『オリアマ』様
第十六話
ニントルマン外務大臣は歓喜していた。
彼をこうも喜ばせることとは何か。
それは、彼の内通者としての任務の成功である。
かねてより計画していた、アクアンティス侵略の重要な役割を任されたニントルマンは、自身の役目を果たせたと思っているのである。
彼がアクアンティスを裏切った理由はシンプルだ。
それは、彼が『魔王狂信派』の一員だからである。
『魔王狂信派』とは、その名の通り魔王に心酔している者共の集まりである。
魔王の統治する世界が自然であるとし、それを信じて疑わない者達なのだ。
そしてニントルマンは運良く、アクアンティス侵略の際に内通者として選ばれたのである。
まず初めに、東の拠点が襲撃されることをリークした。
これにより、魔王軍の勝ちはほぼ確定となった。
それと同時に、ニントルマンは快感を覚えた。
魔王幹部であるデイザス様に認めていただいた、快感だ。
全ては順調に思えた。
ただし、彼には誤算があった。
それはユキマルの存在である。
半日もかからず、アクアンティスは戦力と戦意を取り戻した。
あの絶望的な状況から、たった一人の手によって。
しかし、その作戦をリークした。
ギリギリの連絡にはなってしまったが、魔獣に効く毒の件は絶対に伝えなければならないと思い、急いで伝書鳥を飛ばしたのである。
いくら、奇襲を受けることになるとはいえ、戦況は五分になるだけだ。
それに時間と共にアクアンティス軍の戦況は悪くなっていく。
それすなわち、勝ったと同義なのだ。
だから、ニントルマンは歓喜していた。
一足先の祝勝会だ。
そんな彼の唯一の不確定要素であるユキマルとそのパーティーも始末した。
ろくな準備もさせず、『モンスターハウス』に送り込んだのだ。
別に間違ったことは伝えていない。
実際に王家に伝わる地図の模写を渡したし、そこに『オリアマ』様がいると伝わっているのも本当だ。
だが、おそらく王家に伝わる伝承は、王家の秘密を探ろうとする者に対する罠か何かなんだろう。
本当に神などいるわけがない。
事前の調査であの場所が『モンスターハウス』なのはわかっていた。
「それにしても、『モンスターハウス』に立ち入った奴らがどうなるかは容易に想像がつくな。それに、あそこの『モンスターハウス』は特別だからな....」
とユキマル達の死を確信し、ハッハッハと高らかに笑うニントルマン外務大臣であった。
一方その頃、ユキマル達は『オリアマ』様に会いに『バーレの滝』を目指すべく、『バーレ森林』を進んでいた。
「まったく、こんな獣道を歩かせるなんて!あのニントルマンとかいうやつは人にお願いする態度ってものがなってないわ!」
フリエナがプンスカと怒っている。
まあ、その気持ちはわからなくもない。
地図上には道が描いてあるものの、何百年と整備されていなかったからなのか、道と呼べる道は存在しなかった。
なんやかんやで森を歩き続けていると、急に開けた場所に出た。
「着いた....!」
どうやらここが『バーレの滝』らしい。
滝のサイズは思っていた何倍も大きく、元いた世界でいうナイアガラの滝を彷彿とさせる。
その割には滝の音はうるさくなく、近づかないと意識しないほどだった。
「キレイ....」
ぼそっとソルナが呟く。
おいおい、任務を忘れてないよな?
なんて思ったが、ソルナが見入ってしまうのも無理はない。
その圧巻な滝とそれを囲う木々は、まるで雄大な自然を圧縮したかのようである。
壮大、荘厳、どの言葉も目の前に広がる景色を言い表すことはできないだろう。
ここに神がいると言われても頷ける。
そんな感じで、全員ぼーっとしていた。
その時だった。
....!なんだこの反応!?
周囲の魔力濃度が急激に増加した!?
なんとなくだが、肌で感じたのだ。
すると周囲にモンスターが生成され始めたのである。
「まさか!」
「どうした?ソルナ!」
ソルナが何かに気づいたらしい。
「ここ、『モンスターハウス』だわ!」
『モンスターハウス』だと...?
『モンスターハウス』って確か、モンスターが大量に発生するエリアのことだよな?
「すげぇ!初めて見た!」
「はぁ〜?あんた状況をわかっているの?」
と呆れるフリエナ。
ソルナに関しては、そういえばこういう人だった、とでも言いたげに頭を抱えていた。
「ユキマル、なんかおかしいで。」
とコラゴンがリュックから飛び出す。
「いいえ、ユキマル君がおかしいのはいつものことよ...。」
「いや、そうやなくて...。」
コラゴンは言葉に詰まっているが、言いたいことはわかった。
モンスターの量が異様に多いのだ。
「『モンスターハウス』だから、ある程度の数は覚悟したけど、それにしては多くないかしら?」
とソルナが若干震えながら言っている。
確かに多いな。
このままいくと滝の周辺をモンスターが埋め尽くす勢いだ。
こんな数のモンスタに囲まれでもしたら.....
「経験値稼ぎ放題じゃないか!」
「あーもう!無視無視!」
フリエナがまた怒っている。
「それにしたって、なんでこんなに敵が多いんや?」
「おそらくだけど、ここら辺一体に『モンスターハウス』が何個もあるのよ!」
「そんなことあり得るのか?」
「普通はありえない。でも、ここはなんだかおかしいわ!これも『オリアマ』様とかいう神の影響なのかも!」
攻撃してくるモンスター達の攻撃を交わしながら、ソルナが答える。
どれもこれも低級モンスターだが、数が多い。
「『スキル』 <<エアーインパクト>>!」
ソルナがスキルで敵を吹っ飛ばす。
「あれ?エアーって風じゃないの?魔力属性がなきゃ、魔法って使えないんじゃなかったっけ?」
「エアーって名前がついてるけど、ただ単に魔力を放出しているだけよ。他にも摩擦で熱を起こしたり、湿度を上げて水を生成したり、スキルでも魔法と同じことはできるわ。でも、スキルはあくまでも魔力だけど、魔法はその属性自体になってるわ。」
なるほど。
魔力を応用して魔法に似たことができるのか。
そんなことを考えながら、モンスターをどんどんと倒して行く。
「風魔法『エアーカーテン』、氷魔法『アイシクルドーム』!!」
フリエナは防御に徹しているようだ。
そんな風にパーティーメンバーを観察していると
『ピロン』
『スキル <<魔波>>を習得しますか?』
>はい
>いいえ
はい!
久しぶりじゃないか!
『ブルーボード』君!
突然『ブルーボード』が現れた。
『潜在能力No.46 <<爆発無効>> を解放します。』
『潜在能力No.9 <<打撃耐性(特)>> を解放します。』
なんかついでに色々獲得したが、早速習得したスキルを使うことにした。
「『スキル』 <<魔波>>!」
ドゴオオオォォォン!
使った瞬間、なぜ『ブルーボード』がこのスキルの習得を提案してきたのかがわかった。
俺が手をかざした場所に、とんでもない爆発が起きたのだ。
「うおおおおおおぉぉぉぉ!」
ソルナもコラゴンもフリエナも驚いているが、誰よりも驚いたのは俺自身だ。
これ絶対人に向けちゃいけないやつだ...。
唯一の救いは二発目を撃った時に、威力を調節できることを知ったことだ。
一旦冷静になって分析し、このスキルは魔力を圧縮して爆破させる技だと気づいた。
だから、溜める量を少なくすればその分威力が下がるって訳だ。
そんなこんなで、『モンスターハウス』の制圧が完了した。
レベルも26→32まで上がった。
そのほかにも『潜在能力』<<狙撃耐性(特)>>、<<石化無効>>、<<幻覚無効>>、<<鈍感無効>>、<<魅了無効>>を獲得した。
<<狙撃無効(特)>>はゴブリンに狙撃された時に獲得した。
普通に避けれたが、何気にこの世界に来て初めて狙撃されたので獲得できたのだと思われる。
<<石化無効>>と<<鈍化無効>>は同時に手に入れた。
コカトリスの石化光線に打たれた時に獲得したのだが、なぜ<<鈍感無効>>も獲得できたのかは不明。おそらく、石化を鈍化とも解釈できるからかと考えられる。
<<幻覚無効>>はゴーストの類いを相手した時に獲得した。
ゴーストは化けることができるとされているが、実際は幻覚を見せているだけである。
あと物理攻撃が効かないのが、何気にめんどくさかった。
<<魅了無効>>は滝壺から出てきたセイレーンの歌声を聞いた時に獲得した。
これに関しては説明不要だろう。
俺は心を鬼にして、セイレーンを倒した。
てな感じで先の戦闘を振り返っている時だった。
滝の方からゴゴゴゴゴと大きな音がしたかと思いきや、地面が大きく揺れ出した。
〈我の眠りを覚ましたのはお前達か?〉
突如、脳内に直接声が響いたのだ。
振り返るとそこには大きな蛇がいた。
全身は綺麗な青色で、その全長は30メートルほどある。
明け方の太陽に照らされたその姿はとても神秘的だ。
対面するだけでわかる、“格”が違う。
キュイィィィィィィン
目の前に現れた謎の生物を見ていると、俺のリュックが光り出した。
いやリュックが光ったんじゃない。
リュックの中に入っていた『神獣図鑑』が光出したのだ。
「はぁ!?」
図鑑を取り出して、開くと、白紙だったページの一部が埋まっていた。
[神獣図鑑]
・『オリアマ』/『水蛇』
・/
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・/
「マジかよ。」
「ってことは、あんたが『オリアマ』様なのか?」
〈いかにも。我こそが神獣が一体『オリアマ』だ。〉
「そうか!それなら、お願いなんだが、どうかこの国に雨を降らしてくれないか?」
〈ふむ...。いかにもそれは私の権能だ。だが、その前に色々と聞きたいことがある。〉
「なんだ?」
〈ここには大量の『モンスターハウス』があったはずなのだが、お前達が制圧したとみて間違いないな?〉
「ああ、まずかったか?」
〈いや、別に構わない。我を呼び起こしただけの実力があるということだ。その実力は認めよう。さて、次はお前たちのことを教えてもらおう。〉
「あー、俺はユキマル、このパーティーのリーダーだ。後ろにいるエルフの娘はフリエナ、その横にいるのがソルナだ。あと、最後にコラゴン、こいつも仲間。こんな感じか?」
ソルナとフリエナはガッチガチに固まっている。
コラゴンは陽気に「よっ!」と言って手を振っている。
〈ふむ。では最後の質問だ。お前が持つその本はどこで手に入れた?〉
「この本は『神獣図鑑』って言って、スクリプトールっていう古物商の店主から買った物だ。」
〈スクリプトール?ほう...面白い。いいだろう、お前の望み叶えてやる。それと早く戻らないと、お前の仲間が大変なことになっているぞ。〉
「なんでわかるんだ?」
〈水は過去を運ぶのだ。人の感情や思い出、記憶などをな。〉
「ふーん。」
〈さあ、先を急いでいるのだろう。ならば、雨と共に送り届けてやる。それと、これを渡しておこう。〉
『オリアマ』が俺に小さな小瓶を渡す。
青色のガラスでできた精巧な瓶だ。
中には何も入っていない。
「これは...?」
〈それは『浄化の雨』を降らす魔法瓶だ。我の権能の一つである、『浄化の力』を一度だけ使うことができる。使う時は瓶を開ければいい。なに、すぐに必要となるだろう。〉
「あ、ありがとう。」
よくわからないが、大切に持っておこうと思った。
準備ができると、『オリアマ』様の全身が光だし、気づけば俺たちは戦場であるデップー領の付近にいた。そして、ポツポツと雨が降り始めた。
「やったー!私達成功したのね!」
とフリエナがはしゃいでいる。
やっとのことで、干ばつの問題が解消されたのである。
・・・・・
・・・
・
ユキマル達を転送した『オリアマ』は、一人感傷に浸っていた。
長い眠りから覚めていきなり願い事をされても、普通は叶えるわけはない。
しかし、今回は特別だった。
そもそも、神獣とは元来人間社会に関わることはあまりよしとされていない。
それでもユキマル達の願いを叶えたのには、ある人物が関係しているからであった。
〈久しぶりの現も良いな...。それにしても興味深いパーティーだ。魔法の申し子、アウロラ家の血筋、世界を渡る者、それに奴は....。これがお前の選択なのだろう?〉
『オリアマ』は空を見上げてそう呟いた。
ポツポツと降る雨が次第に強くなっていく。
しかし、晴天なのがまた奇妙なところだ。
〈それにしても懐かしいな。前にも似たようなことがあった。これも運命の巡り合わせなのか....。〉
最後にそういうと、『オリアマ』は再び長い眠りにつくのだった。
今回で、この物語全体のストーリーが一つ進んだように感じます。
伏線がまあまあ増えてきました。




