『人類の剣』-ソード・オブ・ヒューマニティ-
第三十八話
問題が起きた。
いや、明日決行する、植物泥棒の根城に攻め込む件じゃない。
マリアナが領主になる件だ。
結局、マリアナは自身の正体を隠した上での会議に挑むことになった。
会議とは、マスコポル領に相応しい人物を決める会議である。
候補者は二人。
マリアナとヒックマンだ。
ヒックマンは元々有力候補としてほぼ確実に選ばれる予定だったが、謎の力(アクアンティス王の権力)によってマリアナが対抗馬として現れたのである。
そしてヒックマンの人柄というとだが、あまり人徳のある人物ではない。
倫理性よりも合理性を優先するタイプだ。
優秀ではあるが、自分の目的のためには多少の犠牲など気にしないのだ。
だから彼には常に黒い噂が付き纏っていた。
それが、マリアナの懸念点だったのだ。
以前までマスコポル領の領主を務めていたマスコポル伯爵、もといいバニティーだが、彼もまた領民のことなど全く気にしていなかったのだ。
だからこそマリアナは知っている、上に立つ人には何が必要なのかを。
それは人徳があり、痛みを知っており、人の声を聞ける人なのだ。
そして、もう一つ、マリアナは学んだことがある。
何もかも他人に任せたままではいけないと。
事実自分は、マスコポル伯爵の支配に抗える唯一の領民でありながら、何もしなかった。
結局はユキマルがバニティーを倒しており、この一件を通して彼女は己の無力さを知った。
ならば、今度こそは自分で変えていこうと、行動しようと、そう思い立ち、マスコポル領の領主の座をかけた戦いに出向こうとしていたのである。
会議はマスコポル伯爵の館だった場所で行われる。
そしてそこに参加するのは、国の大臣やら、領内の代表者などである。
そこで話し合いをし、どちらが領主に相応しいかを決めるのだ。
しかし、ここでマリアナに驚愕の知らせが入る。
「はぁ〜?!つまり、会議ってのは建前で、そのヒックマンとやらが勝つ出来レースってことかよ?!」
思わず大きな声を出してしまったのはユキマルだ。
そう、なんと、この会議初めから参加者を買収してある茶番なのだ。
マリアナの勝ち目はゼロ。
領民全員の署名でも集まらない限り、絶対にマリアナが領主になることはないのである。
「さ、さすがにひどすぎます....!」
「そ、そうよ!!」
ルフテとマリアナが言う。
ごもっともだ。
「う〜ん。確かに厳しいな...諦めるか?」
ユキマルがマリアナに問う。
「いいえ、諦めない。きっとまだ方法はあるはず!」
即答だ。
どうやら彼女の決意は硬いようだ。
「そうだよな!そっちの方が楽しいもんな!」
マリアナの返答を受け、思わずフッと笑ってしまった。
試したわけではないが、俺はどこかマリアナならそう言うだろうと思っていた。
だから嬉しかったのだ。
「それに....」
マリアナが続ける。
「諦めないことは君に教わったから....!」
「...ッ!」
マリアナの目が俺をまっすぐ見つめる。
かっこいい、そう思ったのは口にはしなかった。
ふと、俺は思った、これも冒険の醍醐味なんだと。
思い出すと、俺は初めてこの世界に来た時、この世界にたくさんのことを求めた。
それをひとくくりに『冒険』と名づけたのだ。
そして、彼女が見せた覚悟も、俺のワクワクに含まれていたのかもしれない。
だから、俺は彼女を応援したいと本気で思ったのだ。
「勝ちに行こう、マリアナ!」
「ええ、私はもう逃げない。私は....戦う!」
・・・・・・
・・・・
・・
うまく締めたが問題はもう一つあった。
なんとマリアナの会議の日と俺たちの作戦を実行する日が被っていたのだ。
要するに、俺たちは当日マリアナの会議に参加できない。
マリアナは一人で戦わなければいけないのだ。
応援したいと思った手前申し訳ないが、俺としてはマリアナを信じることしかできないのである。
さて、そんなこんなで俺たちはマスコポル領に来ていた。
数日ぶりだ。
「まさかこんな早く戻ってくることになるとはね....。」
「そうだな」
街の様子は、忙しなく見える。
人々は急な変化を受け入れ、対応していってるようだが、それでもまだ慣れないところがあるようだ。
それに、これから自分たちの行く末を決定する会議が行われるのだ。
どこから情報が入ったのかはわからないが、どうやら領民全員がその話題で持ちきりだ。
「ここにいる人全員の人生を背負って行くちゅうことやんな。ほんま大変やで。」
コラゴンが言う。
確かにそうだな。
でもマリアナにはその覚悟ができているように見えた。
俺はすぐにいらない心配だと思い、話題を変えることにした。
「それじゃあ、これから『大樹』と合流して、敵の根城に攻め込むわけだが、みんな心の準備はできてるな?」
「ええ、大丈夫よ。」
「問題ないで!」
「ふん!ユキマルに言われなくともできているわ!」
「わ、私は少し、心配ですが....。」
まあ、なんだかんだ言って、みんなも戦い慣れしてきたな。
そう思いながら、待ち合わせ場所へと向かったのだった。
到着するとそこにはキャプリコンの姿があった。
『大樹』のメンバーの姿は見当たらない。
まだ着いていないようだ。
「待たせたな」
「いえいえ、お気になさらず。」
紳士な返答が返ってくる。
しばらくの沈黙ののち、俺はふと思ったことを聞いてみた。
「なあ、あんたはなんで『F &P』にも『フリーダム』にも属していないのに、今回の任務に同伴してるんだ?」
「ん....そうですね。ユキマル殿は私が着ている制服をご存知ですか?」
「制服...?」
言われてみると、キャプリコンは白基調のしっかりとした制服を身につけている。
キャプリコンの容姿と合わさってまさにイケおじと言った感じだ。
「あ....!」
そこでふと、後ろから声が聞こえた。
ソルナだ。
「それってもしかして『人類の剣』の制服ですか....!?」
続けてソルナが言う。
さすが物知りというべきか、どうやらこの人の正体に気づいたようだ。
「はっはっは、ご存知でしたか。」
キャプリコンが言う。
「そーどおぶひゅーまにてぃ....?なんだそれ。」
「『人類の剣』とは人類が魔族に対抗するために集結した国際組織です。メンバーは立ったの12人。ただし一人一人の力が、一国の戦力に匹敵すると言われてます。そんな人類の精鋭達の集まりなんです。」
「へぇ。」
「確かに『人類の剣』は強い。ですが世の中にはまだまだ強い人がいます。世界は広いですよ。」
とキャプリコンが付け加える。
「あんたそんなにすごい奴だったのか。」
「それは、あなたこそでしょう。」
「....?」
「はっはっは、ご謙遜なさらず。ああ、ユキマル殿のことは存じ上げておりますよ。魔王軍幹部のデイザスを倒したということも。只者でないことは確かです。」
なるほど。
情報通でもあるわけだ。
どうやら『人類の剣』とやらは本当にすごい奴らの集まりらしい。
「ところで、そんなすごい人がなんで、こんな任務に参加しているんだ?」
「それは、今回の件に『魔王狂信派』が関わっている可能性があるからです。正確にはその残党ですがね。」
なるほど。
つまり、自分たちの親玉であるバニティーが失踪したことによって、末端の信者達の統率が取れなくなったのだ。
それで今回のような奇行に走ったのではないかとのことだ。
「う〜ん、それと植物を盗むことが、俺の中でまだ結びつかないんだけど。」
「それに関しては──」
「みなさん、お待たせしました....!!!」
待ち合わせ場所に息を切らして来たのは、『大樹』のメンバー達だ。
「すまねぇ、急ごしらえで武器を用意していたら、遅れた。」
ジャナが言う。
なるほど。
装備を調達してたから遅れたのか。
「わしらにはなれない物で、よくわからずに探してたら、遅れてしまったようだ。すまない。」
パティサスが頭を下げる。
「いや、何よりも命が最優先だ。謝ることはない。それよりも、これでメンバーが揃ったな。」
「ええ、そうですね。」
「それじゃあ出発と行こうかのお。」
「おう!」
そうして俺たちは、敵の拠点に向けて出発したのであった。
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