攻城戦
第十七話
魔王軍の拠点への侵入に成功したエイトワとルフテは、適当に通路を進んでいた。
「ここまで来たら、進んでいれば何かあると信じるしかないね。」
「て、敵に鉢合わせないことだけは注意しましょう。」
エイトワがコクリと頷く。
「私達二人ではどうしようもないので、内側から拠点を囲う壁を破壊して、一緒に攻め込む冒険者の方を召集しましょう。」
「了解!壊すのは俺に任せて!」
「お願いします!」
急遽立てた作戦だが、意外と悪くないのではと思う。
そうして進んでいるうちに、良さげな壁に辿りついた。
「さっき窓から見えたんだけど、壊すとしたら、ここら辺が地形的にベストな位置かな。」
そう言ってエイトワが槍を構える。
「硬度1!『スキル』 <<三日月颪>>!」
エイトワが攻撃したところが綺麗に切り取られる。
余計な音を立てなかったからか、はたまた戦闘に夢中だからか、誰も壁に穴が空いたことに気づいていない。
このチャンスを活かし、付近にいた魔族を倒し、その場にいた冒険者を中に入れることができた。
「集まったのは十五人くらいか。」
「ああ、敵の本拠地に乗り込むにはちと少ねぇが、俺たちならいけるさ!」
「そうだ。どのみち大将首をとっちまえば俺たちの勝ちなんだ。」
と冒険者達が言っている。
一方、デイザスは、部下からある知らせを受けていた。
「敵の持つ瓶の中身を解析したところ、ただの水であることが判明しました!」
「なに!?ニントルマンの裏切りか?いや、それとも勘づかれてそれを逆手に取られたのか!?」
まさか!とデイザスは思った。
なぜこうなった?いや、そもそも、相手の負傷者がこうも早く回復したのがおかしいのだ。別に、裏切り者の存在がバレようがバレまいが私の作戦に支障はなかった。なぜだ?どこで狂った!
いくら思考しても、答えはわからない。
それはデイザスもわかっていた。
ならば今すべきことは....。
「魔獣を解放しろ!戦場に投入するのだ!」
「は!」
この号令を待っていたかのように、物の数分で魔獣達が再び戦場に駆り出されたのである....。
その頃アクアンティス王国では干ばつがいよいよ深刻化していた。
人間とは、普段当たり前のようにそこに在る物がなくなると、過剰に不安が募るものである。
そしてアクアンティスでは水を求める声がそこかしこで上がっていた。
「国王よ!民が水を求めて王城に押し寄せています!」
「たかが数時間、水を飲んでいないだけでなぜこのような暴動が!」
「王よ!速やかな対応を求めます!」
家臣達の言葉を聞き、王はゆっくりと立ち上がった。
「言ったであろう。干ばつの問題はすでに対処してあると。時期に雨が降り、この地を潤すであろう。我を信じろ。」
王がそう落ち着かせると、家臣は何も言えなくなってしまった。
場所は再び魔王軍の拠点の中に戻る。
「俺たち見かけた兵士を手当たり次第倒してるけど、これって見つかったら侵入がバレるよな?」
「そんなの関係ねぇ!来るなら来いってんだ!」
などと冒険者のうちの何人かで会話している。
それを聞いてエイトワ達は少し後悔していた。
この人たちでよかったのかなぁ...。
そして、案の定遠くから侵入者の警報が聞こえてきた。
「っち!早速バレやがった!」
「ったく誰だこんなバカなことをしでかしたのは!」
君たちだよ!
というツッコミをグッと堪えて、エイトワは次の行動を考えた。
「このままじゃらちがあかない!俺たちのうち数名が騒ぎを起こして敵を引き付けましょう!残りの人は大将首を取ってきてください!」
「兄ちゃんなかなかいいこと思いつくじゃねぇか!」
「俺たちはお前について行くぜ!」
というわけで、突入組は二手に分かれた。
エイトワ率いる陽動組とルフテ率いる隠密組だ。
「エ、エイトワ君!絶対無事に戻ってきてくださいね!」
「ルフテもね!」
「は、はい!わ、私たちはその...仲間ですから!」
「はは!そうだね!」
そう言って、それぞれ違う方向に走っていった。
敵軍の侵入はすぐにデイザスの耳に届いた。
しかし、彼に慌てる様子は見受けられない。
それはひとえに、彼が強いからだ。
たかが数名の冒険者に襲われようが、無傷で圧勝できる自信と実力は確かにそこにあった。
「ずさんな警備には腹が立つ。」
そうは言うが、デイザスの顔は怒っていない。
むしろ微かに笑みを浮かべている。
彼の余裕は戦況の変化によるものでもあった。
「クックック....。必殺の一手を撃たれたと思ったが、蓋を開けてみればただの虚勢ではないか。奴らにとって魔獣が弱点であることに変わりはない。魔獣に対抗する術を持たぬ貴様らに、もう勝ち目はない。そう思うだろ...羽虫ども。」
そう言って顔を上げたデイザスと、冒険者たちの目が合う。
「向こうで騒いでいる奴らがただの揺動であることはわかっていた。しかし、私は今機嫌がいいのだ。少し相手をしてやろう。」
「何をぉぉぉぉ!」
冒険者の一人がデイザスに切り掛かる。
「なんともお粗末な剣捌きだ。」
そう言ってスッと避けると、次の瞬間その冒険者の首が吹っ飛んでいった。
グシャっという音と置き去りの体からポタポタと滴る血が静寂によって強調されている。
誰も声を発そうと思わない。
発したら殺させるかもしれないからだ。
そんな中デイザスが続ける。
「まあ見ての通り、これが貴様らと私の力の差だ。」
ドンと残った体を蹴り飛ばすと、デイザスはゆっくりとこっちに向かって歩いてきた。
「お、臆すな!今までの戦いで死にかけたことなど何度でもあるはずだ!」
「そ、そうだ!」
「戦え!」
うおおおおおお!と叫びながら突撃してくる冒険者達を前に、デイザスは思った。
「人間はもっと賢い種族だと思っていたが、案外魔族と変わらぬのかも知れんな。」
ゴオオオオオオオオ!
凄まじい霧と共に、再び静寂が広間を包む。
霧が晴れると、そこには冒険者達の氷像が立っていた。
いうまでもないが全員即死だ。
ただ一人ルフテを除いて。
あ、危なかった。
この本、『予言書』がければ今頃みんなと同じように殺されてた!
そう、ルフテが大事に抱えている本は『予言書』だった。
『予言書』は気まぐれにルフテに予言をし、その通りに動くといいことが起こるのだ。
今回も予言の通り後ろに下がったルフテだけ生き残ることができた。
「ほう、随分と勘のいい娘だな。」
生き残りがいたことに気づいたデイザスはゆっくりとルフテに近づいて行った。
殺される!
本能がルフテにそう訴えかけてくる。
しかし、彼女に対抗手段はない。
逃げ切れるわけはないし、倒せるわけもないからだ。
(信じることは強さだよ。)
ああ、なんでこんな時に両親の言葉を思い出すんだろう。
二人とも元気にしているかな?
そういえば、この言葉っていつ言われたんだっけ?
あれはそう....私がまだ幼かった頃....。
ジャンルを異世界ファンタジーにして良かったと思えることは、キャラの名前や地名を考えることが楽な点です。適当にカタカナを並べて、例え変だったとしても、異世界だから、と言い訳できるのが楽です。




