決死の覚悟
第二十八話
ついに見つけた....!
これが『神武』に違いない。
マスコポル伯爵の屋敷の隠し通路を進んだ先にあった部屋で、私は一本の剣を見つけた。
剣とは言ったものの、切れ味は悪そうだ。
なんてたって、刀身が鉄ではなく石でできている。
「これって、触っていいのかな?」
私は恐る恐る『神武』を手に取った。
「何も...起こらない.....?」
トラップなどが張ってあるわけじゃなさそうだ。
それよりも、これが本当に『神武』なのかが怪しくなってきた。
というのも、持ってみた感じ、ただの重い剣だ。
「でも、わざわざ隠してあるぐらいなら、重要なものよね。」
とりあえず、これは持ち帰るとしよう。
これが『神武』にせよ、なんにせよ、なにか重要な物に違いないのだから。
私は近くにあった布で『神武』を包んだ。
「それじゃあ、今日は一旦撤退ね。」
そう言って、私は元来た隠し通路を戻るとした時だった。
「これはこれは。ソルナさん。お手洗いは見つかりましたか?」
階段を登ると、執務室の扉の方から、声が聞こえてきた。
慌てて、声の方を向くと、そこにはマスコポル伯爵の姿があった。
「.....!マスコポル伯爵....?」
「ッチ、こんな奴らにアレを奪われそうになってるんじゃねぇよ。」
「ラスー、あんた、めんどくさ〜い。」
私が驚くのも束の間、マスコポル伯爵の後ろから、さらに二人が歩いて来た。
一人は筋肉もりもりの獣人で、もう一人はツインテールの少女だ。
「あはは、落ち着きなよ二人とも。お客様の前じゃないか。」
「テメェの危機感がねぇから来てやったんだよ。舐めた口きいてると殺すぞ....!」
「バニティーもー、めんどくさ〜い。」
「はは、感謝してるよ。二人とも。」
会話を聞いている限り、かなり親密な関係ではありそうだ。
後ろの二人は、マスコポル伯爵の地位など気にしてないのか、普通にタメ語で喋っている。
「おっと、紹介が遅れてすまない。」
やっと、というべきか。
マスコポル伯爵が、ずっと気にも止められていなかった私の方へと視線を向ける。
「彼の名前はラス、彼女はスロースです。そして、先ほど聞いた通り、私の本当の名前はバニティーです。どうぞお見知りおきを。」
そう言って、マスコポル伯爵、もといい、バニティーは深くお辞儀をする。
「ラス、スロース、バニティー.....?あなた達の名前、どこかで。」
この際、相手の名前などどうでもいいはずなのに、どうも気になってしまったのだ。
この名前は、どこかで聞いたことがある。
「おっと、ご存知でしたか。私たちは『魔王狂信派』という一大組織をまとめている七人、人呼んで『布教者』のうちのその三人です。」
「『魔王狂信派』....!?それも、それをまとめている七人のうち三人!?」
「その、反応ー。いーね。」
スロースと呼ばれていた少女がケラケラと笑いながら言う。
「う、うぅ....」
ラスと呼ばれていた、男の後ろから呻き声が聞こえた。
「ッチ、起きたか。」
首根っこを掴まれて、持ち上げられたのはルフテだった。
どうやら、今まで気を失っていたらしい。
ラスの体で隠れていて、見えなかったが、外傷はなさそうだ。
「彼女に何をしたの!?」
一瞬、取り乱して、大声をあげてしまった。
「落ち着いてください。彼女には気絶してもらっていただけです。どうやら起きてしまったようですが。」
よかった。
どうやら無事ではあるようだ。
意識も次第に戻ってきているようだ。
「ルフテを返して...!」
「そうはいきませんよ。元々、怪しいとは思っていたのですが、まさか本当に洗脳にかかっていないとは....。やはりその首につけているネックレスですか?ラスとスロースが伝えに来てくれなければ、危うく騙されるところでした。」
「....!?」
そこまでバレているのね....。
どうしてバレたのか....なんて気にしている状況でもなさそうだわ。
万事急須。
ルフテは人質に取られているし、私も逃げれそうにない。
ユキマルくん達の正体もバレたし、『神武』は持ち帰れそうにない。
でも、最悪じゃない。
そう、そうよ。
私たちにはユキマルくんがいる。
ならば私にできることは、情報を届けること....!
「さて、おしゃべりはここまでにして、そろそろソレを返して貰いましょうか。魔王様から預かった大事な物なのでね。」
「魔王様?やっぱりあなた、いや、あなた達は魔王軍と繋がっていたのね。ってことは、ニントルマンもあなたの差金ね!」
「それはそうですよ。なんたって『魔王狂信派』ですから。ニントルマンは魔王様のために死ねて幸せです。それよりも、おとなしく投降してください。手荒な真似は好みません。」
「そう、だったら逃してちょうだい。」
「はぁ、それはできません。」
バニティーは大きなため息を吐くと、後ろの二人の方を向く。
「ラス、頼みました。」
「ッチ、命令するんじゃねぇよ。」
「だから、お願いしたのに....」
バニティーがそう呟くまもなく、ラスが距離を縮めてきた。
速い!
「『スキル』 <<シールド>> !!!」
バゴォォォォン!
慌てて発動したシールドに、ラスの拳が直撃する。
大きな音と衝撃で、思わずよろけてしまった。
「ラスー、ちゃんとー手加減してー。」
「あぁ?してるに決まってんだろぉ!殺すぞ!」
スロースの文句に対して、ラスが怒った。
というより、登場した時からずっと怒っている感じだ。
「きゃあ!」
私は次の攻撃をギリギリで避けて、地面に倒れ込んだ。
力の差が大きすぎる。
私じゃ勝てない。
獲物が狩人から逃げ回っているようなものだ。
でも、そんなことは百も承知よ!
私の狙いは撃破ではなく、脱出にあった。
勝算はある。
私のローブの内ポケットには、ルフテから預かっている<<転移の矢>>がある。
これで隙を見て逃げるしかない!
「ったく。どのくらい力を出していいのかわかんねぇよ。」
悪態をつきながら、腕をブンブンと回すラス。
ヒュッと風を切る音が恐怖でしかない。
「『スキル』<<移動速度低下(下)>>!」
とりあえずの策として、ラスに移動速度低下のデバフをかける。
「お、ちょうどいい。これならいい具合の手加減ができそうだ。」
ラスはデバフをかけられた割には余裕な態度をとっている。
しかし、それもそのはず。
次の瞬間近づいてきたラスの速度は先ほどのものと大して変わらなかったのだ。
「うそ....!」
動揺したのも束の間、激しい痛みが体を走り、壁に叩きつけられる。
「うっ....!」
頭が痛い....。
出血してるのかしら。
体が重い...。
辛い。
痛い。
逃げたい。
もう...いいよね。
ここで投降することもできる。
でも──
「『スキル』<<サンミー>>!」
「あ?なんだそれ?」
ラスは、自分の身体に何か変化がないか探っている。
しかし、何も見当たらないようだ。
「テメェ、何をした?」
「さあね...!」
私は彼にスキルを使っていない。
私はルフテにスキルを使った...!
『サンミー』の効果は、口の中を酸っぱくする、ただそれだけ!
でも、ルフテを起こすにはこれで十分なはず!
「こ、ここは....?」
どうやら狙い通りルフテの意識が戻ったらしい。
「ルフテ....!」
私は、今出せる限界の声でルフテを呼んだ。
「ソ、ソルナさん....?!」
最初は混乱していたルフテも、私の姿を見て状況を理解したようだ。
「私が合図したら、廊下に出て、窓の方に走って!」
「おいおい、そんなこと見過ごすわけねぇだろ。」
私が、敵の前で作戦を話して、それを聞いたラスは当たり前のようにそれを阻止しようとする。
それでも──
「いいえ、あなたは私の作戦に乗ることになるわ!」
私は『神武』を包んだ布を思いっきり執務室の出口の反対方向へと投げた。
「ッチ!そういうことかよ...!」
ラスは私よりも『神武』を優先した。
思った通り!
「今よ!」
私はルフテに合図を送った。
掛け声と共に、ルフテも走り出す。
スロースは見ているだけで、ルフテを捕まえようとしない。
「はぁはぁ、この窓から、<<転移の矢>> で逃げるわよ!」
廊下に出た先にある窓に、辿り着き、私はそう言った。
「おっと、どこへ行かれるのですか?」
突然後ろから声をかけられる。
声の主は、バニティーだ。
「私は、相手の一手先を読む癖がありまして....。ラスが逃してしまう可能性も考慮していました。見事、当たったようですね!ははっ!」
笑顔が怖いとはまさにこのことを言うのだろう。
私たちを見つめるその目は、まったく笑っていない。
「ルフテ....!」
私は、バニティーから目を離さずに、話を続ける。
「マスコポル伯爵の正体は、バニティー。さっきのラスとスロースと共に、『魔王狂信派』をまとめている七人のうち三人よ。彼らは『魔王軍』とも、『西方奴隷商』とも繋がっているわ。」
「え?」
ルフテは困惑した顔で、私を見つめてきた。
「これを。」
そう言って、私はルフテに証拠品と『神武』を預ける。
さきほど投げた布には、瓦礫を入れといたのだ。
「ちょ、ソルナさん...?」
その一連の流れをバニティーはただみているだけだ。
「矢を撃って!」
「は、はい!」
私がそう言うと、ルフテはすぐに弓を引いて、撃った。
<<転移の矢>>が遠くに飛んでいくのが見える。
「随分と見逃してくれるのね。バニティー。」
「いやいや、別の作戦を思いついただけなので、お気になさらず。」
「早く、手を取ってください!」
ルフテが、焦りつつ、手を伸ばしてくる。
しかし、私はその手を取らずに、さっき来た方向へ戻った。
「ソ、ソルナさん...?!」
「ほう...。」
バニティーもどうやら予想外だったらしく、困惑している。
「私たちが一緒に逃げても、追いつかれるだけよ!私がなるべく時間を稼ぐから、ルフテは早く、ユキマルくんたちの元へ!」
私は、自分の決死の覚悟をルフテに伝える。
それが伝わったのか、ルフテも唇を噛み締めるだけで、それ以上は何も言わなくなった。
「か、必ず助けに戻ります!」
「ええ、必ず助けに来て!」
その言葉を最後に、ルフテは<<転移の矢>>の効果で、パッと消えてしまった。
遅れて、ラスとスロースが現場に到着する。
「クソガァ!!騙しやがったな?!」
怒りをあらわにしながら、ラスが近づいてくる。
「さて、あとどれくらい時間を稼げるかしら....。」
私は、三人の強敵を目の前に、拳を握り締めるのだった。
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