『布教者』、動く
第四十四話
「作戦はこうだ。」
ソロウが対『英傑団』戦に向けて立てた作戦を説明する。
「まず、相手の戦力の確認をしよう。大司教ギルティアをトップにダウト、ロスウィン、スヴァルクの司教が三名。そして多数の信者。この数週間でどうやってこんなに信者を増やしたのかは不明だけど、相手のスキルとかと関係しているかもしれないから気をつけて。」
「あら、私と気が合うかも。」
ラストが言う。
「そうだね、最終的な目標はギルティアの殺害だけど、それまでに避けて通れない敵がさっき紹介した三人の司教なんだ。そこで、僕なりにみんなの役割を決めた。ラスト、プライド、グリードの三人はそれぞれ司教達と戦ってくれ。僕とラス、スロースの三人はギルティアの元へ向かうよ。情報によると強いらしいから、戦力過剰ってことはないと思う。それに戦闘組の三人にはできれば勝って、僕たちと合流して欲しい。勝利をなるべく確実なものにしたいからね。各々役割は理解できた?」
そう言ってソロウが解説を終える。
「ケッケッケ。俺は戦えればなんでもいいぜぇ。」
ナイフの先端に指を当てながらプライドが応える。
そしてそれに続くように各員が頷く。
「それじゃあ、行動に移ろうか。」
こうしてソロウの発言によって戦いは幕を開けたのだった。
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だだっ広い平野に敷かれた一本道を慌てたように馬車が走っている。
それに乗っているのはユキマル達『タリスマンズ』と『勇者』ルクスだ。
彼らが目指している『カヒューゼム教国』まではまだ少しあるが、全員準備は万端だ。
「なるほど。つまり、『魔王狂信派』と『英傑団』が街中で戦いを始めたってことか。で、それがどうして国の滅亡に繋がるんだ?」
俺たちはルクスから向こうの内情を聞き、状況を整理していた。
そこで、ルクスが言っていた『カヒューゼム教国』滅亡の危機とはなんだったのかが気になったのだ。
「あの国は宗教が治めていると言っても過言ではないからね。戦いがどう転ぶにせよ、もしギルティアが負けて、『英傑団』が壊滅したとしたら、国民は何に従えばいいかわからなくなる。それが国家滅亡の危機ってわけさ。」
「確かに、主権の所在が曖昧な国にとってはそれだけで国民の混乱が起きてしまうでしょうね....。」
ソルナが相槌を打つ。
正直俺にはよくわからなかったが、ソルナがそういうなら間違ってないのだろう。
「そ、それで私たちは、な、なにをすればいいのでしょうか...?」
ルフテが聞く。
「そうだね、君たちには、『魔王狂信派』の足止めをお願いしたいかな。その間に俺が戦いを阻止できないか試してみるよ。」
なるほど、ルクスとしてはそもそも戦闘を避けたいらしい。
「わかった、できるだけのことはするよ。」
そう言って、ルクスの策に賛成する。
とはいえ、俺たちとしても悪い話じゃない。
『魔王狂信派』の足止めをするということは、すなわち戦うということである。
そこで、マスコポル領の戦いにて取り逃してしまったバニティーと再戦できるかもしれないのだ。
今度こそ本当の本当に決着をつけれる。
そう思うと、一層やる気が湧いてくるのだった。
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『カヒューゼム教国』の人々はいつも通りの日常を送っていた。
街は普段通りの人通りで、特に多いわけでも少ないわけでもない。
観光業も特に栄えていないため、外国からの観光客もいない。
本当にただただ普通の、いつも通りの1日が送られていた。
そんな中に少年が一人。
「ねぇ、お姉さん......。」
「え、あ、私?」
突然見知らぬ少年に話しかけられた女性は驚く。
「そうそう、お姉さんだよ。」
少年は気にせず続ける。
「ど、どうしたのかな僕?」
少し屈んで、少年と目を合わせる女性。
やや不気味に感じているが、相手は子供なのだ。
ここは大人として、対応してあげようと思ったのである。
「その首につけているネックレスちょうだい。」
そう言って少年は女性が身につけているアクセサリーを指差す。
「ご、ごめんね〜。これはお姉さんにとって大切な物だからあげることはできないんだ。」
女性は答える。
「え〜、でも僕欲しいなそれ。」
断られてもなお、しつこく少年はねだる。
「あ、あの、僕のパパとママはどこかな〜?」
このままではらちがあかないと判断して女性は、この少年の両親を探して助けを求めようとしたのだ。
「ねぇ、無視しないでよ。それちょうだいって、言ってるじゃん。」
相当なわがままなのか、少年は空気も読まずにねだり続ける。
「お、お姉さん、そろそろ行かなくちゃいけないから、ごめんね。」
何やら様子のおかしい少年を前に、これ以上関わるべきではないと判断した彼女は、その場から離れる選択をした。
そして、立ち上がり、後ろを向き、歩き出そうとした時である。
「え....?!」
進めない。
なにか、強い力に引っ張られて、前に進めないのだ。
恐る恐る振り向くと、そこには少年は立っていた。
そしてその少年は女性の服を握ったまま立ち尽くしていたのだ。
「な、なんで、何が起こっているの....?!」
女性は目の前の状況を理解するのを拒んだ。
10才ほどの少年が、彼女の服の端を握っている。
そこまでは理解できるのだが、問題はその先だ。
とんでもない力なのだ。
その少年はとんでもない力で服を握って離さない。
「ねぇ、ネックレス、ちょうだいよ。」
少年は続ける。
「キャァァァァァァ!!!」
女性は思わず叫んでしまった。
その少年の表情からなんとも言い難い闇を感じたのだ。
底知れない欲望の塊、決して肥えない砂漠の大地。
どう表現すればいいかわからないが、一つ言えるのは、その少年が明らかにまともじゃないということだ。
それを感じ取った彼女は、すかさず首からネックレスを外し、投げ捨てるような形で、その場から逃げ去った。
「なーんだ。最初からくれればよかったのに。」
そう言って少年は周りを見渡した。
そして、次に欲しいものを探し始める。
少年の名はグリード。
『魔王狂信派』の『布教者』の一人だ。
「ねえお兄さん......」
次に目をつけられたのは、店を営んでいる男だった。
「その宝石、ちょうだい。」
純粋な笑顔で、欲望で。
少年はおねだりという名の暴力を振りかざしていくのだった。
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時を同じくして、別の場所ではとある通りの裏路地に人だかりができていた。
本来、人通りが少ないはずのこの場所に、なぜこのような人だかりができているのか。
それには中心にいる男が関係している。
道化師のような服装に、笑顔の仮面をつけているその男の名はプライド。
彼もまた『魔王狂信派』の『布教者』の一人である。
「ケッケッケ、俺様のショーを見に来たカスどもぉ。せいぜい後悔はさせないでやるぜぇ。」
そう言って、5本のナイフでジャグリングを始める。
その技の練度は見事な物で、大通りでやっていたら、誰もがチップを渡していただろう。
そしてそれに見合うだけの拍手と声援が送られる。
「うぉお、兄ちゃんなかなかやるなぁ。大道芸人なんて珍しい、こんなへんぴな国に。」
「ああ、こんな曲芸なかなか見られないぜ。」
「あんたはもっと目立つ場所でやるべきだ!こんな裏路地じゃ才能を腐らせるだけだぜ!」
といった感じだ。
「ケッケッケ、カスどもにしてはいい目ぇしてんじゃねぇか。まあでも、客も集まってきたことだし、そろそろフィナーレと行くかぁ。」
そういうと、プライドはジャグリングしていたナイフを一瞬にして包みへと変えた。
「おおお、手品もできるのかよ!」
またまた、歓声が上がる。
そしてプライドは、その包みを大きく上へと放り投げた。
ある高さまで届くと、その包みに向かって、どこから取り出したのかナイフを投げ、ナイフが当たった包は破け、粉状のものが舞い落ちた。
「ゲホゲホ、なんだこれ?」
観客の一人が聞く。
「ケッケッケ、お前たちが知る必要はねぇ。」
「なぁ、これなんだと思う?」
そう言うと、観客同士で、粉の正体の探り合いが始まった。
「うわああああああ!!!」
すると突然一人が悲鳴を上げた。
「どうしたんだ?」
「こ、こいつ、死んでる!!」
なんと最前線でプライドのショーを見ていた男が首元を掻っ切られて死んでいたのだ。
「ケッケッケ、ようやく気づいたかぁ。おめぇらが投げられた包なんかに気を取られてるからぁ、やりたい放題だったぜぇ。」
仮面で隠れていてよくわからないが、おそらく笑っているであろうその表情は、観客に自分たちが危険な状況にいることを知らせるのには十分だった。
「あ、あああ。」
観客の一人が情けない声を出す。
先程まで、大道芸を見て楽しんでいたはずの表情が今となっては恐怖で歪んでいる。
「な、なあ。俺だけじゃないよな....。」
今度は別の客が震えた声で言う。
それに頷くかのように他の客が無言で返答する。
「か、体が....動かない......。」
ここでようやく先ほど吸い込んだ粉の正体が判明する。
具体的に何かはわからないが、それが人にとって有害なものであったことは確かだ。
「ケッケッケ。さぁ、まずは誰から切られたい?」
そう言ってナイフを取り出すプライド。
今日一番の高笑いである。
そう、これが彼の本性なのだ。
人を故意に痛めつけることを生き甲斐とし、他人の死で自分の生を感じるのだ。
嗜虐性に行動を支配されており、彼自身が嗜虐性なのだ。
先ほどプライドはフィナーレを始めると言ったが、実際はショーは始まったばかりだ。
これから行われるのは一方的な虐待。
悲鳴と涙が高笑いでかき消される、そんな地獄絵図が描かれようとしているのである。
「さぁ、俺様を楽しませてくれよ.....!」
少し高揚した気分を抑えつつ、ナイフを構えるプライドであった。
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・・・・
・・
男は思った。
ここは夢かと。
目の前の景色が到底現実とは思えないのだ。
そこには女がいた。
ボッキュッボンのナイスバデーな女だ。
しかも最高なことに、女は服を着ていなかった。
いや厳密には要所をうまい具合に隠している黒い包帯を体に巻き付けていたわけだが、それを服と称していいのかは彼の知るところではなかった。
「何がどうなってやがるんだ....?!」
さて、それだけでも今年一の衝撃だったのに、現実はもっと意味不明だった。
なんと女は担ぎ上げられていたのである。
それも大勢の男が自らの体を山車のようにして、彼女を運んでいるのだ。
それはまるで、女王の玉座だった。
女の妖艶な振る舞いと、犬のように従順な男共の様子が彼女を特別にしているのである。
「止まって。」
女が命令する。
すると、男共は命令通りに即座に止まった。
そんな様子をまじまじと見ていると、女が近寄ってきた。
「ねぇ、あなた?」
「お、おう.....!」
少し、声がうわずんでしまった。
急にホットなレディに近づかれたら誰だってドキドキするだろうから、彼を責めれる人はいないだろう。
「あなたも興味ない...?」
「きょ、興味か...?」
なんのことだろう?と頭の中が疑問符で埋め尽くされてしまう。
少しばかりの淡い希望が、やばいという生存本能を上書きする。
あれこれ考えているうちに女は男の腰に手を回してピッタリくっつく感じで話を続けた。
「私のシ・モ・ベ♡」
女の息が顔に当たる。
なんだかよくわからないが、理性が吹き飛んだことだけはわかる。
だからかはわからないが、男が出した答えはyesの三文字だった。
「いい子。」
そういうと女は、男に口付けをした。
数秒ほど経つと、男の目は虚になった。
まるで誰かに自由意思を奪われたかのような。
そうして、男も女王の玉座を運ぶ山車の一部に加わる。
「うふふ。」
女は満足げに微笑むと、再び玉座に戻り、さらなるシモベを見つけるために移動を開始した。
彼女の名前はラスト。
彼女もまた『魔王狂信派』の『布教者』の一人である。
かくして、三者三様に『英傑団』との接敵に向けて動き出したのだった。
戦いはすでに始まっているのだ。
一国を舞台に本格的な戦いが始まるのはこのすぐ後のことである。
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