マリアナ・アクアンティス
第二十六話
「私の名前はマリアナ。ねぇ、私と協力して、マスコポル伯爵の秘密を暴かない?」
パン屋の女性店員の突然の提案に、俺たちは驚いて言葉も出なかった。
まさかとは思っていたが、彼女がアクアンティス王の実の娘であるマリアナらしい。
「あ、あなたがマリアナ....?」
フリエナが確認する。
「あなた達私のことを知っているの....?」
マリアナは驚いた表情でこっちを見つめ返す。
少し警戒させてしまったようだ。
「あーいや、そんな警戒しないでくれ!」
俺はすかさず、マリアナをなだめる。
「まずは一旦状況を整理させてくれ。」
「そ、そうね。」
さっきの出来事といい、彼女にも聞きたいことがたくさんある。
「まずは場所を変えるか。」
そう言って俺たちは近くの喫茶店に入った。
「う〜ん、聞きたいことは山ほどあるけど、まずなんであなた達はマスコポル伯爵に支配されていないの....?」
最初の質問者はマリアナだ。
「それはこのネックレスのおかげだ。これにはそういったものを阻害する効果がある。」
俺は正直に話すことにした。
首にかけているそれを見せると彼女はなるほど、と頷いた。
「それにしてもそんな高価なものを一体どこで....?」
「おっと、次に質問するのは俺たちだ。」
俺はフェアに交互に質問することを提案した。
「まず聞きたいのはさっきのことについてだ。なんであの男は急に自殺したんだ...?」
まずは一番気になることを聞いてみることにした。
「.....私も詳しくはないのだけれど、アレはマスコポル伯爵がこの街の住民にかけた呪いかなんかだと思うわ。ジャンチさ....あの男性はその呪いを破ってしまったがために、第二の呪いである自殺の呪いが発動してしまったの...。」
「つまり、アレは本人の意思ではなかったということか?」
マリアナがコクっと頷く。
頬に涙が伝っている。
「私が...ジョンくんのことを...思い出させたがために....」
彼女の声の震えから後悔がひしひしと伝わってくる。
「なあ、ジョンってジャンチの息子なんだよな?そいつがどうしたんだ?」
「ジョンくんは....少し長い話になるけどいい?」
「ああ」
「アレは一週間程前の出来事だったわ──」
私はいつも通り、パン屋で働いていた。
普段と変わらない日常を過ごしていたのだ。
そんな私には一つだけ他の人と違うところがあった。
それはみんなが覚えていない出来事を覚えていること。
この街に住んでいると、定期的にそう言った異変が起こる。
突然苦しみ出したかと思いきや、急死する人が一定数いるのだ。
私は何度かその場面にでくわしている。
しかし、決まって周りにいた人はそのことを覚えていない。
それどころか、いなくなった人の存在ごと周りの記憶から消えているのだ。
だから、人が死んだ後も周りは普通に過ごしている。
本題に戻ろう。
その日彼は、王都に向けて向けて出発した。
とても頭のいい子だったから、王都の学校に通わせようとなったのだ。
そのあとの彼がどうなったかは知らない。
てっきり、父親であるジャンチさんが知っていると思っていたのだが...。
「私と会話した時、ジャンチさんの記憶からジョンくんは消えていた。つまり....。」
マリアナの顔がまた暗くなる。
「そうか...。」
だいぶ重い話を聞いてしまった。
マリアナの言う呪いとは、『神武』の力のことだろう。
彼女はそれを知らないようだが。
「それじゃあ、この街の人は、ジャンチを覚えていないの....?」
フリエナが恐る恐るたずねる。
「ええ....。」
マリアナは静かに答えた。
「それじゃあ最後に私から質問するわ。あなた達、私と一緒にマスコポル伯爵の秘密を暴かない?」
彼女の目には決意がこもっている。
「ああ、いいぜ。」
俺もそれに応えることにしたのだった。
喫茶店を出て、別れたあと、俺たちは宿に帰ることにした。
ソルナとルフテはまだ帰ってきていないようだ。
「ねぇ、ユキマル。そういえばどうして彼女は『神武』の影響を受けていないのよ?」
「あー。俺も最初は驚いたけど、よくよく考えれば、マリアナはアクアンティス王の実の娘だから、同じく『オリアマ』様の加護を受けているはずだろ?」
アクアンティス王家には、あらゆる呪いやチャーム、洗脳などの類が効かないらしい。
『オリアマ』という『神獣』が与えた加護らしいのだが、チートもいいところだ。
「なるほど...!ユキマルにしてはやるじゃない。」
「どーも。」
相手にしたら負けなので、俺はそっけなく返事を返した。
......。
突然だが、俺は今回の件とは別にフリエナのことが心配だ。
彼女は、自分を誘拐することを指示した張本人の領土内にいるのだ。
普通に考えたら、恐怖で逃げ出したくなるだろう。
しかし、フリエナからはそういったそぶりが一切見えない。
無理させていないといいのだが....。
「なぁ、お前はどう思っているんだ?」
「はぁ?急になんの話?」
フリエナが困惑している。
「ドレイクのことだよ。奴はお前を拐うことを指示した張本人だろ?だから、怒りとか、恐怖とか、どう感じてるのか聞きたくてさ。」
やはり俺はストレートに聞くのが性分らしい。
「....怒ってないって言ったら嘘になるし、怖くないって言っても嘘になる。でも...いいの。元はと言えば、私が悪いから....。」
「?」
なんだか含みのある言い方だが、フリエナにもそう言った気持ちがあると知れて、ひとまずは満足したのだった。
「なあ、俺っちには聞いてくれへんのか?」
コラゴンが不満げに聞いてきた。
「お前はメンタルケアが必要なタイプじゃないだろ!」
「ハァァァァ?俺っちも大変だったんやぞ!」
元気じゃん。
とツッコむ気すら失せたので、俺は他の話題に切り替えることにした。
「そういえば、ソルナとルフテが遅いな。」
「オイ、無視するな!」
「そういえばそうね。」
コラゴンに安定のスルーをかますフリエナ。
「何かトラブルに遭ってないといいんだが....。」
まあ気長に待つか、と俺はベッドに腰掛けた。
ソルナとルフテの身に何が起きているのかも知らずに....。
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