信じる強さ
第十八話
私は小さな本屋の一人娘だった。
尊敬する両親は私を大切に育ててくれて、なに不自由なく暮らしてきた。
そんな私の趣味は読書だった。
商品である本を幼いながら読み漁っていた。
そんなある日、私はとある本に出会った。
それは戦争の歴史について書かれてあった。
魔族と人間の長きにわたる戦いのその一部を解説したなんて事のない歴史書だ。
でも内相は鮮明に覚えている。
魔族と人間の戦いが苛烈を極める中、魔王は力による支配をし、人族は他人を信用し手を取り合うことで団結を強めた──。
特にこの文が頭から離れない。
私は両親に聞いた。
「なんで人族は他人を信用して手を取り合ったの?」
「それはね、信じることは強さだからだよ。」
当時の私には意味がさっぱりわからなかった。
でも、今なら少しわかる気がする。
仲間と呼べる人ができたから。
でも、それと同時に、魔王のやり方も理解できる。
それを思い知ったのは、あの本を手に入れてからだった。
ある朝目が覚めると、枕元に本が置いてあった。
「あれ?こんな本読んでたっけ?」
本を開くと、中は見たことのない文字で埋め尽くされていた。
お父さんの物かな?と思い、本を閉じると、ふと頭の中で声が聴こえた。
〈部屋を出て台所へ向かいなさい。〉
声は特に気にならず、まるで操られたかのように台所へと向かうと、そのには母の姿があった。
「あら、ルフテったら勘が良いのね!ちょうどあなたの大好きなグリーンベリーを洗ったところよ!朝ごはんの前に特別につまませてあげる!」
母はふふっと笑うと、ツヤツヤと輝くグリーンベリーを口に入れてくれた。
その時は、本のことをすっかりと忘れて朝ごはんを食べた。
しかし、それから不思議な声が頻繁に頭の中で聞こえるようになった。
その多くはくだらないもので、100ダルフを拾ったり、人気の本がたまたま手に入ったりなどだった。
しかし、いつからかルフテの不思議な力を悪用しようとするものが現れてきた。
最初は友達を助ける程度だったのが、どんどんエスカレートしていき、しまいには知らない人からも頼まれる羽目になってしまったのだ。
また、仲良くしていた人や友達も本性が現れ始めて、次第には人を傷つけるために予言を知ろうとするものまで現れた。
そして私は拒んだ。
それが最悪の始まりであることも知らずに。
言うことを聞かなくなった私に、周りは暴力などを振り始めた。
そして、しまいには私を守ってくれた両親までもが被害にあったのだ。
しかし、それでも唯一、私を庇ってくれた子がいた。
昔から仲良くしていた女の子だ。
「私を信じて!ルフテちゃん!」
彼女のまっすぐな視線は、暗かった私の世界を照らしてくれた。
それから、私がいじめられるたびに、彼女は私を守ってくれた。
スカートが破けても、石を投げつけられても、彼女は一緒にいてくれた。
そんなある日、彼女から手紙が届いた。
お隣さんなんだから直接渡してくればいいのにと思ったが、大して気にはしなかった。
手紙にあった場所にあった場所には、大きな木が一本生えていた。
近づくと、その木の根元に別の手紙が置いてあった。
「ルフテちゃんへ。
私、頑張ったけど、もう辛い。
ルフテちゃんをもっと守ってあげたかったけど、私には無理みたい。
信じてって約束したのに、ごめんね。」
その瞬間、とてつもなく嫌な予感に襲われた。
恐る恐る上を向くと、そこにはブランと垂れ下がる足が見えた。
私は声を発することもなくその場で気絶してしまった。
目が覚めると、そこは病院だった。
親友を死なせてしまった罪悪感、親友を失った喪失感、どうしようもない未来への絶望感、それら全ての感情が頭の中で渦巻いた。
しかし、本音はシンプルなもので、私の発した言葉はたった一言だった。
「嘘つき.....。」
これは私がまだ15歳の頃の出来事だった。
病院を退院してすぐ、村を出て行くことにした。
両親と離れて離れになるのは辛かったけど、これでいいと自分に言い聞かせたのだ。
行くあてはなかったので、まずはお金を稼ぐために冒険者になった。
職業適正がアーチャーだったのは意外だったけど、やってみれば意外としっくり来た。
その頃にはもう人に対して疑心暗鬼になっていたので、パーティーは組まなかった。
臨時で入っては抜けてを繰り返していたのだ。
しかし、順風満帆な冒険者生活もそう長くは続かなかった。
どこから広まったのか、またもやルフテの力を悪用しようとする者が現れてきたのだ。
またか、と思った。
だから特に驚きもしなかったが、利用されるのはあまり気分のいいもではないのである。
こんなことになるのなら、本なんていらないと何度も思った。
しかし、捨てても捨てても気づいたら手元にあるのだ。
また、この『予言書』はルフテにしか扱えなかった。
一度無理やり奪われたことがあるのだが、当人曰く、何も起こらなかったそうだ。
だから、冒険者達はルフテ自身を利用したのだ。
最初は楽しく話しかけてきて、あたかも友達のように接してくるのが、ルフテには気持ち悪くてしょうがなかった。
でも、中にはやはり善意で助けてくれる人はいたので、そういう人達には恩返しを忘れないようにした。
私が受け身になっているのもこれが理由なのかもしれない。
そうして、利用される毎日が続いたある日、ルフテは思った。
魔王は間違っていなかったのではないかと。
力で支配するのが現実だ。
手を取り合うなど、本で脚色されただけの綺麗事なんだと。
「お父さん、お母さん、信じることって...強さなの?もしそうだとしたら、私は弱いの?」
いつしか疑問が頭をよぎるようになった。
そうだ。
そうだった。
「私は、信じる力を証明したかったんだ....。」
「信じるか。くだらんな。」
デイザスがルフテに向けてかざした手を止める。
「貴様ら人間の仲良しごっこになんの意味があるというのだ?私は魔王様の力に惚れた。あの有無を言わせない、絶対的な力にな。個々をまとめるのは信頼なんかではない。信じることは弱さだ。」
そういうと、デイザスの手に魔力が集まりだす。
死ぬ....!
ああ、私は何て愚かなんだろう。
もう、二度と他人を信じないって決めたのに。
人生最後の願いがこれだなんて....。
「ユキマルくん...助けて....。」
涙が頬を伝うのを感じる。
「この後に及んでまだ....」
デイザスは半ば呆れている。
「死ね。氷魔法『アイシク──」
ドゴォォォォン!
爆音と共に広間の壁がぶち抜かれる。
思わず閉じた目をゆっくりと開くと、そこには反対側の壁にめり込んでるデイザスの姿があった。
そして、振り向くとそこには・・・・
「ユキマル君!」
それに『タリスマンズ』メンバーまで揃っていた。
「待たせたなルフテ!よくぞ信じて待っていてくれた!」
キャラの回想シーンは書くのが意外と難しかったです。




