カチコミ
第二十九話
それは、俺がフリエナとコラゴンと宿でこれからについて話しあっていた時だった。
ドタドタと走る音がし、勢いよく部屋のドアが開いた。
「そんなに焦って、どうしたんだ、ルフテ?」
息を切らして、汗まみれになりながら部屋に入ってきたのはルフテだった。
「…ハア…ユキマル君──!!!」
ルフテはマスコポル伯爵の屋敷で起こったことをすべて話してくれた。
『神武』を入手したこと。
マスコポル伯爵が『魔王軍』と『西方奴隷商』と繋がっている証拠を入手したこと。
マスコポル伯爵の本当の正体は、『魔王狂信派』のバニティーであること。
それと他に、スロースとラスと呼ばれていた人物がいたこと。
そして、ソルナが一人残ったこと....。
「....ユキマル....。」
ルフテの話を聞いて、フリエナが俺の方を向く。
これからの判断を仰いでいるのだろう。
「心配すんな!ソルナは俺が絶対に連れ戻す。これが奴...バニティーの狙いなのかもしれないが、乗ってやろうってんだ。フリエナ、コラゴン、ルフテ。俺たちに喧嘩を売ってきたことを後悔させてやろうぜ!」
にっ、と笑いそう言うと、沈んでいた空気が少しは明るくなった気がした。
「そ、それにしてもユキマルくんはどうやってソルナさんを救出するつもりなんですか?」
ルフテが冷静に質問する。
「そんなのカチコミ以外にあるかよ?」
フリエナとルフテの顎が外れる音がした。
二人とも呆れている。
「ユキマルらしいというか。なんだか、これが正解とも思えてくるのが不思議よね。」
「そ、そうですね....。」
「でも、現実的に考えて、いくら『神武』をゲットしたからといって、相手は『布教者』やで。しかも三人!ユキマルが強いのはわかっとるけど、今回ばかりは武力で突破するのはいい案とは思えへん。」
コラゴンの心配はもっともだ。
『布教者』の実力がわからない以上、下手に手出しをするのは得策ではない。
話を聞いた感じ、少なくともソルナでは手も足も出なかったということだ。
でも、ソルナは自身と相手の力量差を知った上で立ち向かった。
リーダーである俺が怖気ついてちゃ本人に顔向けできないよな!
「コラゴン。心配ありがとな。けど、心配するな。言ったろ。ソルナは絶対俺が連れ戻す、ってな!」
そう言うと、コラゴンは少しの沈黙ののち、軽く頷いた。
そして、俺はソルナの奪還作戦の開始を宣言した。
そう、これまでのけじめをつけるための戦いが今、始まったのである。
「なあ、お前はなんであのガキが逃げるのを見逃したんだ?」
マスコポル伯爵の屋敷でラスがバニティーにそう問いかける。
「逃した?ラスはそう思うのかい?」
「んあ?どういう意味だ?」
ふくみのある返しにラスは戸惑う。
「彼ら、『タリスマンズ』は必ず仲間を連れ戻しにくるさ。必ずね。」
「ほーん」
自分から持ちかけた話題のはずなのにラスはそっけなく返す。
「ラスにはユキマル殿の相手をしてもらおうかな。くれぐれも負けないようにね。」
「あぁ!?俺が負けるって?」
どうやらこの発言はラスの琴線に触れたようだ。
「そうだね。君は負けるかもしれない。なんてったって、ユキマル殿はあの『魔王軍』幹部デイザス様を打ち倒しているのだから。」
「はぁ?アレって『刹那の勇者』の仕業じゃなかったのかよ???」
「うん、私の情報が正しければ、デイザス様を倒したのは間違いなく、ユキマル殿だ。」
「ッチ、お前の情報が間違ったことなんて──」
ラスとバニティーが一斉に立ち上がる。
眠っていたスロースも目を見開いている。
直後屋敷の入り口から大きな音が鳴り響く。
門が蹴り破られた音だ。
「来たか。」
ラスがニヤリと笑う。
「ずいぶんと派手にやってくれたね。こちらも相応の態度で出迎えるとするかな。ラス──はもういないか。」
バニティーがラスの座っていた椅子を向いた頃には、すでにその姿はなかった。
「まったく。せっかちですねぇ。」
そんなことを思っていると、部屋に向かってくる足音が聞こえてきた。
人数は二人だろうか。
「まさか、あなた達が私の相手をするとは思いませんでした。」
部屋に入ってきたのはルフテとフリエナとコラゴンだった。
「ソルナさんを返してください!」
ルフテが力強い声でそう言うと、それが合図だったかのように、一斉にフリエナの魔法が展開された。
「土魔法『マッドウォール』!!!」
そして、バニティーの周りを囲うように泥でできた壁が生成される。
この魔法『マッドウォール』に直接的な攻撃力はない。
しかし、フリエナ達がこのような行動に出たのも、もちろんのことワケがある。
「ソルナさんを返して、ですか.....それは当然無理な話ですね。」
「それならば、取り返すまでです!」
そういうと、ルフテはとある矢を弓につがえて、それを『マッドウォール』の隙間から、中にいるバニティーめがけて発射する。
ドオオオオオォォォン!!!
と、大きな音が鳴り響き、『マッドウォール』の内側で爆発が起こる。
そう、ルフテが撃った矢の正体は、『スキル』 <<爆破の矢>> だ。
「『マッドウォール』で囲んだことによって、逃げ場をなくしただけではなく、爆発の威力が倍増している!間違いなくダメージは入ってるはず!」
しかし、フリエナの予想も虚しく、煙から出てきたのは無傷なバニティーであった。
「悪くない作戦でした。私もまともに食らっていたらただでは済まなかったでしょう。」
余裕そうな表情で言うそのセリフには全く持って説得力がない。
爆発による火傷も煙による汚れも、そのどれもが全く見当たらないのだ。
「もー。私が助けてあげようと思ったのにー。」
突然声がしたかと思いきや、どこからともなく少女が現れた。
そう、『布教者』のうちの一人であるスロースである。
「な!あなたは...!」
「私はー、スロースだけどー?」
「つまるところ、あの嬢ちゃんが最後の一人ってことやな!」
コラゴンが確認する。
一人は、ユキマルが現在戦闘しているラス。
そして、コラゴン達の目の前にいるバニティーとスロース。
「これから一体どう立ち回るか....。」
コラゴンが思案を巡らせる。
しかしそれを遮るかのように、スロースが話を続ける。
「あなた達はー、私たちに勝つ気でいるんだろうけどー、どう考えても無理だよねー。だってー私達の方がー、何倍もー、強いもん。」
「彼女の言う通りです。私たちは魔王様を信仰する組織『魔王狂信派』をまとめる七人のうちの三人。魔王様の名において負けるわけにはいかないのです。そう言った意味でもあなた達には勝ち目がありません。」
スロースに続いて、バニティーが話をする。
「確かにユキマル殿は強い。実際にラスと勝負できている時点で、彼の強さは我々に匹敵しうると言えるでしょう。しかし、私たち三人を相手した場合、果たして同じ結果になるでしょうか?私の予想が正しければ、彼のレベルは40くらいでしょう。そして、我々の平均は70。つまり一方的にボコボコにしておしまいです。そこでどうでしょう、我々と取引をしませんか?」
「なにが目的?」
フリエナが聞き返す。
「あなたですよ。それとそこで飛んでるドラゴン。」
そういうと、バニティーはフリエナとコラゴンを指す。
「やっぱりあんたが『あの方』なのね!!」
「積年の恨み晴らさせてもらうで!」
「おっと、話を最後まで聞かなくてもいいのですか?」
怒りをあらわにする二人を、バニティーは冷静に宥める。
「お二人と交換で、ソルナさんを解放します。それでどうでしょう?」
「予想はしていましたけど、やはりそうきましたか...!」
ルフテが、険しい顔でそう言い返す。
「でもそれはできません!私はもう一度人を信じることにしたんです。だから、仲間に信じてもらえるように、まずは自分から、彼女達を守ります!」
「交渉決裂ということですか?」
反論するルフテに対してバニティーが質問する。
「はい!」
そう力強くいうと、スロースが大きなため息をついた。
「はあああぁぁぁ、めんどくさ〜い。ふつーに考えてさー、ユキマルがー、ラスにー勝てるわけないよねー。ラスはー『布教者』の中でもー、バリバリの戦闘派だしー、獣人のパワーも合間ってー、たかがレベル40前後のー、奴にー負けるわけないんだよねー。そこんところーちゃんと考えてー判断し──」
ドオオオオオオン!!!!!
突然、部屋の扉が吹き飛ぶ音が部屋中に響き渡る。
「アッガッ、ガ...!」
血反吐の混じった嘔吐をしながら弱々しく立ちあがろうとしているのは、部屋の隅まで吹っ飛ばされたラスである。
「は?」
スロースの声が静かな部屋に響きわたる。
ラスが吹っ飛んできた際に、スロースを掠めたのか、彼女の頬が少し切れている。
しかし、そんなことは今の彼女にとってはどうでも良かった。
ラスがボロボロの状態で地面に突っ伏している、ということは今から部屋に入ってくる化物は....。
「いきなり喧嘩ふっかけてきた割には大したことないな。威勢だけか?」
指を鳴らしながらゆっくりと部屋に入ってきたのはユキマルである。
「だ...ま、っれ!....!」
なんとか声を振り絞ったラスがよろよろと立ち上がる。
声にならない声とはこのことを指すのだろう。
血が絡まって上手く喋れていないが、怒りだけはすごく伝わってくる。
「ユキマル!」
フリエナ達が俺の元へ駆け寄ってくる。
これで、奇跡的に敵と味方が綺麗に整列した。
「さあ、ここからが本番と行こうぜ!」
こうしてバニティーとの最終決戦が幕を開けたのだった。
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