潜入開始!
第二十四話
俺たちは、アクアンティス王から直々に受けた依頼で、マスコポル領に来ていた。
依頼の内容は、マスコポル領の領主であるドレイク・マスコポル伯爵の討伐だ。
彼は『神武』と言われている世界に13本しか存在しない、強力な武器で、アクアンティス中の国民を洗脳しているのだ。
その上、奴には裏で『西方奴隷商』や、魔王軍などと繋がっている疑惑もある。
そこで、水神『オリアマ』の加護で、唯一洗脳されていなかったアクアンティス王が、俺たちにドレイクの討伐を依頼をしたってわけだ。
よ〜し!
今んところ順調だな!
何が順調なのか。
それはドレイク・マスコポルの館への潜入である。
侵入ではなく潜入だ。
要するに俺たちは、定期的に行われる交流会に、スパイとして送り込まれたのだ。
交流会とは、この国独自の慣わしで、王都から各貴族の領地に役員を派遣して、現状を視察するというものだ。
それで今回は役員に変装して、俺達『タリスマンズ』が派遣されたというわけだ。
さて、そんなこんなで俺たちは、歓迎会を開かれていた。
長いテーブルにはご馳走が並べられている。
王城で食べた物ほどではないが、間違いなく人生で食べた二番目に豪華な料理だ。
「ずいぶんな歓迎ね」
「そうやな」
ソルナとコラゴンも同じことを思っているようだ。
「それにしても、これはちゃんと効果があるんでしょうね!」
そう言ってフリエナは首から掛けている『魔法道具』を触る。
ネックレスの形をしたそれは、アクアンティス王から貰ったものだ。
「まあ、当分は大丈夫だろ....」
そう言って俺は、王都を出る直前に話したアクアンティス王との会話を思い出す。
「私が君たちに依頼するのはマスコポル伯爵の討伐....なのだが、君たちに無理をさせる気はない。元々は我が王国の問題だ。だから、まずは諜報活動を頼みたい。まずは相手の情報を集めてくれ。それだけでも価値がある。」
とアクアンティス王が言った。
「諜報活動?要するにスパイとして潜入しろってことか?」
「そうだ。君たちには、交流会の役員に扮してもらうつもりだ」
「なるほどな。でも、俺たちにも個人的な因縁があるんだ。やれそうならやるよ。」
「頼もしいな。それでは、今回の依頼にあたって、いくつか話しておきたいことがある。」
そして、次に王が話したことは衝撃的な内容だった。
「ドレイク・マスコポル伯爵の領内では特に民への洗脳が強い。領外の国民は彼を尊敬する程度の洗脳しかかけられていないが、領内の民は奴のことを本物の勇者だと思い込んでいる。無論、君たちには、洗脳を受けなくなる『魔法道具』を渡す。だが、『神武』の影響をどれだけ防げるかはわからない。」
「勇者....!?」
ソルナが驚いて声を上げる。
「勇者って言ったら、俺が会ったルクスみたいなやつか。なるほど。その実力がなくても、幻覚でそう見せているわけか。」
「そうだ。だから下手に手出しができないのだ。それに、『神武』の力は異常だ。君たちもいずれ目にすることになるだろうが、あそこの住民は完全に取り込まれてしまっている。常識は通じないと思ってくれ。」
「となると完全にアウェイだな。ちなみに俺たちの正体がバレたら、どうなるんだ?」
「まず間違えなく消されるだろう。私の、国王の権力ですらもはや意味をなさないのがマスコポル領だ。一種の自治区だと思ってくれ。」
「け、消される.....」
ルフテの顔が青ざめる。
「だからくれぐれも気をつけてくれ。そして、それとは別にもう一つ頼みたいことがある。」
「なんだ?」
「それは──」
・・・・・
・・・
・
てな感じの会話があったのだ。
つまり、この首からかけている物が洗脳を阻害する『魔法道具』だ。
「おっし、今のところ問題はないな。」
みんなも特に影響を受けていないことを確認して、安堵する。
「そ、それにしても、ユキマル君達とマスコポル伯爵にそんな因縁があっただなんて。」
「ああ、俺らというよりかはフリエナとコラゴンがだな。」
思い返せば、長かった。
まず、コラゴンとフリエナに出会って、『西方奴隷商』のアジトを壊滅させた。
そして、コラゴンとフリエナの誘拐を依頼した『あの方』の正体を探るため、アクアンティスに来た。
そこで出会ったスクリプトールという謎の商人に国王がその情報を知っていることを教えてもらった。
そして、報酬として、情報を得るために、アクアンティス国と魔王軍の戦争に参加し、勝利した。
そして今に至る。
やっとおめがねに叶うんだ。
どんな面してやがる。
一発ぶん殴って全部洗いざらい吐かせないとな....。
そういえば、フリエナはドレイクのことをどう思っているんだ?
自分を誘拐した相手に会う割には、冷静だな。
ガチャ
そんなことを考えていると、会場の扉が大きく開いた。
まず初めに入ってきたのは、小柄で太っている男だ。
「会場にいる皆々様、ドレイク・マスコポル伯爵の入場になります...!」
と、その男は言った。
見た感じ、ドレイクの付き人的な人だろう。
「申し訳ない!私としたことが皆様を待たせてしまったようです!このことは国王陛下には内密にお願いします。」
ははははは、と会場から笑いが起こる。
暖かい拍手の中、もう一人の男が会場に入場した。
ぱっと見の外見は三十代前半で、ユーモアのある人物だ。
人柄も良さそうだ。
こいつがドレイク・マスコポル...?
「あいつが全ての元凶なの?」
「らしいが...。そういう雰囲気は感じないな。」
どうやら、違和感を感じているのは俺だけじゃないらしい。
「みなさん。本日はお集まりいただき、ありがとうございます。」
そう言って深くお辞儀をすると、ドレイクは続けた。
「我が領土への視察、ということですが、堅苦しいことはさて置き、皆様には楽しんで帰っていただきたいと存じます。此度の訪問が皆様にとっていい思い出となることを心より願っております。」
最後にもう一度お辞儀をすると、会場は拍手で包まれた。
今の所、彼が悪者だなんて信じられないといった感じだ。
しばらく経って、普通に食事を楽しんでいたところ、会場にいる全員に挨拶を回っていたドレイクが、俺たちの元に来た。
「ようこそ、我が領土へ。初めまして....ですね?」
ハハっと気さくに笑うと、ドレイクは握手を求めてきた。
「ああ、初めましてだな。俺はユキマル、後ろにいるのは俺のパーティーメンバーだ。」
俺はドレイクの手を握って、挨拶を返した。
「おっと、これは失礼。私はドレイク・マスコポルです。紹介が遅れたことをお許しください。ところで、パーティーメンバーとはいったいどういうことですか?」
「そうだな。今回はアクアンティス王の依頼で、冒険者である俺たちが役員としてくることになったんだ。現在、アクアンティスの首都では、今回の戦争で交流会に人員を裂けないらしい。だから、アクアンティス王に信頼を寄せられている俺たちが来た。」
「なるほどそうでしたか!いやはや国王に信頼を置かれるとは、よほどすごい方々なのですね。」
「いやいや、かの勇者様には及ばないよ。」
「ハハッご謙遜を。私なんてまだまだ未熟者ですよ。」
少し皮肉をこめたのだが、軽く受け流されてしまった。
「それでは、私は次の方の元へ向かうとします。交流会は人が多くて挨拶が大変なんですよ。ハハッ。今のも国王様にはチクらないでくださいね。あ、それとお揃いのネックレス似合ってますよ!それじゃあ。」
そう言ってドレイクは去っていった。
最後まで陽気な人物だ。
「ユキマルくん....。」
「ああ、油断ならないな。」
俺たちは、あのヘラヘラした優男の裏に何か油断ならぬものを感じた。
「思っていたより手強いかもな。」
「そうね....。」
ソルナが頷く。
俺たちは、去って行くドレイクの後ろ姿をただ眺めるだけだった。
その日は、宿で寝泊まりをした。
どうやら、今回の交流会の来訪者向けに、宿一つを丸々貸し切ってくれたようだ。
他に役員の人達はもちろんのこと、普段、宿での寝泊まりに慣れている俺たちでさえ、圧倒されるほどの高級な宿だ。
「ユキマル!この宿にはびゅっふぇ(?)というものがあるらしいで!」
「何よそれ!」
コラゴンとフリエナはいつも通りはしゃいでいる。
「ビュッフェってのは、城でのパーティーの時みたいに、たくさん料理が並んでいて、そこから好きな料理を好きなだけ自分の皿に盛り付けられる、っていう食事スタイルだ。この宿、高級そうだし、料理も期待できるぜ!」
「ヒャッホーーーーウ!!!」
ずっとリュックの中に入れられていた反動なのか、コラゴンのテンションは爆上がりだ。
「ちょっと!みんなここに何をしに来たのか忘れたわけじゃないでしょうね!」
目的を忘れてはしゃいでいる俺たちをソルナが一喝する。
「そういうお前だって、ふかふかの布団にくるまってるじゃん」
そう、彼女も布団に入ったまま出てこないのだ。
全くもって説得力がないのである。
「わ、わかったわよ!」
そう言ってソルナはしぶしぶ布団から出てきた。
この一連の光景を見てルフテは苦笑いをするしかなかった。
・・・・
「それじゃあ改めて。これから今後の方針を会議します!」
そう言ってソルナは机をバンと叩く。
「やっぱりまずはアレだよな。」
「そうね。」
「マリアナさんを探すところからよね。」
マリアナとは誰か。
それを説明するには、少し時間を遡る必要がある。
・・・・・
・・・
・
時間は、俺たちがアクアンティス王と会話している時に戻る。
そう、アクアンティス王が俺たちに頼んだもう一つのことだ。
「君たちには、マリアナという人物を見つけて欲しい。」
とアクアンティス王は言った。
「マリアナ?誰だそれ?」
「マリアナとは私の娘だ。」
「娘!?まさか、ドレイクに人質にされてるのか?」
「いや、そうではない。とても誤解を生む言い方にはなるが。マリアナは私の隠し子なのだ。」
「「「隠し子!?」」」
あまりに衝撃的な話に一斉に声をあげてしまった。
「これには訳があってな。私には妻が三人いるのだが、元々は四人だったのだ。まだ王の座についていなかった頃、私には一人の妻がいた。私が生涯愛すると決めた女性だ。」
少し悲しげな顔をしながら、王は話始めた。
「もともと体が弱かったのだが、第一子を産むときについに力尽きてしまった。」
ゆっくりと話す王の話を、俺たちはただただ静かに聞いていた。
「まもなく、私は王座についた。しかし、生まれてきた子供を政治のいざこざに巻き込みたくはなかった....。だから、マスコポル領の孤児院に密かに逃したのだ。当時の私はとにかく子供を遠くに逃がしたい一心だった。だから、マスコポル伯爵の正体に気づけなかったのだ....。」
「なるほどな。それで、その奥さんの忘形見がマリアナだと?」
「そうだ...。」
なるほど。
状況は理解した。
となると──
「俺たちは彼女を見つけて連れて帰ればいいんだな?」
俺の問いに対して、王がこくりと頷く。
「頼めるかね?」
「ああ。全部こなして帰ってきてやるよ!」
アクアンティス王の話を聞いてからは、もはや他人事で済ますことはできない。
これが俺の良心なのかはわからないが、ここで引き下がるのは男じゃないだろ。
それに俺は、この異世界にワクワクするような冒険を求めているんだ。
これがまさにそうなんじゃないか?
そう思うと俺の決意はさらに堅くなった。
・・・・・
・・・
・
そして時間は現在に戻る。
「まず俺たちの目的は大きく分けて二つ。「マスコポル領内の情報をできるだけ持ち帰る」ことと、「マリアナを見つけ出し、連れ帰る」ことだな。」
「そうね。」
俺の確認に対して、ソルナが頷く。
「ついでにドレイクを倒せたら万々歳って感じか。」
「でも相手は手強いわよ。見た感じ頭の切れそうな人物だし、『神武』にも注意しないといけないしね。いずれにせよ情報を集めるのが先よ。」
ソルナの言うことはもっともだ。
俺は今まで多くの強敵を倒してきたけど、ドレイクに関しては話が違う。
『神武』とはそれだけ警戒しなければならない物らしい。
「そ、それじゃあ二手に別れるっていうのはどうでしょう?」
突然、ずっと黙っていたルフテが口を開いた。
「も、目的が二つあるのであれば、別々で動いた方がいいのではないかと....。」
「ふーむ。採用!」
「そ、そんな簡単に!?」
ルフテは自分で提案しといて、承認されたことに驚いている。
「確かに「スパイ組」と「人探し組」に別れるのはいいかもしれないわ。」
ソルナもルフテの案に乗ったようだ。
「それじゃあ、俺とコラゴン、フリエナでマリアナを探す。ソルナとルフテはドレイクの懐に入り込んでくれ。」
「適材適所、いい人選やと思うで!」
「私も問題ないわ!それよりユキマル、足手纏いにならないでよね!」
「はぁ〜。確かにユキマルくんにスパイができるかって言われると無理そうね。」
「わ、私は少し不安ですが.......。」
「まあ、概ね納得しているっぽいのでこの作戦で行こう!」
こうして強引に今後の方針は定まったのだった。
しかし、ユキマルたちはまだ知らなかった。
この先、これまでにない大事件に立ち会うことになる、ということを....。
大変長らくお待たせしました。
新章突入です。




