ありがとう
第四話
普通、人探しをする時は、ある程度目星をつけるものである。
では、それがない場合はどうするのか?
答えは知らない。
なぜなら、その答えを知りたいと思っているのは他でもない俺自身だからだ。
と言うのも、俺は広大な森から一人の少女を探すという愚行に走ってしまった。
見つけるには、一生分の運を使う必要がありそうだ。
「ったく。どこにいるんだよソルナ!」
その時だった。
『ピロン』
聞き覚えのある通知が鳴った。
『スキル <<レーダー>> を習得しますか?』
>はい
>いいえ
レーダー。
目の前に出現した『ブルーボード』にそう書かれている。
俺がちょうど欲していたものだ。
もちろん『はい』を選択する。
すると突然、脳内に森の全ての情報が流れ込んできた。
もちろん、ソルナの位置情報も完璧に捕捉できている。
倒れている。気絶しているようだが、まだ息はある。
でも急がなければ、『フレイムドラゴン』が彼女を八つ裂きにしてしまう。
「間に合うか?いや、この足なら!」
実はこの世界に来てから身体能力が大幅に上昇しているのだ。
『ピロン』
『潜在能力No.20 <<腕力上昇(超)>> を解放します。』
『潜在能力No.21 <<脚力上昇(超)>> を解放します。』
『潜在能力No.22 <<体力上昇(超)>> を解放します。』
『潜在能力No.23 <<耐久力上昇(超)>> を解放します。』
『潜在能力No.24 <<反射速度上昇(超)>> を解放します。』
『潜在能力No.25 <<動体視力上昇(超)>> を解放します。』
これは俺がこの世界に召喚されてまもなくに来た通知だ。
当時は、見逃していたが、宿で『ブルーボード』を確認しているうちに見つけたのだ。
<<脚力上昇(超)>>の効力は凄まじく、側から見たら、風が吹いたようにしか見えないだろう。それぐらい早く走れる。
そんなことを考えていると、ソルナらしき人影が見えた。
大きな岩にもたれかかっていて、頭から出血している。
「よし!まだ息はあるな!」
『ピロン』
『スキル <<ヒール>> を習得しますか?』
>はい
>いいえ
ナイスタイミングだ。
もちろん『はい』を押す。
「『スキル』 <<ヒール>>!」
パァァァァァァ
暖かい光に包まれて、ソルナの怪我がどんどん治っていく。
パックリ開いた傷も、傷跡一つ残さず完治している。
「このヒールは使えるな。」
俺は<<ヒール>> を重宝しようと思った。
「とりあえずこれで大丈夫だ」
あとはソルナを担いで逃げるだけ......そう思った時だった。
ドォォォン
凄まじい衝撃と共に、荒れ狂う突風が俺たちを襲う。
見なくてもわかる。『フレイムドラゴン』だ。
「うっ....ううぅ」
「起きたか!?ソルナ!」
先ほどの衝撃で、ソルナが目を覚ます。
「あれ...私....」
「ああ、お前は今まで気絶していた。早速で申し訳ないが逃げるぞ!」
寝起き(?)で意識が朦朧としているソルナを急いで担ぐ。
「え、えぇ?」
とても軽い。
彼女が軽いのか、それとも <<腕力上昇(超)>> の効果なのか。
おそらく、その両方だろう。
しかしそんなことは、どうでもいい。
今は余計なことを考えずに走るしかない。
ギュアオォォォォオ
後ろからドラゴンがすごいスピードで追いかけてくる。
おそらく、本気で逃げれば、俺が『フレイムドラゴン』に追い付かれることはない。
でも、今はソルナを背中に背負っている。
仮にも先程まで気絶していたのだ。今は無傷だとはいえ、衝撃を与えるわけにはいけない。
そんなわけで、かなりギリギリの追いかけっこをしている。
後ろから、戦車が迫ってくるような感覚だ。
ここで俺は自分のミスに気づく。
なんと、逃げた先に崖があったのだ。
ソルナを見つけたあと、『スキル』 <<レーダー>> を切ってしまっていた。
「なんてベタな展開だよ!」
崖下には森が広がっている。
俺は潜在能力があるから、飛び降りても平気かもしれない。
でもソルナは....。
「起きてるな?ソルナ。」
「うん。」
「今から、あのトカゲに俺たちに喧嘩を売ってきたことを後悔させる!」
力強く言ってみたものの、俺にはなんの作戦もない。
謎の自信があるのは、ひとえにソルナの存在だ。
「それじゃあ、ソルナ、お前の魔法で、あいつに牽制してくれ、その間に俺がなんとかする!」
「........」
とりあえずの作戦を伝えてみたが返事がない。
「...........いの」
「ん?」
「魔法なんて使えないの!」
は?どういうことだ??
まさかその見た目で、魔法が使えないなんてことがあるのか??
そこで、ふとソルナの言動を思い返してみる。
魔術師適正の話をしていた時の暗い顔はそう言うことか。
それに、彼女は一度も自分が魔術師だとは名乗っていない。
どうやら魔法が使えないことは本当のようだ。
「こうなったら俺一人でやるしかないか。」
「待って!一人でドラゴンと戦うなんて無茶よ!死んじゃうわ。」
「やってみるしかない。」
そうこう話しているうちに、『フレイムドラゴン』はすぐそこまで差し迫っている。
ブオォォォォォォォ
ドラゴンが口を開いて、火を吹く。
迫り来る猛火の前に俺は思った。
あ。これマジで終わったっぽい。
しかし神様はまだ俺を見放さないようで、またまたあの通知音が鳴った。
『ピロン』
『潜在能力No.1 <<炎耐性(特)>> を解放します。』
『潜在能力No.7 <<物理耐性(特)>> を解放します。』
『フレイムブレス』がユキマルの体を包む。
「ユキマル君!」
ソルナの悲痛な叫び声が聞こえる。
「熱っ.....いや?ほんのり暖かい....。」
なんだ、大してすごくないじゃんと思い、後ろを振り向くと、そこには燃え尽きた木々が倒れていた。
やべええぇぇぇよ。まじで死にかけたって.....!
しかし動揺している暇もない。
やつが次の攻撃をしてくる前に、なんとかしないといけない。
それに勝算はある。
俺にはCランクの魔物を一撃で葬ったスキル『クロースラッシュ』がある。
Bランクのドラゴンに通用するかわからないが、少なくともダメージは入るだろう。
何発か殴れれば、倒せない相手ではないはずだ。
「うおおおおおおっ」
『フレイムドラゴン』めがけて、思いっきりジャンプする。
「やべっ。跳びすぎた!」
まだ、自分の身体能力に慣れていない俺は、ドラゴンを余裕で飛び越えてしまったのだ。
このままでは、スキルを当てることができない。
「『スキル』 <<ロープ>>」
ソルナがスキルで俺の足にロープを結ぶ。
下に引っ張られる感覚がして、ジャンプの勢いがおさまる。
「ナイスだ!ソルナ!」
下にいるソルナに向かって親指を立てる。
「お前はこれでも食らっとけぇぇぇぇぇぇ!」
『スキル』 <<クロースラッシュ>> を発動し、『フレイムドラゴン』の脳天めがけて思いっきりぶん殴る。
ドオオオオオオオン
落下の威力も相まって、予想とは裏腹に、凄まじい衝撃が起こり、ドラゴンが動かなくなる。
「ふう。なんとかなったな...。」
どうやら『フレイムドラゴン』の討伐に成功したらしい。
「ほ、本当に倒しちゃった...。」
後ろからソルナの声が聞こえる。
彼女も無事のようだ。
「ああ。本当にな....。」
「.....」
「なんだよ?」
ソルナが黙り込む。
「その.....ごめんなさい。迷惑かけて....。私のせいで、ユキマル君を危険に晒して...。」
ソルナが震えた声で呟く。
「違うだろ。こう言う時は、ごめんじゃなくて、ありがとうって言うんだ。」
そう言って、俺はソルナに笑いかける。
「それに助けに来たのは、俺の意思だ。」
そう付け加える。
すると彼女は、一瞬目を見開いて、驚いた表情を見せたあと笑顔を見せた。
「........ありがとう!」
「おう!」
俺は頷いて、来た道を歩き出した。
今回は『レーダー』の発動を忘れていない。
「それじゃあ帰るか。」
「そうね、帰りましょう。」
こうして、俺たちはやっとのことで帰路に着いたのだった。
だんだんと設定が増えてきました。
作者自身、こんがらがらないよう頑張ります。