か『英傑団』の信徒のどちらかであると思ったユキマルは、できるだけ無駄な戦いを避けようとした。
しかし──。
「騙されると思うなよ!!貴様のつけているその指輪、それは『南の魔王』の創造物だ。貴様ら『魔王狂信派』だな!!」
なんと相手の勘が妙に鋭かったのである。
そういえば、俺がつけているこの『インベントリング』は元は魔王の所持品だった。
完全に忘れていたのが悔やまれるが、こうなっては戦いは避けられない。
発言から、彼らが『英傑団』の信徒であることは確定したわけだが、そうなってくると話はもっとややこしくなる。
全くもって敵に回すつもりはなかったが、相手から来るというのなら、もうどうしようもないのだ。
ルクスからは不戦を頼まれていたのだが....。
こんな装飾品まで知ってるとか、実は魔王のこと好きなんじゃねぇの....。
なんてことがチラッと頭をよぎったが、それよりも今はこの状況をどう切り抜けるかだ。
「おい、お前は報告に行け。情報にない『布教者』と遭遇したとな。」
白装束の一人がもう一人にそういう。
すると、片方はそそくさと走っていってしまった。
「だから、俺は『魔王狂信派』とは関係ないって...!」
「戯言を!貴様の罪の重さを知るがいい!」
そう言うと、白装束の男は剣で切り掛かってきた。
おいおい、弁明の余地なしかよ。
ガシッ
「なに...?!」
俺は相手の剣を避けるわけでもなく、ただ手で掴んだ。
「ごめんな、相手してる暇ないんだわ。」
そう言って相手の首に手刀を喰らわせる。
男が気絶したのを確認し、建物に寄りかからせて寝かせてあげた。
「面倒なことになったわね。」
ソルナが言う。
確かにそうだ。
当初は『魔王狂信派』だけを相手するつもりが、くだらない勘違いで『英傑団』も敵にまわってしまった可能性があるのだ。
「気にしてても仕方ないな。行くぞ。」
まあ、どうにかなるだろ、と思い直し、俺たちは広場に向かって走り始めたのだった。
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