深まる謎
第三十三話
バニティーの気絶により、マスコポル領内の住民の大量死が起きようとしていた。
俺はそれを食い止めるべく、急いで街の広場へと向かった。
「間に合ったか...!?」
俺が到着すると、街では大勢の人が苦しんでいた。
まだ、しばらくは耐えてくれそうだが、それも時間の問題のように思われた。
一瞬、パン屋での出来事が想起される。
あの惨事だけは避けなきゃだな。
そうは言ったものの、止める方法はない。
あるとしたら、バニティーが支配を解除してくれることのみだ。
しかし、それは絶対にしてくれないだろう。
それ以前に当の本人が気絶しているのだからどうしようもない。
だが、俺は諦めずに、ある可能性に賭けることにした。
そして、それを実行するには彼女...マリアナを探す必要がある。
「『スキル』 <<レーダー>>!!!」
いた!
俺はスキルを駆使して、早急に目的の人物を発見することができた。
「マリアナ!」
俺が声をかけると、彼女は駆け寄ってきた。
「これは一体...?どうなってるの。ドーラも、孤児院のみんなも急に苦しみ出して!」
彼女は取り乱していた。
それもそのはず、この状況を理解するのはかなり無理がある。
俺はとりあえずマリアナを落ち着かせると、簡潔に状況を伝えた。
マスコポル伯爵、元いいバニティーがかけた死の支配が発動したことを。
俺に作戦があること。
そして、時間がないことを。
「いいか、これ以外にみんなを救う手は思いつかない。だから協力してくれ!!!」
そういうと、俺たちは街の広場にある高台に立った。
そして、マリアナの手を握る。
「『スキル』 <<共鳴>>』!!!」
俺はマリアナに『共鳴』で『共鳴』を共有した。
そして、『クサナギ』をマリアナに手渡す。
実は、役に立つかもと思い、念のため持ってきていたのだ。
「これは...?」
「説明はあとだ。それを発信媒体に、ここの住民に『浄化の加護』を共有するんだ!」
そう、マリアナの受けている加護は、『神獣』である『オリアマ』からのものであり、それには、支配を受けない/無効化する、といった効果が含まれている。
そして、『神武』『クサナギ』で街中の人に『浄化の加護』を共有することによって、バニティーの死の支配が解除されるということだ。
問題は、マリアナが『クサナギ』に所有者として認められるかどうかだが.....。
「何も....起こらない....?」
マリアナが高々と掲げた『神武』は今やただの石の剣なのである。
その強力な力は、使う人を選ぶ。
それが『神武』なのだ。
「私じゃ....ダメなの...?」
結局私は、いつも側から傍観しているのみ。
無力で何もできない。
何ひとつ自分の手で守ることができないんだわ....。
事情を察したのか、自分がこの武器を扱えていないことに気づいたマリアナ。
周りで苦しむ人々を横目に、絶望はただただ増して行くのみ。
助けられなかった、ジャンチさんや息子のジョンくん。
今もなお苦しんでいる恩人のドーラと孤児院の子供達。
彼女は心身共に消耗していた。
「なんで...私は、肝心な時に....!」
しかし、そんな心境の中、マリアナはかすかな温もりを感じた。
手だ。
マリアナの手を握るユキマルの手は、まだ緩んでないのだ。
「ユキマル...君...?」
マリアナは俯いていた顔を上げてユキマルを見た。
「まだ、諦めるな。」
....っ!
たった一言。
それが真っ直ぐと前を向くユキマルから発せられた言葉だ。
まだ、諦めない.....?
マリアナは再び周りを見渡した。
そこにはまだ苦しむ人々がいる。
しかし、今回沸いてくるのは絶望ではない。
そうよ!
まだ、助けられるじゃない....!
何度でも、何度でも、これが私を認めるまで──!!!
ピカァァァァァァァア!!
次の瞬間。
二人の周りは眩い光によって包まれた。
「きた!」
そう、それは応えたのだ。
大いなる意志に。
そしてそれは、認めたのだ。
マリアナを新たな主人に。
やがて光は粒子となり、領内に散っていった。
苦しんでいた人々は落ち着き、山場を超えたのだった。
死の支配は...解除されたのだ....!
・・・・・・
・・・・
・・
しばらくして、俺はソルナ達の元へと戻った。
全てが片付いたことの報告に来たのだ。
「ユキマルくん...!」
俺が戻るなり、焦った表情で出迎えるソルナ。
「どうした?」
俺は少し嫌な予感を覚え、恐る恐る聞いてみた。
するとその予感は的中した。
「バニティーがいなくなったの!」
どうやら、俺が街に向かってからしばらくした後、バニティーの逃走に気づいたそうだ。
ちなみにスロースの姿とラスの遺体も見当たらない。
もちろん、ソルナたちも馬鹿じゃない。
ずっと目を離さずに監視していたのだが、どうやらうまく『幻影』を使われたらしい。
おそらく、気絶したのは本当で、そのあとどこかしらのタイミングで起きて、『幻影』と入れ替わったのだろう。
バニティーの『幻影』は見抜くのがかなり難しいため、ソルナたちを責めるのは筋違いだ。
全くどうしたものかとユキマルは悩んだ。
しかし、手負いのやつが何かをできるわけでもないと思うので、放置でいい、と結論づけたのだった。
「おそらく、もうこの国からは手を引くでしょうね。」
ソルナも同じ意見だった。
ここまで正体がバレてしまっては、もう秘密裏に活動はできない。
だから、すぐにこの国を出ていくだろうと。
まあ、今回はひと段落がついたし、これ以上の深追いはやめようということになったのだった。
宿に戻り、俺たちはそれぞれの部屋に入った。
俺は、一休みをする前に、今日気になったことを挙げてみた。
まずはバニティーの『スキル』についてだ。
バニティーのスキルは、今までとは違い、望んだだけでは手に入れることができなかった。
しばらく待っても、『ブルーボード』が出なかったので、バニティーのスキルはコピー不可と断定していいだろう。
では、なぜバニティーのスキルはコピーできなかったのか。
もしかして、『スキル』にも種類があるんじゃないか?
それが俺が出した仮説だった。
そして、この件については今度調べることにしたのである。
次は、バニティーとの戦闘中に起こった爆発の直前に通知された『理の矛盾』についてだ。
これについては、ある程度予想がついている。
『理の矛盾』とは言葉通り、相反する出来事が起きた、ということだろう。
今回の場合は、バニティーが『神武』で行おうとしていた『パーフェクトマインドコントロール』と俺の『潜在能力』である <<洗脳無効>>などなどが、互いに反発しあったのだ。
それで生じたのがあの爆発。
わかりやすくいうと、この世界にエラーが発生したのだ。
相反する性質を持つ二つがぶつかり合い、とんでもない力場が発生した、というのが最終的な結論だ。
三つ目はバニティーの動向についてだ。
これに関しては考えても無駄だろう。
一つ考えられるのは、『魔王狂信派』の本拠地に向かったということだ。
まあ、そもそもそんなものがあるかどうかも知らないが、少なくとも残りの仲間と合流しに向かったに違いない。
正直、力の差は明確だし、今は『神武』もこちらの手にある。
だからバニティーはもう脅威ではないのだ。
むしろ、気になるのはエタニタ・シグナトスの方だ。
『西方奴隷商』とも、少なからず因縁はある。
いくら依頼されていたとはいえ、フリエナやコラゴンに酷いことをしたのは事実なのだ。
それにしても、なんであの犯罪組織は見逃されているんだ?
アクアンティス王の口ぶりからしても、『西方奴隷商』は各国から大犯罪組織としてマークされている。
ならば各国で連携して軍を動かし、『西方奴隷商』を一度に制圧してしまえばいい話じゃないか?
そもそも『西方奴隷商』にはいろいろと疑問点があった。
まず、今回名前が上がったエタニタ・シグナトスだが、彼女はなぜ俺たちの動向を知っていたのか。
何を目的にしているのか。
ボスは誰なのか。
あとは、俺たちにまだ絡んでくるのかだ。
どれも今はわからないのが現状だった。
そういえば、俺が前に倒したザグスとかいうやつも『西方奴隷商』の幹部だったよな。
と、ここで前に対峙したザグスという男を思い出す。
奴も幹部を名乗っていたわけだが、どうもエタニタの方が手強く感じるのだ。
もし本当に、エタニタがザグスよりも何倍もやばい奴だったら、俺は『西方奴隷商』を甘く見ていたことになる。
いずれにせよ、一筋縄ではいかなそうな相手だな。
そう思い、俺は次の話題に思考を切り替えたのだった。
最後はフリエナについてだ。
正直これが本題だと言っても過言ではない。
以前、フリエナと話をした時に、彼女は「元はといえば、私が悪い」と言った。
そして、今回の戦いの後、彼女はバニティーに対して、自分のことではなく、ジョンくんの死に対して怒っていた。
まるで、自分の身に起きたことは、バニティーのせいではないかのように。
思えば、俺はあいつのことをあまり知らないんだな....。
フリエナがどんな人生を...ってまだ幼い子に使う言葉じゃないか。
本人に聞こうか迷ったが、言いたければ自分から言っているはずなので、ひとまずは様子見ということにしたのだった。
「あー疲れた!」
思わず口に出して言ってしまった。
色々と考えた後、というのもあり、今日の戦闘の疲れがどっとくる。
「明日には王都に戻って、アクアンティス王にどうなったかを報告しないと....ってその前にマリアナとも会わなきゃいけないのか....。」
眠い。
それが偽らざる俺の本心だった。
めんどくさいことは明日の自分に任せよう、というポリシーを持つ俺にとっては、この疲れは眠りにつくたるに十分な条件だった。
というわけで、おやすみ。
誰に言うわけでもなく、心の中でそっと念じると、俺は深い眠りについたのだった。
・・・・・・
・・・・
・・
すでにユキマル達が眠りについたころ、バニティーは密かにマスコポル領内の街を移動していた。
すでに撤退したかと思われていたが、彼にはまだやるべきことが残っていたのだ。
スロースとラス(遺体)はすでに仲間の元へ帰らせ、自分だけ残ったのだ。
まさかここまで、計画が頓挫するとは思いませんでした。
ユキマル殿を甘く見てしまっていたようですね。
その考えを裏付けるかのように、バニティーは満身創痍だった。
足を引きずってようやく前に進めている感じだ。
腕もほとんど使いものになっていないし、魔力も残っていない。
しかし、それでもやらなければならないことがあるのだ。
「マリアナと言いましたか....申し訳ないですが、あなたには死んでもらいます。」
そう、バニティーがやらなければならないことは、マリアナを始末することである。
その理由は、彼女が『クサナギ』に選ばれたからだ。
バニティーにとってマリアナの存在は邪魔だった。
自分だけが適合者で、それ故に魔王様より『神武』を授けてもらったのに、他にも適合者がいるとなると、いい気がしないからだ。
だから、消えてもらう。
魔王様からの栄誉を自分だけが授かれるように。
そうして裏路地を進むバニティーの前に突如、一人の男が現れた。
その男は立ち塞がるようにバニティーの進路を邪魔している。
明らかに敵意を向けられているのは、バニティーでなくとも気づけただろう。
「あなたは....!」
バニティーが驚くのも無理はない。
それはバニティーがよく知る人物だったからだ。
しかし、どことなく以前会った時とは雰囲気が違う。
纏う気配が、威圧感が何もかもその人とは違うのだ。
まるで別人かのように。
「どうして、私のいる場所がわかったのですか?」
「.......」
その人物は、喋らない。
ただ無言でバニティーを見つめているだけだ。
「会話の意思はないということですか。」
「......」
またもや返答はなし。
その様は不気味の一言に尽きる。
「確かに、私はあなたと戦う力は残っていません。しかし、私を殺すということがどういうことかはご存知ですよね?『魔王狂信派』を敵に回すということです。そこまでして、私を殺すメリットは、あなたにはないはず──」
全てを言い終える前に、バニティーの胸がその人物によって貫かれる。
「ゲフッ....!」
口から、胸から、大量の血が流れ出る。
それは的確に急所をついた一撃であり、バニティーは死へと向かい始めたのだ。
「ばか....な....!」
思わず本音が漏れるバニティー。
彼の実力をもってしても、その一撃は捉えきれなかったのである。
そもそも、満身創痍であったため、避けれたかどうかは置いといて、その一撃がただならぬ強さの証明であったことは間違いないだろう。
「はぁ....はぁ....私は...まだ.....!!」
死ねない、と薄れゆく意識の中でバニティーは思った。
自分はまだ何も成し遂げていないと。
まだ、魔王様の役に立っていないのだと。
魔族が支配する世界を見届けれてないのだと。
しかし、世は常に無常。
バニティーの気持ちとは関係なく、その命の灯火が消えようとしていた。
「なぜです....ユキマル殿.....」
最後の力を振り絞って質問をするバニティー。
しかし、それに応えることもなく無言で立ち去るユキマル。
今となっては、最後の質問がどういう意味だったのかはわからない。
なぜならば、当のバニティーはもうこの世にはいないからだ。
こうして、『魔王狂信派』の『布教者』のうちの一人が死亡したのだった。
しかし、この件が明らかになることはない。
なぜならば、降りしきる雨が赤い血を洗い流すからだ。
その日の夜は、雨が一段と強かった。
晴れるまでに、しばらくかかるほどに....。
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