金で買えない物
第四十話
マリアナの挑んだ領主選はあまりにも悲惨なものだった。
元々覚悟はしていたが、いざ目の当たりにすると、心に来る物である。
急遽参加した平民の小娘を嘲笑うかのように、ヒックマンの買収した議員達がマリアナに反対票を入れる。
「それでは集計結果を発表します。ヒックマン殿27票、マリアナ殿0票、よってマスコポル領の次期領主はヒックマン殿とします。」
これは当然の結果だった。
だから驚きはしないが、少し悲しい気持ちになる。
私がみんなにしてあげれることって結局なんなんだろう。
そんな疑問がマリアナの中で生まれる。
いつも他人に任せていた。
重要なところで自分で行動できなかった。
だからこそ、今回は自分が行動するんだと領主に立候補したのである。
しかし、結果はついてこなかった。
行動したことに意味があるよね....。
そんな逃げ道を探すほかマリアナに現状を整理する術はなかった。
これからマスコポル領はどうなってしまうのだろうという、不安という名の渦がマリアナの中でひたすらに広がり続けて行くのだった。
・・・・・・
・・・・
・・
一方、ユキマルの方でもピンチを迎えていた。
敵はマスコポル領内に『モリマ』という植物を投げ入れるだけでマスコポル領を破壊できるのだ。
そして、今はその敵をキャプリコンと追いかけている最中だ。
「『スキル』<<レーダー>>!!」
俺は、敵を探知すべく、スキルを発動する。
「捉えた!」
「今の一瞬でこの広範囲を....」
キャプリコンはユキマルの『レーダー』の性能に驚いた。
ユキマルは自身の想定よりも、強いのかもしれないと感じ取ったのである。
「いた。あいつらだ。」
そこには三人ほど、袋に『モリマ』を担いだ『魔王狂信派』の残党がいた。
「くそ!見つかったぞ、もういい、ここから投げ込め!」
そういうと、奴らは『モリマ』を一斉に投げた。
「っぶねぇ!!」
投げられた袋は全部で三つだったが、問題なく全てをキャッチすることができた。
これでひとまず危機は去った──
あいつら、まだ隠し持ってやがったか!
なんと、敵の一人が、『モリマ』を一つだけ手元に残していたのである。
くそ、今度こそ間に合わないぞ!
急いで、手に持ってる三つの袋を『インベントリング』にしまう。
届けぇ!
まるでブザービートのように、一瞬が引き延ばされる。
頼む届いてくれと願いながら、遠くへ手を伸ばす。
そして──
ドサッ
間に合わなかった....
地面に触れた『モリマ』が育つのは一瞬であった。
急激に大きくなったかと思うと、その勢いは止まることなく、周辺へと広がり始めた。
くそ!どうする!
炎魔法を使うか?
いや、万が一でも周辺に影響が出たら...いやそんなことを考えてる場合か?
コンマ数秒にも満たない短い時間で、脳をフル回転させる。
なにか、なにか手はないのか....!?
・・・・・・
・・・・
・・
新しい領主はヒックマンで決定した。
それはもう覆ることのない事実だ。
しかし、深い悲しみと対する中、マリアナはあることに気づいた。
「再選をお願いするわ!」
バッと席を立ち、力強く声を上げる。
「はぁこの後に及んで何を?大体そんなことまかり通るわけないだろう。」
嘲笑うかのようにヒックマンが言う。
「それはどうかしらね、司会者さん、確か再選を認める条件が一つあったわよね。」
「ええ、ありますが、それはなんというか、お飾りみたいなもので、実際に達成することは不可能かと....。」
「それが聞ければ十分。」
そういうとマリアナは席を立ち、窓の方へと歩き出す。
ここ、マスコポル伯爵の館の2階からはよく街が見えるのだ。
「な、なんだアレは....!」
議員のうちの一人が、何かに気づき声を上げる。
それに釣られて他の議員も窓の外を見る。
そして次々tにに疑問の声をあげる。
「アレはこの街の住民よ。」
この疑問に答えたのはマリアナだ。
「嘘だろ?まさか...!」
続いて、マリアナの意図に気付いたヒックマンが悲鳴を上げる。
「ええ、確か領民全員の署名を貰えたら、再選できるのよね。」
「はぁ、なんの冗談だ!どうして、奴らがマスコポル伯爵の館の周りに集まっている!なぜこんな小娘を支持する!」
「それは私にもわからないわ。でもこの応援には応えるべきだって私の心が言ってる。」
マリアナはまっすぐとヒックマンを見つめた。
そして、バッと窓を開ける。
すると今まで聞こえなかった声援が聞こえてきた。
「マリアナねぇちゃん、がんばれ〜!」
「マリアナちゃん、頑張ってくれ!」
「マリアナ!負けんじゃねぇぞ!」
「マリアナ!」
「マリアナ!」
「頑張って、マリアナ!」
眼下に広がる人混みの中に、ドーラの姿が見える。
やはり彼女が、昨夜話したことをみんなに共有してくれたのだ。
それでこんなにも人が集まってくれたことは想定外だが、なんにせよ、これでもう一度チャンスが生まれた。
「みんな、ありがとう!」
大きな声で、窓から叫ぶ。
それに応えるように、拍手が起こる。
「さて、そろそろ、決を取りたいと思います。」
そう言って、司会者が再び集票をする。
「それでは、集計結果を発表します....」
しばらくして、集計が終わった司会者が、会議を進める。
みんなには、再度チャンスを与えてもらったが、ここでまた負けてしまえば元も子もないのだ。
「結果は.....」
緊張の瞬間に思わず息を呑む。
マリアナも今ばかりは祈るしかないのだ。
「ヒックマン殿0票マリアナ殿27票よって、マスコポル領の時期領主はマリアナ殿に決定です....!」
「うおおおおおおおおおおお!!!!!」
外から歓声が聞こえる。
どうやら、私が勝ったことはすでに伝わっているようだ。
「き、貴様らあぁぁぁぁ!!」
バンと机を叩いて、勢いよく立ち上がったのはヒックマンだ。
「貴様ら一人一人にいくら払ったか忘れたか!その恩を仇で返すとは...!」
顔を真っ赤にして、議員一人一人を指差すヒックマン。
「はて、なんのことですかな?」
しかし、それぞれの答えは、知らないの一点張りだった。
馬鹿め、こんな大勢の国民の前で不正をするわけがないだろう。
お前がよこした端金とでは釣り合わないのだよ。
というのが全員の見解だ。
結局、金で買った信頼などこの程度だったのだ。
逆にマリアナはというと、日々積み上げてきた信頼があった。
「いつも、荷物を運ぶのを手伝ってくれてありがとう!」
「毎日、美味しいパンをありがとう!」
「この前相談に乗ってくれてありがとう!」
外から聞こえてくる声がそれを物語っている。
「みんな...」
みんなの声援を聞いて少しウルッとしたマリアナだった。
そんな、声援は金で買える物ではなかったのだ。
この勝利は、彼女がアクアンティスの王女だからではなく、『神武』に選ばれたからではなく、マリアナがマリアナだったから手にしたものだ。
「ふざけるな!私は認めないぞ!」
しかし、空気も読めずに、ヒックマンはいまだに騒ぎ散らかしていた。
「何か、卑怯な手を使ったんだろう小娘が!」
そう怒鳴りながら、マリアナに一歩一歩近づいていった。
その時だった──
「卑怯な手を使ったのは貴様であろう。」
バッとドアが開く音が聞こえて、部屋にとある人物が入ってくる。
その声で、誰だか気づいたのか、議員達は直ちに頭を下げて、跪いた。
「な、なぜ、国王陛下が.....!」
「ヒックマンよ、最近の貴様の行動は目に余る。今まではその手腕が故、見逃してきたが、そろそろ看過できなくなったぞ。」
「お、お待ちをアクアンティス王。わ、私はただただ領民のことを思ってですなぁ....ハハ。」
「そうか。ならば領民に聞くのが妥当よな。」
「へ....?」
すると、アクアンティス王は窓の方へと向かった。
「へ、陛下...?」
「アクアンティス王がお見えになさっとぞ!」
まさかの人物の登場に、歓喜に溢れる領民達。
「皆に、問いたい。皆はヒックマンとマリアナ、どちらが領主にふさわしいと考える。」
それは、領主を正式に決定するという意図のある質問だと誰もが気づいた。
しかし、何も難しいことはない。
なぜなら、誰を選ぶかはもう決まっているからだ。
「「「マリアナ!」」」
「「「マリアナ!」」」
「「「マリアナ!」」」
そこかしこでマリアナコールが起こる。
「のようだが、ヒックマンよ。」
アクアンティス王は振り返り、ヒックマンの方を向く。
「貴様の言い分では、マリアナが領主になった方がいいということになるが。」
「っ....!!...はい。」
ヒックマンは、ただ拳を握りしめるだけだった。
流石のヒックマンでも王に言い返すことはできなかったのだ。
こうして、マリアナが正式に、マスコポル領の領主へと選ばれたのである。
ちなみに、後日、ヒックマンに対する様々な、捜査が行われ、数々の不正が発覚したのはいうまでもない。
・・・・・・
・・・・
・・
ユキマルは、考えたが答えが出なかった。
だんだんと肥大化していく『モリマ』をどうすることもできなかったのだ。
そして、その根っ子がついに、マスコポル領に伸びかけた時だった。
ピタッと『モリマ』の成長が止まったのである。
「な、何が起きた?」
そこでハッとし、キャプリコンの方を見る。
するとそこには、何やら能力を使って、『モリマ』の肥大化を止めているキャプリコンの姿があった。
しかも、成長を止めるどころか、さらに小さくして、元のサイズに戻してしまったのだ。
「助かったぜ、キャプリコン!」
「いいえ、お気になさらず。」
これが『人類の剣』に選ばれる者の実力か。
そう、改めて認識したのである。
何はともあれ、これで本当に危機が去ったのだ。
水面下で計画されてたマスコポル領破壊計画を見事阻止したのである。
そういえば、放置していたが、さっきの三人は『モリマ』の下敷きになって完全に伸びていた。
まあ、自業自得だろう。
俺たちは三人を縛り、ソルナたちの元へ戻ったのである。
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