残党狩り
第三十九話
ユキマル達が作戦を開始した頃、マリアナは自身が育った孤児院を訪れていた。
中に入ると、ドーラが出迎えてくれた。
マリアナにとってドーラは母のような存在だった。
故に、王都から帰ったらまず会いに行くと決めていたのだ。
そんなに長い別れではなかったはずなのに、えらく久しぶりに感じた。
それもこれも、ここ最近衝撃的なことが頻繁に起こっているからだと思われる。
「──ってことがあったの....。」
私が全てを話し終えると、ドーラはお茶を一口すすった。
私がいつも送ってるやつだ。
そして彼女は、何かを見つめるようにティーカップの底を眺める。
「難しいわねぇ....」
これがようやくドーラの口から出た言葉だ。
「そうなの!難しいの!」
そんなことはわかっている、と言わんばかりの勢いでツッコむ。
「問題は、私がどれだけ頑張ろうと、ヒックマンが勝つことが決まってることなの。」
「なるほどねぇ....。でも、もしあなたが負けてしまったとして、それを責める人はいないわよ。」
「それはそうだけど....、さっき言った通り、もしヒックマンが領主になってしまったら、ここの領民はみんな酷い目に遭うのよ。それは阻止したいの。だから責任とか、そういうことじゃなくて──」
「わかってるわ。ただ、何があっても私はあなたの味方だって、言いたかっただけ。」
「ドーラ....。」
ドーラの笑顔がマリアナの心に響く。
出会った時よりもシワが増えた顔がクシャッとなり、なぜか温かい気持ちになった。
何を思い詰めていたのだろうか。
もとより負け戦だったのだ。
ならば最後まで足掻いてみようじゃないか。
私にも味方はいる!
それが知れた、そんな久しぶりの再会なのだった。
・・・・・・
・・・・
・・
マスコポル領付近の森にて、ユキマル達は息を潜めていた。
「アレか」
「ああ、そうだ。動物達によると、アレで間違いない。」
目の前に広がっているのはいくつかのテントだ
周りには人が30人ほどいる。
おそらく奴らが『魔王狂信派』の残党だろう。
「な、なんか強そうな人がいますよ....!」
ルフテの視線の先には、確かに屈強な男がいた。
周りに指示をしていることから、彼がリーダー的な存在であると推測できた。
「盗まれた植物は見つかりそうか?」
「いや、まだ見当たらない!」
ミーニャが答える。
「うーん、こうなったら強行突破しかないのかのお。」
「まあ、俺はそれでもいいけどな。」
パティサスのいう強行突破も悪くはない。
相手を縛り上げてから、テント内をくまなく探すのもありだ。
もちろんその場合は戦闘が避けられないが....。
俺としては、かかってこい、なのである。
「いくか。」
「そうじゃな」
そうして俺たちは一斉に飛び出した。
「おい、テメェら誰だ!!!」
早速敵のお出ましだ。
「おらよっと!」
右ストレートでワンダウン。
「テメェよくもやりやがったな!!」
逆上した仲間が迫ってくる。
「せいや!」
今度は華麗に交わして、そのままフックでツーダウンだ。
「おみごと。」
キャプリコンが軽い拍手を送ってくれた。
「喜ぶのはまだ早いんじゃないか?今のはただの見回りだぞ。」
そう、本命はあのリーダーっぽい奴なのだ。
あいつが敵の中で一番強そうなので、戦うとしたらあいつがいいのである。
「おいおい、なんの騒ぎだ?」
そんなことを思っていると当の本人のご登場だ。
「ピルゴドズさん、侵入者です!!」
「へぇ、ピルゴドズっていうのか。お前を倒せば実質そっちの負けだよな?」
俺は、ピルゴドズと呼ばれていた男の正面に立ち、その大きな体を見上げた。
「ああ、そうなるな。」
「だったら──」
ゴッッ!
鈍い音が響く。
会話の途中だったが、そんなことはお構いなしに、ピルゴドズのパンチがユキマルに炸裂する。
「ユ、ユキマルどの.....!!!」
「ユキマルさん.....?!」
「ユキマル....?!」
あまりの急展開に『大樹』のメンバーが困惑と焦りの表情を見せる。
「た、大変だ!!敵がこんなにも強いとは....!」
パティサスは慌てふためき、今にも取り乱しそうだ。
「っへ、油断してるからこうなるんだ。まあ吹っ飛ばなかっただけ褒めてやるよ。」
そう言ってゆっくりと拳を離すピルゴドズ。
「馬鹿め、ピルゴドズさんはCランクモンスターであるデーモングリズリーに襲われても生還した男なんだぞ。お前みたいなどこの馬の骨とも知れぬやつが勝てるわけ──」
そこらへんにいた、敵の一人がピルゴドズを絶賛していたが、途中で声が止まった。
「っ......!なんだ?」
ピルドゴズも異変に気付いたようだ。
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁ、俺の拳がぁぁぁぁぁ!!!!」
なんと、あの鈍い音の正体は、ピルゴドズの拳が砕ける音だったのである。
彼程度ではユキマルに傷をつけることは愚か、かえって自分が傷ついてしまうのだ。
「さーて、お返しと行くか。」
そう言うと、ユキマルはピルゴドズの2メートルほどある巨体を担ぎ、少し、飛び上がった。
「光栄に思え、おそらくこの世界でこれを喰らうのはお前が初めてだ!」
ユキマルは体を反り、ピルゴドズが体より下にあるように調整する。
「おらぁ、スープレックスだぁ!」
どおおおぉぉぉぉん!
地面にヒビが入り、砂ぼこりがまう。
足元に横たわっているのは、完全に伸びているピルゴドズだ。
「あ、あのピルゴドズさんをたった一撃で....!?」
慌て始める敵。
それもそのはず、自分たちのリーダーが倒されてしまったのだ。
「さあ、盗んだ植物のありかを教えろ!」
そういうと『魔王狂信派』の奴らが一斉に動き出した。
しばらくして、テントの一つに、盗まれた植物達を発見した。
『魔王狂信派』の奴らは、外で縄に縛ってある。
あとでまとめてギルド『アンダーワールド』に引き渡すだけだ。
「これで一件落着ね!」
フリエナが言う。
そして、全員が安堵しかけた時だった。
「いや、ちょっと待って!『モリマ』が、盗まれた植物のうち一種類だけがない!」
突然、植物学者でもあるミーニャが言う。
「まだ、どこかに隠してあるってことかよ....?!」
「でも、全てのテントをくまなく探したわよ?」
ソルナが言う。
「おい、お前達は知ってるのか?」
ダメ元で捉えた『魔王狂信派』の奴らに聞く。
「クックック、お前達はまんまと騙されたんだよ!その二種類の植物はただの囮だ。我々の狙いははなから一つだけ。『モリマ』を使って、我らの主であるバニティー様を追い詰めたマスコポル寮の領民に復讐することだ!!」
「はあ?それと『モリマ』って植物がどう関係してくるんだよ?」
「おっと、そこまで教えてやる義理はねぇぜ?」
全く、憎ったらしい顔だ。
一発殴ったら、吐くのだろうか?
「ま、まさか!」
そう叫んだのはリーニャだ。
「信じたくはないけど、『モリマ』にはものすごい吸水性があるの。普段のアクアンティスならば問題ないけど、ここ最近は大雨続きだから、そんな潤っている土壌に『モリマ』を一瞬でも触れさせてしまうと.....!」
「どうなるんだ?」
「マスコポル領全体が『モリマ』に覆われてしまうよ!」
「それだけか?」
「それだけってなによ!そんなことが起こったらものの数日で生態系が変わっちゃうよ?どれだけの影響が出ると思ってるの?それにその規模の『モリマ』の根は普通に建物を崩壊させるわ!マスコポル領も無事じゃ済まないよ!」
「っ......!」
まじか。
それに今ってマリアナが会議中じゃなかったか?
そんなの絶対に邪魔させるわけにはいかない。
「ってことは奴らはマスコポル領の方に向かったのか!」
「ッチ、バレちまったか。だがもう遅い。今から行っても間に合わないだろうぜ!はっはっは!」
と捕らえた『魔王狂信派』のやつが言う。
「それはどうだろな。」
ビュウゥゥゥン。
俺は旋風を残して、マスコポル領の方へと走り出した。
マリアナを応援すると決めたのだから、会議は誰にも邪魔せさないのだ。
「ユキマル殿、私も同行いたします。」
うお、びっくりした。
振り返るとそこには並走するキャプリコンの姿があった。
俺もかなりのスピードで走っているのだが、それに余裕でついてきているようだ。
やはり、『人類の剣』に所属していることは疑いようのない事実らしい。
「わかった、もう少し、スピードを上げるが、ついて来れるか?」
「問題なく。」
「おし!」
そういうと、俺は達は敵の作戦を潰すべくさらに速度を上げたのだった。
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