フードの男
第二十話
作戦を潰され、自身もユキマルに敗れてもなお、デイザスは自分がアクアンティス軍より一枚上手だと言った。
「どういうことだ?」
「そうだな、今更お前達に話す義理もないが、面白いから説明してやろう。」
そういうとデイザスは順を追って説明をし出した。
「お前達アクアンティス軍は、東の拠点にいた我が軍600人が本軍に戻ってきたと勘違いしている。いや、そう勘違いするよう仕向けたのは私なのだがね。」
「まさか....!」
「ああ、そのまさかだよ。その600の軍勢が現在いるのは、王都『ウィーリン』だ。たかが600とはいえ、されど600。ろくな戦力も残っていない王都に我が軍を撃退するだけの力は残っているかな?」
「やられた!」
冒険者達の顔から血の気が引いてくのが見える。
ここから王都まで普通に行ったら数時間はかかる。
俺が全力で走っても間に合うのかどうか...。
「ユキマルくん...!」
ソルナが、どうするの?と目で訴えかけてくる。
「ひとまずはここの戦いを終戦させるぞ。」
デイザスを捕まえて持っていけば、魔王軍も降伏せざるをえないだろう。
それからのことはジョルサ総司令と相談して....。
思案は回すが、どう考えても無傷はありえない。
アクアンティス軍が帰る頃には王都はボロボロだろうし、俺が一人で走って行っても着く頃にはある程度損害が出てるだろう。
それに、俺一人で600人は食い止められない。
まずったな....。
でも、俺が行かないことにはもっと状況が悪くなる。
「ソルナ、フリエナ、コラゴン、こっちのことは任せた。」
「ユキマルはどうするのよ!」
フリエナにリュックを預けたると、そう聞いてきた。
「おれは王都に戻る。行って何かが変わるかはわからないけど、行かないよりはマシなはずだ。」
「心配はしてないけど、無事に帰ってきてよ。」
とソルナが言う。
「ああ!」
そう言ってユキマルは王都に向かって走り出したのだった。
一方その頃王都付近では、魔王軍が進軍を開始しようとしていた。
デイザスからの連絡を受け、待機していた軍勢が動き出したのである。
全員、完全武装をしており、魔獣も何匹か連れている。
そうして、魔王軍が王都への距離を着実と詰めていた時だった。
600の軍勢を前にフードを被った一人の男が立ちはだかった。
王都でユキマルがすれ違った男だ。
周りには誰もいない。本当にたった一人だ。
「なんだアイツは?」
「フードをかぶってて顔がよくみえねぇな。」
などと魔王軍がざわつき始める。
それもそのはず、その男からはただならぬ気配がするのだ。
相手をするつもりはないが、無視するわけにもいかない。
そんな感じだ。
すると突然、男が魔王軍に向かって歩き出した。
羽織っているマントから剣を出すと、鞘も抜かずに構えた。
それを受け魔王軍は一時停止したが、その男は止まらない。
むしろ早くなっているような気もする。
「おい!止まりやがれ!」
魔王軍の警告を男は無視する。
そして次の瞬間、その男が消えた。
目の前からパッと消えたのだ。
「あ?どこいきやが──」
そう言いかけていた魔族が突如倒れた。
それに続くように他の魔族も倒れ始めた。
気がつくと、600の軍勢は地面に横たわって全滅していた。
全員切られた痕があるが、切られた本人達でさえ、切られたことを自覚せぬまま死んだ。
そして、それをユキマルは見てしまった。
嘘だろ?
断片的にしか見えなかったが、恐ろしく早いスピードで全員斬りやがった。
何者なんだアイツは...。
シャキン!
唖然としていると、後ろから剣が振り下ろされた。
「へぇ、これを避けるとはね...。」
振り向くとそこにはさっきのフードを被った男がいた。
「っぶねねぇぇぇ!何すんだ!」
なんとなくわかる。
<<斬撃耐性(特)>>の『潜在能力』があっても、こいつの斬撃はくらってはダメだと。
「いやいやゴメンね。君の実力を知りたくてさ。もちろん手加減はしたよ。」
「ごめんねで済んだら警察はいらないんだよ!で、お前誰?」
少し怒りの感情を混ぜて強めに言ったが、フードの男は気にせず続けた。
「俺の名前はルクス・セラリタス。ルクスで構わないよ。世間からは『神速の勇者』だとか『刹那の勇者』だとか呼ばれてる。でも普段は正体を隠してるかな。面倒ごとには巻き込まれたくないし。」
「勇者?」
男がフードを取ると、そこには20代前半くらいのイケメンがいた。
「そうそう、勇者。別に自称じゃないよ?ちゃんと『勇者の証』もあるしね!」
そう言って袖をまくり、腕に刻まれた紋章を見せてくる。
なんだかよくわからないが、この男は勇者らしい。
それにしてもあの強さからは考えられない陽気さだ。
「なあ、勇者ってなんなんだ?」
「え!?知らないの?」
ルクスは目をまんまるにして驚いている。
「勇者っていうのは、この世界に三人しか存在しない人物のことさす名称だね。で、そのうちの一人が俺ってわけ。」
「へぇ〜。魔王と似た感じか?」
「そうそう。魔王と対になるように勇者も三人いるんだ。」
「あれ?魔王って二人しかいないんじゃ?」
「今はそうなんだけど、何百年か前までは三人いたらしい。まあ、そんなこと言ったら、最近勇者の一人が寿命で亡くなったから、こっちも二人なんだけどね。早いうちに『勇者の証』を継承した人を見つけないと。」
「なあ、さっきから気になっていたんだが、その『勇者の証』ってなんだ?」
「ん?ああ、これね。これは、これがあるものが勇者であるという証明?だよ。勇者が死んだら、この世界の誰かにこの紋章が浮かび上がる。その人が次の勇者になる。そうやって代々受け継がれてきたんだ。」
なるほど、つまり勇者とは、なろうと思ってなれる存在ではないということか。
「なるほどな。ところで、話を戻すが、その魔王は死んだんじゃないのか?」
昔は三人いた魔王が今は二人しかいない。
普通に考えたら、それは魔王のうち一人が死んだからだ。
「仮に死んでいたとして、魔王もまた受け継がれる。だから、二人しかいないこの状況は異常と言えるね。でも俺は、『魔王の証』はすでに誰かに継承されていて、そいつが隠して生きているだけだと思うけどね。魔王の寿命は長いし。」
なるほど、そういうこともあり得るのか。
「そんなことより、俺が君と話しているのは、君に興味があるからだ!まずは名前を聞いてもいいかい?」
そう言われて初めて俺が名乗っていないことに気づいた。
「俺の名前は 夜宮幸丸 、ユキマルでいい。 自己紹介が遅れてすまない。」
「ユキマルか。珍しい名前だね。」
「よく言われる。」
「じゃあ本題に入るんだけど、あの日王都で君とすれ違った時、君は俺に話しかけてきた。」
「無視されたけどな。」
「あの時は悪かったよ。でも、俺は常人には追えない速度で歩いていた。まさか君に話しかけられるとは思わなくて、驚いてその場を去っちゃったけどね。でもさ、今君に会って確信したよ。ユキマル、君が三人目の勇者なんだろ?」
「いや違うけど...?」
「???」
しばらくのまま見つめ合った。
自信満々に言ってたからか、だいぶ恥ずかしそうにしている。
「なんかもうよくわからないし、なんでもいいや。」
ついに諦めたのはルクスの方であった。
「最後に、今度『ラーテルン共和国』の首都でお祭りがあるんだけど、そこで祭りの一環として武闘大会が開かれるらしいんだ。よければ君も参加してみなよ。君とは似たものを感じるし、そこで会えるのを楽しみにしているよ。」
「大会にはルクスも参加するのか?」
「さあね。」
「まあ勇者が出場したら圧勝か。」
「はは、そうでもないかもよ。まあ、君に会えてよかったよ。」
「ああ、またなルクス。」
そう返すと、ルクスは去っていった。
嵐が来て去っていったかのような感じだ。
「勇者って意外と自由なんだな。」
ユキマルはそう呟くと、ソルナたちの元に戻るために歩き始めたのであった。
ルクスのことを覚えている人は少ないかと思います。
ですので少し復習しますと、彼は第十一話「嵐の前の静けさ」でチラッと登場しています。
謎の多い人物として書かれていて、今の今までなんの情報もありませんでした。




