マリアナの多忙
第三十七話
ユキマルによってマスコポル領から、『アクアンティス王国』の王都『ウォーリン』へと連れてこられたマリアナだったが、そのとき、彼女は人生最大の事実を知ることとなる。
なんと彼女の本名はマリアナ・アクアンティスであり、現国王の実の娘だったのだ。
つまり『アクアンティス王国』の王女だったのだ。
そんなこんなで、しばらくの間、王城で生活していたわけだが、彼女には一つ、思うところがあった。
私はこれからどうすればいいのだろう...。
これがマリアナの偽らざる本心であった。
今まで、庶民だった彼女にとって、王族の暮らしはえらく窮屈に感じてしまうのだ。
そして、王もマリアナの意思を尊重してくれると言った。
だから、マリアナが今後どうしたいと言っても、それは実現するわけだ。
だからこそ、悩んでいるのである。
無難にマスコポル領に帰った方がいいのかな....。
ドーラも孤児院の子達も待ってるだろうし。
はあ、とため息を吐き、机に突っ伏す。
現在、彼女がいるのは、城の客室だ。
マリアナには有り余る広さだが、家具を一箇所に集中させることで、なんとか落ち着きを保っている。
コンコン
顔を上げてドアの方を見る。
入室を許可すると、一人のメイドが入ってきた。
どうやら悩める少女の元に、来客がやってきたとのこと。
そう告げるとメイドは、その来客を呼びに行ってしまった。
「ふむ。」
誰だろう....?
なんて茶番はよそう。
実はというと、来客の正体に心当たりがある。
というのも、そもそも、私がここにいることを知っている人物は限られている。
そして、その中で私に会いにくるもの好きがいるとしたら──
「よっ、マリアナ!」
聞き覚えのある声が客室に響く。
私の恩人であり、マスコポル領での一件の立役者であるユキマルだ。
どうやら今日は、用事があって会いにきたらしい。
「えっと.....盗まれた植物の行方が知りたいの?そんなこと私が知っていると思う?」
「だよなぁ」
実を言うと、この反応はユキマルの想定内であった。
「逆にどうして私にわざわざ聞きにきたの?」
「ああ、いや、えーと。気にしないでくれ。」
「はぁ」
マリアナは納得できていないようだが、なんとか誤魔化すことはできたようだ。
スクリプトールのことを話すと、話がめんどくさくなるからなるべく話したくないのだ。
仮に話したとして、訳のわからない商人のわけのわからない予言なんて信じられないだろう。
まあ、それはそれとして、俺には別で気になることがある。
「さっきメイドの人から聞いたけど、なんか悩んでるのか?」
「え....!ああ、まあ...。」
少し視線をずらして、マリアナが答える。
「実は、私を次のマスコポル領主にしようという話が出ているの....。」
なるほど。
話を聞いてみると、父である国王にとって、隠し子であるマリアナの扱いはとても悩ましいものだったそうだ。
マリアナに会えて嬉しいのだが、それをいきなり公表するわけにもいかない。
理由はいくつかあるが、一番の問題は家臣たちの反感を買うことだ。
ぽっと出の娘に実権を握られてたまるか、といういらぬ敵を作るかもしれないのだ。
次に考えられたのが、普通の暮らしに戻るということだ。
今まで、マスコポル領で過ごしてきたように、パン屋の店員としての人生を再開するというものだ。
これは、無難に思えたが、ここで一つ懸念点が生まれた。
では一体誰が次の領主になるのか....?
そこで台頭したのが、ヒックマンという男だ。
彼は優秀な男ではあったが、同時に黒い噂も絶えない奴だった。
『西方奴隷商』と取引を行っているなんて噂もあるくらいだ。
結局、以前までマスコポル領に役員としてヒックマンが派遣されていたことから、彼が適任だという声が上がった。
しかし、それはいかがなものかとマリアナは思った。
「あの事件の時、私は何もできなかった.....。ただユキマルくん達がマスコポル伯爵を倒すのを待つだけで....何もできなかった。だから、もう見ているだけは嫌なの...!」
自ら行動しようとするマリアナを俺は応援しようと思った。
「じゃあ、対抗馬はお前だな、マリアナ!」
「うん!」
何やら、彼女の中で決意が固まったようだ。
どうやら悩みの種は、解決したようだった。
・・・・・・
・・・・
・・
と、ここで、一つ用事を思い出した。
「そうだ、ついでだし、これを渡しておくよ。」
そう言って『インベントリング』から『クサナギ』を取り出す。
「え?」
ポカンと口を開けて驚くマリアナ。
「いや、お前が持っておくのは当然だろ?マリアナが選ばれたんだから。」
「そう...だけど...これって『神武』なんだよね?」
あの事件のあと、俺はマリアナに何があったのかを話した。
だから彼女は『クサナギ』が『神武』であることを知っている。
「まあ俺が持っててもしょうがないしな。」
「だからって....!」
そういうとマリアナはソルナに視線で助けを求めた。
それに対して、ソルナは、ごめん、と目を閉じるだけだった。
ソルナにもユキマルの暴走は止められなかったのだ。
「はぁ、わかった。」
最終的にマリアナが折れた。
『クサナギ』を受け取り、丁寧にしまった。
そうして、その日は解散となった。
「じゃあなマリアナ。なんかあったら頼ってこいよ。」
「そうよ、ユキマルをこきつかっちゃって!」
フリエナが言う。
「はは、ありがとう。またね!」
マリアナの言葉を最後にユキマル達は城を後にしたのだった。
「結局、盗まれた植物の行方はわからずじまいだったな。」
「せやな。でも、マリアナの悩みを聞けてよかったで。」
とコラゴンが言う。
「まあ、それもそっか。」
俺は、今日会いに行ってよかったと改めて認識した。
それでも、スクリプトールの狙いが未だにわからないのが気になる。
なぜアイツは俺たちとマリアナを合わせたのか。
それがわからないのだ。
それはさておき、次に『F &P』の人たちに会うのは明日だ。
それまでになんとか情報を入手したいと思った。
「う〜む。まじで八方塞がりだぞ。」
そうして、なんの収穫もないままその日を終えることとなったのだ。
次の日の朝早くから俺たちはギルド『フリーダム』にて集まっていた。
もちろんギルド『F &P』の『大樹』のメンバーもいる。
三人とも少し居心地悪そうにしている。
まあ、よその家にお邪魔しているような感覚なんだろう。
そして老人元いい、キャプリコンは堂々としている。
なんというか貫禄を感じる。
「それじゃあ、誰か情報を入手したものはおるか?」
パティサスが聞く。
「いや。何にもないよ。」
「恥ずかしながら私の方でも....。」
俺とキャプリコンが答える。
「そうですか。だが、案ずることなかれ。ワシらの方で少し気になることを耳にした。」
ほう。
それは気になるな。
「実はうちのジャナは動物とコミュニケーションを計ることができるのだが、どうやら、最近とある場所で異変が起こっているらしい。」
ん?
なんかしれっとすごいこと言わなかったか?
まあいいか...。
「とある場所って?」
俺の疑問を気にもせずソルナが聞く。
「ああ、それはマスコポル領近辺だ。」
「マスコポル領近辺...!?」
そこは俺たちがつい最近いたところだ。
そしてあの事件が起こった場所でもある。
おいおい、ここにきて、全てが繋がってくるのかよ。
「それで、どんな異変が起こってるんだ?」
「それが、怪しい集団が領地付近の森の中にキャンプ地を作っているらしいのだ。」
「おいおい、ってことは、相手の場所も特定できたってことか?」
「ああ、そうなる。だから、あとは乗り込むだけなのだが.....ここからは我々ではどうしようもない。当初の予定通りお主らギルド『フリーダム』に頼みたい。もちろん我々もついて行くが、あまり力になれないと思ってくれ。」
なるほど。
バトルは俺たちの領分ってことか。
でも、全て了承した上で受けた任務だ。
当初の予定通りで何も問題はない。
「それでは、決行はマスコポル領への移動時間も含めて明後日とする。それまでに心の準備をして集まってくれ。」
「「「了解。」」」
こうして、この場は解散となったのだった。
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