円卓に集いし魔王達
第三十五話
バニティーがユキマル達に敗北したことが、魔王軍に知れ渡るのにそう時間はかからなかった。
まず、『魔王軍』と『魔王狂信派』の関係性についてだが、実は大したつながりはないのだ。
『魔王狂信派』に所属している者は、単純に魔族の思想や文化に共感したただの人間であり、それらが何をしようと『魔王軍』としては感知するところではないのである。
現代風に言い換えるならば、芸能人を推している、ファンみたいな感じだ。
つまり、『魔王狂信派』はファンに過ぎないのである。
しかし、今回ばかりは話が違った。
『魔王狂信派』の『布教者』の一人に貸し与えていた『神武』が紛失したのだ。
それに、デイザスの『アクアンティス』への侵攻も失敗に終わったのだ。
故に開かれたのだ。
『魔王軍』幹部以上で行われる会議が。
そこにはもちろん二人の『魔王』も列席している。
しかしその姿は見えない。
なぜなら、円卓を囲っている二人をベールが覆い隠しているからだ。
そして、そのベールを取り囲むように、10人の幹部が膝をつく。
するとふと、幹部のうちの一人が立ち上がった。
見た目は10歳前後の少年だが、その中身は数1000年を生きている大魔族である。
名をコンチェルトという。
彼の腕には四つのダイヤの形をした武器が付いているのだが、これ以上説明すると、話題が逸れるので一旦置いておくとしよう。
要するに、コンチェルトはしっかり者な性格なため、会議の際は司会を任されているのである。
「それでは今回の議題を提示します。一つは『アクアンティス』侵攻の結果について。二つは『神武』に関してです。」
幹部達は無言で答える。
そして、それを肯定と捉え、進行を続けるコンチェルト。
「まずは『アクアンティス』進行についてですが、こちらは失敗に終わりました。また、この件を一任されていたデイザスも現在は『アクアンティス』にて監禁中とのこと。この件に対する論点は、なぜ負けたのか、です。」
「そんなのあいつが弱かったからだろぉ。」
そう発言したのは珍生物代表スケルツォである。
珍生物とはそのままで、得体が全く知れないのだ。
見た目的にはペンギンをデフォルメしたぬいぐるみ、みたいな感じだ。
常に口がムスッとしていて、表情変化は滅多に見られない。
身長は1メートルないぐらいだ。
「スケルツォ...いくらデイザスが魔王幹部最弱だからといって、人間から見たら、強い部類なのです。だから単純な力で負けたとは考えにくい。」
「だったら、『勇者』はどうだ?近くに『刹那の勇者』が来ていたらしいじゃないか?」
そう言ったのは魔王軍幹部で最大の大きさを誇るシンフォニーだ。
可愛らしい名前とは裏腹に、身長は5メートルほどで、顔に大きな傷がある、いかつい奴だ。
見た目はともかく、シンフォニーの述べた意見は的を射ていた。
「その線が最も濃厚ですね。『勇者』が相手だとすると、我々でも歯が立たないですから。」
そう、魔王軍幹部でさえ、『勇者』に一目置いているのだ。
そこからどれだけ、『勇者』が大きな存在かを窺えるだろう。
「ですが、いろいろと辻褄が合わない部分もあるのです。例えば、シンフォニーが述べた通り、『勇者』が最初から参戦していたのであれば、接戦になっていたことに説明がつきません。我々が完膚なきまでに負けていたでしょう。それに、今回の作戦の要であった干ばつもなぜか起こらなかった。これは第三者の介入を疑ってもいいかと思います。」
コンチェルトの意見の対して、他の幹部達も納得した様子。
「これについては今後も対策を行っていきましょう。それでは、二つ目の議題の『神武』についてです。『神武』を貸し与えていた『魔王狂信派』の者ですが、こちらもまた何者かに敗北したとのことです。その後行方をくらましており、『神武』の所在も以前不明なまま。」
「『神武』って、『クサナギ』だよね!あのバニティー?ってやつしか適応者がいなかったから貸したけど、結局アイツも全然真価を発揮できていなかったし、人類に使いこなせるとは思えないんだよね!」
だから、紛失したのはさほど大きな損失ではない、と幹部のうちの一人が言う。
その者の名前は、カノンと言い、背中に大剣を背負っている魔族だ。
「確かに、バニティーは全く持って性能を引き出せていませんでしたが、『クサナギ』は全世界を一度に支配できる代物。万が一に備えて回収も考えておいた方がいいかもしれません。」
そう言うと、コンチェルトは今までの話をまとめた。
「では、謎の勢力への警戒と対策、そして『クサナギ』の回収が今回の決定事項ということで。会議を終わりたいと思います。」
こうして、魔王軍上層部の会議が終わったのだった。
とここで、思い返してもらいたい。
今回の会議では、幹部以上の者は全員出席しているのだが、『魔王』は一言も発していないのである。
これには一体どういう意図があるのか。
それはわからないのだが、これまでの出来事が、二人にとっては些細なことであるかのようにも捉えられるのが、なんとも不気味なところだ。
まあ、そんな懸念はさておき、幹部達が解散することで、会議は終わったのである。
・・・・・・
・・・・
・・
時を同じくして、『西方奴隷商』でも話し合いが行われていた。
場所は以前と同じ、僻地にポツンと佇む館だ。
「それでよぉ、結局お前の任務は失敗したのか?エタニタ。」
話を切り出したのは、相変わらずチンピラみたいな格好で荒々しい口調をしたオセウスだ。
「あら、あなたのその小さな脳みそでは理解できなかったかしら?私は『魔王狂信派』の方々には最低限のことはしたつもりよ。それにユキマルとその仲間の情報も手に入れることができたわ。」
オセウスの指摘を冷静に受け流すエタニタ。
実際に彼女は、今回の件を重く捉えていない。
バニティーの行方はわからなくなったが、依頼主は『魔王狂信派』なのだ。
だから宛先の住所が変わっただけなのである。
現在、『カヒューゼム教国』にて『布教者』が集結していることはエタニタも認知していた。
そして、今回はしっかりと荷物を届けに行くのである。
荷物とはもちろんフリエナとコラゴンのことだ。
前回は直接的な接触を回避したがために、バニティーの敗北を招いてしまったわけだが、今回はエタニタ自ら戦地に赴こうとの考えだ。
「ふむ、それでは任せたぞエタニタ。依頼人にしかと商品を届けてこい。」
厳格な声でそう言ったのは『西方奴隷商』のボスであるアモンだ。
「はい、おまかせくださいませ、アモン様....!」
おっとりとした目でアモンを見つめながらエタニタが言う。
かくして、『カヒューゼム教国』で起こる波乱の種が植えられたのだった。
しかし、これはほんの始まりでしかない。
ユキマル達と『西方奴隷商』の因縁はもうしばらく続くこととなる。
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