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第四十二話
朝が来た。
この『アクアンティス王国』で迎える最後の朝だ。
なぜなら、今日、俺たちはこの国を出発する。
そして当分ここへ訪れることはないだろう。
その事実に少し感慨深くなったのだ。
そんなことを考えていると、俺たちは約束していた通り、アクアンティス王の元へ訪れた。
「よくきてくれた!先のマスコポル領の件も聞いておる。なんと感謝を申し上げたら良いか。」
入って早々、大感謝だ。
どうやら、『魔王狂信派』の残党とのいざこざはすでに耳に入っていたらしい。
「いや、あれは俺がやりたくてやったことだ。」
「君ならそう言うと思ったよ。」
そうしてひとまず席に着く。
「ところでルクスは?」
部屋を見渡して気付いたのだが、ルクスの姿が見当たらない。
「ああ、『勇者』ルクスは緊急の連絡が入ったらしくての、席を外しておる。」
「緊急の連絡?」
一体何のことだ?
そんな疑問が俺の頭に浮かんだ時だった──
「失礼します!」
ドアを勢いよく入ってきたのは、ルクスだ。
「うお。噂をすればなんとやら。どうしたんだ?ルクス。」
「ユキマル、ちょうど良かった。実は『カヒューゼム教国』の方で『布教者』達が本格的に動き出したらしくてね。そろそろ向かわないとまずいんだ。」
なるほど。
話によると、向こうでは色々と複雑なことが起きているらしい。
それも国を巻き込んだ、一大事だそうだ。
「それじゃあ、今日のうちに出発するか」
いきなりだが、元々そのつもりだったので問題はない。
「そうだね。ユキマルの準備が出来次第、王都の正門の方へ来て。俺はそこで馬車を用意して待ってるから。」
「ああ、ありがとうな。」
そんなこんなで、俺は城を後にした。
次の目的地はスクリプトールだ。
アイツにはなんだかんだ言ってお世話になったし、最後ぐらい顔を見せようと思ったのだ。
「やあ、いらっしゃい。」
「よお、スクリプトール、俺たちは今日で『アクアンティス』を立つ。」
「そうかい?」
スクリプトールは特に驚きもせずいつも通り、カウンターに座って頬杖をついている。
「お、思った以上に驚かないのね....。」
思わず呆れてしまうソルナだ。
「いやいや、薄情だなんて勘違いしないでくれよ。僕は、また君達に会えるから、大した別れではないと思っただけだよ。」
「また会える....ね。なんだか俺もすぐ会うことになる気がするわ。」
スクリプトールのつかみようのない感じが、まるで運命かのように俺たちを引き合わせるのだ。
多分。
それにこいつはどういうわけか、俺のすることを全て知ることができる。
だから、その点からしても、別れは大したことではないのかもしれない。
「それで、今日の用事はそれだけかい?」
「ん、ああ、そうだな。また会おうぜ、スクリプトール。」
「ふふ、時期に会うことになるさ。」
「そ、そうだな。」
思わず苦笑いをしてしまう。
「あ、そういえば──」
俺以外が既に店を出て外で待っていることに気づき、ドアに手をかけた時だった。
俺はあることを思い出した。
「お前って、俺を召喚した人物って知ってる?」
「..........」
「まあ、知るはずもないか。悪い、忘れてくれ。」
そう言って再びドアに手を伸ばした時である
「...知ってるよ。」
「........は?」
しばらくの沈黙が店内に流れる。
「それって──」
「もうユキマル!遅いわ!」
バッっとドアが開き、外で待っていたフリエナが入ってきた。
「何を話してるのよ!ルクスを待たせてる自覚ある?」
確かにごもっともな意見だ。
ただ、このことはどうしても知りたい。
「ちょ、ちょっと待ってくれフリエナ。それでスクリプトール──」
再びカウンターに視線を向けると、スクリプトールは人差し指を口に当てて、微かに笑っていた。
「まだ、話すつもりはないかな....。またのご来店をお待ちしております....。」
そう言うと、俺は謎の力によって店外へと押し出された。
「キャア!いきなりどうしたのよ!」
勢いよく飛んできた俺に驚いてソルナが悲鳴を上げる。
「わ、悪い。」
それにしても、スクリプトールはなんで俺を召喚した人物のことを知っているんだ?
そもそもなんで俺が異世界から召喚されたことを知ってるんだ?
いや、この際それらはどうでもいい。
あいつは一体....。
「ねえ、ユキマルってば!」
「ん?ああ、そうだな。そろそろ正門へ向かうか。」
俺は、地面に手をついて立ち上がり、お尻についた小石を払った。
まあ、考えても仕方ないか。
まだ、話すつもりがないということは、いつかは話してくれるかもしれないということだ。
その時に教えてもらおう。
俺は、思考を切り替え、ルクスの待つ正門へと向かったのだった。
・・・・・・
・・・・
・・
「思ったよりも早かったね!」
馭者と話をつけて、乗せてもらう馬車を確保したルクスが俺たちを出迎えてくれた。
「それじゃあみんな馬車に乗って。」
そうして全員が馬車に乗って出発しようとした時だった。
「待って!ユキマルくん!」
聞き覚えのある声だ。
「マリアナ?!」
「うん!君が旅立っちゃう前にこれだけは言いたくて!」
少し、距離が離れてるので、お互い大声で話す。
「ありがとう!」
「......っ!!」
自然と笑みが溢れる。
なんだかいい気分だ。
「またな、マリアナ!!」
「またいつか!ユキマル君!!」
そして、馬車が動き始めた。
マリアナの姿はもう見えないが、俺の中でマリアナの声が残響のように残っていた。
そうして俺たちは『アクアンティス王国』を後にしたのだった。
出発してまもなくルクスは最終確認を始めた。
「いいかい、今から、『カヒューゼム教国』の内情を説明するよ。まず──」
・・・・・・
・・・・
・・
「まさか、そんなことになっていたなんて....。」
ソルナが思わず口を押さえながら言う。
「俺も初めて聞いた時は驚いたよ。でも、こうなってしまった以上、最悪の展開も想像したほうがいいかもしれない。」
ルクスが続ける。
「最悪の展開って...?」
フリエナが聞く。
「『カヒューゼム教国』の滅亡さ.....」
「「「「「!?」」」」」
おいおい、いつからそんな国の存亡をかけた戦いになったんだよ。
始まりは、俺たちと『魔王狂信派』の戦いだったじゃないか。
それがここまで大ごとになるなんて...。
まあどうにかなるだろ、と思考を切り替えるユキマルなのだった。
・・・・・・
・・・・
・・
「ふむ、失敗に終わりましたか。」
『アクアンティス』の国境付近の上空に一人の魔族がいた。
見た目は少年だが、その実年齢は数千年を生きている大魔族である。
名をコンチェルト。
魔王幹部が一人だ。
「『魔王狂信派』の連中をうまく使って騒動を起こしている間に『神武』を回収しようと思ったのですが....どうやらうまくいかなかったみたいですね.....。」
それにどうやら『神武』の方も国にしっかり守られているようだ。
ならばわざわざリスクを冒してまでも回収する意味はないなとコンチェルトは判断した。
この判断によって『アクアンティス』は知らず知らずのうちに山場を越えたのである。
「それにしても、また我々を妨害したのは誰だったのでしょう。こうもことごとくやられると自信をなくすのですが.....。」
そう言ってしばらく考え込んだのち、コンチェルトは転移で魔王城へと戻ったのだった。
そんなコンチェルトだが、彼がユキマル達と出会うのはまだ先の話である。
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