人探し
第二十五話
とてもいい朝だ。
窓からさす太陽光、フカフカのベット、小鳥のさえずり。
これ以上何を求めろというのだ。
異世界に来て初めて布団から出たくないと思った。
「ユキマル〜今日はマリアナを探しに行くやっけ?」
割と早起きのコラゴンが話しかけてきた。
「そうそう。まずはアクアンティス王が彼女を預けた孤児院から当たってみるか。」
「そうと決まったら早速出発や!」
「ところでソルナ、ルフテ組は?」
「ソルナとルフテはもう出発してんで。フリエナはもう準備を終わらせて部屋の前で待っとる。早くせんとどやされるで。」
おっとそれはまずい。
最近はフリエナがツンデレじゃなくて、ただのおこりんぼなのじゃないかと思うことがある。
まったく、最初に出会った頃の可愛らしさはどこへいったのやら...。
年相応の....ってあいついくつなんだ?
確かエルフってヒトと歳の進み方が違う、てのが定番だけど...。
あれ?ここは異世界だから、逆にヒトがおかしいのか?
まあ気にすることでもないか。
見た目的には12〜14歳だし、今まで通り接するか。
そんなことを考えながら、俺は支度を済ませた。
「お待たせ。」
「全くもー!私をどれだけ待たせるつもり!」
フリエナはやっぱり怒っていた。
まあ、これだけ怒られても憎めないんだよな。
「ごめんごめん!ところで、フリエナっていくつなんだ?」
「うわ....。この流れで、女性の年齢を聞けるメンタルは少し尊敬するで...。」
コラゴンがドン引きしている。
俺もアホではない。
これが禁忌の質問であることは知っているのだが、それでも気になってしまったものはしょうがないのだ!
「はぁ〜?普通に15歳だけど?」
惜しい。
ニアピンってやつだ。
フリエナも呆れたのか諦めたのか、素直に答えることにしたようだ。
「いやさ、エルフって見た目と実年齢が違うイメージがあったからさ。実はフリエナがこのパーティーの中で一番年取ってたりして....なんて思ったわけよ!」
「一番の年長者は俺っちやで!」
「まあ、確かにエルフはそういう種族よ。」
コラゴンの戯言を無視して、フリエナが続ける。
「でも、二十歳ぐらいまでは人間と同じスピードで成長するのよ。」
「へぇ〜。」
生命の神秘を目の当たりにした気がする。
それにしても15歳にしては少し幼くはないか?
体感、二回りぐらいぐらいは幼い気がする。
そんなことをダラダラと話していると、目的の孤児院まで辿りついた。
外見は、教会のような感じの普通の孤児院だ。
街を歩いていて気づいたのだが、案外普通だ。
王に覚悟しろ的なことを言われていたから、てっきりゴミ溜めを想像していたが、王都とさして変わらない印象を受ける。
街ゆく人たちの表情も特に違和感はない。
「ごめんください!」
孤児院のドアをノックすると、一人の女性が出てきた。
年齢は50代ぐらいだろうか。
とても優しい瞳をしている人だ。
「あら、珍しいお客さんねぇ。今日はどう言ったご用件かしら?」
にっこりと笑いながら彼女はそう言った。
「どうも。俺の名前はヤミヤユキマルで、後ろの連れはフリエナです。少し話を聞きたくて訪れました。」
「初めまして、私はドーラと申します。お話ということならば、どうぞ中にお入りください。お茶でよろしければすぐ用意できます。」
「ああ、いいえ。お気になさらず。」
ドーラ?
この人はマリアナではないのか。
しまったな、マリアナの年齢と特徴ぐらいは聞いとくんだった。
「いいのよ。お客さんが来ることなんて滅多にないんだから。それに厚意は断る方が失礼って物ですよ!」
ドーラはふふっ、と笑うと中に入っていってしまった。
「ここは素直にお茶をいただきましょ!」
そう言って、フリエナもドアを開けて入って行った。
そして俺もそれに続いた。
・・・・・
・・・
・
「う〜ん!美味しいですねこのお茶!」
俺が飲んだ物は前の世界で言うフルーツティーらしい。
一口飲むたびに、香ばしい香りが鼻を抜けて行く。
リラックスするにはうってつけだ。
「ふふっ、そのお茶はもともとうちで預かっていた子が作った物なのよ。今でも時々子供達の相手をしてくれたり、パンを届けに来てくれたりするわ。」
そう言うと、ドーラは向かいの席に座った。
「ところで、聞きたい話とはなんなのでしょうか?」
「ああ、俺たちはマリアナという女性を探していて、この孤児院にいたらしいんですけど、現在の居場所とかってわかります?」
俺は単刀直入に本題を切り出すことにした。
「ええ。」
ドーラはクスっと笑いながら頷いた。
俺たちが首を傾げると、彼女はそのわけを話し始めた。
「先ほどお話しした子こそマリアナなのですよ。そのお茶を作っている子です。」
「?!」
まじか。
いきなり大収穫だ。
てっきり、大した情報は得られないかと思っていたが、この様子だと、居場所も知っていそうだな。
「それで彼女は今どこに!?」
「現在、マリアナは街のパン屋で働いているわよ。あの子ったら、わざわざこの孤児院にパンを届けるためにパン屋で働き始めたのよ。ほんと....いい子でしてねぇ。」
ドーラの口調が早くなっていることから、彼女がどれだけマリアナを大切に思っているかが伝わってくる。
少し感じた悲しみは、彼女がマリアナに負わせている負担への心配からくるものだろう。
「ありがとうございます!早速会いに行ってきます。」
「いいんですよ。私も久しぶりに話し相手ができて、楽しかったです。マリアナによろしくと伝えておいてください。」
わかりました、と頷いて、俺たちは孤児院を後にした。
「思ったより順調やな!」
コラゴンがリュックから頭を出して話しかけてきた。
「ああ、あとは彼女にどう説明するかだな。」
「それが一番の問題だったりするんじゃないの?」
と俺の発言に対してフリエナが指摘してきた。
うぐ。
確かにそうだ。
いきなり、「あなたは王族の血を引いてます。また、ここの領主は悪者なので、王城へ着いてきてください」なんて言っても信じてもらえないだろう。
それどころか、ドレイクに勘付かれる恐れすらある。
うーむ。
どうしたものか...。
そんなことを考えていると、俺たちはドーラに教えてもらったパン屋に辿り着いた。
意外と賑わっているようで、従業員は大変そうに働いている。
確かにこれは過労を心配するな。
俺もそう思ったのだった。
「お久しぶりですね、ジャンチさん!毎度ありがとうございます!」
そんな中でも、お客さんに明るく接している店員がいた。
笑顔が可愛い20歳ぐらいの女性だ。
俺はその様子を見て、少しほっこりしたのだ。
「ああ、ここのパンは最高だよ。毎朝これがないとやってけない程にね!」
ジャンチと呼ばれていた男が、店員に向かって明るく返す。
「喜んでいただけて幸いです!ところで、ジョンくんはお元気ですか?」
かなり親しげなようで、会話がご近所付き合いのようだ。
しかし、この何気ない、質問が次の瞬間この場を地獄へと変えたのだった。
「ジョン?いったい誰のことだい?」
どうやら男はジョンという人物を知らないようだ。
「何を言ってるのですか?ジョンくんて言ったら、ジャンチさんの息子さんじゃないで──」
そこまで言うと、女性店員は何かに気づいたようで、バッと口を押さえた。
彼女の顔は次第に真っ青になっていく。
冷や汗もダラダラと出てきていて、焦りというよりかは、恐怖に近しい反応だ。
俺も異変に気づいたのだが、遅かったようだ。
「ジョ、ジョ、ジョン、ジョ、ジョン、ガァ、あ、頭が、痛いぃぃぃ。」
突然変な声を発したかと思ったら、ジャンチはその場で頭を抱えてうずくまってしまった。
「そ、そんな....」
店員は、状況を理解しているようだが、絶望が勝っているようだ。
その場で崩れ落ちて、動こうとしない。
「あ、あんた大丈夫か?」
俺はすかさずジャンチの元へ駆け寄った。
すると、彼は急に痙攣を止めた。
!?
彼の顔を見ると、涙でぐしゃぐしゃだ。
「どうしたんだ?」
「ぼ、僕はどうして今の今まで最愛の息子であったジョンを忘れていたんだ....。」
「は?」
言っていることの意味がわからない。
ジョンが息子?
今まで忘れていた?
ありえないだろ普通?
くそ!
状況が全く飲み込めない!
俺がわけもわからず戸惑っていると、ジャンチは俺の足にしがみついてきた。
「マ、マスコポル伯爵、奴は悪魔だ、断じて勇者などではない!あんな奴がこの領地を支配してはならない!おのれマスコポルゥゥゥ!!!!」
急にそう叫んだかと思うと、それを最後に黙り込んでしまった。
落ち着いたというよりかは、喋るぬいぐるみからいきなり電池を抜いたような感じだ。
目に意識が宿っていないように見える。
「私は、マスコポル伯爵の意向に背きましたのでこの場で自ら命を断ちます。」
は?
いきなり黙って、いきなり叫んで、また黙ったかと思いきや、今度は何を言っているんだコイツ?!
展開が早すぎて全く追いついけない。
「ユキマル!早く止めないとやばいんとちゃうか!?」
俺が状況を整理しているうちに、男は頭を壁に打ち付け始めた。
ドンドンドンと響く音が次第に鈍くないっていく。
俺はコラゴンに言われた通り、すかさずジャンチを押さえつけた。
くそ!
出血の量が多い。
「誰か、手伝ってくれ!」
俺は一人では対処できないと思い、周りに助けを求めたところで、俺は異様な雰囲気の正体に気がついた。
「!?」
「ユキマル....コレって...?」
「くそ!こういうことかよ....!」
俺はアクアンティス王に言われた言葉を思い出した。
ー『神武』の力は異常だ。君たちもいずれ目にすることになるだろうが、あそこの住民は完全に取り込まれてしまっている。常識は通じないと思ってくれ。ー
常識が通じないとはよく言ったものだ。
目の前のことで集中していたからか、全く気づかなかった。
周りの視線が狂気に満ちているということに。
それになんだかブツブツと呟いている。
「反逆者には粛清を...!」
フリエナがそう呟いた。
「どうしたフリエナ?」
「反逆者には粛清を。あの人たちそう言ってる!」
反逆者?
ドレイクに対する、ってことか。
っく....!
これが『神武』の効力なのか!
何が何だかわからないが、状況がまずいことだけはわかる。
とりあえず──
「『ヒール』!」
俺はジャンチの頭の傷を『ヒール』で回復させた──
はずなのだが....。
「なんで『ヒール』が発動しないんだ...!?」
俺のスキルがなぜか発動しないのだ。
「ねぇユキマル....。その人の口から垂れてるのって....。」
フリエナが声を震わせながら言ったのを聞いて、口元を見ると、ジャンチの口からボタボタと血が流れ出ていた。
まさか....!
『ヒール』というスキルが、発動しない状況は主に二つある。
一つは、魔力切れを起こしている時。
もう一つは....。
「し、死んでる...!」
フリエナが悲鳴を上げながら、そう叫んだ。
そこまでやるのか...!
ドレイク・マスコポル....!
やはりあの男は悪だ。
俺は倒すべき相手をやっと理解した。
気がつくと、周りは普通に戻っていた。
しかし、何事もなかったかのように、普通に過ごしていることがさらに異様さを増している。
「ねぇ、あなた達は何者なの?」
俺が、とりあえずパン屋を去ろうとした時、後ろから声をかけられた。
相手は、あの女性店員だ。
「何者って?」
もしかして何か勘付かれたか?
「あ、あなた達はマスコポル伯爵の呪いにかかっていないようだから。もしかして、私と同じなのかなって....。」
「同じ?お前、名前は?」
まさかな....。
「私の名前はマリアナ。ねぇ、私と協力して、マスコポル伯爵の秘密を暴かない?」
お詫びとしての二話同時公開です。




