もう一人は....
第二十三話
「やあ、いらっしゃい『タリスマンズ』の諸君。」
朝早くからアンティークショップ『デウス』に来た俺たちを迎えたのは、ご機嫌そうなスクリプトールだった。
るんるんと後ろで結んだ長髪を左右に揺らしながら、俺たちを中に入れる。
「ず、随分とご機嫌だな...」
流石の俺でも少し引き気味である。
「いや〜君たちと会うのが楽しみでね!」
「はぁ....」
「ところで、その指輪について聞きに来たんじゃないのかい?」
なんでもお見通しってわけか。
「そうだ。聞きたいのは指輪の外し方と、コレがなんなのかだ。」
まあまあ、そう焦らずに、と俺たちを席に座らせると、スクリプトールは話し始めた。
「それはね、異空間に物を出し入れできるものだよ。そうだな、『インベントリング』とでも名付けようか。」
「『インベントリング』....?」
要するに、持ち運べる倉庫みたいな感じか?
「そう。うまい具合に魔力を流し込んでごらん。」
俺はスクリプトールに言われたように、魔力を流してみる。
最初は何も起こらなかったが、次第に回路のようなものが感じられるようになってきた。
「こんな感じで魔力を流せば....!」
ジジジジジジ
突如、指輪をつけた右手の近くの空間に『間』ができた。
空間が裂けたような感じだ。
「うお!これが...?」
「あとは好きなものを入れて、使いたい時に取り出せばいい。外し方についてだけど、多分取れないから諦めて。」
「は?」
まあ、特に重さも感じないし、締め付けてくるわけでもないから日常生活に支障はないんだけどさ。
そう考えると、これを選んで正解だったのかもしれない。
でも一生外れないのはやっぱ嫌だ!
「取れない理由としては、それを作った南の魔王が装着者が盗まれないようにしたんじゃないかな?」
「余計なことを...!」
南の魔王とやらは便利なものを作る頭脳はあっても、発想が極端だな。
「ていうか魔王って北の大地を支配しているあの?」
「違うよ。聞いたことはないかい?魔王が一人不在だってことを。」
そういえば、ルクスがそんなこと言っていたような....。
「それがその南の魔王だったんだな。だから魔王の所有物なんかがあの宝物庫にあったのか」
「らしいね。ところで、今日来たのはその指輪のことを聞くためだけかい?」
そういえば、そうだった。
もっと大事な話が残っている。
「なあ、スクリプトール。結局お前の助言通りになった気がするよ。」
俺は神妙な顔持ちでそう言った。
王から『あの方』の正体を聞けたのも、『オリアマ』様に協力してもらえたのも、こいつのおかげだ。
しかし、一つだけ気になることがある。
「俺の仲間はみんな無事だ。でもお前は、俺が大事なものを一つ失うと言った。それは結局何だったんだ?」
「うーん。教えるのはつまらないよね。それに、本当は君も気づいているんじゃない?」
「──っ!」
図星だ。
信じたくはなかった。
今でもどこか疑っている。
自分の考えは間違っているんじゃないかと。
「そうかあいつが....。」
俺はあいつらを仲間として認めてしまった。
つまり俺の中で大事なものになってしまったんだ。
そしてそれを失った。
「これで満足かい?」
「ああ、ありがとうスクリプトール。」
「ねぇどういうこと?ユキマル。」
フリエナが心配そうな顔で見つめてくる。
普段はツンデレのくせに、こういう時は素直なんだよな。
「いや、やるべきことがわかたんだ。」
「ギルド『フリーダム』に向かうといい。」
「それも助言か?」
「いや、ただの提案だよ」
スクリプトールの言葉を後にして、俺たちは『フリーダム』の『ウォーリン支部』へと向かった。
他の三人は何がなんだかわかっていない様子だ。
中に入ると俺はある人物を探した。
といっても『レーダー』を使えば一瞬だ。
俺はそのある人物に声をかけた。
「しばらくぶりだな、ルフテ」
ルフテは机に伏せていた顔をあげ、こっちをみた。
とても元気があるようには見えない表情だ。
それに目元が赤い。
「何かあったの?」
とソルナが聞く。
「エイトワくんが...いないんです。どこにも。」
それを聞いてソルナとフリエナの顔が真っ青になる。
「ユキマルくん...!まさか...!?」
「いや、あいつは死んでねぇよ。捉え方によってはもっと最悪だけどな。」
「ど、どういうことですか?ユキマルくん!」
「.....そうだな。ルフテは知るべきだ。その前に聞きたいことがあるんだが、あいつを最後にみたのはいつだ?」
「た、戦いが終わって、それぞれの宿に向かう前に別れた時です。」
「そうか。なら遠くにいっちまったかもな。」
「え?」
「説明しなさいよ!ユキマル!」
フリエナが早くしろと怒っている。
「おそらくだが、あいつがもう一人の内通者だ。あいつにどんな動機があるのかも、あいつが本当に内通者なのかもわからないがな。」
俺がそのことを伝えると、全員声も出なくなっていた。
「ど、どうしてそう言えるんですか?」
意外にも最初に口を開いたのはルフテだった。
「そうだな...まず、内通者は会議にいた人に絞られる。だからあの場にいなかったルフテは白だ。そして、ニントルマンの事件の日、パーティーにいなかったのは負傷兵以外にお前達しかいない。だからエイトワが一番怪しいってことだ。ニントルマンのことだ。自分の勇姿を誰かに語らせるために、エイトワには生きていてもらわなきゃいけなかったんだろう。」
「で、でも。それじゃあ決定的な証拠にはなりません!」
「ああ。だが、現にあいつはここにいないだろ?」
「──っ!」
ルフテの気持ちは痛いほどわかる。
強くは言ったが、俺もまだ半信半疑だ。
「エイトワくんは、私たちの知っているエイトワくんは嘘だったんですか...?」
「.....一つ言えることは、あいつは実力を隠していた」
「な、なんでそんなことを?」
「バレたくない何かがあったんだろうな。」
と俺は自分の仮説を丁寧に説明した。
「そ、そんな...」
ルフテはかなり落ち込んでいる。
また涙が出てきたのか、服の袖で拭いている。
メガネは手に持ったままだ。
「なあルフテ....」
黙り込んでいるルフテに俺はある提案をする。
「お前、俺たちのパーティーに入らないか?」
「え?」
「もし、ここに止まる理由がないなら、俺たちと一緒に旅をしようぜ!」
「...エイトワくん....」
ルフテはしばらく考え込んだのち、拳をギュッと握りしめた。
どうやら決断したようだ。
「わ、私もみんなの旅に連れてってください!またどこかでエイトワくんに会って、彼にちゃんと聞きたいです!」
「おう!その気持ちは俺も同じだ!一緒にあいつの真意を聞きに行こうぜ!」
そう言って拳を突き出すと、ルフテも拳を突き返してきた。
小さい手、されど大きな決意が垣間見えた。
そんな気がしたのだった。
薄暗い廊下をコツコツと歩く音がする。
ここは大きな館だ。
時間はとうに0時を回っているというのに、まだ起きている人がいるようだ。
ろうそくで照らされた通路をまっすぐと進んでいるその男の名はエイトワだ。
見事にルフテとユキマル達、それにニントルマンまでをも利用し、目的を果たして帰還したのだ。
「ただいま帰りましたエタニタ様」
豪華な部屋の豪華な椅子に座る女性を前に、エイトワは跪いた。
「随分と遅かったじゃない」
「申し訳ありません」
「いいのよ別に。エイトワちゃんが好きなようにやってくれればいいわ。それと誰もいない時はお姉ちゃんって呼びなさいって何度も言ってるでしょう。」
「かしこまりました。お姉ちゃん。」
エイトワの顔は死んでいる。
姉弟での温度差が随分と激しい。
「だーかーらー!その敬語もやめて」
そう、その豪華な椅子に座っている女性の正体は、『西方奴隷商』幹部が一人、エタニタ・シグナトスだ。
ボスであるアモンの右腕にして、ザグスを倒した犯人を捜索する任を与えられていた彼女は、自身の弟であるエイトワ・シグナトスをユキマル達の元へ潜入させていたのだ。
「あれだけ商人に話しかけてたら、身バレしない方が不思議ってものよねー」
「そうだね。お姉ちゃん」
「それにしても、ニントルマンの協力者に申し出て、戦争を激化させ、ユキマル達の力量を図るなんて、大きく出たわねぇ。」
流石は我が弟とクスクスと笑うエタニタ。
「それじゃあエイトワちゃん、ユキマルとそのパーティーに関する情報をお願い」
エイトワはエタニタに促されるまま、ユキマルたちの情報を話した。
「『タリスマンズ』のメンバーは3人と1匹。例のドラゴンと少女もその一員だね。特に警戒すべき人物はいなかったかな。例の少女はまだ自身の力を使いこなせてなさそうだし、ドラゴンの方にはもう力がないからね。そして、リーダーのユキマルは....強かった。デイザスとの戦闘後も余裕そうだったし、まだ力を隠しているかもしれない。でもお姉ちゃんとオセウス様とアモン様の敵じゃないよ。」
「ふーん。あのエルフの娘と例のドラゴンは、ユキマルと一緒にいるんだ。じゃあ大丈夫そうね。」
「どういうこと?」
「多分彼らは自らマスコポル伯爵の元へ行くわ。随分と情報を嗅ぎ回っていたみたいだし。」
エタニタの考察はあっていた。
ユキマル達の次の目的は、ドレイク・マスコポルが支配するマスコポル領だ。
ユキマル達は、決着をつけに向かったのだが、くしくも『西方奴隷商』の目的が達成されたのだ。
「それなら、ちょっとだけ助言しちゃおうかな♡。」
そう言って、エタニタは不敵に笑うのだった。
これにて『水の国』編完結となります。
それと大変申し訳ないのですが、次の章の構想を練るため、しばらく休載します。
できるだけ早く連載が再開できるよう努めます。




